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第三章

131『虚偽者』

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「この状況の、詳しい話を聞かせていただけますか?」

 身体を屈めてテントから出てきたアンナリーナが、リーダーの男を見つけて、言う。

「ああ、本当に世話になった。
 俺たちはサンボンを拠点にしている【山猫】というパーティで、俺がリーダーのサムエルと言う。
 この度は仲間の命を助けて貰って、本当に感謝している」

 そのわりには言葉遣いがぞんざいだが、今は気にしないことにする。
 それよりも気になることがあるのだ。

「一体どうしたんです?
 見たところ……森狼に襲われたんですよね?」

 先ほどは大して興味を引かれなかったが、この場には数頭の森狼の骸があった。
 彼らはおそらく、移動中に襲われたのだ。

「索敵を任せていたジョーンズが、いきなり森から出てきた森狼に襲われて、最初の一撃が深く入ってしまった事でこんなことになってしまった」

 だが、若いながらも優秀な弓使いと、最初の混乱から立ち直った剣士たちによって森狼は討伐され、今アンナリーナが探査したところでも、この近くに魔獣はいない。

「で、アレは何?」

 アンナリーナがその視線で示したのは、拘束されて転がされている女だ。
 途端にサムエルの目に、怒りの色が浮かんだ。
 彼は何度か深呼吸をして、気持ちを落ち着かせようとしているようだ。

「アイツは……あの女は王都のギルドで募集して、今回の依頼から加入した魔法職だ。だが。」

 ギリと、音がするほど食いしばった奥歯が続けてギリギリと鳴る。
 憎しみのこもった目で女を見るサムエルの話す内容はこうだ。

 彼らのパーティ【山猫】には魔法職がいなかった。
 そこで、王都で依頼を受けるときに、野良の魔法職を募集したのだ。
 そこに応募してきたのが、件の女だったのだがサムエルたちはそこで気づくべきだった。
【山猫】のようなやっとDランクのパーティの募集に応じる魔法職という事は訳ありだという事を。

 ギルドでのふれこみは火魔法を使うという事だったのだが、実は【治癒魔法】の使い手だという事を聞いてサムエルたちは歓喜した。
 彼女が魔法職だということ、そして治癒師でもあることでパーティの中でも下にも置かない高待遇で接し……簡単に言えばチヤホヤしてきた。
 それが。

「戦闘が終わり、一目で重篤な状態だとわかるジョーンズに治癒魔法をかけるように言ったんだ。
 そしたらアイツは!」


 女は顔色を変えて後退り、魔法を使おうとしない。
 ジョーンズが負傷したことで魔力を温存させるために戦闘に参加させていなかった。
 魔力的には何の問題もないはずなのに何故ジョーンズの傷を治してくれないのだ。
 サムエルはそう言って女に詰め寄ったのだが、返ってきた言葉に皆が唖然とした。

「だって、私は治癒魔法なんて使えないもの!」

「だってあんた……【回復】が使えるって言ったよな?」

「そう言えば皆んな優しくしてくれるから言ってるだけよ!
 今までは誰も怪我なんかしなかったから何も言われなかった。
 怪我なんかした鈍臭いあいつが悪いのよ!」

 一瞬で険悪になった【山猫】たちの盾職のジムとサムエルが女を拘束しているところにアンナリーナたちが通りかかったというわけだ。

「なるほどね~」

 アンナリーナは頓着していないが、テオドールはこの件がどれほど悪質か、罪深いかを理解していた。

 冒険者登録した個人の情報はすべてギルドカードに記されている。
 アンナリーナのように元のステータスを隠蔽しているものを除いて、改ざんする事は出来ない事になっている。
 だが、そのステータスを他人に見られないように隠す事は可能である。
 だがそれと、虚偽は別だ。
 特に魔法職……【治癒】に関する虚偽は直接命に関わるため、重罰に科せられる事は厳重に戒められていたはずなのだが。
 女はその事すら知らず、己を治癒師だと偽ることで厚遇を享受していたのだ。

 アンナリーナの意識が女に向いた。
 その表情には何も浮かんでいない。

「あんたらしい……と言えば、らしいわね。
 ……久しぶり、ナタリア」
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