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第三章

128『アンナリーナの馬車』

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「完成したわ!」

 現在馬車は宿の駐馬車場にあり、テオドールとイジの手によってエピオルスと繋がれている。

 アンナリーナの馬車は、落ち着いたつや消しのこげ茶の外観をした、元々は乗り合い馬車として造られたものだ。
 事情があってキャンセルされたそれを、金貨2000枚(最終仕上げ込み)で買い取り、内部を改造した。
 最終的な出来はテオドールさえまだ確認していない。


「熊さん、熊さん!
 中も出来上がったよ! 見て見て~」

 はしゃぐアンナリーナに背中を押されて、テオドールは馬車の中に入ってきた。

「なんだ? これは……一体どうなってる?」

 まず、入り口から数段上がって突き当たりは、普通の馬車のように対面で座席が設えてある。
 だだ、普通の馬車よりもたっぷりと空間が取ってあるので、身体が大きな自分でもゆっくり座っていられそうだと思っていた。

「これはこうするんだよ」

 空間がありすぎるように見えた座席と座席の間だが、アンナリーナが壁面……窓の下の留め金を外し、かなりの大きさの板を引き出した事で、その用途がうかがい知れた。
 それは最後にたたまれた脚を出し、床面に固定される。
 いくつかの折りたたみになったそれはテーブルだった。

「これは棟梁が頑張って下さいました」

 テオドールは目を見開いたが、本当の驚きはこの後訪れることをわかっていなかった。


「なんだァ……これは?」

 そのあとは絶句、だった。
 今、テオドールの目の前に広がるのはアンナリーナの好みに設えられた居間だ。
 馬車の中を仕切った壁。
 そこにあるドアを開けて目に入ってきたのは、どう考えても見合わない広さだった。

「【異空間魔法】の空間増設で、馬車の空間を拡張したんだよ!
 ほらほら、こっち来て」

 アンナリーナに手を引かれて居間に足を踏み入れる。
 そこは到底馬車の中とは思えない空間だった。
 どうやらソファーの造りは馬車の座席と同じもののようだ。
 それの4人掛けの長椅子が2脚、間に正方形の椅子を挟んでL字型に並んでおり、他にもぐるっとローテーブルを挟んで3人掛けの長椅子や、2人掛けのソファー、背もたれのないロースツールなどが並んでいる。
 足元にはほんの少しグリーンが混じったクリーム色のラグ。

「カップボードとかは、一度走ってから考えようと思って。
 殺風景だけど、おいおいね。
 次はこっち」

 次のドアを開けると、そこはダイニングキッチンだった。
 キッチンはテントのものとさして変わりないようだ。
 だがダイニングテーブルは大型で、10人は席につけそうだ。

 さらに奥のドアを開けると、そこはこじんまりとした寝室だ。
 2人寝用の大型ベッドが鎮座している。

「あとはお風呂とトイレと洗面所かな。また思いついたら増やすと思うけど。そうそう、大事な所を忘れてた」

 キッチンにある、もう一つのドア、そこを開けると、右、左、正面と3つのドアが現れた。

「熊さん、よく覚えておいてね。
 右のドアはツリーハウスに繋がっているの。熊さんが入ったら大変な事になるからくれぐれも気をつけて。
 そのかわり左は熊さんの部屋のテントに繋がっているからね。
 正面のドアはその都度、転移点に繋がるから。
 何か質問はない?」

「ありすぎて、どこを突っ込めばいいかわかんねぇよ。
 しかしおまえは……改めて、ずいぶん出鱈目な奴なんだな」

「ありがとうー」

「褒めてない!」
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