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第三章

126『カレーコロッケ』

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「それから、この馬車を引く子たちなんですけど……」

 アンナリーナは敷地内の中庭で、召喚魔法の呪文を唱え始めた。
 同時に蛍光グリーンの眩い魔法陣が展開され、そこから2羽のエピオルスが姿を現した。

「私の召喚獣です。
 この子たちに合わせて、連結部の調整もお願いしますね」

 エピオルスを馬の代わりにする事はまま、ある。
 だが、この店では初めてだったようだ。厩務を担当する者の顔が引きつっている。

「彼らは召喚獣なので大人しいですよ。命令すれば、ちゃんと言う事を聞きます」

 召喚獣の証である首輪をした彼らは、愛想よく頭を下げてきた。

「青い首輪の方がエピ、緑の首輪の方がオルスです。
 とってもいい子たちなんですよ」

 それよりもそのネーミングセンスが残念すぎる。
 テオドールだけでなく、この場にいる全員がなんとも言えない……生暖かい笑みを浮かべていた。


 馬車の納品まで5日。
 十分許容範囲なので、その間ベソリナの観光を兼ねた買物と、是非にと望まれて薬師としての仕事をする事になった。

「おまえ……今回はいつになく精力的だなぁ」

「だってぇ、市には珍しい野菜や果物が売っているし、気候の違いかハルメトリアでは冬の前になくなるオレンジ類やりんごが今も採れるみたいで~」

 アンナリーナの購買欲はとどまる事を知らない。

「あ~ このじゃがいも、すっごくいいね」

「嬢ちゃんは目が高い!
 こいつは作付けをずらせて、冬に入るギリギリに収穫したもんなんだよ。
 柔らかい赤土の畑で育った、極上のマルタだよ」

 どうやらマルタという品種らしい、このじゃがいもは、前世の地球で言う男爵に近いもののようで、ポタージュスープにも、煮物にもOKの優れものだ。
 特にこの男爵系のじゃがいもを使ったポテトサラダやコロッケは……思わず唾液が溢れ出る。

「そちらが困らない程度で、出来るだけたくさん買わせて下さい」

 もう常識のように樽買いである。

「熊さん、今夜の夕食楽しみにしてて!」



 早々に宿に戻ったアンナリーナは、今宵の夕食を断り部屋に篭った。
 テオドールを伴いテントに入ったアンナリーナはじゃがいもを洗い、蒸し始める。

「熊さん、皮をむくの手伝ってくれる?」

 テオドールは使い慣れたナイフを手に臨戦態勢だ。

「はい、蒸し上がったよ」

【時短】で仕上げた蒸かし芋はこのままバターをつけて食べても美味しい。
 アンナリーナはふたつ取り分けてアイテムバッグに入れると、むき終えた芋をマッシャーで潰していく。
 そこに、以前作った時に残ったカレーを取り出して混ぜていく。

「リーナ? これは?」

 わざわざ、そのままご飯にかけたら美味しく頂けるものを、芋と混ぜる意味がわからない。

「うふふ、これがまたすっごく美味しくなるんだよ」

 よく混ざった黄色いタネを小判型にまとめていく。
 そこにアマルとアラーニェが、小麦粉や卵液、パン粉を用意してやって来る。
 アンナリーナがトンカツを作る時と同じ作業を始めたことで、揚げ物を作るつもりなのはわかった。

「すぐに揚がるから、熊さんはビールでも飲んで待ってて」

 アラーニェがテーブルを調え、アマルが瓶ビールとグラスを持ってくる。
 ビールは辛口、スーパーなアレだ。
 アラーニェがツリーハウスの方から新鮮野菜のサラダ・鳥の唐揚げのせ、を持って来た。
 本来、この季節には手に入らないトマトやキュウリやリーフレタスやアボガトなどがふんだんに使われ、細かく裂いた鳥の唐揚げがのっている。
 それをプレーンなフレンチドレッシングで和えた、簡単なものである。

「さぁて、熊さん、揚がったよー」

 皿に山盛りになっているのは、先日も食べたコロッケだが、先ほど混ぜ込んだカレーの香りが食欲をそそる。
 手で掴んで一口齧ると……

「美味い」

 口の中に広がるカレーの味と香り。
 揚げ物独特の、ビールとの相性がテオドールの食欲を増進させる。

「でしょ? でしょ?」

「これは “ コロッケ ”だよな?」

「うん、カレーコロッケ」

 おもむろに立ち上がったテオドールが、いきなりアンナリーナを抱き上げ、強く抱きしめた。

「おまえは最高の嫁だよ!」

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