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第三章

116『狼とコロッケ』

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 目には見えないが、確かにそこに気配を感じる森狼たちは、何度も何度も結界に突っ込んで来る。
 それを一度、二度ならさほど問題にならなかったりするのだが、自身の突っ込む時の勢いと比例してダメージの度合いが跳ね上がり、次々と力尽きて倒れていった。
 もちろん初回で打ちどころが悪く、早々に骸になってしまったものも多い。
 テオドールと様子を見ながら話しているうちに元気なものはいなくなった。

「ん~、熊さん。
 ちょっと回収して来るわ」

「何言ってるんだ!
 結界から出たら危ないだろうが!」

「私自体が結界を纏ってるから大丈夫。そんなに心配なら、襲って来るものがいないか監視しててよ」

 実は森狼の血の臭いを感じ取って、次の群れ……おそらくダークウルフの群れが迫っている。
 森狼は30頭ほどだったが、こちらはもっと多そうだ。

「密集しているからはっきりとはわからないけど、ずいぶんいるなぁ……
 盗賊さんたちは遠巻きに様子見してるみたいだね」

 アンナリーナは、そこに何も無いかのように結界を通り抜け【血抜き】を唱えながらインベントリにしまっていく。

「27、28っと。
 食べられないし、素材の買い取りも大したことないけど……ギルドの依頼くらいにはなるからね」

「リーナっ! 周りを囲まれているぞ」

「わかってるよ!
 ダークウルフは買い取り額もいいし、何より毛皮がいいよね」

 アンナリーナはうっそりと微笑んだ。

「【結界】【サファケイト】【血抜き】」

 一瞬で倒れ臥し、骸になったダークウルフをインベントリに収納する。
 インベントリの中を小分けにし、魔獣の骸専用のスペースを作って便利になった。

「中で混ざらないってわかっているけど、やっぱり気分的によくないもんね」

「リーナ、そろそろ戻ってこい。
 そんなところにいたら、いい的だ」

 と言った途端に矢が飛んできて、結界に弾かれたが狙いは正確だった。

「くそっ!早くこっちに!!」

「ふうん……やっぱり盗賊っぽいね」

 実はアンナリーナ、彼らが “ 盗賊 ”なのか “ 誘拐屋 ”なのか判別が出来ずに迷っていたのだ。

「当たり前だろうが。
 何だ?リーナは食い詰めた村人か何かだと思っていたのか?」

「いや……誘拐屋だったら嫌だな~と思って」

「誘拐屋は乗り合い馬車しか襲わない。こんな少人数の箱荷馬車を襲うなんて、盗賊しかあり得ないだろう」

 そうだったのか、と納得して盗賊たちがいる方を見る。

「まあ、しばらく放っておこうか」


 盗賊たちから見えない結界のこちら側では、ダージェたちが緊張しながらも温かいぶどう酒を飲みながら揚げたてのコロッケを摘んでいた。

「揚げ物は酒に合うよなぁ」

 テオドールの頬が緩んでいる。

「そんなこと言ってもビールは出て来ないよ。さすがに今夜は控えてよ」

 実はアンナリーナ、先日念願の【業務用フライヤー】を手に入れた。
 こちらに来ると都合よく魔力が燃料となるので【魔導業務用フライヤー】となった。
 そしてラードを溶かして、お試しのために購入した冷凍コロッケを揚げてみたのだ。

「やっぱりコロッケはラードで揚げるのに限るね!」

 熱々のコロッケをサクリと齧り、はふはふと口の中で冷ましながら咀嚼する。
 業務スーパーで買ったものなので、じゃがいもと少しのミンチ肉だけのコロッケだったが、やはりラードで揚げたコロッケは美味しい。
 いわゆる【お肉屋さんの味】である。

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