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第三章

110『魔導ホットプレート』

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 寒気はこの国の南部に居座り、特にこの山岳地を中心として、その猛威をふるっていた。
 それは数十年ぶりの寒波で、恐るべき低温は命あるもの……それがたとえ木々であったとしても、すべてを凍りつかせていた。


「だからこのあたりは人が住まないんだよ」

 ダージェが、人づてに聞いた前回の話をしてくれた。

「昔は城塞都市の南側や、南西側……山岳地に入る手前に村があったそうだ。だがある夜、たった一晩でそれらの村は全滅した。
 村人は全員凍死だったそうだよ。
 きっと今回と同じようなことがあったのだろうね」

 ダージェがしんみりとしている間、アンナリーナは【天候予測】で外の様子を窺っていた。

「……外の気温、下がってきたようです。私たちは万全の状態で準備出来ていますが……普通の備えではマイナス20℃でも難しいでしょうね」

 アンナリーナの張った結界の中は、複数の魔導ストーブで暖められているため、少し着込めば快適に過ごすことが出来ていた。
 だが、この洞窟に来る直前に通ったあの森は今頃すでに凍りついているのは確実で、たとえ氷が溶けても枯れるのは必然である。

「ダージェさん、この先の人の住んでいる場所までどの位の距離がありますか?」

「次の村までは馬車で5日……くらいだな。まあ、これは冬以外の話だが」

 やはり先人の知恵としてこの、冬になれば危険極まりない地域は、人が住むには向かないとされていたようだ。


「とりあえず、何があるかわからないので、お酒は控えめにして下さいね」

 そう言って出されたのは、爽やかな柑橘系の香りのする焼酎のお湯割りだ。
 そして、料理が並べられるはずのテーブルに見慣れない器具が置かれた。

「ジャジャーン!
 これは魔導ホットプレートという調理器具です。
 今夜はこれで【お好み焼き】を焼きます」

 いわゆる、テフロン加工なのでそれほど熱心に油を塗りこまなくて良い。
 アンナリーナはアイテムバッグからあれこれ取り出しながら、その中から白いものが入ったチューブを取り出した。
 これはラードである。
 こちらの世界でも似たものはあるが、製法が雑なので、ここは地球のラードを使う。
 それを熱くなっているプレートに引き、あらかじめ作られていたタネを丸い形に4つ流し入れた。
 その上に薄切りのオークバラ肉を並べてしばらく焼く。

「リーナ? 今夜はまた面白い事をしてるんだな」

 テオドールだけでなく、ダージェやボリスも興味津々だ。

「たまにはいいでしょ?
 これなら熱々が食べられるし……
 身体が暖まってきたら、次はビールでもいいよ」

 やはりお好み焼きならビールである。
 アンナリーナも前世を思い出して、思わず喉を鳴らす。

 取り出したヘラで縁を少し持ち上げて、焼け具合を確かめて、両手にヘラを持って、エイヤっとひっくり返した。

「おおっ!」

 思わず、といった様子でダージェが声をあげる。
 ぺたんぺたんぺたんと続けて3枚ひっくり返し、次の用意を始めた。
 出来れば半熟で頂きたいので【異世界買物】で購入した卵を用意する。

「どうかな、焼けてるかな?」

 真ん中あたりにヘラの角を入れて、中の焼け具合を見る。
 ヘラに付いて来なければ火が通っているという事なのだが。

「うん、オッケー。
 こっちの焼け具合もグッドだね」

 4枚ともに焼け具合を確認し、端に寄せて場所を開ける。
 そこに卵を割り入れ、目玉焼きを作ると思いきや、ヘラで黄身に穴を開け、オーク肉を並べた方を下にして、卵の上に乗せる。
 これは好みによるが、アンナリーナは半熟が好きなので早々に皿にあげる。
 それぞれの皿に取り分け、オ○タフクお好み焼きソースをかけ、その上からマヨネーズ、そしてお約束のかつお節だ。

「リーナ、このふわふわ、生きているのか!?」

 湯気でかつお節が踊るのは、万人の驚きを買うようで、この反応にアンナリーナはしてやったりだ。

「熱いからね。気をつけて食べて下さいね」

 そしてアンナリーナは次を焼き始める。
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