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第三章

106『雪崩』

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「現状の説明をさせてもらいます」

 熱々の食事で、腹の中から温まった男たちは、アンナリーナに目を向けた。

「外は吹雪……外気温は相当低くなります。私たちは、少なくても吹雪が止むまでここから出て行けませんが、2~3日の間は体調を整えたいと思います」

「どのくらい寒くなるんだい?」

「撒いたお湯が瞬時に凍るくらい、ですね」

 3人は、想像してみて……寒気に震える。

「そして、本当に気をつけなくてはならないのは、雪が止んだ後です。
 ……冷たい空気が上空に留まっていた場合、晴れの夜が最も冷え込むのです。
 この場合は……今回は、人が生きたまま凍るほどの寒波が来ます」

「やはり、こんな真冬の旅は無謀だったんだな。皆、済まない」

 何やらダージェがネガティブな方に自己完結している。

「ダージェさん?
 雪さえ止んで、馬車が走れる路が確保出来たら問題ないですからね?」

「俺らは助かる?」

「はい、全然問題ありません。
 だから今夜はお酒でも飲んで、ゆっくり休んでくださいね」

 アイテムバッグから恭しく取り出した瓶に、テオドールの目が輝く。

「あの酒か! 確かブランデー!」

 これは温めないでね、と言ってテーブルを置くと、すでにテオドールの目の色が変わっている。

「何か、つまみになるものを用意してきますね。熊さん、あとお願い」


 酔っ払った男たちは高いびきをかいて眠りこけ、アンナリーナはイジを見張りに立てて、久しぶりにテオドールの腕に抱かれてぬくぬくと眠っていた、真夜中。
 突然の地響きと轟音に飛び起きた一行は、ほぼ同時にテントを飛び出した。

「イジ! 何事っ!?」

 未だ、岩肌を削るような轟音は続き、洞窟の入り口からは白いものが吹き込んできている。
 ……それは、始まりと同じように突然終わり、あたりに沈黙が訪れた。

「これは……雪崩?」

 真夜中であったため落としていた魔導灯の光を強くし、結界から出て近づいていく。
 そして押してみるが、当然の事ながらびくともしない。

「終わりだ! 完全に閉じ込められた!」

 パニック状態になったダージェが、頭を抱えて蹲り、ボリスは硬直して動かない。
 テオドールすら、騒ぎ立てはしないが厳しい顔つきが変わることはない。

「大丈夫ですよ」

 アンナリーナはそう言って、自分より遥かに大きいダージェを助け起こした。


 今夜はツリーハウスに返していたセトとアマルを連れて、再び雪の壁の前に立ったアンナリーナはその雪に触れ、2匹の方に向き直った。

「セト、直径3cmの穴でレーザーを貫通させて下さい。
 アマルはそのあと、雪にどれほど覆われているか、触手を伸ばして測ってちょうだい」

 そしてアンナリーナは結界の中に戻り、セトの作業を見守った。


 セトの口から放たれる “ レーザー ”は青い光線だった。
 それが一瞬にして雪を蒸発させ、穴を穿っていく。
 それは長いような、短いような、見るものの心を捉える光景だった。

「セト、ご苦労様。
 次はアマル、お願いね」

 するりと伸びていく触手が雪に触れてピクリと震える。
 そしてゆっくりと触手が穴の中を進んでいき、しばらくして止まった。

「アマル、ここでいいの?」

 ふるふると震えて合図する、その触手に、穴ギリギリにリボンを結んで、そして引き抜いてもらった。

「4m86㎝……約5mか。
 オッケー、ありがとう」

 この程度なら、セトのレーザーを使えば問題なく排除できるだろう。
 現時点ではちょうど良い扉代わりになる……災い転じて福となす、は言い過ぎかもしれないが。

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