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第三章

104『一難去ってまた一難?』

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 ダージェとテオドールが駆けつけてきて、ほぼ同時に憲兵隊もやって来た。

 この城塞都市で、一番格の高い宿屋で起きた強盗未遂事件だ。
 きちんと処理しなければ都市自体の沽券にかかわる。


「リーナ、一体何があった!?」

 戦斧だけ持って飛び出してきたテオドールは、この寒いのに上半身裸だ。
 目のやり場に困ってしまう。

「泥棒……かな?
 結界を、馬鹿みたいにガンガン叩いていたので、ちょっと大人しくしてもらってるとこ。
 でも加減がわからなくて、2人ほど潰しちゃった」

 呻いたり、喚いたりしている連中の中に、まったく動かないのが2人……
 そのうちの1人は、もはや1人と数えられる状態ではない。

「おまえは……無事だったんだな?」

「対峙すらしてないよ。
 結界の中から【圧縮】してただけ」

 そこに、憲兵隊の隊長が割り込んできた。

「この状況は君が?」

 アンナリーナの職種を聞き及んでいるのか、その口調は一見ていねいだ。
 しかし言葉の端々に不信感を漂わせている。
 ……無理もない。
 未だ、ここには大の男でも目を背けたくなるような状況が広がっているのだ。

「はい、生活魔法の一種【圧縮】で無力化するつもりが、加減がわからなくて2人ほど潰しちゃいましたが……問題ありますか?」

 結果として強盗を返り討ちにしただけなのだが、なによりも見た目がエグい。

「いや、その他は捕獲する事が出来た。改めて礼を言う」

 隊長は、もうこの恐ろしい魔女と関わるのを止めた。
 無邪気な少女は、自分の優位性をゴリゴリと押し付けてくる。
 聴取という形で留め置くよりも、さっさと出て行ってもらうに限る。
 憲兵隊は、見事に四肢を折られ自由を奪われている強盗団を運んで去っていった。


 翌日、アンナリーナは早朝から元気いっぱいだった。
 ダージェたちの朝食は宿で摂るため、今朝は余裕のあるアンナリーナは、出発の時間を少し遅らせてもらって買い物に出かける。
 ケバブ屋では嬉しい事に頼んでいたよりもたくさんの量のケバブを売ってもらえた。
 店主としても儲け時と見て、徹夜で焼いてきたのだ。
 あとは根菜が中心になるが野菜を買い込み、加工肉専門の店ではソーセージやベーコン、ハムを買う。
 そこで美味しそうな生ハムを見つけて買い占めた。

「これでベビーリーフとサラダにしよう。あと……お豆も追加しようかな」

 市には豆専門の店が何件もある。
 そして粉物専門店では小麦粉だけではなくトウモロコシの粉やそば粉も手に入れた。

「リーナ、まだ買うのか?」

 さすがにテオドールはうんざり顔だ。

「ちょっと待って」

 結局、すべての店を網羅する勢いで買い物をしたアンナリーナは、昼食を宿屋で摂って、この城塞都市を後にした。


 城塞都市を出発したアンナリーナたちが、次の町に到着するまでの日程は約7日、その間は普通、中継地や野営地での野営となるのだがこの地帯は地形が厳しく【アグボンラオール国】に向かう渡国街道で、一二を争う難所だった。
 まして今は冬。
 いくらも進まないうちに雪は激しくなった。
 御者台に座るボリスとテオドールはもはや雪だるまのような状態だ。

「ダージェさん、このままでは拙いですよ! 中継地はまだですか?」

「このあたりに中継地はなくて、岩山に空いた洞窟を代わりにしているんだ。ただ街道から逸れるので、無事にたどり着けるかどうか」

「とにかくそこに向かいましょう」

 アンナリーナは【探査】の精度をあげて洞窟を探し始めた。


 まだ日暮れの時間でもないのに、あたりは薄暗くなってギリギリの時間。
 ようやく【探査】に引っかかった洞窟は森の中の道無き道を分け入るような場所にあった。

「大丈夫なのか~
 たどり着けるのかよ、これぇ!」

 テオドールが喚いている。
 隣に座っているボリスは毛皮に包まっているが心底冷えているのだろう、顔色が真っ青だ。

「熊さん! このまま真っ直ぐ行ったら後もう少し!」

「おう! ボリスもう少しだ、頑張れ!」


 眼前にポッカリと、岩肌に空いた穴は思ったよりも大きくて、馬車ごと入る事が出来た。

「やっと着いたー」

 ホッとするテオドールたちの横で、ボリスが崩れ落ちた。

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