上 下
206 / 577
第三章

99『オークのトンカツ』

しおりを挟む
 一度、すべてを収納してこの場を離れることにした。
 このままここに居れば血の匂いを嗅ぎつけて、森狼などの魔獣が襲ってくるかもしれない。
 そして、セトが持ち帰ってきた上位種も検分して、これもインベントリにしまい込んだ。

「熊さん、このオークの繁殖していた村……残党がいないか確かめに行った方がいいかな?」

 そう話しながらも【探査】を広げて見ている。

「今のところ……魔獣が纏まっているっていう反応は出ないのよね。
 ポツポツといるのはいるんだけど広範囲に広がってる」

「一応、次の町でギルドがあったら報告するぐらいでいいんじゃないか?
 この人数なんだ……うるさいことは言うまいて」

「わかった。
 ダージェさんたちに報告して、出発しようか」

 アマルを戻し、怯えないように頭巾をかぶせていた馬の世話をする。
 結界を解いて、ダージェとボリスに声をかけると、おっかなびっくり顔を出した。

「お待たせしました。
 急ですがボリスさん、すぐにここから立ちたいのでお願いできますか?
 詳しい事は休憩のときにでも」

 ダージェたちとて素人ではない。
 見た目には何もないが、濃く残る血臭は誤魔化しようがない。
 ボリスは、すでに馬の準備を始めていたテオドールの元に走り、イジは念のため荷物を積んでいる馬車の一番後ろの、積み込み用のステップに陣取った。

「ごめんね、イジ。
 寒い思いをさせるけど、よろしくお願いします」

「ご主人様、俺は人より寒さに強い。
 こんな、分不相応な外套ももらっている。心配しなくて大丈夫」

 馬車が出発したのは、アンナリーナ たちがオークの群れを殲滅してから一刻ほども経っていなかった。



 途中の休憩もそこそこに、アンナリーナたちを乗せた馬車は、その魔法の付与のおかげもあって街道を疾駆していた。
 御者台との連絡用の小窓を開き、先程からダージェとボリスが話していた。

「テオドール殿、リーナちゃん、ちょっと聞いてくれ」

 馬車は速度を落とさず、走り続けている。

「今、私たちの馬車は順調に来ているのだが、順調すぎて中継地を通り過ぎている。
 それでなのだが、この先に中継地にたどり着けなかった時にたまに使う空き地があるんだ。
 少し早いが今夜はそこで野営しようと思うんだが……どうだろうか?」

 アンナリーナが反対する理由はなかった。
 結界さえ張ってしまえば、例え街道上でも関係ないのだ。

「はい、結界も張りますし見張りの従魔ももう一匹増やします。
 それと今夜の夕食は期待していて下さい。
 それと……」

 結局、オークの群れの素材は、上位種はアンナリーナとテオドールに、他の、結果的に129匹いたオークの素材60匹分の睾丸がダージェとボリスのものとなった。
 これはもらいすぎだとダージェは抗議していたが、アンナリーナは聞き入れない。
 それよりも空き地全体に強めの結界を張り、昨夜と同じように調理のための準備を始めた。


 血抜きが完璧になされたオークの肉を【解体】のスキルで肉のブロックにしていく。
 今回の調理にはアマルも呼び出して、手伝わせていた。

「はぁ~ ジェリーフィッシュとはまた、珍しいものを見せて頂きました」

「この子は生活魔法に特化していて、こうしてお料理とか手伝ってくれるんです」

 今はパンをおろしてパン粉を作っている。
 そしてバットに小麦粉を出したり、卵液を作ったりとまめまめしく動いていた。
 オークの、適度に脂身の入ったロース肉が切り分けられていく。
 そして筋切りをし、塩胡椒で下味をつけてから小麦粉をまぶし、卵液につけてパン粉をつけて余分は叩く。
 魔導コンロにかけられた鍋には食物油(【異世界買物】で購入したサラダ油)が熱せられていて、アンナリーナ はそこにパン粉を数粒落とし温度の加減を見てからトンカツ(オークカツ?)を投入した。
 ジュワッと油の音がして肉が沈んでいく。
 そしてアンナリーナ は続けて3枚入れると、油の加減を見ながらアイテムバッグからキャベツの千切りが山となったボウルを取り出した。

「アマル、お皿の準備をお願い。
 イジはテーブルのセットを急いでね」

 この時、ダージェとボリス、テオドールは馬の世話をしていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

処理中です...