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第三章
93『王との対面とテオドールの提案』
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この世界では貴重な【薬師】それも【錬金薬師】だ。
本当は【錬金医薬師】なのだが、それが明らかになれば確実に王室に捉われるだろう。
今、この大陸には【錬金医薬師】は存在しない。
その貴重なアンナリーナを前にして、30代半ばの王は率直に “ 欲しい ”と思った。
だが事前に側近から注意されていたので、今はその思いを抑え込む。
しかし、なんとか王宮に招待したくて、アンナリーナに声をかける。
「ようこそ、小さな薬師殿。
今宵は楽しんで行って欲しい」
「お目にかかれて光栄でございます。
私【錬金薬師】のリーナと申します」
「王よ。
このリーナは私の内弟子でございましてな。今は魔法学院にて勉学に励みながら私の知識を授けているところです。元々私の姉弟子の養い子でして、教え甲斐のある弟子なのですよ」
王が何かを言い出す前にユングクヴィストが牽制する。
2人の間に、何やら火花が散っているように思えた。
「それでは御前、失礼致します」
【宮中儀礼】のスキルを持っているアンナリーナである。
王の前での所作は完璧だった。
そして名残惜しそうな王の様子にも気づいていた。
王との挨拶が終わり、パーティーの開会が宣言されると、アンナリーナはユングクヴィストとともにギィ辺境伯夫妻の元に向かった。
「先日はご指導、ありがとうございました」
挨拶に続いての歓談。
この場ではユングクヴィストとギィ辺境伯が後見人だ。
当然、彼女の周りには人が集まってくる。
それを的確に捌きながら、ユングクヴィストとギィ辺境伯はアンナリーナの様子を伺ってみるが落ち着いたものである。
「ファーストダンスはユングクヴィスト様にお願いします」
裾捌きも完璧に、ダンスを踊りきったアンナリーナは、次々と誘われるが卒なく断ってユングクヴィストと一緒にいる。
そして当然の事ながら、その場に集まってくるのは学者が多い。
この後、散会までアンナリーナは充実した時間を過ごすことになる。
「ただいま……」
ほとんど人のいない寮に戻ってきて、アンナリーナは声をかける。
だが、いつもなら出迎えるはずのアラーニェの姿が見えず不審に思っていると、いきなり後ろから抱きしめられて、頬にキスされる。
「おかえり、リーナ。本当に綺麗だな」
テオドールである。
滅多にテントから出てこないテオドールが扉の前で出迎えるなんて珍しいにも程がある。
「ただいま、熊さん…… どうしたの?」
「ああっ、畜生。
こんなに綺麗なリーナをほかの奴に見せるなんて。腹が立つ!」
「え……っと、熊さん?」
白銀狐の毛皮の外套を脱がし、抱き上げる。
そのままテントに向かったテオドールは、聞く耳を持たないようだ。
「王様に挨拶した後はユングクヴィスト様と踊って、後はずっと話をしてたよ?結構ためになる話が聞けたの。
例えば特殊な薬草の取れる場所とかね」
学院の研究塔に出入りしているとはいえ、ユングクヴィストの研究室以外は気にした事もないアンナリーナだ。
話は盛り上がり、アンナリーナたちのいる一画はちょっとしたサロンの様相を呈していた。
そんな話を聞いていると、テオドールの機嫌も治ってくる。
「リーナ、今夜はちょっと相談があるんだが」
「うん? 相談って?」
「いや、な。
この季節には異例のことなんだが、俺に指名依頼が入ったんだ。
もちろん1人で受けられる内容じゃないんだが、リーナが一緒に来てくれるのなら考えてみようかと思ってる」
それで、とテオドールが手を握ってくる
「護衛依頼なんだ。
どうだ? やっぱり嫌か?」
本当は【錬金医薬師】なのだが、それが明らかになれば確実に王室に捉われるだろう。
今、この大陸には【錬金医薬師】は存在しない。
その貴重なアンナリーナを前にして、30代半ばの王は率直に “ 欲しい ”と思った。
だが事前に側近から注意されていたので、今はその思いを抑え込む。
しかし、なんとか王宮に招待したくて、アンナリーナに声をかける。
「ようこそ、小さな薬師殿。
今宵は楽しんで行って欲しい」
「お目にかかれて光栄でございます。
私【錬金薬師】のリーナと申します」
「王よ。
このリーナは私の内弟子でございましてな。今は魔法学院にて勉学に励みながら私の知識を授けているところです。元々私の姉弟子の養い子でして、教え甲斐のある弟子なのですよ」
王が何かを言い出す前にユングクヴィストが牽制する。
2人の間に、何やら火花が散っているように思えた。
「それでは御前、失礼致します」
【宮中儀礼】のスキルを持っているアンナリーナである。
王の前での所作は完璧だった。
そして名残惜しそうな王の様子にも気づいていた。
王との挨拶が終わり、パーティーの開会が宣言されると、アンナリーナはユングクヴィストとともにギィ辺境伯夫妻の元に向かった。
「先日はご指導、ありがとうございました」
挨拶に続いての歓談。
この場ではユングクヴィストとギィ辺境伯が後見人だ。
当然、彼女の周りには人が集まってくる。
それを的確に捌きながら、ユングクヴィストとギィ辺境伯はアンナリーナの様子を伺ってみるが落ち着いたものである。
「ファーストダンスはユングクヴィスト様にお願いします」
裾捌きも完璧に、ダンスを踊りきったアンナリーナは、次々と誘われるが卒なく断ってユングクヴィストと一緒にいる。
そして当然の事ながら、その場に集まってくるのは学者が多い。
この後、散会までアンナリーナは充実した時間を過ごすことになる。
「ただいま……」
ほとんど人のいない寮に戻ってきて、アンナリーナは声をかける。
だが、いつもなら出迎えるはずのアラーニェの姿が見えず不審に思っていると、いきなり後ろから抱きしめられて、頬にキスされる。
「おかえり、リーナ。本当に綺麗だな」
テオドールである。
滅多にテントから出てこないテオドールが扉の前で出迎えるなんて珍しいにも程がある。
「ただいま、熊さん…… どうしたの?」
「ああっ、畜生。
こんなに綺麗なリーナをほかの奴に見せるなんて。腹が立つ!」
「え……っと、熊さん?」
白銀狐の毛皮の外套を脱がし、抱き上げる。
そのままテントに向かったテオドールは、聞く耳を持たないようだ。
「王様に挨拶した後はユングクヴィスト様と踊って、後はずっと話をしてたよ?結構ためになる話が聞けたの。
例えば特殊な薬草の取れる場所とかね」
学院の研究塔に出入りしているとはいえ、ユングクヴィストの研究室以外は気にした事もないアンナリーナだ。
話は盛り上がり、アンナリーナたちのいる一画はちょっとしたサロンの様相を呈していた。
そんな話を聞いていると、テオドールの機嫌も治ってくる。
「リーナ、今夜はちょっと相談があるんだが」
「うん? 相談って?」
「いや、な。
この季節には異例のことなんだが、俺に指名依頼が入ったんだ。
もちろん1人で受けられる内容じゃないんだが、リーナが一緒に来てくれるのなら考えてみようかと思ってる」
それで、とテオドールが手を握ってくる
「護衛依頼なんだ。
どうだ? やっぱり嫌か?」
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