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第三章
78『テンプレ!』
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来たーーっ! テンプレだ。
アンナリーナは叫び出したくなるのを我慢して、声をかけて来た少女を睥睨した。
「あなたが身の程知らずにも特別室に入った平民ね?
一体どのようにして、この由緒ある学院にもぐりこんだのかしら」
どうやらいちゃもんをつけに来たようである。
しかし偶然とは言えないほどのタイミング……まさか張っていたのか?
「このお部屋は代々王族の方が居住なさるのよ。さっさと出て行きなさい」
アンナリーナは吐息を吐きたくなる。
「私は正当な手段を経てこの部屋に入っています。あなたにどうこう言われる筋合いはありません」
金貨3000枚、たとえ大貴族でも右から左に動かせる額ではない。
ちなみに学院は王族からはこの金額は徴収しない。
「平民のくせに生意気な!」
キンと周りの空気が緊張した。
【威圧】を使うまでもなく、アンナリーナが魔力を垂れ流すだけで目の前の少女は震えだした。
笑みを浮かべながらさらに量を増やすと、少女は涙を流しながら蹲り、床には温かい液体が広がった
「貴族のくせにまともな魔力値も持たないなんて、みじめね。
……失禁令嬢」
言葉もなく立ちすくむ取り巻きの少女たちも、慌てて近づいてくる侍女も無視してアンナリーナは事務室に向かう。
そんな後ろ姿をひとりの少女が見つめていた。
それは初めから無謀な闘いだったのだ。
今も床に座り込み、泣きじゃくっているのはヴィスコント侯爵家の令嬢アニータ。おそらくこの一件で、彼女は侯爵家から冷遇されるだろう。
貴族としてはかなり低い魔力を水増しするために魔導具を使い “ もぐりこんだ ”のは彼女の方だ。
相手の魔力を計れないほどのレベルの低さ。
愚か以外のなにものでもない。
アンナリーナを見送っていた少女の名はアナベラ・ココット伯爵令嬢。
貴族としてよりも大商家としての方が有名な家の娘だ。
商人にとって情報は金である。
彼女はこの学院に来る前に父親から、今年の入学者に【薬師】がいる事を聞き及んでいた。
そして父の予測では、ただの【薬師】ではなく、【錬金薬師】だろうとの事。
その話を聞いた時はまだ、その【薬師】の性別や人となりなど何も知られていなかったのだが、先日入寮の時にチラリと見かけて吃驚した。
【薬師】のギフトを持つという事は準成人を迎えているはずである。
それなのに彼女はどう見ても……小さい。アナベラは来春準成人を迎える13才なのだが、2才年下の妹と変わらないように見受けられる。
「アナベラ様、どうなさったの?」
ジッと小さくなっていく姿を追いながら、考え込んでいたアナベラに、アニータの取り巻きが話しかけてくる。
「いえ、別になんでもありませんわ」
「それにしても、ご覧になりました?
あの、野暮ったい格好」
アニータの取り巻きとしては、なんとかしてあの【薬師】殿を貶めなければ気がすまないのだろう。
アナベラはうんざりする。
「……ご覧になって、おわかりになりませんの?
あの方のお召し物はすべてアラクネ絹で仕立てられてましたわ。
第一【薬師】様がヒラヒラしたドレスで調薬されるなんて想像つきません。
そう思われませんこと?」
取り巻きは【薬師】と聞いて血相を変えたが、アナベラは無視して歩き出す。
そして彼女の着ていたシンプルなドレスを思い浮かべた。
淡い紫色に染められたアラクネ絹で、シンプルなラインの細身のドレス。
その上から袖なしの胴着……これもドレスと同じだけの丈がある。そしてこの胴着には一面に植物の刺繍が施されており、その色糸の発色は見たことがないほど鮮やかだった。
腰のベルトは恐らくミスリルだろう。
見るからに捉えどころのない【薬師】殿は、商人としての目で見るとお宝の山のような存在だった。
アンナリーナは叫び出したくなるのを我慢して、声をかけて来た少女を睥睨した。
「あなたが身の程知らずにも特別室に入った平民ね?
一体どのようにして、この由緒ある学院にもぐりこんだのかしら」
どうやらいちゃもんをつけに来たようである。
しかし偶然とは言えないほどのタイミング……まさか張っていたのか?
「このお部屋は代々王族の方が居住なさるのよ。さっさと出て行きなさい」
アンナリーナは吐息を吐きたくなる。
「私は正当な手段を経てこの部屋に入っています。あなたにどうこう言われる筋合いはありません」
金貨3000枚、たとえ大貴族でも右から左に動かせる額ではない。
ちなみに学院は王族からはこの金額は徴収しない。
「平民のくせに生意気な!」
キンと周りの空気が緊張した。
【威圧】を使うまでもなく、アンナリーナが魔力を垂れ流すだけで目の前の少女は震えだした。
笑みを浮かべながらさらに量を増やすと、少女は涙を流しながら蹲り、床には温かい液体が広がった
「貴族のくせにまともな魔力値も持たないなんて、みじめね。
……失禁令嬢」
言葉もなく立ちすくむ取り巻きの少女たちも、慌てて近づいてくる侍女も無視してアンナリーナは事務室に向かう。
そんな後ろ姿をひとりの少女が見つめていた。
それは初めから無謀な闘いだったのだ。
今も床に座り込み、泣きじゃくっているのはヴィスコント侯爵家の令嬢アニータ。おそらくこの一件で、彼女は侯爵家から冷遇されるだろう。
貴族としてはかなり低い魔力を水増しするために魔導具を使い “ もぐりこんだ ”のは彼女の方だ。
相手の魔力を計れないほどのレベルの低さ。
愚か以外のなにものでもない。
アンナリーナを見送っていた少女の名はアナベラ・ココット伯爵令嬢。
貴族としてよりも大商家としての方が有名な家の娘だ。
商人にとって情報は金である。
彼女はこの学院に来る前に父親から、今年の入学者に【薬師】がいる事を聞き及んでいた。
そして父の予測では、ただの【薬師】ではなく、【錬金薬師】だろうとの事。
その話を聞いた時はまだ、その【薬師】の性別や人となりなど何も知られていなかったのだが、先日入寮の時にチラリと見かけて吃驚した。
【薬師】のギフトを持つという事は準成人を迎えているはずである。
それなのに彼女はどう見ても……小さい。アナベラは来春準成人を迎える13才なのだが、2才年下の妹と変わらないように見受けられる。
「アナベラ様、どうなさったの?」
ジッと小さくなっていく姿を追いながら、考え込んでいたアナベラに、アニータの取り巻きが話しかけてくる。
「いえ、別になんでもありませんわ」
「それにしても、ご覧になりました?
あの、野暮ったい格好」
アニータの取り巻きとしては、なんとかしてあの【薬師】殿を貶めなければ気がすまないのだろう。
アナベラはうんざりする。
「……ご覧になって、おわかりになりませんの?
あの方のお召し物はすべてアラクネ絹で仕立てられてましたわ。
第一【薬師】様がヒラヒラしたドレスで調薬されるなんて想像つきません。
そう思われませんこと?」
取り巻きは【薬師】と聞いて血相を変えたが、アナベラは無視して歩き出す。
そして彼女の着ていたシンプルなドレスを思い浮かべた。
淡い紫色に染められたアラクネ絹で、シンプルなラインの細身のドレス。
その上から袖なしの胴着……これもドレスと同じだけの丈がある。そしてこの胴着には一面に植物の刺繍が施されており、その色糸の発色は見たことがないほど鮮やかだった。
腰のベルトは恐らくミスリルだろう。
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