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第三章

75『深い悲しみ』

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 イジがクランに駆け込んだ少し前。

 アンナリーナに巻かれてしまって、仕方なくツリーハウスに戻り、しばらくして主人の気配を感じて飛び出すと……そこには茫然自失といった状態のアンナリーナが座り込んでいた。

「主人様!」

 様子のおかしいアンナリーナを抱き上げ、慌てて室内に入る。
 虚ろな目つきの、自らの主人の様子に皆が慌てた。
 そして、テオドールに頼ったのだ。



「これは……
 リーナ、しっかりしろ!」

 揺さぶるとガクガク震えるだけで、一言も話さないアンナリーナを見てテオドールは顔色を変えた。

「リーナ、リーナ!!」

「くま……さん?」

 蚊の鳴くような小さな声で囁いて、ようやくテオドールを認識したアンナリーナが次にとった行動は……

「くまさん……」

 いつもは健康的に輝いている目からポロポロと涙が零れ落ち、大声で泣き始めた。

「うわぁーーん」

 テオドールの服を握りしめ、やっと動き始めたアンナリーナを見て、従魔たちはホッとしたのだがそれも少しの間。

 アンナリーナが泣き止まない。
 さすがに、最初のような大泣きは影を潜めたが、グスグズと泣き続けてテオドールから離れない。
 彼はそのまま胸を貸すことにしたのだが。


 丸一日泣き続けているアンナリーナは衰弱してきていた。
 それでも、半ば意識が混濁している状態で泣いている。

「リーナ、そろそろ泣き止まないか?
 いくらなんでも、そろそろ拙いだろう」

 しゃくりあげながらも反応を示さないアンナリーナを抱きしめた。
 いくら勧めても水すら飲もうとしない彼女に、口移しで水を飲ませる。
 静かにすすり泣くアンナリーナは、胡座をかいた状態のテオドールに抱かれたまま、夜を明かした。
 この頃はテオドールも従魔たちも楽観視していたのだが、すぐにその思いを改める事になる。

 水分はテオドールのおかげでどうにかなっていたが、食事はまったく摂ろうとしない。
 元々脆弱なアンナリーナの身体が悲鳴をあげるのには、大した時間を要しなかった。

「リーナ、スープだけでも飲んでくれないか?」

 テオドールが近づけたスプーンに対してだけ、口を開ける。
 5日目になると、どうにか涙だけ流し続けるアンナリーナを、テオドールは飲食の世話、排泄や入浴まですべてを行なっていた。


 すすり泣くアンナリーナの背を撫で、優しく名を呼ぶ。
 2人で風呂に入り、隅々まで洗い清め、髪を乾かしてやる、
 髪を梳き、添い寝して献身的に世話をした。
 食事も、小さくカットした食材を、フォークで口許まで持っていくと食べるようになった。
 テオドールは、この自分の世話がなければ生きていけない、腕の中のアンナリーナが愛しくて、ドロドロに甘やかしている。

 卑怯だと思われるかもしれないが、彼はこのチャンスを逃すつもりはない。

「リーナ、俺はおまえを裏切らない」

 額にキスをして、涙で荒れた頬に薬を塗っていると、突然アンナリーナの目蓋が開いた。

「くまさん、ありがとう。
 本当、甘えたくなっちゃう」

 久々のまともな言葉。

「いっぱい甘えたらいい。
 リーナはこんなに小さいんだ……
 元々おまえは頑張りすぎなんだよ」

「うん、ごめんね」

 そしてこの後、アンナリーナは熱を出して寝込み、テオドールをさらに心配させた。

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