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第三章

68『入学試験 ①』

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 魔法学院の入学試験は、さほど複雑ではない。
 数学……いや、算数に一刻、国語は書き取り?
 あとは一般常識という、学院の勉強についてこれるかを判断する試験なのだ。
 ここは魔法学院と言うだけあって、魔力がすべて。
 昼からはその、魔力の測定と適性を見て、面接がある。
 元々、受験を許可される数が少ないのだ。
 ほとんどのものが合格する。


 カヴァーの手によって配られた答案用紙を、合図によって表返す。
 アンナリーナにとっては何と優しい問題なのだろう。
 問数はそれなりにあるが、5~6桁の足し算引き算と3桁の掛け算、そして割り算。
 小学校の算数のレベルにアンナリーナは笑ってしまう。
 暗算とそろばん式の暗算であっさりと解答し、時間を待つ。
 目を瞑り、ぼんやりと夕食のレシピなど考えながら時を過ごした。

 次の時間は国語だ。
 大陸共通語をインドゥーラ語に訳す問題だったのだが、アンナリーナにとっては易しすぎる問題だ。
 その次の一般常識も問題なし。
 午前中の試験はあっさりと終わり、アンナリーナは昼食を摂るため、テオドールを迎えに行った。


 アンナリーナの試験中、手持ち無沙汰だがやる事のないテオドールは、ダラダラと剣を磨いていた。
 従者や護衛たちの控え室にはずいぶんな人数がいる。

「失礼します。
 ひょっとして貴殿は【疾風の凶刃】のテオドール殿では?」

 声をかけられて顔を上げると、どこかで見たことのある顔が見つめている。
 さて、どこで会った事があるのかと考えて……

「ああ、以前ハンネケイナに護衛で来たことのある、王都のクランの」

「はい、サムエルです。
 その節はお世話になりました」

 そう言ってペコリと頭を下げる男も護衛で来ているのだろう、誰か知人がいないか探していたようだ。

「ハンネケイナの方の護衛ですか?」

「ああ、うちのクランが懇意にしている薬師殿だ。
 まったく……今までもかなり勉強してきただろうに、まだ学院に入って勉強したいなんて、気がしれない」

 サムエルの主人は伯爵家の次男坊だ。
 嫡男ではない彼は、幸いにも魔力が高くて、学院卒業後は魔法職に就きたいと思っている。

 テオドールとサムエルがお互いの近況に盛り上がっているところに試験終了の鐘が鳴り、途端に周りが賑やかになった。

「昼食はどうするんですか?
 うちの坊ちゃんは食堂に行かれるようですけど」

 学院内は、今いる控え室を除いて従者や護衛は立ち入り禁止になっている場所が多い。
 彼らの主が正式にここの学生となったあかつきには解禁されるのだが。
 だから彼らは食堂にも立ち入れないのだ。

「うちは……」

「熊さ~ん」

 サムエルの目の前で、小さな女の子がテオドールに飛びついてきて、その腰にぶら下がっている。

「おお、ちゃんと出来たか?」

「もぉ、バッチリ!」

 薬師の護衛と聞いていたサムエルは、目の前の出来事に目を見開いてびっくりしている。
 そんな彼に気づいたアンナリーナが小首を傾げる。

「あれ? 熊さん、お知り合い?」

「ああ、以前に護衛でハンネケイナにな……」

 テオドールに抱きついていた手を、パッと離して、その場で優雅なカーテシーを決める。

「初めまして、リーナです」

「これはこれは、ご丁寧に。
 初めまして。俺は【狂気の夜】に所属するサムエルと言います」

 挨拶しながら探るような目でみているサムエルの視線を、アンナリーナとの間に立つ事によってテオドールが遮った。

「リーナ、早くしないと昼休みが終わる」

「そうだね。ちょっといい場所、見つけてあるんだ」

 2人はサムエルを置き去りにし、庭園に向かう。
 そこのベンチが昼食の場となった。

 小さなポシェットから取り出したアイテムバッグからバスケットを取り出す。
 中にはとりどりのサンドイッチやロールサンドが詰め込まれていて、他にローストビーフやサラダなどが入っていた。

「こりゃあ、凄い!」

「今日のオススメはこの変わりサンドイッチ。
 中に詰めてあるお肉の味つけが、熊さんは初めてだと思う」

 食パンのミミを残したまま斜めに切り、破らないように袋状に剥いでその中に炒めた肉や野菜を詰めてある。
 味つけは【異世界買物】で購入したBBQソース。
 アメリカ製のそれをネット経由でポチっと、箱単位で購入した。

「本当だよ。
 ああっ! このローストビーフ、このマスタードの効いたソースが絶品だ!
 畜生、ワインが欲しいぜ」

「はいはい、今夜はワインも出してあげるから。
「熊さん、ここでお酒はダメダメだから、お茶で我慢してね」

 美味そうな匂いをプンプンさせて、とても弁当だとは思えない昼食をまるでままごとのように摂っている熊男テオドール。
 サムエルは腹の虫を鳴らしながら、その様子を覗いていた。
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