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第三章

67『試験会場』

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 冒険者ギルド差し回しの、高位冒険者が登城するときに使う馬車に乗り、アンナリーナとテオドールが魔法学院に向かっている。

 試験日だというのにアンナリーナは呑気なものだ。
 さもありなん、彼女は前世で【高校受験】【大学受験】それに【採用面接】を経験している。
 それにハンネケイナで充分に対策を練ってきたので、本人には全く気負いがない。

 大した距離でもないのだが、後見したギルド側の面子もあるのだろう。
 学院の門をくぐり、生徒専用の馬車寄せでテオドールの手を借りて馬車から降りた。
 今日、テオドールは従者兼護衛として同行している。
 いつもと違った小ざっぱりした装いとダンジョン魔鋼の胸当て。
 獲物は剣を佩いている。
 魔獣最前線の辺境伯領で活躍しているAランク冒険者、テオドールは王都でも知られていて、熊のような髭面でも、咎めるものはいない。

「じゃあ、熊さん。
 私は受験会場に行くね。
 お昼は一緒に食べよう、控え室に迎えに行くね」

 従者や護衛が入れるギリギリの場所までついてきたテオドールに、アンナリーナは手を振り先へと進む。
 変に図太い彼女に対して、テオドールは感心しきりだ。


 受験番号が記された教室に各々が収まり、試験開始の時間を待つ。
 アンナリーナは、貴族ではないが平民でもない、誠に珍しい立ち位置にいた。
 学院側は現役の薬師であるアンナリーナに注目している。
 本当は無試験でも良かったのだが、いらぬ軋轢を生まないためにも、一般入試にした。


 その馬車が学院の敷地内に入った瞬間、学院長をトップに特別教授陣、各科目の教師たち、魔力の高い助手たちが一斉に頭を巡らせた。
 ……信じられないほど濃い魔力が、学院を囲む結界の中に充満していく。

「これほどだとは……」

 アンナリーナがこの学院の試験を受ける目的となった、現時点で世界最高の薬学士と謳われる特別教授ユングクヴィストと学院長が顔を見合わせた。
 威圧ではなく純粋な魔力の発露である。
 その魔力の色を見てみたくて、本来ならば近づくこともない面接を覗く事にした2人は、珍しく好々爺然として微笑んだ。


 試験会場となった教室は、今秋卒業していったものたちがいた所だったようだ。
 隅々まで磨き上げられた教室。
 アンナリーナの前世での学校の、チープな机椅子ではなく、一人一人に重厚な書物机と座り心地の良い椅子が提供されている。
 その、自分の受験番号が記された机に着き、筆記用具を取り出して準備しているとやはり、視線を感じる。

 ここは下級貴族と裕福な平民の受験者を集めた部屋だ。
 受験者の年齢は、専攻科目にもよるが12才から18才くらいまで。
 アンナリーナは14才なのだが、この中では一番若く見える。


 通称【男爵部屋】と呼ばれる試験会場に、今年は毛色の変わった雛が1人、紛れ込んでいる。
 試験官として入室したカヴァーは、その少女から漏れ漂う魔力に目を細めた。
 魔力を纏う髪と瞳。
 その出で立ちも特徴的で、質の良い昼用のロングワンピースに白いローブを羽織っている。
 ローブというのは魔法職や医薬師職の特徴的な装いで、勝手に着用できるものではない。

 新緑色のワンピースはシンプルに見えるが、同色のアラクネ絹に重ねた総レースの生地はこの世界で唯一のもの【異世界買物】で購入した生地だ。
 ボートネックの襟元に見えるネックレスはミスリル銀の鎖編みだ。
 さり気なく、その細い腰を強調しているベルトは竜種の革製。
 そのベルトに付けられている小さなポシェットの中に、アイテムバッグがしまわれている。


 時間が来て、カヴァーは試験用紙を配り始めた。

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