上 下
173 / 577
第三章

66『凸凹コンビ』

しおりを挟む
 結局テオドールは翌日、王都の外に設置したテントから姿を現した。

「なんか、呆気ないほど便利だな……
 だが、これがあれば移動にとられる時間がずいぶん短縮できる」

「うん、行く行くはそうするつもり。
 今でも転移点はいくつかあるの。
 こないだのデラガルサもそう」

 そうこうするうちに門に着く。
 出る時はあっさり出れるが、入る時は大層だ。
 世間話をしながら順番を待ち、王都に入ってまず宿に行く。
 テオドールは数日滞在するつもりなので、普通と同じように部屋をとろうというのだ。


「申し訳ないけど、もうお部屋が空いてないの」

 困り顔の女将がアンナリーナとテオドールの顔を交互に見た。

「じゃあ、私の部屋に一緒で。
 もちろん宿泊費は通常通り、お支払いします」

「でも……」

「その方が都合がいいんです。
 熊さん、何泊する?」

「お前は何泊するんだ?」

「私はあと……6泊かな?」

 横で女将が頷いている。

「じゃあ、俺もそれで」

 アンナリーナが金貨を6枚取り出して、渡す。

「ではすぐにベッドをもう一台入れますね」

「それは結構です。
 どうせ一緒に寝ますし」

 女将はどうにか赤面せずにいられた。
 この2人、ずいぶんと年の差がありそうだが、そういう関係なのだろう。
 少女は夕食も断って、部屋に上がっていった。
 ……リーナ。
 宿の従業員にとって、アンナリーナは捉えどころのない不思議な人物である。


 この日から受験まで毎日、王都のあちらこちらで、この凸凹コンビが見受けられた。
 主に買い物に、買い食いに。
 見た目はまさしく【熊】の大男と見た目可憐な少女。
 可憐なのは本当に見た目だけで、彼女と対応した事のあるものは皆、口を揃えて言う。
 ……中身はなかなか強烈だと。
 そして彼らはいつしか王都の名物となっていた。

 初めは裕福な家庭の息女とその護衛だと思われていた。
 だが、その遣り取りを聞いて考えを改める。
 2人はほぼ対等、もしくは少女が押している。
 大男はいつも暖かい眼差しを向け、さりげなくエスコートしている。
 ……そして、少女の金遣いは荒い。
 気に入ったものは大量買いも厭わない、極端な人物。
 彼らは今、翌日に迫った受験に備えて、魔法学院に見学に来ていた。

 今日は、明日試験を受ける受験生のための、校内を解放しての見学日である。
 この学院の在校生はもちろん、受験生も圧倒的に貴族が多い。
 アンナリーナは見た目で舐められないよう、出で立ちにはいつも以上に気を配った。

 アラーニェの手による、アラクネ絹で仕立てられたシンプルな花紺のワンピース。
 ブラウス部分はオープンカラーで柔らかなパフスリーブ。
 細い腰を強調するリボン結びで、スカートは細いプリーツだ。
 その上に、やはりアラクネ糸で厚めに織られた生地を使った、オフホワイトのローブを着ている。
 足元は白いハーフブーツだ。
 従えているテオドールも、今日は大人しめの皮鎧をつけている。

 学院の上級生が無作為で案内役を引き受けているのだが、アンナリーナから溢れ出る魔力に当てられ、顔色が悪い。
 もちろん彼は、アンナリーナが薬師だとは知らなかったのだが。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

悪役令嬢は処刑されました

菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。

おばあちゃん(28)は自由ですヨ

七瀬美緒
ファンタジー
異世界召喚されちゃったあたし、梅木里子(28)。 その場には王子らしき人も居たけれど、その他大勢と共にもう一人の召喚者ばかりに話し掛け、あたしの事は無視。 どうしろっていうのよ……とか考えていたら、あたしに気付いた王子らしき人は、あたしの事を鼻で笑い。 「おまけのババアは引っ込んでろ」 そんな暴言と共に足蹴にされ、あたしは切れた。 その途端、響く悲鳴。 突然、年寄りになった王子らしき人。 そして気付く。 あれ、あたし……おばあちゃんになってない!? ちょっと待ってよ! あたし、28歳だよ!? 魔法というものがあり、魔力が最も充実している年齢で老化が一時的に止まるという、謎な法則のある世界。 召喚の魔法陣に、『最も力――魔力――が充実している年齢の姿』で召喚されるという呪が込められていた事から、おばあちゃんな姿で召喚されてしまった。 普通の人間は、年を取ると力が弱くなるのに、里子は逆。年を重ねれば重ねるほど力が強大になっていくチートだった――けど、本人は知らず。 自分を召喚した国が酷かったものだからとっとと出て行き(迷惑料をしっかり頂く) 元の姿に戻る為、元の世界に帰る為。 外見・おばあちゃんな性格のよろしくない最強主人公が自由気ままに旅をする。 ※気分で書いているので、1話1話の長短がバラバラです。 ※基本的に主人公、性格よくないです。言葉遣いも余りよろしくないです。(これ重要) ※いつか恋愛もさせたいけど、主人公が「え? 熟女萌え? というか、ババ專!?」とか考えちゃうので進まない様な気もします。 ※こちらは、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

処理中です...