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第三章
56『スキヤキ』
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テオドールとイジがテントに戻った時、ダイニングテーブルでは着々と準備が進められていた。
「なんだこりゃあ?」
地球のカセットコンロに似た携帯用簡易魔導コンロの上に個性的な形の鍋が置かれている。
それが3つ。
周りには調理前の食材が置かれている。
「食卓で調理しながら食べるんだよ。
お帰り、鍛錬はどうだった?」
【洗浄】と唱え、2人ともがさっぱりした様子を確認して、アンナリーナが鍋に向かう。
まず1つ目、魔導石という魔力を持った石を操作し、火をつける。
これは普通の魔石と違って繰り返し魔力を込める事が出来る。
そして温まった鍋に牛脂(ミノタウロス脂)を入れ、脂をなじませていく。
まずは肉だ。
薄切りにした、霜降りのミノタウロス肉がじゅー、じゅわーと言いながら、その色を変えていく。
砂糖と醤油を、テオドールがびっくりするくらいたくさん投入し、日本酒も少々足す。
それからねぎ、白菜など野菜と豆腐やこんにゃくを入れていき、火が通って水気が出てくるのを待った。
それを後2つの鍋で繰り返し煮込んでいく。
その間に、小さめのスープ皿に玉子を割り入れ、かき混ぜてほぐす。
テオドールには、用意した日本酒をデキャンタに移し、グラスと共に渡した。
「さあ、最初の鍋が出来上がったよ。
この玉子につけて食べてみて?」
イジたちはともかく、テオドールはこのような食べ方をした事がない。
生玉子になじみのない、この世界の人間なのだ。おっかなびっくりフォークで取り上げ、玉子につけて一口……食べた。
「美味いっ!!」
その肉の柔らかさ。
少々濃いめの甘辛さが生玉子に緩和されて、ちょうど良い味付けになっている。
これはいくらでも食べられそうだ。
「お野菜も食べてね。
この鍋は全部上げちゃって、次行くね」
ポロ葱に似た、白いねぎが美味い。
そしてアンナリーナから勧められて飲んだ透明の酒の芳醇さに唸る。
「リーナ、この酒は一体何なんだ?
信じられない……これは奇跡だ」
「うちの師匠の祖国のお酒だよ。
その国ではね、料理によって飲むお酒を変えるの。
このお酒は『すき焼き』にぴったりだと思うんだ」
「この料理は『スキヤキ』というのか?」
「そうだよ。
これも師匠の国の料理なの」
美味い料理と美味い酒。
テオドールは舌鼓を打つ。
今まで味わった事のない味つけの、この『スキヤキ』という料理に魅了されたテオドールはひたすら肉をかき込む。
「さて、ようやくお腹が落ち着いてきただろうから、少し話を聞いて?
実は今日から仲間が増えました。
『女郎蜘蛛』のアラーニェちゃんです」
アンナリーナが持ち上げた蜘蛛は、結構大きい。
テオドールなど仰け反ってしまうほどの迫力だ。
「この瑠璃色の毛のきれいな事。
お目目もキラキラしていて素敵よね?」
腹部にも歩脚にもびっしりと生えた毛を撫で、嬉しそうに笑う。
「アラーニェもお肉食べな?
セトもアマルもイジも遠慮しないで食べてね。
それこそお肉は売るほどあるからね」
売りはしないが。
「さて、と」
食事を終えたアンナリーナたちは各自思い思いに過ごしていたのだが、ふいにテオドールを振り返った。
「熊さん、エメラルダさんたちって見かけないけど、どうしてるの?」
「あいつらは今、護衛任務に出てる。
特にエメラルダがしゃかりきでな。
テントの競りになるべく多くの金が欲しいらしい」
「え?熊さんどうして残ったの?」
「俺はおまえの担当だろうが。
居残ったんだよ」
アンナリーナにもらった戦斧を柔らかい布で拭いていたテオドールが、呆れたように言う。
「あー、そうか。ごめん」
だが、その代わりに今の立場を手に入れた。
文句などあるはずもない。
「なんだこりゃあ?」
地球のカセットコンロに似た携帯用簡易魔導コンロの上に個性的な形の鍋が置かれている。
それが3つ。
周りには調理前の食材が置かれている。
「食卓で調理しながら食べるんだよ。
お帰り、鍛錬はどうだった?」
【洗浄】と唱え、2人ともがさっぱりした様子を確認して、アンナリーナが鍋に向かう。
まず1つ目、魔導石という魔力を持った石を操作し、火をつける。
これは普通の魔石と違って繰り返し魔力を込める事が出来る。
そして温まった鍋に牛脂(ミノタウロス脂)を入れ、脂をなじませていく。
まずは肉だ。
薄切りにした、霜降りのミノタウロス肉がじゅー、じゅわーと言いながら、その色を変えていく。
砂糖と醤油を、テオドールがびっくりするくらいたくさん投入し、日本酒も少々足す。
それからねぎ、白菜など野菜と豆腐やこんにゃくを入れていき、火が通って水気が出てくるのを待った。
それを後2つの鍋で繰り返し煮込んでいく。
その間に、小さめのスープ皿に玉子を割り入れ、かき混ぜてほぐす。
テオドールには、用意した日本酒をデキャンタに移し、グラスと共に渡した。
「さあ、最初の鍋が出来上がったよ。
この玉子につけて食べてみて?」
イジたちはともかく、テオドールはこのような食べ方をした事がない。
生玉子になじみのない、この世界の人間なのだ。おっかなびっくりフォークで取り上げ、玉子につけて一口……食べた。
「美味いっ!!」
その肉の柔らかさ。
少々濃いめの甘辛さが生玉子に緩和されて、ちょうど良い味付けになっている。
これはいくらでも食べられそうだ。
「お野菜も食べてね。
この鍋は全部上げちゃって、次行くね」
ポロ葱に似た、白いねぎが美味い。
そしてアンナリーナから勧められて飲んだ透明の酒の芳醇さに唸る。
「リーナ、この酒は一体何なんだ?
信じられない……これは奇跡だ」
「うちの師匠の祖国のお酒だよ。
その国ではね、料理によって飲むお酒を変えるの。
このお酒は『すき焼き』にぴったりだと思うんだ」
「この料理は『スキヤキ』というのか?」
「そうだよ。
これも師匠の国の料理なの」
美味い料理と美味い酒。
テオドールは舌鼓を打つ。
今まで味わった事のない味つけの、この『スキヤキ』という料理に魅了されたテオドールはひたすら肉をかき込む。
「さて、ようやくお腹が落ち着いてきただろうから、少し話を聞いて?
実は今日から仲間が増えました。
『女郎蜘蛛』のアラーニェちゃんです」
アンナリーナが持ち上げた蜘蛛は、結構大きい。
テオドールなど仰け反ってしまうほどの迫力だ。
「この瑠璃色の毛のきれいな事。
お目目もキラキラしていて素敵よね?」
腹部にも歩脚にもびっしりと生えた毛を撫で、嬉しそうに笑う。
「アラーニェもお肉食べな?
セトもアマルもイジも遠慮しないで食べてね。
それこそお肉は売るほどあるからね」
売りはしないが。
「さて、と」
食事を終えたアンナリーナたちは各自思い思いに過ごしていたのだが、ふいにテオドールを振り返った。
「熊さん、エメラルダさんたちって見かけないけど、どうしてるの?」
「あいつらは今、護衛任務に出てる。
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「え?熊さんどうして残ったの?」
「俺はおまえの担当だろうが。
居残ったんだよ」
アンナリーナにもらった戦斧を柔らかい布で拭いていたテオドールが、呆れたように言う。
「あー、そうか。ごめん」
だが、その代わりに今の立場を手に入れた。
文句などあるはずもない。
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