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第三章

36『ダンジョンの中の冒険者』

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 何度目かのダンジョンへの挑戦で、ようやく7階層までたどり着いたパーティ……王都の有名クランのトップパーティの6人は今、自分たちの目の前のものに、あるものはあんぐりと口を開けて、あるものは幻覚でも見ているのではないかと目を擦ったりしていた。

 そこにはちょこんと、ゴツゴツの岩石がそこだけ僅かに平坦な場所にテントが設置されている。

「はああ? こんなところにテントって、誰か夜営してるって事か?」

 信じられない。
 このダンジョンには安全地帯というものがなく、事実彼らも昨夜は魔獣を警戒して、順番に睡眠をとったというのに。

「これ自体が罠かもしれんが、声をかけてみるか」

 テントに向かって足を踏み出したリーダーの男が3歩も行かないうちに、見えない何かに阻まれてしまった。

「なんだ!?【結界】か?」

 パーティの中で1人だけローブを身につけた男が、その見えない壁にそっと手を触れてみる。

「かなり強固な【結界】ですね」

 その横で戦斧を振り上げた、見るからに粗野な男が叫ぶ。

「おーい、このテントの主人殿、少しの間でよい。休憩させてもらえないだろうか!」

 ガンガンと斧で結界を叩く。
 かなりの力を持つ魔獣を考慮して張った結界だ。
 斧で叩いたくらいではビクともしない。

「おい! 何とか言えよ!!」

 力一杯の一撃を繰り返し、喚き始める男を、ローブを着た男が止める。

「およしなさい。
 あなたがいくら喚いても、おそらくあちらには聞こえてないでしょう。
 その、斧による衝撃も伝わっているかどうか……」

「それほどなのか?」

 テントの周りをひと回りしてきたリーダーが、驚愕に目を見開く。

「はい」

「それほどまでの魔術師がここに来ているという情報は無かったが……そうか」

「このテントの大きさでは、よく居て3人くらいですかね?」

 6人の中で、1人だけ見るからに若い男が初めて口を開く。

「3人……3人か。
 このダンジョンにたった3人で潜っていると」

 実はこのダンジョン。
 2~5階層くらいまではさほど強力な魔獣は出て来ない。
 だが群れて襲いかかってくる事が多く、厄介だった。
 そして第6階層からは急に難易度が上がる。
 現に彼らも、第5階層の数の暴力に疲弊し、何とかたどり着いた第6階層では狼系の上位種に襲われ、這々の体でここまでやって来た。
 満身創痍の彼らはここらでゆっくり休息をとりたかったのだが。

「このテントの主人にどうこうしてもらおうという考え自体、甘いんだ。
 元々なかったものとしようじゃないか」

 リーダーの考えは正論だ。
 だがこの【安全地帯】を諦めきれない。

「ただ、少しだけ軒を貸してもらおう。ここなら背後を気遣う事はない」

 彼らはテントの結界ぎりぎりの場所で野営の準備を始めた。


 その頃アンナリーナは、ツリーハウスの調薬室で【中級体力ポーションC】を量産していた。
 やはり魔獣の森で採取した薬草は品質が良い。
 インベントリに収納していたサラン草を魔法で乾燥、粉砕していく。
 原材料を揃える事が出来たら、1回に10本分、分量を計るだけ。
 あとは【調合】魔法でサクッと一括、最近は瓶に入れるまでが出来上がってくるので、あとはラベルを貼るだけだ。
 これを繰り返して、毎日100本単位で在庫を増やしている。


「主人様、あちらのテントの方で何やら不審な事が」

「うん、何かが干渉しているみたいだね。魔獣かな?」

「セトを確認に出しますか?」

「そうね……ちょっと戻ろうか」

 調薬の時に着ている割烹着のようなエプロンを脱ぎ、席を立つ。

 そしてイジとアマルも引き連れ、テントの方に移動した。

「セト、お疲れ様。
 1人で監視させてごめんね。
 で、どんな感じ? 魔獣?」

「イエ、ニンゲン……ボウケンシャノヨウダ。ドウスル?」

 今、この時もガンガンと結界を叩いている感触がする。

「どういうつもりかしら……?」

「助けの手を求めているのでは?
 結界の内側に入りたいのでしょう。
 どうなさいます?」

「ん~ 放置で。
 こんなところで接触してくるなんて、ロクなもんじゃないわ。
 怪我人がいるわけでもなさそうだから放っておく。まあ、あそこで野営するのには文句は言わないわ」

 引き続きセトを監視に残して、アンナリーナはツリーハウスに戻っていった。

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