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第三章

12『携帯用テントEXへのお招き』

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 どうしてこうなったんだろう……

 アンナリーナは今、目の前で繰り広げられている熊、もといテオドールの、同じ人間とは思えない食欲に驚愕を通り越し悟りの境地に足を突っ込みかけていた。


 ギルドで3人と別れの挨拶を交わして、ブラブラと街で買い物でもして帰ろうと思っていたら、派手な見かけの2人がついてきた。
 薄水色の髪をしたの貴公子なアーネストと、真っ赤な巻き髪のエメラルダ。
 平凡でチビな自分が一緒にいるのは非常に気が重いのだがしょうがない。
 アンナリーナはマイペースで、芋やら何やら買い込みながら宿に向かった。
 そしてさっさと部屋に戻ったのだが、その時にアーネストたちは女将と話したようだ。
 約束の時間に降りてくると、ちょうどアンナリーナ以外泊まり客がいなかったからか、今夜は貸切となっており、食事会が始まった。
 最初は大人しかったのだ。
 アンナリーナはまず牽制として、自分の生い立ち(設定)から話し始めた。

「と、言うわけで師匠が亡くなって、森から出てきたんです。
 だから世事に疎いって言われてます」

 テヘヘと笑ってごまかす。
 この、師匠が亡くなった云々の話をすると皆、痛ましそうに見つめてくるのだ。

「だから、私が今持っているもの、使っているものは、師匠の遺産なんです。もちろん薬は自分で作っていますよ?」

 魔法職2人との話を聞きながら、テオドールはその健啖家ぶりをいかんなく発揮している。
 うずら鳥の丸焼き(腹につめもの有り)を骨ごとバリバリと、まさに熊のように食しているのを見て、アンナリーナは心底恐れ慄いてしまったほどだ。


 夜も更け【緑の牧場亭】の食堂が閉まる時刻を迎え、アンナリーナは3人を自分の部屋に誘った。
 これから本題に入るのだ。
 これは、例え信頼できる人物……サムとアンにも聞かせられない話だ。
 そしてアーネストは心得たもので、ここに3人分の部屋をキープしていた。


 アンナリーナに招かれて、彼女の部屋に入った3人は、目の前のさまが一瞬、理解出来なかった。

 狭い部屋いっぱいにテント……100人中100人があり得ないと思うだろうが、アンナリーナは大真面目だ。

「どうぞ、テントの中へ」

 しかし、入り口の覆いを捲り上げた、その先に広がる光景を見て、3人は目を見張る。そして中に踏み込んだ。

 実はアンナリーナ、この領都に到着する2ヶ月の間に、この携帯テントをバージョンアップさせていた。
【異空間魔法】(空間接続、空間増設)で部屋を大きくし、部屋数を増やした。
 だから今は、入った所は居間と簡易のキッチン、奥には簡易調薬室と寝室がある。

「何だよ、ここは……」

 呆然と呟くテオドールに、これだけのものを維持する為にどれだけの魔力を消費するのか、薄ら寒くなる魔法職。

「携帯用テントEXです。
 本当は屋外で展開すればいいんですけど、街中ではそういう訳にもいきませんからね」

 10日分、金貨12枚……まったくの無駄金とは言わないが、しばらくの間、この街に腰を据えるのならと考えてしまう。

 前世の日本で言うところの20畳ほどの居間には、10人掛けのダイニングテーブルとソファやカウチ、ローテーブルが配置され、カップボードや携帯用暖炉などが設置されていた。

「ダイニングでもソファの方でもお好きな方にかけて下さい。
 ……お酒、の前に大事なお話をしてしまって、いいですか?」

 3人が頷き返すのを見てアンナリーナは一本の瓶を取り出した。

「テオドールさん、あなたの体力値は突出していますよね。
 いつも回復はどうなさっているのですか?」

「王都で買い溜めしたポーションを使っている。
 これは、俺たちのようなクランだからこそ出来る事だが、100本単位で買い付けるんだ」

「ちなみに1本あたりの回復量は?」

「中級ポーションで1000だ」

「では、これではどうでしょう」

 アーネストに、鑑定を促すように差し出した瓶には『2700』と書き込んである。
 これは試行錯誤を重ね、レシピの配合と込める魔力の量を増やした量産型中級体力ポーションCだ。

「錬金薬師……あなたは錬金薬師だったのですね」

 感動のあまり、アーネストの声は震えている。
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