104 / 577
第二章
83『それぞれの旅立ち』
しおりを挟む
眠るフランクの、まだ少し幼さの残る横顔に近づき頬にキスをして【位置特定】の魔法をかける。
そのあとアイテムバッグの【所有者、使用者限定】の登録をしようとしていて視界がひっくり返った。
「きゃっ!?」
寝ぼけたフランクがアンナリーナを寝床に引っ張り込んだのだ。
懐に抱き込むようにして、安心したのか動かなくなった。
軽いいびきをかきながら、その手は無意識にだろう、アンナリーナの背中をさすっている。
『ナビ、日の出の3刻前に起こして。
このまま、ちょっとだけ仮眠するわ』
『はい、お任せ下さい。主人様』
フランクの優しい手つきに、自然と眠りに引き込まれていった。
ナビのモーニングコールで目覚めた早朝。そっとフランクの手を外し、寝床から抜け出そうとしたアンナリーナの腹に、今度は意思を持った手が回ってきて捕まってしまった。
「リーナ、もう少し……」
「朝食の用意をするからフランクも支度して?」
渋々起き上がったフランクに向き合うように座ったアンナリーナが真剣な顔をして言う。
「これからこのアイテムバッグに、フランクの【使用者、所有者権限】を付与します」
アンナリーナが手にしているのは、フランクなら手のひらに収まりそうな革製品だ。
フランクの手を取りアイテムバッグに触れさせ、自分も手を置く。
魔力が決して高くないフランクにもわかるほどの魔力が流れ込んできて、同時にふたりの周りを取り巻いている。
その時、アンナリーナの口が動き、聞こえない声で呪文が呟かれた。
ぶわりと膨れ上がった魔力がアイテムバッグに吸い込まれていく。
「はい、終わったよ。
見てくれがかわいくて、収容量も大したことないけど……受け取って」
「こんな高価なもの……ありがとう。
本当にありがとう」
フランクが嬉しそうに笑って口蓋に手をかける。
「取り出す時はその品を思い浮かべて、しまう時はそれを口に触れさせれば入るから。
とりあえず手当たり次第放り込んだから……全品取り出し」
ぶあっと広がったあらゆる品。
アンナリーナが手当たり次第と言ったのはあながち嘘ではない。
「確かめながらしまっていって。
だいたいこのテントくらいの収納量があるから問題ないね?」
「リーナ。本当にいいのか?」
「これはフランクの為に私が作ったの。でも、ザルバさんたち以外には見せない方がいいね」
ふたりは手を繋ぎ、出立までの短い時間を忙しく過ごした。
「気をつけて」
「ああ、リーナも」
固く抱き合うふたりはまるで夫婦のようだ。
再び春の再開を誓い、馬車の出発を見送ったあと、アンナリーナはマチルダを誘った。
「マリアさんのところに行く前に、少し時間があれば付き合って欲しいの。昨夜、ザルバさんたちに渡したニンニクと黄身の丸薬の作り方を教えますから、マチルダさんとマリアさん、2人とも毎日一粒ずつ飲んでください」
ニンニクはともかく玉子は高価だ。
だからアンナリーナは鳥を飼うことを薦めた。
「特にマリアさんは毎日一個ずつでいいから食べるようにしたらかなり違うと思うの」
このあと2人はテントの中で、蒸したニンニクを潰し、卵黄を混ぜながら炒っていった。
大して特別な技術は要らず、ただ手間がかかるだけだ。
それと大切なのは新鮮な玉子。
余った白身で作るクッキーのレシピも教え、2人でマリアの元に行く。
今日の診察が最後の予定であり、アンナリーナは数日中にここを立つつもりでいた。
フランクたちも出発し、マリアの体調も回復した。
あとは引き渡すポーションの作成だがこれも大方終わっている。
診察の時にはマリアに【位置特定】の魔法をかけ、これでもうほとんどの仕事が終わっていた。
「今夜作った中級ポーションを引き渡したら、明日にでも出発しようと思うの」
これから先は彼らの仕事だ。
アンナリーナに出来るのはここまで。
薬剤やポーションを提供するだけだ。
「そうですね。
ここから少し離れた場所でツリーハウスを出してゆっくりしましょう、主人様。そろそろまた体調を崩す頃ですよ」
「そうね、ナビ。
2~3日ゴロゴロして、それから次の国に行こうか」
マリアやジャマー、マチルダとの別れを惜しみながら、アンナリーナは山賊たちの元を後にした。
もちろん街道には近づかない。
今、あそこは未だ嘗てなかったほど通行者が増えている。
なるべくこの国ではもう、トラブルを避けたいアンナリーナだった。
そのあとアイテムバッグの【所有者、使用者限定】の登録をしようとしていて視界がひっくり返った。
「きゃっ!?」
寝ぼけたフランクがアンナリーナを寝床に引っ張り込んだのだ。
懐に抱き込むようにして、安心したのか動かなくなった。
軽いいびきをかきながら、その手は無意識にだろう、アンナリーナの背中をさすっている。
『ナビ、日の出の3刻前に起こして。
このまま、ちょっとだけ仮眠するわ』
『はい、お任せ下さい。主人様』
フランクの優しい手つきに、自然と眠りに引き込まれていった。
ナビのモーニングコールで目覚めた早朝。そっとフランクの手を外し、寝床から抜け出そうとしたアンナリーナの腹に、今度は意思を持った手が回ってきて捕まってしまった。
「リーナ、もう少し……」
「朝食の用意をするからフランクも支度して?」
渋々起き上がったフランクに向き合うように座ったアンナリーナが真剣な顔をして言う。
「これからこのアイテムバッグに、フランクの【使用者、所有者権限】を付与します」
アンナリーナが手にしているのは、フランクなら手のひらに収まりそうな革製品だ。
フランクの手を取りアイテムバッグに触れさせ、自分も手を置く。
魔力が決して高くないフランクにもわかるほどの魔力が流れ込んできて、同時にふたりの周りを取り巻いている。
その時、アンナリーナの口が動き、聞こえない声で呪文が呟かれた。
ぶわりと膨れ上がった魔力がアイテムバッグに吸い込まれていく。
「はい、終わったよ。
見てくれがかわいくて、収容量も大したことないけど……受け取って」
「こんな高価なもの……ありがとう。
本当にありがとう」
フランクが嬉しそうに笑って口蓋に手をかける。
「取り出す時はその品を思い浮かべて、しまう時はそれを口に触れさせれば入るから。
とりあえず手当たり次第放り込んだから……全品取り出し」
ぶあっと広がったあらゆる品。
アンナリーナが手当たり次第と言ったのはあながち嘘ではない。
「確かめながらしまっていって。
だいたいこのテントくらいの収納量があるから問題ないね?」
「リーナ。本当にいいのか?」
「これはフランクの為に私が作ったの。でも、ザルバさんたち以外には見せない方がいいね」
ふたりは手を繋ぎ、出立までの短い時間を忙しく過ごした。
「気をつけて」
「ああ、リーナも」
固く抱き合うふたりはまるで夫婦のようだ。
再び春の再開を誓い、馬車の出発を見送ったあと、アンナリーナはマチルダを誘った。
「マリアさんのところに行く前に、少し時間があれば付き合って欲しいの。昨夜、ザルバさんたちに渡したニンニクと黄身の丸薬の作り方を教えますから、マチルダさんとマリアさん、2人とも毎日一粒ずつ飲んでください」
ニンニクはともかく玉子は高価だ。
だからアンナリーナは鳥を飼うことを薦めた。
「特にマリアさんは毎日一個ずつでいいから食べるようにしたらかなり違うと思うの」
このあと2人はテントの中で、蒸したニンニクを潰し、卵黄を混ぜながら炒っていった。
大して特別な技術は要らず、ただ手間がかかるだけだ。
それと大切なのは新鮮な玉子。
余った白身で作るクッキーのレシピも教え、2人でマリアの元に行く。
今日の診察が最後の予定であり、アンナリーナは数日中にここを立つつもりでいた。
フランクたちも出発し、マリアの体調も回復した。
あとは引き渡すポーションの作成だがこれも大方終わっている。
診察の時にはマリアに【位置特定】の魔法をかけ、これでもうほとんどの仕事が終わっていた。
「今夜作った中級ポーションを引き渡したら、明日にでも出発しようと思うの」
これから先は彼らの仕事だ。
アンナリーナに出来るのはここまで。
薬剤やポーションを提供するだけだ。
「そうですね。
ここから少し離れた場所でツリーハウスを出してゆっくりしましょう、主人様。そろそろまた体調を崩す頃ですよ」
「そうね、ナビ。
2~3日ゴロゴロして、それから次の国に行こうか」
マリアやジャマー、マチルダとの別れを惜しみながら、アンナリーナは山賊たちの元を後にした。
もちろん街道には近づかない。
今、あそこは未だ嘗てなかったほど通行者が増えている。
なるべくこの国ではもう、トラブルを避けたいアンナリーナだった。
2
お気に入りに追加
615
あなたにおすすめの小説
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
王女の夢見た世界への旅路
ライ
ファンタジー
侍女を助けるために幼い王女は、己が全てをかけて回復魔術を使用した。
無茶な魔術の使用による代償で魔力の成長が阻害されるが、代わりに前世の記憶を思い出す。
王族でありながら貴族の中でも少ない魔力しか持てず、王族の中で孤立した王女は、理想と夢をかなえるために行動を起こしていく。
これは、彼女が夢と理想を求めて自由に生きる旅路の物語。
※小説家になろう様にも投稿しています。
隠密スキルでコレクター道まっしぐら
たまき 藍
ファンタジー
没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。
その希少性から隠し、閉じ込められて5つまで育つが、いよいよ家計が苦しくなり、人買いに売られてしまう。
しかし道中、隊商は強力な魔物に襲われ壊滅。少女だけが生き残った。
奇しくも自由を手にした少女は、姿を隠すため、魔物はびこる森へと駆け出した。
これはそんな彼女が森に入って10年後、サバイバル生活の中で隠密スキルを極め、立派な素材コレクターに成長してからのお話。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
大賢者の弟子ステファニー
楠ノ木雫
ファンタジー
この世界に存在する〝錬金術〟を使いこなすことの出来る〝錬金術師〟の少女ステファニー。
その技を極めた者に与えられる[大賢者]の名を持つ者の弟子であり、それに最も近しい存在である[賢者]である。……彼女は気が付いていないが。
そんな彼女が、今まであまり接してこなかった[人]と関わり、成長していく、そんな話である。
※他の投稿サイトにも掲載しています。
公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~
松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。
なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。
生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。
しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。
二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。
婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
現実だと思っていたら、異世界だった件
ながれ
ファンタジー
スメラギ ヤスト 17歳 ♂
はどこにでもいる普通の高校生だった。
いつものように学校に通い、学食を食べた後に居眠りしていると、
不意に全然知らない場所で目覚めることになった。
そこで知ったのは、自分が今まで生活していた現実が、
実は現実じゃなかったという新事実!
しかし目覚めた現実世界では人間が今にも滅びそうな状況だった。
スキル「魔物作成」を使いこなし、宿敵クレインに立ち向かう。
細々としかし力強く生きている人々と、ちょっと変わった倫理観。
思春期の少年は戸惑いながらも成長していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる