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第二章

72『アンナリーナとお料理、ホットドッグ』

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「こういう時に料理を保存出来るって、便利よね」

 カセットコンロ型魔導コンロを片付け、いつも使っている携帯用魔導コンロを出す。
 アンナリーナの魔力を動力とするこちらの方が、ずっと火力が強く、使いよい。

「カリカリに炒めたベーコンと半熟目玉焼き……フランクはこれでいいでしょ。
 あ、セト。マチルダさんとキャサリンさんはどうしてるのかな?」

「ケサ、ハヤクデテイッテ、イマハイナイ」

「じゃあ、2人分でいいね。
 セトは何食べたい?」

「イツモノスガタニモドルカラ、イツモトイッショデ、イイ」

「おお! 姿を変えられるの?
 すごい、すごい!」

 はしゃぎながらもフライパンを取り出し、ベーコンを炒め始める。
 焦がさないようにカリカリに、鼻歌混じりに調理をしていると、そこにフランクが戻ってきた。

「すっげえ、いい匂いしてる。
 リーナ、起きて大丈夫なのか?」

「うん、全快とはいかないけどもう魔法も使えるよ。
 もう少しで出来るから待ってて」

 アンナリーナが、フランクの大好きな玉子を出して目玉焼きを焼き始めた。
 フランクの目の前にはシンプルなコーンスープとロールパンが置かれている。
 そこにカリカリに炒められたベーコンが山盛り、出された。

「目玉焼きはもうちょっとで出来上がるから……もう、いいかな」

 皿に移した目玉焼きの黄身が、プルンと揺れる。

「なあ、もう食っていい?」

「はい、召し上がれ」

 笑顔のアンナリーナがカップに水を注いでくれる。
 野菜があまり好きでないフランクのために、毎回工夫した料理が出て来るのだが、今朝はトマトとチーズを重ねて、オリーブオイルをかけたサラダ。

「このパン、初めて出したけど食べてみて?」

 見た目はいつものロールパンと変わらない。
 それを一口齧ったフランクが目を見開く。

「リーナ、これっ!」

「マヨネーズパンだよ。美味しいでしょ?」

 熱が通ったからなのか酸味がマイルドになったマヨネーズがプルプルしている。フランクは一口で虜になった。

「ちゃんとトマトも食べて~」

 こうして賑やかな朝食の時間が過ぎていく。


「ねえ、フランク。
 私、ジャマーさんとお話ししたいんだけど」

「お頭は今、出掛けているな。
 夜には帰って来ると思うが?」

【洗浄】で汚れ物を片付け、寝床もしまってすっきりした部屋に、アンナリーナはソファを出した。
 そこにフランクと並んで座る。

「今日は調薬しようと思ってたけど、魔力も結構使うしやめとくよ。
 フランクの今日の予定は?
 他に仕事ないの?」

「これからしばらくは、俺の仕事はリーナの面倒を見る事、なんだけどな」

 反対に面倒見られっぱなしだわ、と笑う。

「そう……今日は大人しくしていた方がいいし、2人で料理でもしようか?
 ツリーハウスのキッチンじゃないから、手の込んだものは出来ないけど」

 フランクの目が期待に輝いているのを見て、また笑う。

「今日はまた違ったポテトサラダを作るね」

 早速作業台を出し、玉ねぎを切り始めた。
 極々薄くスライスしたそれを水に晒しておく。

「じゃがいもはたっぷり茹でようか。
【時短】
 皮むきは任せたよ」

 剣を持つフランクの手の皮は厚い。
 アンナリーナが剥く時は熱くてたまらないが、フランクは平気なようだ。
 ペティナイフで次々と剥いていく。

 その間アンナリーナは次のメニューに取り掛かった。
 まず、キャベツを千切りしていく。
 それを獣脂でしんなりするまで炒め、塩胡椒ののちカレー粉で味付けた。

「リーナ!
 なんかたまらなくいい匂いだな。
 初めて嗅いだ匂いだ、これは一体何なんだ?」

 飢えた獣のような目で睨め付けてくる。
 フランクの、初めてカレー粉と遭遇した瞬間だった。

「そうでしょう、そうでしょう。
 これはヒトを虜にする禁断の調味料なんだよ」

【異世界買物】で買い込んでおいたコッペパンを取り出す。
 そしてメインのソーセージだ。
 これは魔法で加熱するなどズボラをせずに、ちゃんと茹でていく。
 携帯用の魔導オーブンでコッペパンを軽く焼き、切れ目を入れてバターを塗る。
 そして、キャベツのカレー炒めを挟み、ゆでたてのソーセージをのせて、上からマスタードをかけた。

「はい、出来上がり! フランク~ 味見!」

 開いた口にコッペパンを突っ込み、アンナリーナはフランクの反応を見た。

 口の中はカレー独特の食欲をそそる匂いと、噛み切ったとき、パリッとした食感と溢れる肉汁、そしてマスタードの酸味とピリリが追いかけてきて。

「ホットドッグって言うんだよ。
 美味しい?」

 涙目で何度も頷くフランクは、最早完全にアンナリーナの犬だった。
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