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第二章

70『倒れたアンナリーナとブラックリザード』

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「リーナ!!」

 この場所には不似合いな大きな音と悲鳴に、フランクは女人の寝室だという事も忘れ、部屋に飛び込んだ。

 床に横たわり、ピクリとも動かないアンナリーナの姿に、一瞬我を忘れそうになったが、激しく揺り動かす事なくゆっくりと抱き起こした。
 座らない首がカクンと揺れる。

「フランクさん……薬師様が突然……」

 マリアの動揺が収まらない。
 今にも寝台から出てきそうだ。

「マリアさん、リーナは……
 身体が弱いって聞いていたんです。
 それがエイケナールにいた時からずっと動きっぱなしだった。
 せめて俺が気づいてやらなければならなかったんです」

 ようやくやって来たジャマーにこの場を任せ、フランクはそのまま立ち上がった。

「……軽い。
 こんなに小さくて、軽かったんだな」

 膨大な魔力を持つアンナリーナは、その威圧感で実際より見た目が大きく見える。
 だが本来140cmほどしかない、小さな少女なのだ。


 急ぎ足で向かった部屋では騒ぎに気づいたマチルダとキャサリンが、着衣を調えて待っていた。

「リーナさん!」

 マチルダがびっくりして駆け寄ってくる。

「マチルダさん、急で悪いがマリアさんの付き添いがいなくなった。
 碌な顔合わせも済んでないが、どちらか頼めるだろうか。
 リーナは俺が見る」

 フランクはそのままテントに向かう。
 それを見てキャサリンが、あっと声を上げた。
 彼女もアンナリーナの持ち物に手を出したものの末路を見知っている。
 招かれずにテントに入って大丈夫なのか、と杞憂するのも無理ない。

「大丈夫だよ、本当にヤバいものには結界が張ってあるって言っていた。
 でもここは薬とか、見られたくないものもあるだろうから、あんたたちは遠慮してやってくれるか?
 せめて本人の同意が得られるまで」

 フランクの言いたいことを察した2人……商家の関係者のキャサリンは特に、頷いた。


 テントの入り口を塞ぐ幕に手をかけたとき、中からキンキンと高い声が聞こえてきて、耳に突き刺さった。

「アルジっ!!
 キサマ、アルジ二ナニヲシタ!?」

 3畳ほどの空間はフランクが立ったままでもまだ十分な高さがある。
 手前には書き物机と椅子。
 そこに “ それ ”はいた。

 手のひらに乗るほどのアイデクセ。
 それが突然シャラシャラという音と共に発光し、その光が段々と大きくなっていく。

「アルジーーっ!!」

  “ ゴォォォォーッ ”

 咆哮とともに光が収まっていき、そこに姿を現したものを目にして、フランクは我が目を疑った。

「ブラックリザード?!」

 体の部分だけでも60cm以上、尾部を合わせると2m近いブラックリザードが机の上で牙を剥き、威嚇してくる。
 ブラックリザード……
 この個体はまだ若いようで、完全な成体なら3mを優に超える大トカゲ、もちろん魔獣だ。

「セト……進化したん、だね」

 か細いアンナリーナの声にブラックリザードの動きが止まる。

「アルジ、アルジ、ドウシタノダ?
 ニンゲンニ、ヤラレタノカ?」

「違うよ、だからフランクに失礼な態度を取らないで。
 ……ちょっと無理しちゃった、オーバーヒートしちゃったよ」

 力なく笑ったアンナリーナを見つめるフランクの思いはいかばかりであったか。
 叱りつけたくなる気持ちを抑えて、奥の寝床に向かった。
 その間、アンナリーナはぼんやりと一点を見つめていたが、実はこの時念話にてナビにお小言をいただいていたのだ。
 それにセトも参戦して、もう一度意識を失いたくなった。


「遅くなったけど、フランク、このトカゲは私の従魔でセトって言うの。
 セト、こちらはフランク。
 人間の中で一番仲のいいひと、かな?」

 黒い瞳がギロリとフランクを睨んだ。

「じゃあ、俺が目を離している間は任せられるな。
 よろしくな、セト」

「……ヨロシク」


 テント内の寝床は、マリアの治療の間ここで寝ることを考えて、快適に調えられていた。
 まず、床には【異世界買物】で購入したシングルのスプリングマットレスを敷き、その上に低反発マットレスを重ねてシーツで包んでいた。
 上掛けは薄い羽布団。
 そして二枚重ねのマイヤー毛布、これが抜群に暖かいのだ。
 枕はマチルダに作ったものと同じタイプのクッション型、小花の刺繍が可愛らしい。

「リーナ、着替えは?
 今は魔法、使えないんだろう?」

「う……ん、気持ち悪いし脱がしてくれる?」

「は?」

 フランクの頭の中が真っ白になった。

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