上 下
86 / 577
第二章

65『出して〜 飛んで〜 殺って〜♪』

しおりを挟む
自分に与えられた部屋の次の間にマチルダとキャサリンの為の予備のテントを、メインに使うつもりの部屋に自分のテントを出して、アンナリーナは廊下に顔を出した。

「フランク~」


 ザルバとフランクを引き連れて、洞窟から出たアンナリーナは森の中に入っていく。

「おい、嬢ちゃん、どうするつもりだ?」

 迷いなく進むアンナリーナは2人を顧みることなく、ある場所まで来て、止まった。
 少しだけ木立が途切れる空間。
 そこに向かって手を差し伸べ一言。

「ツリーハウス」

 瞬間、目の前に現れた木にザルバは腰を抜かさんばかりに驚いた。
 フランクは口を開けて呆けている。

「ちょっとここで待ってて。
 触っちゃ駄目だよ」

 木と一体化した階段をタタタと駆け上がり、中に入っていった。
 中では、異空間でテントと路をつなぐだけなのですぐに出てくる。

「お待たせー」

 結界をかけ、2人を従えて来た道を戻っていると、ザルバがしみじみと言った。

「家を持ち歩いているなんて、なんて規格外なんだよ……他にもあるんだろう? 他人に言えない事が」

「んふ、どう思う?」

 ニッコリと笑ったその顔は紛れもなく少女のものだ。
 だがその奥底、内面にとんでもないものを隠しているような感じがして鳥肌が立つ。

「あっ?!」

 急に後ろを振り返ったアンナリーナがフワリと浮き上がると、勢いをつけて一直線に飛んで行ってしまった。

 今度も2人が茫然としている間に行って戻って来たアンナリーナは超ご機嫌だ。

「ねぇねぇ、今まで見たこともないほど大きいの捕まえちゃったよ!
 あとで帰ったら見せてあげるね」

 ぴょんぴょん跳ねながら洞窟に向かうアンナリーナをフランクが後ろから羽交い締めする。

「こいつ……
 絶対まだ何か隠してる。ちゃんと白状しろ!」

「……別のポテトサラダのレシピ?」

 ぎゃあぎゃあと騒ぎながら森から出て来た3人を、丁度外に出ていた山賊たちが何事なのかと見入っている。

「ねえ見て?
 こんな立派なのは初めて見たよ!
 いい脂が取れるよ~」

 アイテムバッグに入れていた手が差し出された空間に、ズシンと地響きを立てて巨体が現れた。
 すでに事切れているそれは、森の殺戮者として有名な【殺戮熊キラーベア】だ。

 たちまち周りは怒号に包まれる。
 それなりの腕を持つ山賊でさえも、退治出来るかどうか……それもこれは全長8mを越そうかという、特殊個体のようだ。

「キラーベアの脂はすっごく上質なの……私、見つけたら絶対に狩ることにしてるんだ」

 まるで薬草でも摘むような言い方に周りの者たちは引いていく。
 ゲルトはその巨体のどこにも傷がないのに気づいていた。

「嬢ちゃん、このキラーベアをどうやって倒したんだ?」

「うふ、血を抜いたのよ。
 動物は血液がなければ生きていけないからね」

 ゲルトは、料理魔法に【血抜き】というスキルがあったのを思い出した。
 それを使ったとしか考えられないが、普通の発想でそんなことを思いつくとは思えない。
 そこで背筋がスーッと寒くなる。
『これは、人にも使えるのでは?』

 ゲルトは愕然とアンナリーナを見ていた。


 殺戮熊をしまいこんで、改めてマリアの元に急ごうとしていた時、また騒ぎに行き当たった。

 聞き覚えのある声が喚いている。

「わあ、なんで? マジ?」

 あの女の周りにいる男たちが、何とか宥めようとしているが、近くにあった椅子を振り回すなど、とても淑女とは思えない様子に困惑している。
【客】であり【商品】であるため手荒な事も出来ずに、ほとほと手を焼いているのだ。

「何であの人がここにいるの?」

「近くにいたので同行者かと思い、連れてきたみたいだが……正直、放っておいて欲しかったよ」

 ゲルトが溜息を吐いた。
 そして、仲間たちに聞いた話を教えてくれる。

「あいつ、御者や護衛に見捨てられたらしい」

 馬車から馬を外し、一目散に駆けていった彼らが、この乗り合い馬車が山賊に襲われたことを村の兵士に報告してくれる。

 アンナリーナはうんざりしながら騒ぎの横を通り過ぎようとした。

「ちょっと、そこの子! 返事くらいなさいよ!」

 馬鹿は無視するに限る。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

姉の代わりでしかない私

下菊みこと
恋愛
クソ野郎な旦那様も最終的に幸せになりますので閲覧ご注意を。 リリアーヌは、夫から姉の名前で呼ばれる。姉の代わりにされているのだ。それでも夫との子供が欲しいリリアーヌ。結果的に、子宝には恵まれるが…。 アルファポリス様でも投稿しています。

魔力ゼロの出来損ない貴族、四大精霊王に溺愛される

日之影ソラ
ファンタジー
魔法使いの名門マスタローグ家の次男として生をうけたアスク。兄のように優れた才能を期待されたアスクには何もなかった。魔法使いとしての才能はおろか、誰もが持って生まれる魔力すらない。加えて感情も欠落していた彼は、両親から拒絶され別宅で一人暮らす。 そんなある日、アスクは一冊の不思議な本を見つけた。本に誘われた世界で四大精霊王と邂逅し、自らの才能と可能性を知る。そして精霊王の契約者となったアスクは感情も取り戻し、これまで自分を馬鹿にしてきた周囲を見返していく。 HOTランキング&ファンタジーランキング1位達成!!

ネコ科に愛される加護を貰って侯爵令嬢に転生しましたが、獣人も魔物も聖獣もまとめてネコ科らしいです。

ゴルゴンゾーラ三国
ファンタジー
 猫アレルギーながらも猫が大好きだった主人公は、猫を助けたことにより命を落とし、異世界の侯爵令嬢・ルティシャとして生まれ変わる。しかし、生まれ変わった国では猫は忌み嫌われる存在で、ルティシャは実家を追い出されてしまう。  しぶしぶ隣国で暮らすことになったルティシャは、自分にネコ科の生物に愛される加護があることを知る。  その加護を使って、ルティシャは愛する猫に囲まれ、もふもふ異世界生活を堪能する!

【完結】はらぺこサキュバスが性欲の強い男エルフと一夜のあやまちで契約してしまう話【R18】

ケロリビ堂
恋愛
 万年はらぺこのおぼこサキュバス、シルキィが美しく性欲の強い男エルフ、レイモンドと一夜のあやまちで淫紋を用いたサキュバスの契約をしてしまう。その日からレイモンドのダンジョンマッピングの仕事を手伝いながら性欲処理の相手として一緒にダンジョンに潜ることになったシルキィだが、エルフらしくなく人間臭いレイモンドに惹かれていく。レイモンドの中でもまた、シルキィの存在は大きくなっていくが……。(ムーンライトノベルにも投稿している作品です)

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

もふもふと一緒 〜俺は狙われているみたいだ〜

コプラ
BL
俺はもふもふの世界に住んでいる。獰猛系のもふもふなので、俺は常に身の危険を感じているんだ。俺たちの祖先の血筋がもふもふしてるせいで、性格や行動、体格がそれに左右はされると言うおまけつき。 俺がこの世界に違和感を持つのは前世の記憶のせいだ。小さい頃は妙に動物的だと思っていたけど、姉に発情期が来てトラウマになった。俺は発情期怖すぎてこっそり薬飲んでるんだ。でも、俺につきまとう奴らが何か最近不穏なんだよな。俺の発情期、待ってるみたいでさ。 違和感を感じながら学園生活をしている高2の雪弥は、発情期の不安を抱えながら、友人達に守られつつも狙われて、毎日を過ごしている。雪弥には誰にも言ってない秘密がいくつかあって…。発情期が無事終わっても更なる問題勃発で⁉︎ 希少種のせいもあって、美人過ぎるが、中身は案外男らしい雪弥。美人に寄って来る有象無象のせいで表情筋が死んでる雪弥が、発情期が終わった途端デレ甘に⁉︎周囲を翻弄する雪弥だった。発情期やマーキングから逃れられない獣人を先祖に持つ俺たちの青春学園物語。

条件付きチート『吸収』でのんびり冒険者ライフ!

ヒビキ タクト
ファンタジー
旧題:異世界転生 ~条件付きスキル・スキル吸収を駆使し、冒険者から成り上がれ~ 平凡な人生にガンと宣告された男が異世界に転生する。異世界神により特典(条件付きスキルと便利なスキル)をもらい異世界アダムスに転生し、子爵家の三男が冒険者となり成り上がるお話。   スキルや魔法を駆使し、奴隷や従魔と一緒に楽しく過ごしていく。そこには困難も…。   従魔ハクのモフモフは見所。週に4~5話は更新していきたいと思いますので、是非楽しく読んでいただければ幸いです♪   異世界小説を沢山読んできた中で自分だったらこうしたいと言う作品にしております。

ちびっ子ボディのチート令嬢は辺境で幸せを掴む

紫楼
ファンタジー
 酔っ払って寝て起きたらなんか手が小さい。びっくりしてベットから落ちて今の自分の情報と前の自分の記憶が一気に脳内を巡ってそのまま気絶した。  私は放置された16歳の少女リーシャに転生?してた。自分の状況を理解してすぐになぜか王様の命令で辺境にお嫁に行くことになったよ!    辺境はイケメンマッチョパラダイス!!だったので天国でした!  食べ物が美味しくない国だったので好き放題食べたい物作らせて貰える環境を与えられて幸せです。  もふもふ?に出会ったけどなんか違う!?  もふじゃない爺と契約!?とかなんだかなーな仲間もできるよ。  両親のこととかリーシャの真実が明るみに出たり、思わぬ方向に物事が進んだり?    いつかは立派な辺境伯夫人になりたいリーシャの日常のお話。    主人公が結婚するんでR指定は保険です。外見とかストーリー的に身長とか容姿について表現があるので不快になりそうでしたらそっと閉じてください。完全な性表現は書くの苦手なのでほぼ無いとは思いますが。  倫理観論理感の強い人には向かないと思われますので、そっ閉じしてください。    小さい見た目のお転婆さんとか書きたかっただけのお話。ふんわり設定なので軽ーく受け流してください。  描写とか適当シーンも多いので軽く読み流す物としてお楽しみください。  タイトルのついた分は少し台詞回しいじったり誤字脱字の訂正が済みました。  多少表現が変わった程度でストーリーに触る改稿はしてません。  カクヨム様にも載せてます。

処理中です...