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第二章
65『出して〜 飛んで〜 殺って〜♪』
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自分に与えられた部屋の次の間にマチルダとキャサリンの為の予備のテントを、メインに使うつもりの部屋に自分のテントを出して、アンナリーナは廊下に顔を出した。
「フランク~」
ザルバとフランクを引き連れて、洞窟から出たアンナリーナは森の中に入っていく。
「おい、嬢ちゃん、どうするつもりだ?」
迷いなく進むアンナリーナは2人を顧みることなく、ある場所まで来て、止まった。
少しだけ木立が途切れる空間。
そこに向かって手を差し伸べ一言。
「ツリーハウス」
瞬間、目の前に現れた木にザルバは腰を抜かさんばかりに驚いた。
フランクは口を開けて呆けている。
「ちょっとここで待ってて。
触っちゃ駄目だよ」
木と一体化した階段をタタタと駆け上がり、中に入っていった。
中では、異空間でテントと路をつなぐだけなのですぐに出てくる。
「お待たせー」
結界をかけ、2人を従えて来た道を戻っていると、ザルバがしみじみと言った。
「家を持ち歩いているなんて、なんて規格外なんだよ……他にもあるんだろう? 他人に言えない事が」
「んふ、どう思う?」
ニッコリと笑ったその顔は紛れもなく少女のものだ。
だがその奥底、内面にとんでもないものを隠しているような感じがして鳥肌が立つ。
「あっ?!」
急に後ろを振り返ったアンナリーナがフワリと浮き上がると、勢いをつけて一直線に飛んで行ってしまった。
今度も2人が茫然としている間に行って戻って来たアンナリーナは超ご機嫌だ。
「ねぇねぇ、今まで見たこともないほど大きいの捕まえちゃったよ!
あとで帰ったら見せてあげるね」
ぴょんぴょん跳ねながら洞窟に向かうアンナリーナをフランクが後ろから羽交い締めする。
「こいつ……
絶対まだ何か隠してる。ちゃんと白状しろ!」
「……別のポテトサラダのレシピ?」
ぎゃあぎゃあと騒ぎながら森から出て来た3人を、丁度外に出ていた山賊たちが何事なのかと見入っている。
「ねえ見て?
こんな立派なのは初めて見たよ!
いい脂が取れるよ~」
アイテムバッグに入れていた手が差し出された空間に、ズシンと地響きを立てて巨体が現れた。
すでに事切れているそれは、森の殺戮者として有名な【殺戮熊キラーベア】だ。
たちまち周りは怒号に包まれる。
それなりの腕を持つ山賊でさえも、退治出来るかどうか……それもこれは全長8mを越そうかという、特殊個体のようだ。
「キラーベアの脂はすっごく上質なの……私、見つけたら絶対に狩ることにしてるんだ」
まるで薬草でも摘むような言い方に周りの者たちは引いていく。
ゲルトはその巨体のどこにも傷がないのに気づいていた。
「嬢ちゃん、このキラーベアをどうやって倒したんだ?」
「うふ、血を抜いたのよ。
動物は血液がなければ生きていけないからね」
ゲルトは、料理魔法に【血抜き】というスキルがあったのを思い出した。
それを使ったとしか考えられないが、普通の発想でそんなことを思いつくとは思えない。
そこで背筋がスーッと寒くなる。
『これは、人にも使えるのでは?』
ゲルトは愕然とアンナリーナを見ていた。
殺戮熊をしまいこんで、改めてマリアの元に急ごうとしていた時、また騒ぎに行き当たった。
聞き覚えのある声が喚いている。
「わあ、なんで? マジ?」
あの女の周りにいる男たちが、何とか宥めようとしているが、近くにあった椅子を振り回すなど、とても淑女とは思えない様子に困惑している。
【客】であり【商品】であるため手荒な事も出来ずに、ほとほと手を焼いているのだ。
「何であの人がここにいるの?」
「近くにいたので同行者かと思い、連れてきたみたいだが……正直、放っておいて欲しかったよ」
ゲルトが溜息を吐いた。
そして、仲間たちに聞いた話を教えてくれる。
「あいつ、御者や護衛に見捨てられたらしい」
馬車から馬を外し、一目散に駆けていった彼らが、この乗り合い馬車が山賊に襲われたことを村の兵士に報告してくれる。
アンナリーナはうんざりしながら騒ぎの横を通り過ぎようとした。
「ちょっと、そこの子! 返事くらいなさいよ!」
馬鹿は無視するに限る。
「フランク~」
ザルバとフランクを引き連れて、洞窟から出たアンナリーナは森の中に入っていく。
「おい、嬢ちゃん、どうするつもりだ?」
迷いなく進むアンナリーナは2人を顧みることなく、ある場所まで来て、止まった。
少しだけ木立が途切れる空間。
そこに向かって手を差し伸べ一言。
「ツリーハウス」
瞬間、目の前に現れた木にザルバは腰を抜かさんばかりに驚いた。
フランクは口を開けて呆けている。
「ちょっとここで待ってて。
触っちゃ駄目だよ」
木と一体化した階段をタタタと駆け上がり、中に入っていった。
中では、異空間でテントと路をつなぐだけなのですぐに出てくる。
「お待たせー」
結界をかけ、2人を従えて来た道を戻っていると、ザルバがしみじみと言った。
「家を持ち歩いているなんて、なんて規格外なんだよ……他にもあるんだろう? 他人に言えない事が」
「んふ、どう思う?」
ニッコリと笑ったその顔は紛れもなく少女のものだ。
だがその奥底、内面にとんでもないものを隠しているような感じがして鳥肌が立つ。
「あっ?!」
急に後ろを振り返ったアンナリーナがフワリと浮き上がると、勢いをつけて一直線に飛んで行ってしまった。
今度も2人が茫然としている間に行って戻って来たアンナリーナは超ご機嫌だ。
「ねぇねぇ、今まで見たこともないほど大きいの捕まえちゃったよ!
あとで帰ったら見せてあげるね」
ぴょんぴょん跳ねながら洞窟に向かうアンナリーナをフランクが後ろから羽交い締めする。
「こいつ……
絶対まだ何か隠してる。ちゃんと白状しろ!」
「……別のポテトサラダのレシピ?」
ぎゃあぎゃあと騒ぎながら森から出て来た3人を、丁度外に出ていた山賊たちが何事なのかと見入っている。
「ねえ見て?
こんな立派なのは初めて見たよ!
いい脂が取れるよ~」
アイテムバッグに入れていた手が差し出された空間に、ズシンと地響きを立てて巨体が現れた。
すでに事切れているそれは、森の殺戮者として有名な【殺戮熊キラーベア】だ。
たちまち周りは怒号に包まれる。
それなりの腕を持つ山賊でさえも、退治出来るかどうか……それもこれは全長8mを越そうかという、特殊個体のようだ。
「キラーベアの脂はすっごく上質なの……私、見つけたら絶対に狩ることにしてるんだ」
まるで薬草でも摘むような言い方に周りの者たちは引いていく。
ゲルトはその巨体のどこにも傷がないのに気づいていた。
「嬢ちゃん、このキラーベアをどうやって倒したんだ?」
「うふ、血を抜いたのよ。
動物は血液がなければ生きていけないからね」
ゲルトは、料理魔法に【血抜き】というスキルがあったのを思い出した。
それを使ったとしか考えられないが、普通の発想でそんなことを思いつくとは思えない。
そこで背筋がスーッと寒くなる。
『これは、人にも使えるのでは?』
ゲルトは愕然とアンナリーナを見ていた。
殺戮熊をしまいこんで、改めてマリアの元に急ごうとしていた時、また騒ぎに行き当たった。
聞き覚えのある声が喚いている。
「わあ、なんで? マジ?」
あの女の周りにいる男たちが、何とか宥めようとしているが、近くにあった椅子を振り回すなど、とても淑女とは思えない様子に困惑している。
【客】であり【商品】であるため手荒な事も出来ずに、ほとほと手を焼いているのだ。
「何であの人がここにいるの?」
「近くにいたので同行者かと思い、連れてきたみたいだが……正直、放っておいて欲しかったよ」
ゲルトが溜息を吐いた。
そして、仲間たちに聞いた話を教えてくれる。
「あいつ、御者や護衛に見捨てられたらしい」
馬車から馬を外し、一目散に駆けていった彼らが、この乗り合い馬車が山賊に襲われたことを村の兵士に報告してくれる。
アンナリーナはうんざりしながら騒ぎの横を通り過ぎようとした。
「ちょっと、そこの子! 返事くらいなさいよ!」
馬鹿は無視するに限る。
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