74 / 577
第二章
53『野営地でのはじめての朝』
しおりを挟む
猫足バスタブのなかの熱い湯に、薔薇の香りのオイルを垂らし湯に浸かる。
全身を【洗浄】しているので改めて洗うことはないのだが、頭の先までもぐってオイルの香りを楽しむことにする。
「ああっ、気持ちいい……!
身体の強張りがほぐれる気がするよ」
「もう今夜はこのままお休みになりますね?」
ナビの問いかけに、半分寝そうになっていたアンナリーナは慌ててバスタブから出る。
【乾燥】をかけ、薄手の寝間着を着て、キッチンにセトを迎えに行き、次々と照明を落として、ベッドの側の小卓の上の寝床にセトを下ろし……アンナリーナはベッドに横たわった。
「主人様、明朝はいつ頃、お声を掛けましょう?」
「夜明け前にお願い……」
すぐに寝息が聞こえてきた。
夜明けの2刻も前に起き出したアンナリーナは【異世界買物】でいくつか買い物した後、薬を調合したり朝食の準備をして過ごした。
そして。
「ツリーハウス収納、テントへ【転移】」
テントの中は昨夜と変わりない。
ここにも【結界】が張られているため、異常など起こりようがないのだが。
「おはよう」
テントから出たアンナリーナは焚き火の周りにいるゲルトに声をかけた。
フランクは毛布に包まり眠っているようだ。
「おはよう、嬢ちゃん。早起きだな」
ゲルトの目がアンナリーナを批難している。
昨夜、林に入ったのがバレバレのようだ。
「昨夜は早く寝たからね。
ピットの人たちはもう起きてくる?」
「いや、あと1刻くらいはまだ寝てるだろう。
それより昨夜は鼠がうるさかったようだが、嬢ちゃんとこは大丈夫だったか?」
「ああ……」
アンナリーナはぐっすり眠っていたが、ちゃんとナビから報告を受けている。
「コソコソ嗅ぎ回っていた鼠……
こっちは触れることも出来なくしてあるけど、ピットの方、何かされた?」
「いや、俺らが睨みを利かせていたから中には入っていない。
だがな……」
この先の野営地にはピットが1つしかないところもあるそうだ。
「何かたかってやろうと、いや盗もうとしてたんだろうな。
意外と行動的だと感心してたんだが、これから先、そうも言ってられなくなる」
「ちょっと待って?
昨夜の鼠ってあの女、本人?」
びっくりである。
多分、テントに忍び込んでアンナリーナのアイテムバッグを盗ろうとしたのだろう。
そしてピットで眠る乗客たちのものも。
「とにかく嬢ちゃんも気をつけろ。
まあ、嬢ちゃんに関しては心配要らないかもしれないが」
「ありがと」
普通ではない自分が、普通の子扱いされてこんなに嬉しい。
アンナリーナは頬を染めて口角を緩めた。
一度テントに戻ったアンナリーナは【異世界買物】で色々な食材を購入した。
まずはLL寸の玉子だ。
そしてトマトケチャップと下ろし生生姜のチューブ。
マヨネーズも業務用1kgのものを10本購入する。
……異世界の食品や調味料を人目にさらす時は、ビニールやプラスチックの容器からこの世界にある壷やガラス瓶に移さなければならない。
アンナリーナは玉子をパックから取り出して籠に盛り、ケチャップやマヨネーズは小壷に、生生姜は密封できるガラスの小瓶に移し替えた。
そして、昨夜フランクに好評だったポテトサラダを用意する。
携帯用の魔導コンロを出し、大き目の鍋にジャガイモを投入して【時短】で茹でる。
皮を剥き【圧縮】で潰し、塩、胡椒、マヨネーズを入れて混ぜ、スモークハムをたっぷり、きゅうりの薄切り、缶詰のコーンを入れ、最後にもう一度、練り辛子で風味づけしたマヨネーズを入れて、混ぜる。
アンナリーナの腕で、ひと抱えほどありそうなボールにいっぱいのハムポテトサラダ……フランクの喜ぶ顔が楽しみだ。
そして次は煮込んであった白いんげん豆にさらに【時短】で形が崩れるほど火を通し、ミルクと生クリームを注いで、塩、胡椒で味を整える。
スプラウトとアボガド擬きのサラダには某社の深○り胡麻ドレッシングをかけて和えた。
今朝のパンはイギリス食パン。
一本丸々食卓に出して、各自の好きな厚さに切るつもりだ。
「ふふ……一本じゃ足りないかも」
たとえ誰かが一本丸ごと食べても大丈夫。アイテムバッグには何本も保存してある。
夜明けまであと約1刻、ピットの中に動きを感じたので、アンナリーナはフランクを連れて中に入っていった。
アンナリーナだけ、カーテンに仕切られた女性陣のスペースを覗く。
「あら、リーナちゃん、おはよう。
おかげで身体がとっても楽よ」
すっかり身仕度を整えたマチルダがマットレスの上に座っていた。
「おはようございます、マチルダさん。早速ですがこれを履いてもらえますか」
アンナリーナが取り出したのは黒いハイソックスだ。
もちろんこの世界に、このような精巧な作りの靴下はない。
これは【異世界買物】で購入した着圧ソックスで、エコノミー症候群や浮腫みに効果がある。
「見たこともないお品ね。
少し小さいのではなくて?」
「伸びますから。気をつけてゆっくり履いて下さい」
「何だか少しきついわ」
「それが浮腫みに効くんですよ」
このあとアンナリーナは、マチルダの寝床をしまい込み、キャサリンからもマットレスを回収してピットから出ていった。
全身を【洗浄】しているので改めて洗うことはないのだが、頭の先までもぐってオイルの香りを楽しむことにする。
「ああっ、気持ちいい……!
身体の強張りがほぐれる気がするよ」
「もう今夜はこのままお休みになりますね?」
ナビの問いかけに、半分寝そうになっていたアンナリーナは慌ててバスタブから出る。
【乾燥】をかけ、薄手の寝間着を着て、キッチンにセトを迎えに行き、次々と照明を落として、ベッドの側の小卓の上の寝床にセトを下ろし……アンナリーナはベッドに横たわった。
「主人様、明朝はいつ頃、お声を掛けましょう?」
「夜明け前にお願い……」
すぐに寝息が聞こえてきた。
夜明けの2刻も前に起き出したアンナリーナは【異世界買物】でいくつか買い物した後、薬を調合したり朝食の準備をして過ごした。
そして。
「ツリーハウス収納、テントへ【転移】」
テントの中は昨夜と変わりない。
ここにも【結界】が張られているため、異常など起こりようがないのだが。
「おはよう」
テントから出たアンナリーナは焚き火の周りにいるゲルトに声をかけた。
フランクは毛布に包まり眠っているようだ。
「おはよう、嬢ちゃん。早起きだな」
ゲルトの目がアンナリーナを批難している。
昨夜、林に入ったのがバレバレのようだ。
「昨夜は早く寝たからね。
ピットの人たちはもう起きてくる?」
「いや、あと1刻くらいはまだ寝てるだろう。
それより昨夜は鼠がうるさかったようだが、嬢ちゃんとこは大丈夫だったか?」
「ああ……」
アンナリーナはぐっすり眠っていたが、ちゃんとナビから報告を受けている。
「コソコソ嗅ぎ回っていた鼠……
こっちは触れることも出来なくしてあるけど、ピットの方、何かされた?」
「いや、俺らが睨みを利かせていたから中には入っていない。
だがな……」
この先の野営地にはピットが1つしかないところもあるそうだ。
「何かたかってやろうと、いや盗もうとしてたんだろうな。
意外と行動的だと感心してたんだが、これから先、そうも言ってられなくなる」
「ちょっと待って?
昨夜の鼠ってあの女、本人?」
びっくりである。
多分、テントに忍び込んでアンナリーナのアイテムバッグを盗ろうとしたのだろう。
そしてピットで眠る乗客たちのものも。
「とにかく嬢ちゃんも気をつけろ。
まあ、嬢ちゃんに関しては心配要らないかもしれないが」
「ありがと」
普通ではない自分が、普通の子扱いされてこんなに嬉しい。
アンナリーナは頬を染めて口角を緩めた。
一度テントに戻ったアンナリーナは【異世界買物】で色々な食材を購入した。
まずはLL寸の玉子だ。
そしてトマトケチャップと下ろし生生姜のチューブ。
マヨネーズも業務用1kgのものを10本購入する。
……異世界の食品や調味料を人目にさらす時は、ビニールやプラスチックの容器からこの世界にある壷やガラス瓶に移さなければならない。
アンナリーナは玉子をパックから取り出して籠に盛り、ケチャップやマヨネーズは小壷に、生生姜は密封できるガラスの小瓶に移し替えた。
そして、昨夜フランクに好評だったポテトサラダを用意する。
携帯用の魔導コンロを出し、大き目の鍋にジャガイモを投入して【時短】で茹でる。
皮を剥き【圧縮】で潰し、塩、胡椒、マヨネーズを入れて混ぜ、スモークハムをたっぷり、きゅうりの薄切り、缶詰のコーンを入れ、最後にもう一度、練り辛子で風味づけしたマヨネーズを入れて、混ぜる。
アンナリーナの腕で、ひと抱えほどありそうなボールにいっぱいのハムポテトサラダ……フランクの喜ぶ顔が楽しみだ。
そして次は煮込んであった白いんげん豆にさらに【時短】で形が崩れるほど火を通し、ミルクと生クリームを注いで、塩、胡椒で味を整える。
スプラウトとアボガド擬きのサラダには某社の深○り胡麻ドレッシングをかけて和えた。
今朝のパンはイギリス食パン。
一本丸々食卓に出して、各自の好きな厚さに切るつもりだ。
「ふふ……一本じゃ足りないかも」
たとえ誰かが一本丸ごと食べても大丈夫。アイテムバッグには何本も保存してある。
夜明けまであと約1刻、ピットの中に動きを感じたので、アンナリーナはフランクを連れて中に入っていった。
アンナリーナだけ、カーテンに仕切られた女性陣のスペースを覗く。
「あら、リーナちゃん、おはよう。
おかげで身体がとっても楽よ」
すっかり身仕度を整えたマチルダがマットレスの上に座っていた。
「おはようございます、マチルダさん。早速ですがこれを履いてもらえますか」
アンナリーナが取り出したのは黒いハイソックスだ。
もちろんこの世界に、このような精巧な作りの靴下はない。
これは【異世界買物】で購入した着圧ソックスで、エコノミー症候群や浮腫みに効果がある。
「見たこともないお品ね。
少し小さいのではなくて?」
「伸びますから。気をつけてゆっくり履いて下さい」
「何だか少しきついわ」
「それが浮腫みに効くんですよ」
このあとアンナリーナは、マチルダの寝床をしまい込み、キャサリンからもマットレスを回収してピットから出ていった。
2
お気に入りに追加
608
あなたにおすすめの小説
『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?
mio
ファンタジー
特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。
神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。
そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。
日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。
神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?
他サイトでも投稿しております。
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
悪役令嬢は処刑されました
菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる