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第二章

52『マチルダさんへのマッサージ』

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フランクを従えてピットに向かう。
 最近の彼はすっかりアンナリーナの忠犬か弟にでもなったようだ。
 戸を開けて、中に入った2人に視線が集まったが、アンナリーナは構わず奥に行った。

「フランク、ありがとう」

 もの言いたげな彼を早々に追い出し、アンナリーナはマチルダの寝床を作り始めた。
 キャサリンはマットレスを貸し出す事で黙らせて、なおかつ少しだけ威圧して、毎朝回収することも忘れずに言い渡しておいた。


「マチルダさん、これ約束の薬湯。
 苦いけど、ゆっくり飲んで。
 私はマッサージを始めるね」

 マチルダの許可を得てスカートを膝のあたりまで捲り上げる。
 そして、ハーブオイルを手に取り、足指から足の裏にかけてゆっくりと揉み始めた。

「い、痛っ」

「うんうん、ごめんね。
 結構、疲れが溜まっているみたい。
 揉みほぐすから、ちょっとだけ我慢してね」

 指の一本一本をていねいにマッサージしながら、アンナリーナはマチルダの表情を盗み見ていた。

『ずいぶんと疲れているみたいね……
 親指を押しただけでこんなに痛がるなんて……ああ、眼精疲労?
 よく眠れていないのかしら』

 足裏をひと通り揉んでみて、特に痛がったのが心臓と、土踏まずに密集している胃腸系のツボ。
 これは【解析】通りだったので驚かないが、自覚症状もあるだろうに、どうして身体に負担のかかる旅をしているのだろうか?
 アンナリーナは素朴な疑問を持った。

 オイルを足して、今度は足の甲から足首にかけて、マッサージすると、思った通り浮腫んでいて指で押すとペコリと凹む。
 足首から膝に向かって押し上げるように揉んで、リンパ腺に集めて膝裏を通す。
 本当はこの後鼠蹊部まで持っていきたいところだが、こんな場所では出来ないし、第一赤の他人のアンナリーナにそんな際どいところを触らせるとは思えない。
 膝裏から路を通すように少しだけ揉みあげて、用意していたホットタオルをバッグから出して、揉みほぐすように拭いていった。

「【洗浄】
 これでスッキリしたでしょ?
 “ 所用 ”は大丈夫?我慢したらダメだよ? 今なら付いていってあげる」

 マチルダの寝床と荷物に軽い【結界】をかけて、2人は外にある厠に向かった。

「まあ、脚が軽いわ!
 嘘みたい、一体どうなってるの?」

「うふふ、ひみつ。
 でも、これからは自分でもできるでしょ?さするだけでもずいぶん違うよ」


 その頃、興味津々のキャサリンは案の定、アンナリーナの予想通り寝床に触れようとしたが【結界】に弾かれてしまう。

「うふふ……」

【結界】に触れられたのを感じ、アンナリーナは嗤う。
 ピットに戻って、訳ありな視線を向けると、キャサリンは顔を逸らしてしまった。

「じゃあ、私これから調合するから、また明日。あ、忘れてた」

 再び、バッグから取り出したのは馬車の中でも使っていた枕だ。
 それを寝床に置いて、マチルダが横たわるのを見届ける。
 旅装の上着を脱がせ、ボタンをすべて外して毛布を掛けると、アンナリーナはその場を離れた。


 そのまま、ゲルトとフランクの目を盗んで林の中に入っていく。

「ツリーハウス【隠蔽】【結界】」

『やっと、ひと息つけますね』

 ナビの声が聞こえてきて、内ポケットの中で今まで微動だにしなかったセトが動き出す。

「セトもお腹空いたよね。
 ごめんね、一度向こうに戻ってテントの中に入るのを見せなきゃ」

 わざと姿を見せるように歩いて、アンナリーナはテントの中に入っていった。
 そのままランプを点けて、その足でツリーハウスと繋げた扉をくぐっていく。

「さあ、まずはセトからだね」


「【体力値供与】【魔力値供与】
 そして【鑑定】」

 セト(アイデクセ、雄)
 体力値 6800
 魔力値 700

「セト……ご飯はソーセージでいい?」

 ツリーハウスの、キッチンにあるダイニングセットに用意された、セト専用の皿に先ほど取り置いていたソーセージを指先ほどに切り分け3個置く。

「足りなかったら言ってね」

 水飲み用の器に【ウォーター】で注ぎ入れ、デザートに桃のコンポートを、また指先ほど切り分けた。
 セトは嬉しそうに尻尾を振っている。

「さて、と。
 次は自分のだね……今日はどんな【ギフト】を取ろうか?」

「昨日仰っていた【宣誓魔法】でよろしいのでは?
 いつ、縛りを必要とする不届き者が出ないとは限りませんよ」

 本質的に、悪意察知などで確かめながらしか人間を信用出来ないしアンナリーナには必要なギフトかもしれない。

「そうだね」

 脱ぎ捨てていたローブを【洗浄】し、玄関脇のスペースに掛ける。
 ダイニングキッチンに戻ってきてソファに座り靴を脱いだ。


「ギフト【宣誓魔法】
 そして、ステータスオープン」


 アンナリーナ 14才
 職業 薬師、錬金術師、賢者の弟子
 
 体力値 102400
 魔力値 34843571040055/34843571030054
(ステータス鑑定に1使用、宣誓魔法に10000)

 ギフト(スキル) ギフト(贈り物)
  [一日に一度、望むスキルとそれによって起きる事象を供与する]
 調薬
 鑑定
 魔力倍増・継続 (12日間継続)
 錬金術(調合、乾燥、粉砕、分離、抽出、時間促進)
 探索(探求、探究)
 水魔法(ウォーター、水球、ウォーターカッター)
 生活魔法(ライト、洗浄クリーン、修理リペア、ファイア、料理、血抜き、発酵)
 隠形(透明化、気配掩蔽、気配察知、危機察知、索敵)
 飛行(空中浮遊、空中停止)
 加温(沸騰)
 治癒(体力回復、魔力回復、解毒、麻痺解除、状態異常回復、石化解除)
 風魔法(ウインド、エアカッター、エアスラッシュ、ウインドアロー、トルネード、サファケイト)
 冷凍(凍結乾燥粉砕フリーズドライ)
 時間魔法(時間短縮、時間停止、成長促進、熟成)
 体力値倍増・継続(12日間継続)
 撹拌
 圧縮
 結界
 異空間収納(インベントリ、時間経過無し、収納無限、インデックス)
 凝血
 遠見
 夜目
 解析スキャン
 魔法陣
 マップ
 裁縫
 編み物
 刺繍
 ボビンレース
 検索
 隠蔽(偽造)
 従魔術ティム
 体力値供与
 細工
 再構築
 無詠唱
 悪意察知
 魔力値供与
 空間魔法(転移)
 異世界買物
 位置特定
 異空間魔法(空間接続、空間増設)
 宣誓魔法


「これでひと安心だね。
 今日はもう疲れたから、お風呂入って寝ようかな」

 靴もバッグも、身につけていたものすべてを手に、奥の浴室に向かうアンナリーナ。
 そんな彼女を見送っていたセトが。

「ア、ルジ」と……

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