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第二章

41『魔物よけの香EXとかぼちゃのスープ』

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ザルバがハッと気づいたその時には、もう夜は明けかけていた。
 あたりを見回すと、ここは馬車の中。
 ゴロ寝に慣れている自分に敷物やなんと枕まで……掛けられていた毛布を取りながらザルバは身を起こした。
 ゆっくりと伸びをする。
 多少身体は固まっているようだが、疲労は取れたようだ。思いの外スッキリしている。


「ザルバさん、目が覚めた?
 おはようございます」

 目の前にアンナリーナが飛び込んできてカップを渡してくる。
 ミルクティーに似た色をしているが、まったく違う匂いがしている。
 恐る恐る口をつけてみると苦味が強いが、ミルクとたっぷりの砂糖が使われていて。

「美味い」

「うん、朝食も出来てるから出てきて。
 ……その前にこれ、渡しておくね。
 あ、今は開けないで」

 しっかりと蓋の閉まるガラスの瓶に深い緑の塊が入っている。
「材料が貴重なのでそれだけしか出来なかったの。でも一個で一日中持つからね」

「嬢ちゃん、これは?」

「ジャンジャーン、これは【魔獣よけの香EX】です。
 森狼や森猪、ゴブリンはもちろん、森熊やオークも寄ってこない優れものなんです」

「嬢ちゃん……森熊やオークまでって、一体何が使われてるんだ!?」

 薬師が少ないこの地方で、魔獣よけの香自体日常的ではない。
 それなのにこれほどの効果のものなど聞いた事がない。

「えへへ、内緒~
 でも、そんなにしょっちゅう作れないよ?」

 それが、ざっと見たところ20個は入っている。

「朝、出発する前にこの香炉に入れて……」

 ザルバは渡された丸い金属製の容れ物をひっくり返して見ている。

「御者台の後ろの、軒先にでもぶら下げておいて。
 これで十分この馬車はカバー出来るから」

 スタスタと外に出て御者台によじ登る。
 後ろからついてきていたザルバから、このへんがいいかな?と香炉を取り上げ、軒先にぶら下げてみた。
 彼が初めてみる形……S字になった金具で、引っ掛けられて揺れている。
 その先には返しが付いていて多少の衝撃では外れないように出来ていた。

「ここをこう押すと外す事が出来るから……」

「なあ、嬢ちゃん。
 どうして俺たちにここまでしてくれるんだ?」

 アンナリーナの言葉を遮るように、真剣な顔をしたザルバが問いかける。
 アンナリーナは一瞬、冷めた表情を浮かべて、すぐに貼り付けたような笑顔を見せた。

「“ 俺たち ”のためじゃないんだよ。
 全部自分のためなの……
 だからザルバさんたちが気にすることはないんだよ?」

「でも嬢ちゃん、こんな高価なものまで」

 ザルバが食い下がってくる様子に彼女は溜息する。

「全部、自己満足なんだけどね。
 ……食事は一人で食べるより皆で食べた方が美味しいし……あ、誤解しないでね。私、今日から一緒に旅する人たちにまで振る舞うつもりはないから。
 旅の間の食事は、各自自分の責任なんだよね?」

「ああ……基本、皆それぞれ食料を持ち込むんだ。
 ほとんどが干し肉と黒パンだな。
 まあ、休憩の時には火も焚くし、茶葉を持っているものが皆に振舞ったり……そのへんは個人の自由だが、俺たちが何か提供することはないな」

 まあ、水くらいはうるさいことは言わないが、と付け加えた。

「じゃあ、私がザルバさんたちの食事係をしていても大丈夫だね。
 まあ、どうしても欲しいって言うなら売ればいいし」

 思いっきり、いい匂いをさせてやろう……と意気込んでいるアンナリーナだが、結構意地悪い。

「それからザルバさん。
 私のことは『リーナ』って呼んで下さいね。その方が親密そうでいいでしょ?」

「ああ、そうさせてもらうよ」

 やっと表情がほぐれてきたザルバを連れて、焚き火のところに戻ってきたアンナリーナは皆に皿を出させた。

「今朝はね、モロッタイヤ村で買い込んでたカボチャを使ったスープにしました。少し甘口だけどお豆もたっぷり入れたからね。
 それからスプラウトとトマトのサラダ、早速昨日手に入れたピクルスを使ったドレッシングをかけてあるの。
 パンは黒パンを使ってみたんだけど、上に半熟目玉焼きを乗せたからね、黄身を潰して食べてみて。
 デザートはリンゴのコンポートだよ」

 どこのお貴族様の朝食だろうか、と思うほどの品揃え。
 フランクなどはスプーンとフォークを持って固まっている。

「はい、ではいただきましょう」
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