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第二章
14『夕餉と新たなおっさん』
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酒場への道を歩みながらジャージィは昼間、ミハイルの雑貨屋に案内した、リーナという少女の事を思い出していた。
年は14才。準成人だが薬師である。
彼はあの時、門の傍らの詰所で彼女と対峙してからどうにかしてこの村に取り込めないかと考えていた。
だが、時折見せる彼女の視線……その底知れなさに怖気付き言い出せずにいたのだが、それはジャージィにとって僥倖だった。
これまでも、これからも、アンナリーナの意に沿わない事を強要するものは破滅するだろう。
彼女にはその力がある。
ただ彼女自身はそれに気づいていないようだが……。
宿屋兼酒場に着いたジャージィは、思っていた通りミハイルを見つけた。
当然のように同席し、アンナリーナの姿が見えない事をいい事に、少々内緒話をしようとしたところ。
一度、部屋に上がっていたアンナリーナが階段を降りてきた。
「……っ!」
目に入った彼女の姿は、昼間門番として会った姿とまったく違っていた。
旅支度のクリーム色のローブを脱ぎ、淡い紫のワンピースを着ていたのだが、それが細身の身体によく似合う。
ブーツから履き替えた室内ばきは柔らかな茶色で甲のところに刺繍が刺してある。
何よりも清めてさっぱりしたのか、良い香りさえ漂ってくる。
茫然と見入っていたら、彼女の方から声をかけてきた。
こんな小さな村なのだから、外食出来るのはここしかないのだろう。
早速、杯を傾けている2人に微笑みかけ、テーブルに合流した。
「ミハイルさんお待たせしました。
ジャージィさんこんばんは」
アンナリーナが来るのを見計らったように料理が運ばれてくる。
「さあ、リーナちゃん。たんと食べとくれ!」
大皿がどんどん並べられていく。
男2人に合わせてか肉料理が多いようだ。
その中で目にとまったのは鮮やかな赤い色。
「海老?」
「良く知ってるね。
今日は川海老がたくさん獲れたんだよ。あっさりと野菜と一緒に食べたら美味しいよ。
男たちはあまり好きじゃないみたいだけどね」
アンナリーナはそっと手を伸ばして、海老サラダの皿を引き寄せた。
女将が笑いながらサラダをよく混ぜて、アンナリーナの眼前の皿にたっぷりと取り分けてやる。
アンナリーナは “いただきます”をするとフォークを取り上げ、海老と野菜を口にした。
素朴な岩塩と海老の甘みが口いっぱいに広がって、知らず知らずのうちに笑みが浮かぶ。
女将は他にかぼちゃの茹でたものと薄切り肉をパプリカなどと炒めたものを持ってきた。
量は控えめで、いかにもアンナリーナ用の料理だと思われる。
男たちには厚く切ったステーキ状の肉を焼いたものを山に盛った皿を置き、最後にアンナリーナにクルトンがたっぷりとのったポタージュスープが置かれた。
「さあ、たっぷりと召し上がれ」
やはりこの世界では胡椒の類いは貴重なようで、味付けは塩オンリーだった。
だが、各素材の味が強調されていて、アンナリーナはとても美味しくいただいたのだ。
特に川海老は絶品だった。
これは、アンナリーナが今まで住んでいた村や魔獣の森でも見た事がなかったが、このあたり特産なのかもしれない。
『海老は買いよ!』
アンナリーナはこの海老を手に入れることを強く決心した。
かぼちゃにしても、ポタージュスープに使われた里芋にしても、前世で食べていたものより味が濃い。
使われているミルクにしても濃厚で、この村は辺境で人も少ないが農産物が豊かなのだとアンナリーナは思う。
「ところで嬢ちゃん、取り引きは上手くいったかい?」
それで思い出したアンナリーナが女将を呼ぶ。
何事かと思った女将は水の入ったピッチャーを持ってやってきた。
「すみません。ミハイルさんとの取り引きで滞在が延びることを伝えていませんでした。
あと2日、延長お願いします」
細い腰に巻いた、装飾用に見えるベルトについた小さなポーチから、アンナリーナは銀貨6枚を取り出して、そっと渡す。
滅多に泊まり客のないこの宿屋での現金収入だ、女将はホクホクしていた。
これで落ち着いて食事を再開できる。
アンナリーナはフォークを取り、野菜を中心とした料理に舌鼓を打った。
「ごちそうさまでした」
びっくりするような量をペロリと平らげ、腰を浮かせかけた時にドアが開いて、1人の男が入って来た。
髭面で筋肉質、見た目取っつきにくそうだ。
「じゃあ私、少し作業があるから部屋に戻らせてもらうね」
「ちょっと待って嬢ちゃん。
おい、ハンス、こっち来いや」
『ハンス?』
ミハイルが招き寄せた男が軽く会釈する。
「嬢ちゃん、こいつが鍛冶屋のハンス。さっき話しただろう?」
アンナリーナの背中がピンと伸び、目がキラキラと輝いた。
そしてその手ががっしりとハンスの手を握り、ブンブンと振り回す。
「よろしく、私リーナって言います。
あの、鍛冶屋さんなら……鍋売ってますかぁ!」
何で、まだ鍋?
年は14才。準成人だが薬師である。
彼はあの時、門の傍らの詰所で彼女と対峙してからどうにかしてこの村に取り込めないかと考えていた。
だが、時折見せる彼女の視線……その底知れなさに怖気付き言い出せずにいたのだが、それはジャージィにとって僥倖だった。
これまでも、これからも、アンナリーナの意に沿わない事を強要するものは破滅するだろう。
彼女にはその力がある。
ただ彼女自身はそれに気づいていないようだが……。
宿屋兼酒場に着いたジャージィは、思っていた通りミハイルを見つけた。
当然のように同席し、アンナリーナの姿が見えない事をいい事に、少々内緒話をしようとしたところ。
一度、部屋に上がっていたアンナリーナが階段を降りてきた。
「……っ!」
目に入った彼女の姿は、昼間門番として会った姿とまったく違っていた。
旅支度のクリーム色のローブを脱ぎ、淡い紫のワンピースを着ていたのだが、それが細身の身体によく似合う。
ブーツから履き替えた室内ばきは柔らかな茶色で甲のところに刺繍が刺してある。
何よりも清めてさっぱりしたのか、良い香りさえ漂ってくる。
茫然と見入っていたら、彼女の方から声をかけてきた。
こんな小さな村なのだから、外食出来るのはここしかないのだろう。
早速、杯を傾けている2人に微笑みかけ、テーブルに合流した。
「ミハイルさんお待たせしました。
ジャージィさんこんばんは」
アンナリーナが来るのを見計らったように料理が運ばれてくる。
「さあ、リーナちゃん。たんと食べとくれ!」
大皿がどんどん並べられていく。
男2人に合わせてか肉料理が多いようだ。
その中で目にとまったのは鮮やかな赤い色。
「海老?」
「良く知ってるね。
今日は川海老がたくさん獲れたんだよ。あっさりと野菜と一緒に食べたら美味しいよ。
男たちはあまり好きじゃないみたいだけどね」
アンナリーナはそっと手を伸ばして、海老サラダの皿を引き寄せた。
女将が笑いながらサラダをよく混ぜて、アンナリーナの眼前の皿にたっぷりと取り分けてやる。
アンナリーナは “いただきます”をするとフォークを取り上げ、海老と野菜を口にした。
素朴な岩塩と海老の甘みが口いっぱいに広がって、知らず知らずのうちに笑みが浮かぶ。
女将は他にかぼちゃの茹でたものと薄切り肉をパプリカなどと炒めたものを持ってきた。
量は控えめで、いかにもアンナリーナ用の料理だと思われる。
男たちには厚く切ったステーキ状の肉を焼いたものを山に盛った皿を置き、最後にアンナリーナにクルトンがたっぷりとのったポタージュスープが置かれた。
「さあ、たっぷりと召し上がれ」
やはりこの世界では胡椒の類いは貴重なようで、味付けは塩オンリーだった。
だが、各素材の味が強調されていて、アンナリーナはとても美味しくいただいたのだ。
特に川海老は絶品だった。
これは、アンナリーナが今まで住んでいた村や魔獣の森でも見た事がなかったが、このあたり特産なのかもしれない。
『海老は買いよ!』
アンナリーナはこの海老を手に入れることを強く決心した。
かぼちゃにしても、ポタージュスープに使われた里芋にしても、前世で食べていたものより味が濃い。
使われているミルクにしても濃厚で、この村は辺境で人も少ないが農産物が豊かなのだとアンナリーナは思う。
「ところで嬢ちゃん、取り引きは上手くいったかい?」
それで思い出したアンナリーナが女将を呼ぶ。
何事かと思った女将は水の入ったピッチャーを持ってやってきた。
「すみません。ミハイルさんとの取り引きで滞在が延びることを伝えていませんでした。
あと2日、延長お願いします」
細い腰に巻いた、装飾用に見えるベルトについた小さなポーチから、アンナリーナは銀貨6枚を取り出して、そっと渡す。
滅多に泊まり客のないこの宿屋での現金収入だ、女将はホクホクしていた。
これで落ち着いて食事を再開できる。
アンナリーナはフォークを取り、野菜を中心とした料理に舌鼓を打った。
「ごちそうさまでした」
びっくりするような量をペロリと平らげ、腰を浮かせかけた時にドアが開いて、1人の男が入って来た。
髭面で筋肉質、見た目取っつきにくそうだ。
「じゃあ私、少し作業があるから部屋に戻らせてもらうね」
「ちょっと待って嬢ちゃん。
おい、ハンス、こっち来いや」
『ハンス?』
ミハイルが招き寄せた男が軽く会釈する。
「嬢ちゃん、こいつが鍛冶屋のハンス。さっき話しただろう?」
アンナリーナの背中がピンと伸び、目がキラキラと輝いた。
そしてその手ががっしりとハンスの手を握り、ブンブンと振り回す。
「よろしく、私リーナって言います。
あの、鍛冶屋さんなら……鍋売ってますかぁ!」
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