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昔の話

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「本当に、困ったことだよ」

ボクはきっちり両足揃え、体育座りの姿勢のままつぶやく。
「困った…。」
「無理。」
「できる気がしない。」
抱え込んだ膝の上に顔を埋め、ボクにはひたすらひたすらに、嘆き悲しむしかできやしない。
「困った。」


「アオ、毎年言ってるよね。中学でもそうだった?」
3年間。ボクの隣でボクの嘆きを聴き続けたカナは。
今年もこうして聴いている。ボクの隣で。律儀にボクと同じ体育座りで。
他のクラスメートはまたか、って顔して聞き流してるのにカナだけはきちんと耳を傾け聴いてくれる。ほんといい子!
ありがとうカナ。今年もボクは嘆き悲しむよ!


「…そう、中学も小学校も嘆いてる。幼稚園は泣いて暴れて怪我して欠席した。」
「え…」
ボクの報告に流石のカナも若干ひききみだ。
「もう今年は3年生だし今年はもう不参加でもいいかな?いいと思うんだ。今怪我するのは避けたいし、でも出たくない。となるとやっぱり穏便に個人の意見を尊重してもらい、不参加一択。」
「いや、ダメでしょ。参加一択。」
いつもなら味方してくれそうなカナが、即否定。
うぅ。
なんでだよぅう。
「3年だからこそ、今年は出て、クラス団結の思い出つくろうよ。ね?アオ。」
カナの手が。ボクの肩に乗る。
「ね、アオ。」
「…ね、じゃないし、今年は、でもないし。去年もその前もでたし。」
1年の頃はカナに泣きつかれ、2年の時はアキの口八丁手八丁に絡めとられた。
今年こそは、ボクの本懐を遂げたい。
膝に顔を埋めたまま、ボクは決意を固めたというのに。
「出るのが普通だからね、体育祭は。」
カナはそう言って、肩に置いた手で、ぽんぽんと優しくボクの肩を叩いた。



体育祭。
困ったことに、そう、体育祭だ。
年に一回、いらないのに訪れるあの、非人道的な祭り。走りたくもないのに走らされ、食べたくもないのにジャンプしてパンを咥えさせられる。実行委員の独断と偏見のもとに繰り広げられる借り物競走なんて、恐怖でしかない。
ほんとに、なんであるんだ、体育祭。



ボクは昔からとにかく運動会、体育祭が嫌いで怖くて逃げたくて。体育祭に力入れてない学校だと、中学時代の先生の一言でこの学校に来たんだ。嘘だったけどね!!!
入学して最初のイベントが体育祭だと知った時は、泣きながら先生に電話した。
先生酷い!体育祭あるんだけど!って猛烈に抗議したらば一言。
『無いとは言ってないだろう?』


「先生力入れてないって言ったのに。年々バージョンアップしていくのでなんで?去年は仮装徒競走なんてなかったよね?!」
なんでだか体育祭実行委員長に就任したアキが、誇らしげに宣言したのだ。
今年は仮装徒競走しまーす。
って。

仮 装 徒 競 走

ボク、嫌な予感したんだよね。
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