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それでは明るくさようなら
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「まずはこちらをお聞きください。」
「あ?」
ボクはスッと雪の目の前にワイヤレスのイヤホンを差し出す。
今まさに、チーズケーキの1口を口にしようとフォークを動かしていた雪の手が、ぴたりと止まる。
「今?」
「うん、今」
「…。」
ボクにこにこ。
雪、いやそーな顔。
そうね。
雪のチーズケーキはまだ半分弱、お皿に残ってる。なんで食べ終わるまで待たねーんだよって、顔だよね、それ。
だけどね、終わるのを待ってはあげない。
ボクは笑顔のまま、無言でずいっと。さらに雪の目の前にイヤホンを持っていく。
…そもそも。終わる前に、追チーズケーキするだろ。
絶対、いつもみたいに。
無理。
ボクはもう待てません。
「…わかったよ。」
雪はフォークに刺したチーズケーキを口に入れ、そのままフォークを口に咥えてイヤホンを受け取る。
フォーク、置けばいいのに。
そんなことをチラリと思いながら、ボクは。
雪の指が左右の耳の穴にイヤホンを装着、繋がったのを確認した。とたん。
大音量で流してやった。
ガシャン。
まずフォークが落ちてそれから。
「はぁ?え?あ、な、なんだこれ。」
意味ない言葉が雪の口からぽろぽろ。
ついでに咀嚼しそこねたチーズケーキがぽろり。
あ、だの、は?だの意味を成し得ない言葉を溢し続ける雪の、固まった顔。
ボクは飲みかけのブラックルシアンを飲み干し、すみませーんと手を上げた。
「はい。」
先ほどのスタッフさんがすぐにきてくれたので、
「アグラべーション、ありますか?」
「はい、ございますのですぐに。」
頭を下げる瞬間、ちらりと目線が雪に動いたのを見る。
「それからフォークの替えもお願いします。」
「畏まりました。」
でもそれはほんの瞬き。
あきらかに挙動不審過ぎる雪からすぐさま目線を外し、彼はまた席から離れていく。
雪は俯いたまま動かない。
口から溢れてた言葉も止まって、息だけがはーはー。
吐く息の音、おっきすぎなんですけど。
変質者かな?
「あ、終わった?」
ボクはスマホ画面で動画が止まったの確認。手を雪に差し出した。
「葉、葉海。」
ぎぎぎ、って音がしそうなほど硬い動きで、雪は顔を上げた。
あれ?また小汚い顔になってる。
思わず、笑ってしまう。いやさっきからずっと笑ってるけどさ。
ふふって、思わず溢れちゃった笑み。
ボクが寝室行ってる間に、顔洗ったんでしょ?髭だって剃ってさ。せっかく軽くて浮気してそうなイケメン顔に戻ってたのにさ。
なんかまた小汚くなってる。
「葉海、あの、これ…」
「ん。」
笑いながら、テーブルの上。腰を上げて身を乗り出して。
仕方ないから、ボクが回収する。
両手を雪の顔の横に伸ばしてイヤホンをぐいっと。
「葉海、これはっ…!」
雪の手が伸びてきてボクの手を掴もうとするけど。
ボクはもちろん、触らせるものか。
素早く身体を後ろに引いて距離を取る。
それでね、そのままね、上から見下ろしてね。
「ご視聴ありがとうございます?」
にっこり、笑ってやった。
ベッドの軋む音ぐちゃぐちゃ聞こえる粘着質な音
肉を打ちつけるぱんぱんって音はぁはぁ聞こえる2つの荒い息遣い
好き好き煩い知らん男の声も
好き好き煩わしい馬鹿な雪の声も
知らん男があげる嬌声の合間に呼ばれた雪の名前も
何もかもが良く聞こえただろう?
「お待たせしました。」
声がけとともに、テーブルに置かれたアグラべーションと、半分残ったチーズケーキのお皿の横に置かれたペーパーとフォーク。
「ありがとうございます。」
今度はちらりとも見ないで、席から離れてく。
ボクは両手のイヤホンを2つまとめて左掌に握りこむ。それで空いた右手でグラスを取って。
ぐいっと煽る。
「あー美味しい。」
冷たくってミルクが甘くって。
ボクの喉を潤し、頭を冷やし。
アルコールがそしてボクを、沸るほどに心昂らせる。
宮君が昨日作って教えてくれた。
『決心』
そんなカクテル言葉を、このお酒は持つんだって。
ボクは左手の甲でぐいっと口元拭ってそれから。
「葉海…」
「ありがとう、雪。」
ボクは笑った。青ざめた、唇歪ませ目元震わせボクを見上げる雪に向かって、笑った。
笑って、今日ずっと言い続けてきた感謝の言葉をまた、雪にあげる。
「雪と友達になって、親友になって楽しかったよ。うっかり恋人になってからも、楽しかった。ずっとずっと、ボクは楽しかった。本当に楽しかった。」
たくさんあげる。
「ありがとう。」
だってほんとに楽しかったんだ。
だからありがとう。
ありがとう、雪。
「ご、ごめん!」
テーブルに手をついて雪が立ち上がる。
ガタって大きな音なんて立てちゃって。
せっかく持ってきてもらったフォークも床に落ちちゃったじゃん。
ほんとに音ばっかり立ててさ。
「ちが、違うんだって。これは、だから、だから!」
「えー?なに?違うってなにが?あれ?この声雪じゃなかった?」
「それは!違っ、くはなくて。だけどだから、浮気とかじゃなくて。」
「最後聞こえないけど、なぁに?なんて言った?」
最後声ちっちゃくするとかほんと、可笑しい。
ボク、にこにこが止まらないよ!
「葉海!!」
テーブルについた手に力を入れたからか。
動いて、ガチャンってケーキのお皿とカフェラテのカップと、それからボクの飲み干し、空いたグラスが音を立てた。
…ほんと、音ばっかり立てて。
ボク、一周回ってブチギレそうだよ。
「雪。」
「葉海。」
ボクは優しく優しく、雪の名前を呼んだ。
雪も立ち上がったから、さっきまでみたいに見下ろせない。
ボクより背が高いから、少し見上げて。雪の目をまっすぐ見る。
「ボクは昨日浮気現場に遭遇したから、証拠としてアレを撮影したんだ。だから誤魔化そうとしても無理です。」
「は…。」
驚愕、って顔してるけど逆になんでか聞きたい。
あんなの撮れるのボクしかいないじゃん。
え?それともなに?カメラでも仕込んでとか思ったの?誰が?ボクが?
そんなわけあるか。
ボクの笑顔、ちょっと引き攣りそう。
「…散乱してたテーブルも見たよ。チーズ!あれほんと楽しみにしてたんだけど!!」
怒りがぶり返してきそうになって、慌ててボク、首を振る。怨みは待て、待てだよボク。
「ナニか残ってそうなお風呂場も見たしね。あれほんと臭ーい。後で清掃代請求する。絶対。触るのとか無理だし。」
あんなに臭わせるってどんだけだしたのさ。
「ボクがお風呂入んないって。その時点でバレたって思わなかった?それともボクが何にも言わないから平気って思った?」
「…っ。オナニーって誤魔化そうかと…。」
「寝室は綺麗に誤魔化したもんね!見事な証拠隠滅お疲れ様でした。」
にこにこ。
ボクがずっと笑ってるから、雪の顔。真っ青通り越して真っ白だ。
名前みたい。真っ白。
おっかしいの。なんでそんな顔するのさ。
さてと、と。
ボクは昨日から今日にかけて目にしたあれやこれを雪に話せて満足したので。
ソファーに置いといた、家から持ち出したバッグを雪に、はいっと差し出した。
「葉海…。」
掠れた声で呼ばれた名前。
今日はたくさん呼ばれたなーなんて。
またちょっとどうでもいいこと考えながら。
バッグを、雪の胸元に押し付ける。
「とりあえずの荷物とお財布はいってるから受け取って。あとはテキトーに捨てたり、てきとーに着払いで実家に送ってあげる。」
だからさ。
ボクは殊更にっこり。
優しく強く美しく見えたりしそうな笑顔をみせて。
それでは明るく
「さようなら。」
「あ?」
ボクはスッと雪の目の前にワイヤレスのイヤホンを差し出す。
今まさに、チーズケーキの1口を口にしようとフォークを動かしていた雪の手が、ぴたりと止まる。
「今?」
「うん、今」
「…。」
ボクにこにこ。
雪、いやそーな顔。
そうね。
雪のチーズケーキはまだ半分弱、お皿に残ってる。なんで食べ終わるまで待たねーんだよって、顔だよね、それ。
だけどね、終わるのを待ってはあげない。
ボクは笑顔のまま、無言でずいっと。さらに雪の目の前にイヤホンを持っていく。
…そもそも。終わる前に、追チーズケーキするだろ。
絶対、いつもみたいに。
無理。
ボクはもう待てません。
「…わかったよ。」
雪はフォークに刺したチーズケーキを口に入れ、そのままフォークを口に咥えてイヤホンを受け取る。
フォーク、置けばいいのに。
そんなことをチラリと思いながら、ボクは。
雪の指が左右の耳の穴にイヤホンを装着、繋がったのを確認した。とたん。
大音量で流してやった。
ガシャン。
まずフォークが落ちてそれから。
「はぁ?え?あ、な、なんだこれ。」
意味ない言葉が雪の口からぽろぽろ。
ついでに咀嚼しそこねたチーズケーキがぽろり。
あ、だの、は?だの意味を成し得ない言葉を溢し続ける雪の、固まった顔。
ボクは飲みかけのブラックルシアンを飲み干し、すみませーんと手を上げた。
「はい。」
先ほどのスタッフさんがすぐにきてくれたので、
「アグラべーション、ありますか?」
「はい、ございますのですぐに。」
頭を下げる瞬間、ちらりと目線が雪に動いたのを見る。
「それからフォークの替えもお願いします。」
「畏まりました。」
でもそれはほんの瞬き。
あきらかに挙動不審過ぎる雪からすぐさま目線を外し、彼はまた席から離れていく。
雪は俯いたまま動かない。
口から溢れてた言葉も止まって、息だけがはーはー。
吐く息の音、おっきすぎなんですけど。
変質者かな?
「あ、終わった?」
ボクはスマホ画面で動画が止まったの確認。手を雪に差し出した。
「葉、葉海。」
ぎぎぎ、って音がしそうなほど硬い動きで、雪は顔を上げた。
あれ?また小汚い顔になってる。
思わず、笑ってしまう。いやさっきからずっと笑ってるけどさ。
ふふって、思わず溢れちゃった笑み。
ボクが寝室行ってる間に、顔洗ったんでしょ?髭だって剃ってさ。せっかく軽くて浮気してそうなイケメン顔に戻ってたのにさ。
なんかまた小汚くなってる。
「葉海、あの、これ…」
「ん。」
笑いながら、テーブルの上。腰を上げて身を乗り出して。
仕方ないから、ボクが回収する。
両手を雪の顔の横に伸ばしてイヤホンをぐいっと。
「葉海、これはっ…!」
雪の手が伸びてきてボクの手を掴もうとするけど。
ボクはもちろん、触らせるものか。
素早く身体を後ろに引いて距離を取る。
それでね、そのままね、上から見下ろしてね。
「ご視聴ありがとうございます?」
にっこり、笑ってやった。
ベッドの軋む音ぐちゃぐちゃ聞こえる粘着質な音
肉を打ちつけるぱんぱんって音はぁはぁ聞こえる2つの荒い息遣い
好き好き煩い知らん男の声も
好き好き煩わしい馬鹿な雪の声も
知らん男があげる嬌声の合間に呼ばれた雪の名前も
何もかもが良く聞こえただろう?
「お待たせしました。」
声がけとともに、テーブルに置かれたアグラべーションと、半分残ったチーズケーキのお皿の横に置かれたペーパーとフォーク。
「ありがとうございます。」
今度はちらりとも見ないで、席から離れてく。
ボクは両手のイヤホンを2つまとめて左掌に握りこむ。それで空いた右手でグラスを取って。
ぐいっと煽る。
「あー美味しい。」
冷たくってミルクが甘くって。
ボクの喉を潤し、頭を冷やし。
アルコールがそしてボクを、沸るほどに心昂らせる。
宮君が昨日作って教えてくれた。
『決心』
そんなカクテル言葉を、このお酒は持つんだって。
ボクは左手の甲でぐいっと口元拭ってそれから。
「葉海…」
「ありがとう、雪。」
ボクは笑った。青ざめた、唇歪ませ目元震わせボクを見上げる雪に向かって、笑った。
笑って、今日ずっと言い続けてきた感謝の言葉をまた、雪にあげる。
「雪と友達になって、親友になって楽しかったよ。うっかり恋人になってからも、楽しかった。ずっとずっと、ボクは楽しかった。本当に楽しかった。」
たくさんあげる。
「ありがとう。」
だってほんとに楽しかったんだ。
だからありがとう。
ありがとう、雪。
「ご、ごめん!」
テーブルに手をついて雪が立ち上がる。
ガタって大きな音なんて立てちゃって。
せっかく持ってきてもらったフォークも床に落ちちゃったじゃん。
ほんとに音ばっかり立ててさ。
「ちが、違うんだって。これは、だから、だから!」
「えー?なに?違うってなにが?あれ?この声雪じゃなかった?」
「それは!違っ、くはなくて。だけどだから、浮気とかじゃなくて。」
「最後聞こえないけど、なぁに?なんて言った?」
最後声ちっちゃくするとかほんと、可笑しい。
ボク、にこにこが止まらないよ!
「葉海!!」
テーブルについた手に力を入れたからか。
動いて、ガチャンってケーキのお皿とカフェラテのカップと、それからボクの飲み干し、空いたグラスが音を立てた。
…ほんと、音ばっかり立てて。
ボク、一周回ってブチギレそうだよ。
「雪。」
「葉海。」
ボクは優しく優しく、雪の名前を呼んだ。
雪も立ち上がったから、さっきまでみたいに見下ろせない。
ボクより背が高いから、少し見上げて。雪の目をまっすぐ見る。
「ボクは昨日浮気現場に遭遇したから、証拠としてアレを撮影したんだ。だから誤魔化そうとしても無理です。」
「は…。」
驚愕、って顔してるけど逆になんでか聞きたい。
あんなの撮れるのボクしかいないじゃん。
え?それともなに?カメラでも仕込んでとか思ったの?誰が?ボクが?
そんなわけあるか。
ボクの笑顔、ちょっと引き攣りそう。
「…散乱してたテーブルも見たよ。チーズ!あれほんと楽しみにしてたんだけど!!」
怒りがぶり返してきそうになって、慌ててボク、首を振る。怨みは待て、待てだよボク。
「ナニか残ってそうなお風呂場も見たしね。あれほんと臭ーい。後で清掃代請求する。絶対。触るのとか無理だし。」
あんなに臭わせるってどんだけだしたのさ。
「ボクがお風呂入んないって。その時点でバレたって思わなかった?それともボクが何にも言わないから平気って思った?」
「…っ。オナニーって誤魔化そうかと…。」
「寝室は綺麗に誤魔化したもんね!見事な証拠隠滅お疲れ様でした。」
にこにこ。
ボクがずっと笑ってるから、雪の顔。真っ青通り越して真っ白だ。
名前みたい。真っ白。
おっかしいの。なんでそんな顔するのさ。
さてと、と。
ボクは昨日から今日にかけて目にしたあれやこれを雪に話せて満足したので。
ソファーに置いといた、家から持ち出したバッグを雪に、はいっと差し出した。
「葉海…。」
掠れた声で呼ばれた名前。
今日はたくさん呼ばれたなーなんて。
またちょっとどうでもいいこと考えながら。
バッグを、雪の胸元に押し付ける。
「とりあえずの荷物とお財布はいってるから受け取って。あとはテキトーに捨てたり、てきとーに着払いで実家に送ってあげる。」
だからさ。
ボクは殊更にっこり。
優しく強く美しく見えたりしそうな笑顔をみせて。
それでは明るく
「さようなら。」
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