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第2章 地球活動編

第110話 ブラドの気持ち

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 簡単な挨拶を済ませ、食堂の外へ出るとブラドとリヒトに偶然に出くわした。
 恐ろしく真剣な顔つきでリヒトの顔を見つめるブラドを視界に入れ、不安が次第に増長し脈拍が速まるのを感じる。
 まさか、マスターや清十狼の身に何かあったのだろうか。メルヴィンさんの発言から思金神おもいかねさんはこの戦争につき黒幕の存在を予想している様子ではあった。
 思金神おもいかねさんが判断を誤るとは考え難いが、可能性は零ではない。
 悪いとも思ったが聞き耳を立てない選択肢は水咲にはなかった。


 ブラド達の話を聞き肩の荷が下りたようにほっとする。
 話の内容からするとジャンヌさんとエリスがマティア君を巡って修羅場を演じていて、そこにブラドが出くわした。そんな内容のようだ。
 意外にもブラドからは軽いショックを受けてはいたが、焦りや嫉妬等の感情は全く読み取れなかった。
 てっきりブラドはマティアにほの字だと思っていたのだが、違ったのだろうか?
 それに今日のブラドは少し変だ。今にも爆発しそうな不発弾。水咲が今日のブラドにつき感じた評価だった。
 丁度恋愛の話をしている二人に割って入り、リヒトが元老院の爺様方に呼ばれている旨を伝える。
リヒトも水咲の意図を読み取り、話を合わせてくれた。まあ元老院の爺様方がリヒトを探していたのは事実だ。全くの事実無根と言う訳でもない。
 それにブラドに対し過保護気味のリヒトがあっさり、水咲に譲ったのだ。臣下であるリヒトよりもしがらみのない水咲の方が上手くブラドの気持ちの内を聞き出せると判断したからだと思われる。

「ブラド、私の部屋で飲むよ」

 この手入り組んだ話は宅飲みでするに限る。

「いえ、私もまだ職務中――」

 本能的にその危機を感じたのかもしれない。ブラドの今の心境を推し量ればまさに水咲という猛獣に怯える小動物。
 必死にごちゃごちゃと拒絶の理論を構築しようとするが、ブラドの右手を握りぐいぐい水咲の部屋へと運ぶ。
 冗談じゃない。こんな面白い事、やめてたまる――いやいや、ゴホン……このままブラドを放っておくと大事になる。それを止める必要がある。だから絶対に聞き出してやる。
 これから執拗な尋問が始まることを察知してか水咲の部屋内に到着する頃には遂に泣きべそをかき始めた。
 向かいのテーブルに座らせ、水咲は簡単な摘まみの料理を作る。
 簡易料理とキンキンに冷えたビールとグラスをテーブルに置きさて戦闘準備は万全だ。

「で、何があったの?」

「心配はいりませんよ。マスターが全て処理してしまいました・・・・・・

「……その口ぶりだと、まるでマスターが一人でこの戦争を処理したことに不満のように聞こえるけど?」

(まさかね。流石にそれは――)

 ふつふつと湧き上がる悪寒を無理矢理抑えつけて話を続ける。

「い、いえ、そんなことは……」

 言葉につまるブラド。

「もしかしてマスターと何かあった?」

「別に……何もありません」

 再度ブラドは机に視線を落とし、口を紡ぐ。
 これで何もないと考える奴はいないだろう。この手の反応をする人はこのギルドに入って散々見て来た。

(あ~、最悪の予想が的中ってやつ? よりにもよってブラドの最初の初恋があの唐変木か……)

 ブラドはよく相談に乗っている水咲にとって妹のような存在だ。特に水咲の前ではいつもの大人ぶった様子がなくなり一人の少女に戻る。それがまた水咲の琴線を刺激するわけだが。だからブラドの最初の初恋は叶えてあげたい。そう思っていたのに……。

「ブラドが過去に思った事、今思っていること全部話して。
 頭の整理にもなるし、すっきりすると思うよ」

 暫く、スプーンで出された料理をいじくっていたが、意を決したのか少しずつ話始めるブラド。
 
 水咲はこの恋の応援はできないし、するつもりもない。
 ブラドの性格からこのままでは自身の気持ちにすら気付くことはあるまい。気付かない限り、ブラドは次の恋にすら進むことができない。
 でも水咲が指摘するのは愚策もいいところだ。聞いたところによると幼少期の大部分をブラドは男として育てられている。第三者に指摘されれば恋に免疫の皆無の少女は心に少なくない傷を受ける。加えて確実にマスターに対する忠誠心も厄介に作用する。
 今無理矢理水咲が気付かせてもその気持ちごと、心の奥底に封じ込めてしまうだけ。いつ爆発するかもしれない爆弾を。
 
 多分、今日、明日でブラドが己の気持ちに気付くのは無理だ。水咲でさえも正直半信半疑だし、ブラドは女の子として歩んだ人生が少ない幼児のような少女。

(長くなりそうね……)

 水咲はブラドの言葉に耳を傾ける。


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