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第2章 地球活動編

第105話 魔神討伐

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「マスター、なぜここに来たぁ!!?」

 刈谷さんが僕に獣の咆哮にも似た叱咤の言葉を喉の奥から吐き出す。
 普段の虚弱な僕しか知らぬスリーなら兎も角、刈谷さんは以前、僕の強さの一端を目にしている。僕があの外道に敗北するとまでは考えていまい。
 だが怒りの色を顔に漲らせている様から察するに、刈谷さんには僕にアルコーンと相対して欲しくない理由でもあるのだろう。
 まあ何となく予想はつく。多分根っこの所は思金神おもいかねと同じ理由からだろう。

思金神おもいかね、刈谷さんとスリーをこの国から強制退去」

(イエス・マイマスター)

 刹那、スリーさん、刈谷さんの姿が消失する。
 この場での話は全て刈谷さんやスリーには聞かせたくはない禁秘事項。
 序列二位の先にいる存在ものについて何も知らぬあのお気楽野郎ふだんのぼくは《妖精の森スピリットフォーレスト》のメンバーを巻き込む気満々らしい。
 だがそれは世界序列一位という存在の悍ましさをお気楽野郎ふだんのぼくは綺麗さっぱり忘れている・・・・・からに他ならない。仮に欠片でも覚えていればそんな気はサラサラなくなるはずなのだ。

「わかってんじゃねぇか~俺やテメエクラスなら他の奴など足手纏いのゴミにすぎねぇ」

 此奴の言っていることは刈谷さんやスリーが足手纏いという一点では真実だ。カリヤさんやスリーでは僕と此奴の戦闘では役には立たない。寧ろ、この場にいると僕が本気を出せず敗北の道しか残されていない。

「いくつか聞きたいんだけどいいかな?」

「テメエと馴れ合う気はねぇ」

 まあそれには激しく同意。僕も此奴が大人しく話すとは夢にも思っちゃいない。此奴は単純馬鹿そうだが、ポエマンと異なり愚かには見えない。
 それに此奴は子供達を自身の快楽で殺したクズ。恐怖と絶望でたっぷりとその魂を染め上げてから、聞き出しても遅くはない。

「そうだね」
 
 【神の遊戯ゴット・ゲーム】は単なる魔術ではない。いわば僕の魂を喰らって成長する生きた魔術。
 この国の首都《オスクリタ》全体が今や【神の遊戯ゴット・ゲーム】の腹の中に等しい。そして【神の遊戯ゴット・ゲーム】の発動者にはその体内にいるものの情報は筒抜けとなる。
 故に奴の情報は既に取得済だ。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
              ステータス
 【アルコーン】
 ★レベル:901
 ★能力値:
 〇HP:100%/S- 
 〇MP:100%/S- 
 〇筋力: AAA
 〇耐久力:AAA
 〇俊敏性:S-
 〇器用:S-
 〇魔力:S-
 〇魔力耐性:S -
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

所持スキル              階梯  レベル  

 〇永劫不死              12   4
 〇飛翔天雷              10   1
 〇空間移動               9   1
 〇魔神化               13   1
〇状態異常絶対無効          12   1
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 本来、絶望的なステータスな差も【神の遊戯ゴット・ゲーム】の『ゲームマスターは参加者プレイヤーと同等以上のステータスとなる』のルールによりないに等しくなっている。
何より今の僕のスキル強度は異常だ。唯一のステータスすらも同じなのだ。攻撃系スキル・魔術を有しない奴など勝負すら成立しないだろう。
 奴につき唯一警戒すべきは【魔神化】。仮にも【虚無】13階梯の超越スキル。用心するに越したことはない。

 さてまずは様子見だ。
 ルインの魔弾の銃口をアルコーンへ向ける。

「一つ、忠告」

「……馴れ合いはしねぇって言ったろうが!」

 激高するアルコーン。
 馴れ合いではく単なる忠告何だがね。だってこのままではこの戦闘、瞬く間に終わってしまう。それでは発動者がピンチになるほど効力の悪質さが増すという【神の遊戯ゴット・ゲーム】の性質上、とびっきりの恐怖と絶望をこの外道に与えられない。

「まあ聞きなよ。これは僕のためでもあるし、君のためでもある」

「くどい」

 アルコーンの姿が消失する。
 空間移動のスキルでも発動したのだろう。奴は遥か上空に出現し、刈谷さん達の戦闘で玉座の間の天井に開いた複数の大穴の一つから僕に向けて高速落下してくる。
 橙色の光の帯と化した奴は僕の左頬に向けて右拳を放ってくる。まるで戦闘機の急降下のような耳障りな爆音を上げつつも大気を切り裂き爆風を巻き上げて迫る右拳。
 そのスローモーション・・・・・・・・のような奴右拳を避けると僕は右手に持つ相棒ルインで複雑な軌跡を描く曲線を幾度となく振う。
 幾多もの紅の光線が空を舞い、アルコーンの身体を数センチのブロックまで解体する。
 大気中に舞い上がる血液のシャワー!
 その解体された肉片にルインの銃口を向け有りっ丈の魔弾を浴びせかける。
 馬鹿馬鹿しい数の半径数メートルにも及ぶ魔弾は回転しながらアルコーンの分断された身体を瞬時に蒸発させながらこのオスクリタ皇堂玉座の壁に衝突する。魔弾は玉座の間の大部分を丸ごと焼き尽くし、遥か遠方にある城壁にぶち当たり大爆発を上げる。
 ドーム状の凄まじい熱量が生じ、超高熱の爆風が同心円状に吹き抜けていく。生じた暴風により辛うじて残されていたオスクリタ皇堂の玉座の間の上方部分は吹き飛び、瓦礫となって空へと舞い上がる。 
 すっかり見晴らしがよくなったオスクリタ皇堂に柔らかく粉のように白っぽい朝の陽ざしが差し込んで来る。

(ステータスが同じで、スキルに蟻と像ほどの差があれば当然こうなるわな……だから言わんこっちゃない……)

 仮にも《虚無》12階梯の【永劫不死】があるのだ。滅んじゃいないだろう。多分……。
 だが、このままではジャジャの時と同様闘争になりそうもない。若干作戦を修正すべきか。
 僕の切実な願いは叶い、何もないはずの空間から細胞が生じ、それらが急速に集まり臓器が、骨格が、筋肉が、皮膚が再生されていく。
 忽ち、無傷のアルコーンが再現されていた。

「テメエっ」

 宙に浮きながら瞳を凄まじい屈辱の怒りで燃やし、僕を睥睨するアルコーン。
 竜とゾウリムシ以上の圧倒的な差を見せつけられたのにまったく堪えたそぶりがない。
 ここが三下ジャジャとは違う所か。

「おバカさん。少しは理解したかい?」

「…………」

 ギリギリとかみ砕くほど奥歯を噛みしめるアルコーン。
 じゃあ、追い込みをかけるとしよう。

「さあ、ゲームを始めよう。
 これは君と僕の命と誇りを掛けたゲーム」

 懐中時計と文字を僕の背後に出現させる。

『ゲーム名――《食材世界一コンテスト》。
・ルール:ゲームマスターと挑戦者は戦い、敗者は異界の住人の食材となる。
・制限時間三十分:制限時間を過ぎると挑戦者の敗北とみなす。
・敗者は食われても永劫食材として蘇る
・ゲームマスターが敗北した場合、挑戦者はゲームマスターをも食材として食すことができる』

 これでいい。このゲームはゲームマスターの僕にすら危険を及ぼす。だからこそその拘束力は凄まじいものとなる。 
 それに食料として殺された子供達の恐怖や絶望を思えばこれくらいのリスク大したものではない。
 どの道今の僕・・・彼奴あいつを殺すその日まで一度の敗北すら許されない。敗北した後のことなど考えるだけ無駄なのだ。

「……テメエ、誰だ?」

 未だかつてない程の神妙な顔で僕に尋ねて来るアルコーン。

楠恭弥くすのききょうやだよ。僕を知ってて喧嘩売って来たんじゃないの?」

 アルコーンの口ぶりは明らかに僕を知っている者の口調だった。

「ふざけんじゃねぇ!」

「喧しいなぁ。君、少々ウザいよ」

 己の声が次第に低くなっているのは自覚していた。僕は会話が成立しない奴が死ぬ程嫌いなんだ。

「以前映像で見たテメエと戦い方が異質だ。以前は甘ちゃん坊やの戦い方だったはずだ。
それが俺さえ思いつきもしねぇ、この悪質なやり口、全くの別人じゃねぇか!」

 失礼な奴だ。だが本質はついている。今の僕は普段の僕とは違う。闘いの過程などに大した執着はないし、美化だってしちゃいない。ただ敵を真の悪夢に誘えればそれでいい。
 
「口で語る時間は終わりだ。もうわかったろう?」

「くそっ! 腹立つがテメエに任せる!」

 悪態をつくとアルコーンは視線を落とす。突如、アルコーンの全てが変貌を遂げる。
 全身から陽炎のごとく揺らめいていたに過ぎない橙色の魔力は竜巻のごとく渦を巻き周囲に吹き荒れる。
 背中から蝙蝠のようなゴツゴツした一際強大な翼が生え、二本の角が額から、一本の角が頭頂部から生える。
 鋭い爪と牙が伸び、筋肉は倍化し高質化していく。

(あはっ! これが魔神化ってやつ?
 さっそく奥の手を使ってきたね。くだらない理由で子供達を簡単に食料とするのに自分が食料となるのは恐ろしいか。実に滑稽な奴だ)

 【神の遊戯ゴット・ゲーム】には発動者のレベルが術内部で現に相対しているレベルのものより低い場合にはその相対する者と同期とさせるというルールがある。
 しかしこの操作はあくまで一人につき一度限り。アルコーンには既に一度使用してしまっている。だから僕の今のレベルはアルコーン《魔神化》前の奴のレベルである901。
 今のアルコーンは――。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
              ステータス
 【デミウールゴス】
 ★レベル:951
 ★能力値:
 〇HP:100%/S 
 〇MP:100%/S 
 〇筋力: S+
 〇耐久力:S+
 〇俊敏性:S-
 〇器用:S-
 〇魔力:S
 〇魔力耐性:S
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

所持スキル
              階梯  レベル  

 〇永劫不死              12   5
 〇飛翔天雷              10   4
 〇空間移動               9   5
 〇魔神化               13   1
〇状態異常絶対無効          12   5
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 名が【アルコーン】から【デミウールゴス】へと変わっている。レベルも951となり、スキルレベルも大幅に向上している。
 いくら何でも【魔神化】前後で変わり過ぎだ。単なる変化へんげ程度のものなら名やスキルレベルまで変わりはしないだろう。
 要するに【魔神化】とは――。

「くひゃひゃひゃひゃ、下手ぁこいたなぁ。
 みたところ、その魔術、テメエでももう解除はできねぇぜぇ。
 テメエはどんな味がすんだろうなぁ~人間の餓鬼共はいまいちだったからよぅ。たのしみだぁ」

 やれやれ、実際に戦う前からもう勝った気になってやがる。まあ、おかげで今の此奴の台詞が本心だとわかるわけだが。
 わかってるよ。この猛毒のような殺気立った心を押さえておくことがもう限界ってことくらい。

「木端悪魔、少し黙ってな」

 ルインの銃口を【デミウールゴス】へ固定すると数十発の魔弾を次々に発射していく。
 【デミウールゴス】は両腕を組み僕に薄気味の悪い笑みを浮かべるだけで身動ぎ一つしない。
 魔弾達は殺意の風に乗り、凄まじい速度で空を疾駆し【デミウールゴス】の全身に殺到する。
到達の寸前。【デミウールゴス】の翼が一振りし、魔弾は全て四方八方へ弾かれ地上へ着弾し大爆発を起こす。

(やっぱ効果なんてないよね)

 思金神おもいかねの演算予測通り、レベル900台の僅かレベル1の差は800台のときとはわけが違うらしい。そしてそれはレベルが限界値999へと近づくにつれて大きくなって行く。ステータス値S-とSの間には途轍もない大きな壁があるとみるべきだろう。
 そう考えればいくつかの事象に説明がつく。一つが上昇するにつれレベルが各段に上がりにくくなることだ。レベルが肉体の改変にあるとするならばより大きな改変にはより多くの経験値が必要となる。 
 そうは言っても今まで僕が戦ってきた相手はレベルもステータスも圧倒的に相手が上だった。それをスキルと魔術を駆使して生き残って来たのだ。今更もいいところだ。
 
【終焉剣武Ω】の《終の型Ⅰ――阿修羅》を発動し、不可視の6本の腕を出現させ、僕の腕全てに創造した混沌LV12の刀剣を持たせる。
 僕は床を蹴り、【デミウールゴス】まで一直線に地を疾走する。
 僕は【デミウールゴス】の射程へ入ると8本の腕により、渾身の力で剣を神速で振る。
 剣は全て空を切る。奴の俊敏性が増しているといっても限度がある。空間移動のスキルでも使用したのだろう。
 もっともここは【神の遊戯ゴット・ゲーム】の腹の中、居場所を知る事態はたやすい。奴が存在するのは遥か上空。
 僕の魔弾により破壊尽くされこのオスクリタ皇堂は天井など一欠すら残っちゃいない。
 奴に向けて地を蹴る。

「なっ!?」

 射程に入った僕は握る8本の剣で驚愕に目を見開く奴の四肢をバラバラに切断し、踵をその額にぶちかます。

 ドゴンッ!!!!
 
 高速落下した【デミウールゴス】の身体は一つの弾丸と化し、オスクリタ皇堂の最上階床面へと突き刺さり、突き破る。そして各階層の床を次々に破壊し、冷たい地面へと到達した。
 【デミウールゴス】に向けて火、水、土、風、光、闇の6元素の効果を全て付与した魔弾を途切れなく発射する。状態異常、即死と腐敗の効果を付与しなかったのは、奴は状態異常絶対無効のスキルを持つし、最高位の悪魔の奴にはそもそも効果自体がないと判断したからだ。
 一つの爆発が次の爆発を誘発し、想像を絶する破壊が巻き起こる。
 たった数秒でオスクリタ皇堂跡地を中心に半径数百メートルの巨大なクレーターが発生していた。
流石にこの規模と数の魔弾は疲れる。重力に従い地上に落下しながら、【デミウールゴス】を探索する。
 クレーターのど真ん中に【デミウールゴス】は横たわっていた。
 奴の胴体は半部が吹き飛び、臓物が見え隠れしている。四肢を失い、顔も部分的に欠けている状態でも奴は原型を保っていた。
 先刻は完全に蒸発できていた。それが今や全属性を付属させてなお奴にダメージを与えるのが一杯一杯。
 しかしこれでスキル・魔術を駆使すれば【魔神化】した今の奴とも十分やりあえることが確信できた。

 案の定、【デミウールゴス】の身体は瞬時に癒えていき、むくりと立ち上がる。
 少しの間、視線を地面に落とし身動き一つしなかったが、徐々に指先から震えが始まる。それは全身に波及していく。
 
「下等生物ごときがぁ。殺す……殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 
 人間、テメエは絶対にぶっ殺す!!!」

 目は赤く血走り、額にはみみず腫れのような青筋を張らし、空へ向けて咆哮する【デミウールゴス】。
 僕は地上へ着地すると同時にルインを油断なく構える。

(下等生物ね。ありがとうよ。それは今の僕に対する最大の褒め言葉だ)

 【デミウールゴス】は僕に猛獣のようなギラギラと憤怒に光る瞳を向けて身を屈める。
 お遊びの時間は終了。ここから正真正銘の死闘だ。

 【デミウールゴス】は力を溜めた右足で地面を蹴る。地面を爆ぜつつも迫り、右手の真紅の爪を数十センチほど伸長させて僕を八つ裂きにせんと放って来る。
 大気を切り裂き迫り狂う死を体現した真紅の爪を右手に持つルインで受け止めるが途轍もない重圧により、片膝を地面にめり込ませる。同時に残りの腕により剣を振るが、空を切る。
 激烈な悪寒を感じ、地面を横っ飛びするのと【デミウールゴス】の爪が地面深く突き刺さるのは同時だった。
 爆風と土煙がまるで嵐のように吹き荒れる。すかさず距離を取り観察を開始する。
 奴の一撃により、大地は大きく裂けその裂け目には深い闇が広がっている。
 流石に絶句する。馬鹿の糞力も突き詰めれば大したものだ。
 多分あれの直撃を受ければ僕の身体は粉々に砕かれる。僕の持つスキルはあくまで回復スキルだ。奴と同等の不死系のスキルを持たない僕は確実に絶命する。
 奴の肉を喰らって永劫不死のスキルを得る手段もあるにはあるが無駄だろう。永劫不死はおそらく種族特定が強いスキルだ。吸血種や悪魔達のような魔族ではない人間の僕には持つことができても分相応の効果しか享受し得まい。
 【デミウールゴス】のスキルで一番厄介なのは空間移動だ。近接戦闘と混じるとさらに凶悪なものとなる。
 【デミウールゴス】は両腕をだらんと力なく下ろし、ニタリと顔を醜悪に歪める。
その姿が消失する。【神の遊戯ゴット・ゲーム】で瞬時に探索すると背後で奴は右手の5本の爪を横凪にしていた。
 空に跳躍するが、当然のごとくそれは読まれており、空間移動で移動した【デミウールゴス】が右手の爪を振り下ろしてきていた。

(くそったれぇぇ!)

 右手のルインに魔力を籠めて超高速で落下してくるその爪を受ける。
 僕の魔力と奴の魔力が衝突し、バチバチッと火花を上げる。
 【終焉剣武Ω】《終の型Ⅱ――不知火》を発動し、左後下に振り絞っていた左手に持つ剣で斜め上方へ一閃する。
 《終の型Ⅱ――不知火》は因果律逆転の剣技。切断の結果は【デミウールゴス】の身体
を見事に斜断し、ズルリッとずれていき地上へ落下してく。
 もう出し惜しみをしている余裕はない。ここで畳みかけるべきだ。
 【終焉の星雨エンドスターレインΩオメガ】の《終焉星雨エンドスターレイン》を発動し、【デミウールゴス】の身体を《マーク》し、隕石に《八元素》を纏わせ、奴の追撃を命じる。八属性の中には火、光と聖属性もある。不死性を打ち破れる可能性は十分ある。
 僕の身体程もある隕石が流星のごとく【デミウールゴス】に向けて地上へ落下していく。
 傷を負わせる程度の効果しかなかった魔弾に対し、隕石は奴の身体をまるで豆腐のように破壊尽くす。


 地上へ着地すると同時に十分な距離をとり、肺の中に有りっ丈の空気を入れる。
 疲れる。馬鹿悪魔との戦闘はとんでもない疲労がある。
 一応身体は見事に消滅させた。
 問題は奴の永劫不死のスキル。このスキルを防ぐために当初から造り出した混沌レベル12の剣は全てこの不死性無効の効果が付与されていた。
 しかし全く効果がなかったのは奴の状態異常絶対無効のスキル故だろう。
不死永劫により不死という状態を獲得した奴は不死の状態こそが正常な状態。不死の無効はまさに状態異常に等しい。
 永劫不死と状態異常の無効化スキル。これほど最悪な組み合わせもあるまい。
これで駄目なら僕には打つ手が最後の奥の手しかなくなる。


 僕の予想は最悪のものほどよく的中する。
 《終焉星雨エンドスターレイン》が蹂躙した超巨大クレーターの中心からボコボコと泡が生じそれらが大きくなって行く。
 泡は人型の大きさになると、細胞を、臓器を、筋肉と骨を、皮膚を造り出す。
 
(無駄か……ままならないものだね)

 瞬きをする間もなく、【デミウールゴス】は地上へ顕現していた。
 戦闘が開始されてまだ数分。後たっぷり二十分以上も制限時間がある。さらに、一度でも攻撃をくらえば即死亡。
 対して奴には事実上死はない。僕の攻撃が当たるのも【デミウールゴス】が永劫不死のスキルを持つことによる副次的ものにすぎまい。
 おそらく奴は防御が苦手だ。いや防御など今まで碌にしてこなかったに違いあるまい。永劫不死と状態異常絶対無効のスキルがあれば、細胞一つなくても魂さえあれば蘇るのだ。防御など磨く必要もない。

 首をコキリと振り動作確認をする【デミウールゴス】。
 そして僕に言葉を投げかけて来る。

「下等生物、躱すのは上手いようだが俺の攻撃も大分当たるようになって来たんじゃねぇか?」

 僕は己の右腕に視線を向ける。僕の右腕は拳大に抉れていた。
 そう。左手で剣を振り切った刹那、奴は分断されながらも僕の右腕に右拳を放ってきたのだ。直撃はしなかった。単にかすっただけ。それで僕の右腕は一時的に使用不能となった。
 勿論僕には《アイギスの恩恵》による回復能力がある。この程度ならばすぐに癒えようが、奴の言う通り、徐々に奴の攻撃が当たるようになってきている。かすっただけでこれだ。当ったら腕は根元から爆砕していたことだろう。
 根元から爆発すれば回復までに僅かなりに時間はかかる。その僅かな時間は僕らにとっては無限に近い時間だ。勝敗など容易に決せられるほどに……。
 もはや僕が生き残るには奥の手を使うしかあるまい。
 奥の手を使えば此奴から彼奴あいつの情報を引き出せなくなる。さらに言えば、十中八九、この戦場彼奴あいつに監視されている可能性が高い。見せたくはないのだ。だがそう言ってもいられまい。

「認めよう。お前は屑で、外道で、その上この世に凡そ存在する価値のない奴だ。
だがお前は強い。僕が本気を出すに値する存在と認定する」

「そりゃあ負け惜しみかぁ?」

 僕は【デミウールゴス】の言葉には答えず、【輪廻魂喰サンスクリットソウルイーター】を稼働させる。
 普段の僕はこの魔術についてこれっぽっちも理解していない。
 だから自己の変化が只の自身の狂気性の高まりなどと解するのだ。これは漫画や小説の世界ではない。現実だ。そんな理由もない覚醒ができたら世話はない。
 大体、狂気性が高まった程度で一時的とは言えステータスまで上昇してたまるか。
 あのゲートは【輪廻魂喰サンスクリットソウルイーター】の骨子。《スパイダーガーゴイル》の戦闘でボロボロになるくらい精神をすり減らした結果、知らず知らずのうちに【輪廻魂喰サンスクリットソウルイーター】の門を心象世界に具現化していたのだ。
 今僕は真っ白な地面に立っている。
 ただ広く白いだけの世界に血のように赤い巨大な扉がただ寂しくぽつんと立っている。
この扉こそが【輪廻魂喰サンスクリットソウルイーター】の骨子。
 ベリアルとの戦闘で中途半端な変質をしたのも、30分間の発動後長い時間ぶっ倒れたのもこの心象世界を具現化せずにした反動だ。
 
 【輪廻魂喰サンスクリットソウルイーター】レベル2――《輪廻心象》。
 僕の魂の中に保存されている最も強力な転生体の力により、精神を戦闘に特化するよう変質させ、同時にそれにふさわしいように肉体を改変していく。
 人は肉体と精神からなる。精神の変質を戦闘に必要な範囲で改変し肉体の強化をそれに耐えられるようにする力。それがこの《輪廻心象》だ。
 レベル2はこの門を僅かに開くこと。
 レベル2はいわば肉体と精神の強制ドーピング。そしてそのドーピングの対象となる肉体と精神は今の【神の遊戯ゴット・ゲーム】の状態のもの。だからレベル2でも現状よりは遥かに戦闘力は増す。
 しかしそれでも永劫不死と状態異常絶対無効のスキルを有する眼前の此奴を滅ぼせない。正確には逃亡されることを含め滅ぼせない可能性がある。それは僕には許せない。【デミウールゴス】はここで確実に滅ぼさなければならない。
 だから――僕は赤い扉に手をかけ開いていく。
 少し扉を開いただけで凶悪な赤黒色の魔力が大津波のように溢れ出て来る。
 この赤黒色の魔力こそが楠恭弥という存在を最も色濃く形作るもの。生者のみならず死者の存在すらも否定する狂気と悪意の権化。
 僕は扉を開き続ける。
 扉から放出される濃密な赤黒色の魔力は僕という存在をその身体の内部から最も相応し存在に作り替えていく。
 僕の細胞が――に変わる。
 僕の魔力が――に変わる。
 僕の精神が――に変わる。
 僕の魂が――に変わる。
 悪夢の扉が開き終わり、僕は言霊を紡ぐ。

「【輪廻魂喰サンスクリットソウルイーター】レベル5――《輪廻回帰》」

 は数十年ぶりに束の間の回帰を果たす。

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竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

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