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第1話
質問――
もしあなたの家に現世と異世界を繋ぐ扉が開いたなら、どのような選択をしますか?
1、《扉をコンクリートで塞ぐ》
2、《警察に通報する》
3、《異世界旅行をする》
これは《異世界旅行をする》を選択した、新米魔術師の少年が紡ぐ物語。
◆◆◆
蝉の大合唱の中、僕――楠恭弥は登校先である明神高校へ向けて、通学路をノロノロと進んでいる。
人の取る行動には必ず理由がある。つまり、僕の足取りが重いのにも確たる理由があるのである。
昇降口に着いて下駄箱を開けると、大量のゴミが勢いよく飛び出してきた。
(またか……奴らのやることには一々捻りがない)
手に取った上履きを引っくり返せば、予想通りバラバラと画鋲が落ちてくる。
「きょ、キョウ君……それ?」
背後で震える声がする。
面倒な奴に見られた。精一杯の笑みを浮かべて振り返る。
腰まで伸びた艶やかな栗色の髪に、やや垂れ気味ではあるが大きい目、鼻すじの通った美しい顔立ち。グラビアモデルも真っ青な完璧なプロポーション。
この絶世の美女は倖月瑠璃。一応僕の幼馴染だ。
「はは……瑠璃さん。おはよう」
「おはようじゃないよ! それどういうこと!?」
目尻に涙を溜めて大声を張り上げる瑠璃。
「これ? 間違って画鋲を靴に入れちゃっただけだよ。心配無用さ」
「そんなわけ――」
「瑠璃さん。おはようございます」
目鼻立ちが整った黒髪の少年が、僕と瑠璃の間に割り込んできた。
伏見月彦。
その優男のような顔立ちだけ見れば、一見華奢にも思える。しかし服の上からでもわかる鍛え抜かれた体躯が、僕のような虚弱体質ではないことを物語る。
身長は一八〇センチほどあり、一六〇センチの瑠璃と並ぶと、まさに誰しも羨む最強カップルだ。
この「カップル」という表現は単なる例えではなく、実際に月彦は瑠璃の許嫁。時代錯誤にも思える風習だが、魔術が一般的なものとなった現代日本においては頻繁に耳にする話題である。特に、彼らのような家の者にとってはそうした婚姻は必須とも言える。
月彦が、瑠璃の後ろで手を数回振る。この場から消えろという合図だ。言われなくても、倖月家の者と長話など御免被る。画鋲を近くのゴミ箱に捨てて、僕は自分の教室である1‐Dへと向かう。
(ちっ! 今日もいやがる……)
辿り着いた教室の前には、金髪で耳にピアスをした目つきの悪い男が、取り巻きと一緒に嫌らしい笑みを浮かべて立っていた。
この金髪の男は倖月陸人。これでも瑠璃の兄だ。
倖月家は、日本七大領家の一つに数えられる家系だ。七大領家とは伝統ある魔術師の家柄であり、倖月家、葛城家、三条家、藤原家、和泉家、安倍家、七宝家の七家からなる。
魔術が生活に必要不可欠なものとなり、軍事力さえも魔術に依存するこの二〇八二年の現代日本において彼らの力は凄まじく、政府もおいそれとは口出しできない。
中でも倖月家は、最大にして最強の血統だ。さらに、現当主にして瑠璃と陸人の父でもある倖月竜絃は、この明神高校の理事長をしている。
つまりここは、一種の治外法権区と言っても過言ではない。陸人などはやりたい放題で、上級生をリンチにして重傷を負わせることもざらだ。
「よう、蛆虫野郎~。いつものように地べたに這いつくばって挨拶しろよ!」
倖月家の次期当主に目をつけられれば、その者だけでなく家自体が徹底的に潰される。そう、僕の楠家のように。
だから皆、倖月家に首を垂れ、決して逆らいはしない。たとえどれほど理不尽な仕打ちを受けたとしても。
しかしそれは、屈辱に耐えてでも守るものがある場合の話だ。
確かに楠家本家には、かつては家族同然だった父の元部下達がいる。しかし、家督自体は倖月家に近しい叔父に半ば強制的に譲り渡された。つまり今の僕は唯のいち魔術師に過ぎず、仮に僕が倖月家に逆らっても、楠家がとばっちりを受けることはない。
そして僕が唯一守るべき存在は、倖月本家と話がついていて陸人にも手は出せない。だから他の生徒と異なり、僕は陸人に服従する必要がない。力で負けても、心まで折れはしない。
「…………」
無視して教室に入ろうとするが、取り巻きに行く手を阻まれる。
昨日はサンドバッグ。今日は水責めかな? さあ、何分でも付き合ってやるさ。
両腕を掴まれ、トイレに連行されそうになるが――
「待ちなさい」
凍えるような、感情の籠もっていない声が聞こえる。視線を向けると、そこには僕が今最も憎むべき女がいた。
眉目秀麗な顔立ちと、腰まで届く茶色がかったツインテール。服の下から自己主張する豊かな双丘に、くびれた腰。まさに美女の要素を全て備えた人物と言える。
彼女は明神高校三年――倖月朱花。この明神高校の誰もが憧れる聖女様だ。瑠璃の姉でもある。
「何かご用でしょうか? 朱花様」
取り巻きの一人が青白い顔で恐る恐る尋ねる。
仮にも七大領家のうちでも最大派閥の人間を前にするのだ。多少緊張するくらいならわかる。だが、同じ学生に「様」付けとは。こいつらに恥というものはないのだろうか。
「彼を離しなさい」
なぜ、虫に過ぎない僕に聖女様が情けをかける気になったかは不明だが、どうせ大した理由もあるまい。たまたま機嫌がよかっただけだ。要は姫様特有の気まぐれというやつ。
だけど僕は、この女に情けをかけられるのだけは御免だ。
「朱花さん。僕は陸人君達と遊んでいるだけですよ。口を出さないでもらえますかね?」
棘がたっぷりと含まれた僕の言葉を契機に、敵意を含んだ数十もの視線が一斉に僕に注がれる。浴びせられる罵声も、今の僕には心地よい子守唄に過ぎない。
少なくとも、この憎むべき女に情けを施されるよりかはよほどいい。
「テメエ、よくも朱花様に!」
取り巻きの一人が僕の鳩尾に蹴りを入れる。激痛とともに一瞬息ができなくなり、思わず膝を突いた。その後に、朱花、ひいては倖月家に気に入られたいであろう男子生徒達が次々と続く。
鈍い痛みが全身に走る中、一瞬朱花と視線が合う。彼女は目を大きく見開いていた。
僕が朱花や瑠璃に無礼な口を利いたという理由で殴られるのは日常茶飯事だ。それほど意外性などないだろうに……
1‐Cの教室から、松田教諭が駆けつけてくるのが視界に映るが、周りから理由を聞いて傍観を決め込んだようだ。
全くどいつもこいつも腐ってやがる。教師も学生も、全て――
「やめてぇ!!」
ドガッと鈍い音がして女生徒が吹き飛ばされ、壁に衝突した。瑠璃だ。陸人の取り巻きの男子生徒が勢いあまって蹴ってしまったらしい。
男子生徒は半泣きで瑠璃の下へ行き、土下座して謝る。陸人も若干顔が青い。竜絃が瑠璃を溺愛しているからだろう。
「楠君! 倖月瑠璃様に対する暴行、許されませんよ。これは君だけで済まされる問題ではない。すぐに職員室に来なさい!」
唐突に、松田教諭が僕の腕を掴む。
この学校に通っている生徒は、基本的に名だたる魔術師の家系であり、つまり国の政治を動かしている者達の子息。教師の立場からすれば、僕に罪を擦り付けた方が上手く事が運ぶのだろう。
「僕だけで済ませられる問題ではない」か……いやらしい奴だ。こう言われれば僕が逆らえないことを理解している。
しかし、まずいことになった。ここで倖月竜絃に睨まれると面倒だ。
あの約束は僕と倖月家による誓約。倖月家当主であっても覆すことはできない。
しかし同時に、あくまで僕と倖月家の誓約に過ぎず、倖月家と無関係な者達を拘束する効果はない。なのになぜか竜絃は、僕が課された条件に真摯に取り組む限り、倖月家と無関係な者達に対しても僕らへの手出しを禁じる声明を発した。これにより、僕は大切な妹を奪われない権利を得た。
しかしもし竜絃がこの制限を撤回すれば、倖月家に取り入ろうとする奴らが勝手に気を利かせて、僕が命よりも大切にするものを奪おうとする可能性も十分考えられる。やはり竜絃の機嫌を損ねることはできないんだ。
僕らを守ってくれる兄さんはもういない。僕は妹の沙耶のためなら恥も外聞も捨てる。そう決めたんだ。それが大好きな兄さんとの、ただ一つの約束だから。
瑠璃の前に行き、正座をして額を地面に叩き付ける。
ゴツンと額に鈍い痛みが走るが、そんなの構いやしない。
「瑠璃さん、御免なさい。僕なら、どんな罰でもお受けします。ですから僕だけで話を収めてください!」
「や、やだぁ……」
涙声の瑠璃の擦れ声が聞こえても、僕は構わず額を地面に付け続けた。
「恭弥君も反省しているようですし、どうです? 瑠璃様。話を収められては?」
松田のおもねりの間にも、罵声が飛び交う。むろん全て僕に対するものだ。その中で――
「恥知らず共は黙りなさい! あなた、それでも教師ですの? 倖月の恥知らずともども、この件はお父様に進言差し上げますわ。ただで済むとは思わないことです」
サラサラした金色の髪をかきあげながら、ショートカットの美女が前に出た。
彼女はセリア・アーチボルド。英国からの留学生であり、英国最大の魔術結社――【ソロモン】の長の愛娘。
そして、竜絃と【ソロモン】の長はライバル同士であると同時に、親友同士でもある。そのつてで彼女はこの明神高校に留学してきたが、周囲と馴染めないでいるようだ。
どうやら彼女は僕の言葉から、身内が人質に取られていることを読み取ったらしい。
この子は別に僕の友達というわけではない。本来僕を助ける義理などこれっぽっちもありはしない。彼女の発言は、卑劣な行為が死ぬほど嫌いだから出たものだろう。この腐った学校の中では僕がダントツに好きな部類の女の子だ。
アーチボルドのお嬢様まで出てきたことにより、巻き込まれてはたまらないと、観客達は蜘蛛の子を散らすようにいなくなる。残ったのは朱花、瑠璃と彼女を支える月彦、陸人とその取り巻き、瑠璃を吹き飛ばした男子生徒、セリアさんと教師だけとなった。
松田教諭が額をハンカチでふきながら、セリアに小声で詰め寄る。
「セ、セリア様。瑠璃様とぶつかったのは仕法家の御子息。これが竜絃様に知れたら、両家の間で戦争になりかねません。彼も瑠璃様に暴行を働く気などなかったと存じます。なにとぞ寛大な措置を!」
件の男子生徒はガタガタとみっともなく震えている。
「寛大な措置とはどういう意味ですの? 真実を捻じ曲げて楠君のせいにしろと?」
セリアの声が冷たくなった。まるで場の空気が十数度も冷え込んだような気がする。雰囲気に呑まれそうになりながらも、松田は必死の説得を試みる。
「元々、彼が朱花様に無礼な口を利いたのが原因です。今回の責を受けるに十分過ぎる理由かと」
セリアは朱花に、溝鼠でも見るような視線を向ける。
「貴方、また楠君を苛めてますの? いい加減、彼に付き纏うのは止めてもらえませんこと? 彼は私の大切な友達ですの」
実際は、僕とセリアはクラスで席が隣同士という程度の繋がりしかない。友達どころか週に数回しか話もしない間柄だ。
僕を助けるために、虚偽の事実を言っている。それだけ彼女が優しい人ということだ。
「わ、私は恭弥を苛めていない。ただ――」
「はい、は~い。授業の時間ですよぉ~。恭弥君には私からしっかり指導しておきますぅ。皆さぁん。教室に戻って席についてくださいねぇ」
松田教諭が声のした方に目を向けて、頬を盛大に引き攣らせる。そしてそれは陸人も同じ。
二人の視線の先には、和服を着こなした黒髪の日本人形のような美女が、扇子を右手に持ち、いかにも作ったという微笑を浮かべて佇んでいた。
彼女は倖月時雨。倖月家の分家の出であり、朱花達本家の方が圧倒的に格は上だが、竜絃も一目置くほどの戦闘能力を持つ。
具体的には、世界の魔術師の総元締めである魔術審議会が年に四回、個々の魔術師の強さを定める世界序列で、第八六七位。
つまり、世界に四〇〇〇万人近くいる魔術師の中で、八六七番目に強いというわけだ。序列千番以内は化け物中の化け物と聞く。時雨先生なら、この学校にいる全ての魔術師を相手にしても、傷一つ負うことなく皆殺しにできるだろう。
そんな人物だ。竜絃の権威などに一々ビクつきはしないし、陸人も時雨先生だけには逆らえない。
そして時雨先生は兄の師匠であることもあり、この学校における僕の唯一の理解者だ。
「時雨先生。しかし、この楠が――」
松田は反論しようと試みるが、悪鬼のごとく歪んだ時雨先生の顔を見て、悲鳴を呑み込んだ。
「うるせぇ! 餓鬼共の喧嘩に大人がしゃしゃり出やがって! 今なら特別に見逃してやるって言ってんだ。大人しく従っとくんだなぁ。さもないと――」
「ひぃぃ~」
松田は一目散に教室の中へ入っていく。
時雨先生はそんな松田をケッと一瞥し、両腕で陸人と朱花を引き寄せて耳打ちする。
「別に私はお前らが恭弥を苛めても文句は言わねぇ。恭弥は魔術師だ。魔術師なら全て自身で何とかせにゃあならん。だが、魔術師とは無関係な沙耶には手は出さない話になっていたはずだ。お前ら契約を反故にする気か? んん?」
陸人の顔はもう真っ青を通り越して土色だ。一方の朱花は悔しそうに美しい顔を歪めていた。
「絶対に沙耶には指一本触れませんよ」
「よかったぁ~。お姉さん、竜絃氏を本気で殺さなきゃならないかと心配したゾ」
ぞっとするような声で陸人に呟く時雨先生。
陸人は悲鳴を呑み込むと、取り巻き達を連れて二年の教室へと逃げるように走り去っていった。
「恭弥、私は――」
「時雨先生。僕、授業がありますので失礼いたします」
「はいな。恭弥君は放課後、私のところまで来てね。はい、は~い。皆も早く自分の教室に戻って席についてぇ~。じゃないと、お姉さんがお仕置きしちゃうぞ」
朱花が話しかけてきたが、こんな奴の顔などこれ以上見たくない。
僕は教室に急いで入ると、窓際最後尾の席につき、セリアにひと言感謝の意を述べてから机に突っ伏した。
同じクラスである瑠璃が、ホームルームが開始されるまで僕の席まで来て何やら言葉を発していたが、イヤホンをつけて大音量で音楽を鳴らしていたので聞こえはしなかった。
今の僕にとって瑠璃は、あの幼馴染の瑠璃ではない。倖月本家の倖月瑠璃だ。即ち憎むべき敵。いつか寝首をかいてやる。そのためには朱花達に従順にしているのが本来最良なのだろうが、そうできるほど僕の憎しみは小さくない。
この憎しみを風化させないためにも、僕は思い出す必要がある。憎しみの元凶を――
◆◆◆
楠家は元々、小規模の魔術師の家系。ただ小さいと言っても倖月家と遠縁の親戚にあたり、地元ではそれなりの名家だ。
母を小さい頃に亡くしたこともあって、忙しい父――利徳に代わって兄の凍夜が、僕と沙耶の面倒を見てくれていた。
優しい兄さんは、僕と沙耶にとって父親兼母親のような存在であり、尊敬すべき人だ。そんな兄に育てられていたこの頃の僕らは、確かに幸せだった。
そこにある日、不純物が交じる。
倖月朱花と瑠璃だ。
父が倖月竜絃と同級生であったため、その縁で引き合わされたのだ。夏休みには瑠璃と朱花が楠家に遊びに来るほどだったから、当時は僕らの仲も良かったと記憶している。
やがて父と竜絃は、兄さんと朱花との婚姻を決めた。
その理由は、兄さんが千年に一人の凄まじい魔力を持つ天才魔術師であり、竜絃がその血を倖月家に入れようとしたためだ。
天下の倖月家の聖女との婚約だ。その事実が知らされた日は、楠家総出でお祭り騒ぎだったのを覚えている。
だがこれが、僕らの転落の序曲だった。
二人は高校卒業と同時に結婚することになっていたが、去年になって倖月家は一方的に婚約を破棄した。普通ならただ話がもつれたものとして事は済むが、相手は倖月家。面子というものがある。奴らは婚約破棄についての全ての責任を、兄さんに押し付けた。
曰く、楠凍夜は危険思想の持ち主だ。
曰く、楠凍夜は子供を魔術の実験に使っている。
曰く、楠凍夜は禁術の研究をしている。
曰く、楠凍夜は……
凍夜という人物を知る者なら信じ得ないような内容をでっち上げ、あまつさえ父の利徳にまで責任を取るよう迫った。
それからすぐ、父は病死した。元々胸を患っており、この件で一気に心労が重なったせいだろう。
そして兄さんは、自身が近くにいては僕と沙耶が不幸になると考えたのか、姿を消してしまう。「沙耶を守れ」という手紙を残して。
僕は兄さんとは違い、才能がない。何より楠家の家督は兄が継ぐことになっていたから、それまで魔術師としての修行をしてこなかった。
「楠家は伝統ある魔術師の家系であり、魔術師としての適性のない者は当主にふさわしくない」と、楠の本家と分家の幹部達は口を揃えて主張した。だが本当のところは、これ以上倖月家に睨まれるわけにはいかない、と考えたのだろう。
楠家の幹部達が次期当主として指名したのは、倖月本家と関わりが強い分家筋の叔父さんだった。僕らは、楠の本家が代々受け継いできた屋敷を、半ば強制的に叔父さんに売却させられてしまう。
確かに、父さんと兄さんの思い出が籠もった家を出ていかなければならないのは悲しかった。けど、同時にどこか安堵してもいた。僕は魔術師になどなりたくはなかったから。ただ沙耶と、何げなく掛け替えのない日々を送れれば、それでよかったから。
だから僕は幹部達の決定に素直に従い、沙耶と二人で魔術師と無関係な人生を送ろうとした。
しかし、ここで再び倖月家からストップがかかる。
僕は竜絃から直々に呼び出され、一方的にあることを誓約させられた。
その内容は、明神高校に入学し、三年間で首席になること。仮になれたら、僕の望みを一つだけ叶えてくれるそうだ。だが成し遂げられなければ、竜絃の指示に一生従わされる。要するに首席になれなければ、僕と沙耶は破滅なわけだ。
馬鹿馬鹿しい。手元には屋敷を売った金があるから、沙耶と慎ましく生活するには事欠かない。この命令を受ける意味などなかった。
即座に断ろうとすると、拒絶すれば沙耶が入学する学校に受け入れを拒否させると言いやがる。
倖月竜絃がやると言ったら、それは必ず真実となる。沙耶に不便な思いだけはさせたくはなかった。受け入れざるを得なかったのだ。
だがその分、条件を付けてもらった。僕はどんな扱いを受けてもいいが、沙耶だけは今まで通り平穏に暮らさせること。
竜絃はその約束を忠実に守った。
沙耶は日本一のお嬢様学校に通い、付属の女子寮に住んでのんびりとした学園生活を送っている。
そして僕に対してもしかりだ。「どんな扱いを受けてもいい」という僕の言葉通り、入学してからここ数か月、様々な嫌がらせを与えられてきた。
当初、竜絃達倖月家の行動には一々疑問を感じていた。僕が明神学園一の使い手になっても向こうに得などない。むしろ百害あって一利なしというやつだ。
きっと明神学園への入学の強制は、凍夜に失望させられた朱花の意趣返しなのだろう。行方不明の兄さんには当たれないから、弟である僕に当たっているに違いない。
くだらない。実にくだらない女だ。兄も最悪の女に引っかかったものだ。
◆◆◆
「クズノキ。お前、もしかしてそれが本気かぁ? 女でもそんな非力な奴はいねぇぞ」
「鈴木、あんま苛め過ぎんなよ。次がつかえてるんだかんな!」
ここは明神高校第一修練所。今は男子と女子に分かれて体術の実技を行っており、模擬試合という名の僕へのリンチの真っ最中だ。
リング状の闘技場には特殊な結界が張ってあり、それには実際のダメージを魔力の消費によって回復する効果がある、と聞いた。つまり攻撃を受けても怪我をすることはなく、魔力を消費した気だるさが残るだけであるが、痛みまで取り去ってくれるわけではない。
こんな条件だ。鈴木というクラスメイトが手加減するはずもなく、僕は罵声と嘲笑を浴びながら好き放題なぶられている。
さらに言えば、担当教師は例の松田とかいういけ好かない教師であり、顔に気持ち悪い笑みを浮かべながら僕の醜態を見ている。
腹部、眉間、頬、鼻、口、右腕、左腕、右足、左足。次々に殴られ、蹴られ、踏みつけられる。
だが構わない。実力が増すまでの当面は、僕はこれを痛みに慣れるための訓練にしている。
そもそもここの学生は皆、幼少期から魔術師としての英才教育を受けてきた、世界でも有数のエリート達。僕のように去年から魔術師となった素人とは年季が違っている。
強くなりたいのなら、虚弱という現状を潔く受け入れ、怒りの肥やしにするべきだ。どの道、僕が首席になれば、こんなくだらない連中ともおさらばできる。
強くなってやるさ。誰よりも!
「な、なんだ、あいつ? あれだけ殴られてんのに、ニヤニヤしてんぞ。気持ち悪ぃ!」
「殴られ過ぎておかしくなったんじゃねぇの?」
若干焦り気味の声が四方八方から聞こえる。
馬鹿馬鹿しい。お前達は魔術師なのだろう? なら人の命を奪う覚悟も奪われる覚悟もできているはずだ。仮にそれが、こんな実習であったとしても。
「どけ鈴木、俺がやる」
「ふ、藤丸……さん」
鈴木が闘技場からイソイソと出ていき、入れ替わりに筋肉の塊のような黒髪の巨漢が歩いてくる。
葛城藤丸。七大領家のうちの一つ、葛城家の次期当主。見かけ通り、肉体強化の白魔術だけなら葛城家一とも噂され、すでに教師達の実力を超えているらしい。
対して僕は白魔術の初歩である強化すらできない。相手の一撃にも耐えられないだろうが、どうせ死にはしない。一度爆砕されるのもよい経験だ。
取り敢えずの僕の目標は、時雨先生と同様、世界序列千番以内に入ること。そうなれば、何者にも僕と沙耶を脅かすことはできなくなるだろうから。
この目標がどれほど突拍子もないことかくらい、自分でも理解している。少なくとも、目の前の脳筋バカにビビッているようでは到底達成は不可能だ。
「お、おい。さすがにマズイんじゃねぇのか?」
「ああ、下手すりゃあ痛みでショック死すんぞ」
「松田の奴、止めないんですかね?」
松田は笑みを消してはいたが、葛城家の邪魔はしないようだ。好都合だ。止めてもらっては困る。
学園最強の一角とはどれほどのものか、一度この身に受けてみたかった。
自分の口角が不自然に吊り上がるのが分かる。
僕の中で一つのルールを設定する。この脳筋野郎にワンパンを入れること。ダメージは与えられなくても、それだけで僕の勝利だ。
藤丸の右ストレートが、豪風を巻き起こしながら僕の頭上スレスレを通過していく。気を抜けば、僕の華奢な体など風圧だけで吹き飛ばされるに違いない。実戦なら、当たれば木端微塵だろう。
次の右回し蹴り、左ジャブ、右ストレート。左アッパー、全て紙一重でかわす。
藤丸の顔から先ほどまでの余裕が消える。どうやら遊びは終わりらしい。
今の僕のスピードでは、本気の藤丸の攻撃を避けるのは不可能だ。なら避けない。
左半身が前になるよう体を傾け、姿勢を低くし、敵の狙いを限定する。
「シッ!」
藤丸の右ストレートが僕の視界から消えると同時に、真っ赤に焼けた灼熱の棒で串刺しにされたかのような痛みが僕の左腕を襲った。
思わず叫び出しそうになるが、歯を食いしばり、右手をきつく握って渾身の力で打突する。
僕の右拳は藤丸の左頬に吸い込まれ、ゴン、という重たい音が闘技場内に響く。
右拳から鈍い感触が伝わる中、僕の意識はプッツリと消えた。
第2話 異界の門
「お~い。恭弥、起きろ~。起きないとお姉さん、目覚めのキスしちゃうぞ!」
嗅覚を刺激する薬品の臭いに顔をしかめながら瞼を開けると、目の前では黒髪の日本人形が瞼を閉じていた。それを押しのけてベッドから上半身を起こす。
「時雨先生……いい年して何してんですか? イテッ!」
すかさず頭に拳骨を食らう。
時雨先生は歳のことを指摘されると、このように激烈に反応するのだ。現実逃避も甚だしい。
「恭弥、藤丸に一撃当てたらしいじゃん。おめでとう!」
「はあ……ありがとうございます」
僕は自分で定めた試練を無事クリアしたようだ。静かな喜びが泉のように湧き出てくる。
この調子で一つずつ試練を設定していけば、いつかは目標に到達し得ると信じたい。
「その顔、考えていることが丸わかりだけどねぇ。それ無理よぉ」
「無理? どういうことです?」
「今日の恭弥の戦闘を見た全教員が同じことを考えたと思うわぁ。恭弥は魔術はずぶの素人。だけど戦闘センスはズバ抜けている。おそらくこの学園内でもトップクラス」
「ちょ、ちょっと待ってください。僕にそれほどの戦闘センスなどあるはずがありませんよ」
僕の戦闘センスが学園トップクラス? んなわけあるか! さっきも、油断した藤丸の左頬にワンパン入れただけ。実に情けない結果だ。
「……君と藤丸とでは天と地ほども力の差がある。当然だ。藤丸は物心がついた頃から対人戦闘の英才教育を受けている。だけどその藤丸に、君は一撃を与えた。仮にあれが実戦で、特殊な魔術的付与をされた武器を装備していたら、死んでいたのは恭弥ではない。顔面という急所を打ち抜かれた藤丸の方だ」
時雨先生の様子はさっきのおちゃらけた姿とは一変していた。おそらく本心なのだろう。
そうすると、「無理」というのは……
「今後、実習教官達が僕を修練に参加させなくなるということですか?」
「そう。奴ら、恭弥を追い落とすことが倖月家からの評価に繋がると固く信じちゃってるからね。理由をつけて見学させられるわよぉ」
入学して数か月、やっと修練方法が掴めてきたんだ。それなのに、修練に参加させない? あり得ない。それじゃあ、時間だけが無駄に過ぎていくだけだ。
時雨先生が断言口調で言っている時点で、これは決定事項なのだろう。また振り出しに戻ってしまった。新たな修練方法を考えねばならない。
しかし、魔術の素人の僕には今日のような実戦方式でもなければ急速に実力を上げる手段など思いつかない。八方塞がりというやつだ。
時雨先生もこの件では部外者。戦い方を教えてはくれないし、助言もしてくれない。
「今日は早退していいわよぉ。禿校長には私の方から連絡しておくからぁ。はい、これ恭弥の荷物」
「ありがとうございます」
ありがたい。今日は今後の戦略を練り直したい。もう修練に参加させてもらえないとすると、そもそも計画の立て直しが必要かもしれない。
時雨先生に一礼して医務室を出ると、僕が今一番嫌悪している奴が目の前にいた。
(こちとら死にかけたんだぞ! まだ何かしようってのか……こいつはどんだけ無慈悲なんだよ!)
朱花と視線を合わせずその横を過ぎ去る。ともかく僕はこいつと同じ空気を吸っていると思うだけでゲロ吐きそうだ。
「ちょっと、体は大丈夫なの?」
ひどく神妙な顔つきで朱花が僕の腕を掴む。
僕の顔は、腹痛でも起こしたようにくしゃくしゃに歪んでいた。無論、激烈な嫌悪感からだ。そんな顔を見た朱花は唖然として体を硬直させたので、すぐに振り払うことができた。
「あ……」
足の動きが自然と速くなる。
情けないが、ここでこの女につかまると今朝のような茶番に付き合わされるはめとなる。
いつもならそれも精神修行の一環として諦めもつくが、今日は未来への道が閉ざされて心底落ち込んでいる。これ以上の心的負担は正直避けたい。
下駄箱に行くと、今度は瑠璃がいた。
僕と違い、倖月の奴らは魔術の才能があるのだ。僕などに構っている暇があるなら、自己の修練に費やせばよいだろうに。
「キョウ君、よかった無事で――」
「瑠璃さん。探しましたよ」
月彦だ。助かった。僕の知る中では、月彦はトップレベルに使える奴だ。何せ、瑠璃と僕の接触をことごとく阻んでくれる。
瑠璃が月彦と話している間に下履きに履き替えて、学校を後にした。
僕の今の住居は、知り合いの不動産屋に紹介してもらった家(というより屋敷)だ。
なんでもお化け屋敷として有名で、なおかつ森の中にあるので買い手がつかず、不動産屋としても困っていたらしい。
父と兄という生粋の魔術師を家族に持つ僕にとって、幽体などさほど珍しいものではない。むしろ鬱陶しいセールスなどの部外者が寄り付かないだけ優良物件といえる。しかも破格の安さで購入できたとあって、まさに至れり尽くせりだ。
しかし、何事にも良い部分があれば悪い部分もあるのが常である。前居住者の家財が、全く撤去されていないのだ。半数は使えるが、もう半数は腐るか壊れるかしていて使用不可。これらの撤去作業が僕の著しい負担となっていた。
だが今日のような精神状態が最悪のときには、単純作業をすると気がまぎれるものだ。そういうわけで現在、屋敷の離れにある倉庫の整理に勤しんでいる。
倉庫の中には食器や金物、不気味な民芸品、古めかしい甲冑に剣、壺をはじめとする骨董品などがあった。お転婆の沙耶に手伝わせれば、さぞかし喜んだことだろう。
暫く倉庫整理に熱中していた僕だったが、一旦休憩しようと考えた。そうして座る場所を確保すべく壁際にあるガラクタを掻き分けていると、壁の一部分が崩れかかっているのが視界に飛び込んできた。
(ミステリー系の小説だったら、ここから白骨死体が出てくるのが定番だよね……ん~、でもよく考えたら白骨など別に珍しくないかな……)
父の専攻は降霊術だった。その降霊術にはアンデッド生成の魔術もあり、一時期は家中がスケルトンとゾンビで溢れかえったこともあった。その珍事と比較すれば白骨死体など動揺するに値しない。せいぜい警察に通報するのが面倒であるくらいだ。
その壁はやけに新しかった。崩れそうなのは、ヤケクソ気味にコンクリートを塗りたくったせいだろう。
バールで叩いて全壊させると、地下への階段が出現した。
地下室? こんな面白いものを調べない手はない。特に今日は学校で碌なことがなかった。小冒険ならストレス発散にもってこいだ。
懐中電灯を片手に地下に下りていくが、基本一本道の通路だった。突き当たりには、重そうな白い石の扉がドンと聳え立っていた。
渾身の力で扉を開けて中に入ると、そこはまさに白一色。白い天井、白い壁、白い床。あたり一面徹底的に真っ白であり、ここまでくると製作者の感性が疑われる。
そんな狂ったように真っ白な部屋の中心には黒い箱が置かれ、最奥には絢爛豪華な装飾がなされた漆黒の扉があった。
(この黒い扉と箱は一体……?)
「好奇心は猫をも殺す」という言葉を無視するのが、魔術師の本分と言ってもいい。僕とてこの半年はどっぷり魔術に浸った魔術師だ。見過ごす選択肢などあろうはずもない。
黒箱をゆっくりと開けると、そこには腕輪、指輪、鍵、そして陽炎のような漆黒のオーラを絶えず発生させているサッカーボールほどのサイズの水晶があった。
腕輪、指輪、鍵を手に取って調べてみると、それぞれ細かい装飾が隅々まで張り巡らされていた。もしこの装飾が魔術文字なら、この屋敷の旧所有者は魔術師で、しかもここは魔術師が術を研鑽するための「特殊工房」ということになる。魔術師の特殊工房があんな低価格で売りに出されたなど、笑い話にすらならない。
魔術の存在が世界に認知されたのは二〇五〇年。すでに三〇年以上の月日が経過しているが、それでも魔術師は自らの魔術を本能的に隠そうとする。
魔術審議会は、魔術師と魔術師が有する工房の登録を呼びかけているのだが、拒否する魔術師も少なからずいる。そうした魔術師が死亡すれば、その工房は誰に知られることもなく消えていく。ここも、そうした工房の一つだと思われる。
あとは黒水晶だが……肌にピリピリくる感じといい、猛烈にヤバイ予感しかしない。何かしらの魔力を秘めていると見て間違いなかった。
本来、この黒水晶については魔術審議会に報告し、その指示を仰ぐべきなんだろう。仮にそれなりに貴重なものならば、金一封くらい出るかもしれない。
だが、僕は別に金には困っていない。僕に今必要なものは、力だ。
何者にも僕と沙耶にちょっかいを出させないだけの力。そう! 倖月家さえも正面から敵に回せる力が!
だから――ゆっくりと、僕は黒水晶に手を伸ばす。意を決し、両手で黒水晶を掴み持ち上げる。
突如、多量の漆黒の闇が黒水晶から高速で湧き出し、白い部屋を黒く染め上げた。
同時に、僕の意識もストンッと闇へと落ちていく。
◆◆◆
ひんやりした石床の感触に身震いしながら体を起こし、周囲を見渡す。
当たり前だが、あの狂ったように真っ白な部屋だ。腕時計で確認すると現在、午後四時ジャスト。二時間近く寝ていたことになる。
あれだけ禍々しい魔力を垂れ流していた黒水晶は、灰色の石へと変貌して床に転がっていた。持ち上げて調べてみるが、何の変哲もないただの石だ。少々、対処を誤ったかもしれない。
だが体の調子はどこも悪くないようだし、あの闇は毒や呪いの類ではなかったのだろう。デメリットがないなら、僕にとってマイナスとはならない。
腕輪と指輪も、試しに装着してみることにする。
今度こそトラップが仕込んであるかもしれないと考えれば、装着することに躊躇いはある。竜絃との誓いを果たす前に僕が死亡した場合、沙耶がどうなるかは想像するに容易いから。
しかし、どの道、今のままでは首席を取るどころか落第だ。今より強くなれる可能性があるなら、冒険をしないわけにはいかないのだ。
恐る恐る、腕輪と指輪を嵌める。だが別段変わったことはない。緊張で息を止めていたせいで肺に溜まっていた空気を一気に吐き出し、額の汗を拭う。
装着しても、利するところもなければ害するところもないようだ。気合を入れた分、拍子抜けしたが、魔術師が他者に頼ろうとするのがそもそも間違いなのだ。何事もなかっただけよしとする。
残るは鍵と漆黒の扉。普通に考えれば、この鍵であの扉が開くのだろう。
早速調べてみようと扉の前に行き、調査を開始しようとすると――
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【異界の扉】
異界と現界の二点を繋ぎ、自由に行き来が可能となる扉。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
突如、頭の中に情報のイメージ映像が浮かび上がった。
(へ? 何これ……?)
この不可思議な現象を確かめるべく、扉を触ったりと色々試したが、何も起きない。
心臓の鼓動が、シーンと静まり返った地下室に五月蠅いくらい鳴り響く。
(落ち着け! 冷静にならなきゃ得られるものも得られない! まずは再現だ。僕はこの扉を調査しようと――)
再び、情報が脳裏に浮かぶ。
(掴めたかもしれない)
扉に視線を向け「調査」と心の中で唱えると、またも【異界の扉】の情報が僕の脳に与えられた。
(ビンゴ! やはり、対象に視線を向けて「調査」と唱えることがこの現象の発動条件だ)
続いて、鍵、腕輪、指輪を「調査」してみる。
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【異界の鍵】
【異界の扉】を開ける鍵。この鍵なくしていかなる存在も扉を通過することはできない。
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【万能の腕輪】
《既来転移》《無限収納道具箱》《万能翻訳》の三つの効果がある腕輪。
◎《既来転移》:腕輪に触れている者を一度訪れた場所に転移させる。一日に二度のみ使用可能。
◎《無限収納道具箱》:腕輪に触れたものを無限に収納できる。生ある者は収納不可。収納され
たものは劣化しない。
◎《万能翻訳》:知能を有するあらゆる存在の言葉を理解し、発音することが可能となる。
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【解析の指輪】
視認したありとあらゆるものを解析できる。発動には「調査」と念じることが必要。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ありとあらゆるもの」ということは、生物も可能なのか? 僕自身を見て「調査」と唱えてみる。
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ステータス:【楠恭弥】
★Lv:1
★能力値:HP6/6 MP12/12
筋力1 耐久力3 俊敏性2 器用2 魔力3 魔力耐性3
★スキル:《進化Lv1(0/100)》
★魔術:《創造魔術》
★EXP:0/10
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このステータスという情報の中身は、僕が中学のときまでやっていたオンラインゲームと似ている。おそらく、この指輪を作った魔術師の趣味だと思われる。
僕の能力値の平均は2。ゲーム準拠だとあまりに弱過ぎる。これでは鈴木や藤丸達にボコボコにされるはずだ。とはいえ、自身と他者の能力値を把握できるようになったのは大きい。
それにスキルの《進化》とは、一体何がなんだかわからない。このステータスがゲームと同じなら、この《進化》についても詳しく知ることができるはずだ。「調査」と念ずると、頭に《進化》の情報が送られてくる。
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《進化》
必要経験値・スキルポイントが五〇分の一に、獲得経験値・スキルポイントが二倍になる。
★Lv1:(0/100)
★ランク:至高
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「スキルポイント」とはスキルが次のレベルに到達するまでに必要な値で、レベルが上がるほどより強力になるらしい。たとえば《進化》なら、スキルポイントを100稼げばLv2に到達する。
先ほど表示されたEXPとスキルポイントは、すでに《進化》の効果が適用された値だと思われる。この《進化》は途轍もなくチートだ。僕は今まで魔術師の修行をしてこなかったから、朱花や藤丸達に追いつくにはこのくらい優遇されないと不可能かもしれない。
今度は「ランク」と魔術の欄の「《創造魔術》」についても調査してみる。
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【ランク】
魔術・スキルの強度を測る指標。「一般」「固有」「至高」「混沌」「□□」があり、後者ほどより
超常的な能力となる。
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《創造魔術》
他の存在から摂取した情報から、独自の魔術・スキルを創造し、ストックする。
★ランク:混沌
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《創造魔術》は今のところ意味不明だ。そもそも僕が何でこんなものを持っているのかということからして、情報があまりに少な過ぎる。「他の存在から情報を摂取」とあるが、血液でも舐めろということだろうか。肉を食べろというのは勘弁願いたい。
次はいよいよ、僕が今最も気になっている事項を調べる。即ち、【異界の扉】についてだ。
魔術が公になった現代社会において確認されている異世界は、天族の住む天界、竜族の住む竜界、幻獣族の住む幻獣界、魔族の住む冥界、精霊族の住む精霊界、という五界のみ。
それも、この五界からしか召喚術で相手を呼び出せないことからの推測に過ぎない。
召喚された存在に異世界について尋ねようにも、彼らには人間に無暗に情報を与えてはいけないという厳格なルールがあって、情報を得るのは不可能だった。
ともかく、自由に行き来できる扉があるなど聞いたこともない。もしこれが真実だとすれば、魔術師界に激震が走るだろう。まあ僕には目的があるから、絶対に公表したりしないわけだが――
ワクワクする気分を抑えつつ扉の前に立ち、鍵穴に鍵を入れてゆっくりと時計回りに回していく。
カチャリ!
鍵の開く心地よい音が、部屋に響き渡る。
ノブに手をかけて開ける。
扉の中は闇が広がっており、先は見えない。まるで底なし沼のようだ。
普段の僕ならば少なからず気おくれしているはず。だが修練の道が閉ざされたせいか、今の僕を支配しているのは、異世界という新たな可能性に対する渇望だけだった。
その渇望のままに、勢いよく闇の中に足を踏み入れる。
◆◆◆
真っ暗闇の中を手さぐりで進む。数回、ゴツゴツとした岩のようなものに頭をぶつけ、その度に尻餅をつく。
わずかながらヒカリゴケのような発光植物が生えているらしく、暗さにも徐々に目が慣れてきた。
僕が今立つ場所は、直径四、五メートルくらいの半円形をした、赤茶けた空洞だった。おそらく洞窟か何かだろう。
ここまで来てふと気づいた。ここが真の異世界なら、お決まりの魔物がいてもおかしくはない。何も装備しておらず、魔術も使えない僕が魔物にエンカウントしても戦う術はない。一度戻り、準備を整えてくるべきだ。
踵を返そうとしたそのとき、暗闇に蠢く複数の気配を感じた。不安がもやのように全身に広がっていく。足は自然と扉へ向いていた。
「ギイィィィ!」
奇声を上げながら、背後から何かが迫り来る。僕は一心不乱で足を動かした。
【異界の扉】を抜けて扉を閉めようと振り返ると、一メートル以上もある数匹の巨大蜘蛛が眼前に迫っていた。
僕が扉を閉めるのと巨大蜘蛛が体当たりをしてくるのは、ほぼ同時だった。
(じょ、冗談じゃないって! もう少しで喰われるところだった――)
荒い呼吸を整え、気持ちを落ち着かせる。
一〇分ほど冷たい石床に腰を下ろしていると、思考はだいぶ回復してきた。
解析の結果では、この扉の名は【異界の扉】。そして見たこともないような今の大蜘蛛。即ち、扉の向こうは異世界だ。天界、竜界、幻獣界、冥界、精霊界のいずれかの可能性が高いが、それ以外の知られざる異界という可能性も捨てきれない。
ともかく、これで修練の当てができた。
無論、命を懸ける必要はあるが、明神学園は倖月家の支配する箱庭であり、元々僕などいつ殺されてもおかしくない環境。それが多少過激になったに過ぎない。
ゲームや小説と同じなら、魔物を倒せば経験値が入り、レベルが上がるはず。当面はさっきの大蜘蛛を倒し、レベルを上げることに専念しよう。
装備は、兄さんが使っていた魔術道具や武具が山ほどある。その中でも最強の装備で挑むべきだ。
食料も買い込む必要があるが、無限収納道具箱の機能を有する【万能の腕輪】があるから、買いだめしておいても荷物にはならない。
質問――
もしあなたの家に現世と異世界を繋ぐ扉が開いたなら、どのような選択をしますか?
1、《扉をコンクリートで塞ぐ》
2、《警察に通報する》
3、《異世界旅行をする》
これは《異世界旅行をする》を選択した、新米魔術師の少年が紡ぐ物語。
◆◆◆
蝉の大合唱の中、僕――楠恭弥は登校先である明神高校へ向けて、通学路をノロノロと進んでいる。
人の取る行動には必ず理由がある。つまり、僕の足取りが重いのにも確たる理由があるのである。
昇降口に着いて下駄箱を開けると、大量のゴミが勢いよく飛び出してきた。
(またか……奴らのやることには一々捻りがない)
手に取った上履きを引っくり返せば、予想通りバラバラと画鋲が落ちてくる。
「きょ、キョウ君……それ?」
背後で震える声がする。
面倒な奴に見られた。精一杯の笑みを浮かべて振り返る。
腰まで伸びた艶やかな栗色の髪に、やや垂れ気味ではあるが大きい目、鼻すじの通った美しい顔立ち。グラビアモデルも真っ青な完璧なプロポーション。
この絶世の美女は倖月瑠璃。一応僕の幼馴染だ。
「はは……瑠璃さん。おはよう」
「おはようじゃないよ! それどういうこと!?」
目尻に涙を溜めて大声を張り上げる瑠璃。
「これ? 間違って画鋲を靴に入れちゃっただけだよ。心配無用さ」
「そんなわけ――」
「瑠璃さん。おはようございます」
目鼻立ちが整った黒髪の少年が、僕と瑠璃の間に割り込んできた。
伏見月彦。
その優男のような顔立ちだけ見れば、一見華奢にも思える。しかし服の上からでもわかる鍛え抜かれた体躯が、僕のような虚弱体質ではないことを物語る。
身長は一八〇センチほどあり、一六〇センチの瑠璃と並ぶと、まさに誰しも羨む最強カップルだ。
この「カップル」という表現は単なる例えではなく、実際に月彦は瑠璃の許嫁。時代錯誤にも思える風習だが、魔術が一般的なものとなった現代日本においては頻繁に耳にする話題である。特に、彼らのような家の者にとってはそうした婚姻は必須とも言える。
月彦が、瑠璃の後ろで手を数回振る。この場から消えろという合図だ。言われなくても、倖月家の者と長話など御免被る。画鋲を近くのゴミ箱に捨てて、僕は自分の教室である1‐Dへと向かう。
(ちっ! 今日もいやがる……)
辿り着いた教室の前には、金髪で耳にピアスをした目つきの悪い男が、取り巻きと一緒に嫌らしい笑みを浮かべて立っていた。
この金髪の男は倖月陸人。これでも瑠璃の兄だ。
倖月家は、日本七大領家の一つに数えられる家系だ。七大領家とは伝統ある魔術師の家柄であり、倖月家、葛城家、三条家、藤原家、和泉家、安倍家、七宝家の七家からなる。
魔術が生活に必要不可欠なものとなり、軍事力さえも魔術に依存するこの二〇八二年の現代日本において彼らの力は凄まじく、政府もおいそれとは口出しできない。
中でも倖月家は、最大にして最強の血統だ。さらに、現当主にして瑠璃と陸人の父でもある倖月竜絃は、この明神高校の理事長をしている。
つまりここは、一種の治外法権区と言っても過言ではない。陸人などはやりたい放題で、上級生をリンチにして重傷を負わせることもざらだ。
「よう、蛆虫野郎~。いつものように地べたに這いつくばって挨拶しろよ!」
倖月家の次期当主に目をつけられれば、その者だけでなく家自体が徹底的に潰される。そう、僕の楠家のように。
だから皆、倖月家に首を垂れ、決して逆らいはしない。たとえどれほど理不尽な仕打ちを受けたとしても。
しかしそれは、屈辱に耐えてでも守るものがある場合の話だ。
確かに楠家本家には、かつては家族同然だった父の元部下達がいる。しかし、家督自体は倖月家に近しい叔父に半ば強制的に譲り渡された。つまり今の僕は唯のいち魔術師に過ぎず、仮に僕が倖月家に逆らっても、楠家がとばっちりを受けることはない。
そして僕が唯一守るべき存在は、倖月本家と話がついていて陸人にも手は出せない。だから他の生徒と異なり、僕は陸人に服従する必要がない。力で負けても、心まで折れはしない。
「…………」
無視して教室に入ろうとするが、取り巻きに行く手を阻まれる。
昨日はサンドバッグ。今日は水責めかな? さあ、何分でも付き合ってやるさ。
両腕を掴まれ、トイレに連行されそうになるが――
「待ちなさい」
凍えるような、感情の籠もっていない声が聞こえる。視線を向けると、そこには僕が今最も憎むべき女がいた。
眉目秀麗な顔立ちと、腰まで届く茶色がかったツインテール。服の下から自己主張する豊かな双丘に、くびれた腰。まさに美女の要素を全て備えた人物と言える。
彼女は明神高校三年――倖月朱花。この明神高校の誰もが憧れる聖女様だ。瑠璃の姉でもある。
「何かご用でしょうか? 朱花様」
取り巻きの一人が青白い顔で恐る恐る尋ねる。
仮にも七大領家のうちでも最大派閥の人間を前にするのだ。多少緊張するくらいならわかる。だが、同じ学生に「様」付けとは。こいつらに恥というものはないのだろうか。
「彼を離しなさい」
なぜ、虫に過ぎない僕に聖女様が情けをかける気になったかは不明だが、どうせ大した理由もあるまい。たまたま機嫌がよかっただけだ。要は姫様特有の気まぐれというやつ。
だけど僕は、この女に情けをかけられるのだけは御免だ。
「朱花さん。僕は陸人君達と遊んでいるだけですよ。口を出さないでもらえますかね?」
棘がたっぷりと含まれた僕の言葉を契機に、敵意を含んだ数十もの視線が一斉に僕に注がれる。浴びせられる罵声も、今の僕には心地よい子守唄に過ぎない。
少なくとも、この憎むべき女に情けを施されるよりかはよほどいい。
「テメエ、よくも朱花様に!」
取り巻きの一人が僕の鳩尾に蹴りを入れる。激痛とともに一瞬息ができなくなり、思わず膝を突いた。その後に、朱花、ひいては倖月家に気に入られたいであろう男子生徒達が次々と続く。
鈍い痛みが全身に走る中、一瞬朱花と視線が合う。彼女は目を大きく見開いていた。
僕が朱花や瑠璃に無礼な口を利いたという理由で殴られるのは日常茶飯事だ。それほど意外性などないだろうに……
1‐Cの教室から、松田教諭が駆けつけてくるのが視界に映るが、周りから理由を聞いて傍観を決め込んだようだ。
全くどいつもこいつも腐ってやがる。教師も学生も、全て――
「やめてぇ!!」
ドガッと鈍い音がして女生徒が吹き飛ばされ、壁に衝突した。瑠璃だ。陸人の取り巻きの男子生徒が勢いあまって蹴ってしまったらしい。
男子生徒は半泣きで瑠璃の下へ行き、土下座して謝る。陸人も若干顔が青い。竜絃が瑠璃を溺愛しているからだろう。
「楠君! 倖月瑠璃様に対する暴行、許されませんよ。これは君だけで済まされる問題ではない。すぐに職員室に来なさい!」
唐突に、松田教諭が僕の腕を掴む。
この学校に通っている生徒は、基本的に名だたる魔術師の家系であり、つまり国の政治を動かしている者達の子息。教師の立場からすれば、僕に罪を擦り付けた方が上手く事が運ぶのだろう。
「僕だけで済ませられる問題ではない」か……いやらしい奴だ。こう言われれば僕が逆らえないことを理解している。
しかし、まずいことになった。ここで倖月竜絃に睨まれると面倒だ。
あの約束は僕と倖月家による誓約。倖月家当主であっても覆すことはできない。
しかし同時に、あくまで僕と倖月家の誓約に過ぎず、倖月家と無関係な者達を拘束する効果はない。なのになぜか竜絃は、僕が課された条件に真摯に取り組む限り、倖月家と無関係な者達に対しても僕らへの手出しを禁じる声明を発した。これにより、僕は大切な妹を奪われない権利を得た。
しかしもし竜絃がこの制限を撤回すれば、倖月家に取り入ろうとする奴らが勝手に気を利かせて、僕が命よりも大切にするものを奪おうとする可能性も十分考えられる。やはり竜絃の機嫌を損ねることはできないんだ。
僕らを守ってくれる兄さんはもういない。僕は妹の沙耶のためなら恥も外聞も捨てる。そう決めたんだ。それが大好きな兄さんとの、ただ一つの約束だから。
瑠璃の前に行き、正座をして額を地面に叩き付ける。
ゴツンと額に鈍い痛みが走るが、そんなの構いやしない。
「瑠璃さん、御免なさい。僕なら、どんな罰でもお受けします。ですから僕だけで話を収めてください!」
「や、やだぁ……」
涙声の瑠璃の擦れ声が聞こえても、僕は構わず額を地面に付け続けた。
「恭弥君も反省しているようですし、どうです? 瑠璃様。話を収められては?」
松田のおもねりの間にも、罵声が飛び交う。むろん全て僕に対するものだ。その中で――
「恥知らず共は黙りなさい! あなた、それでも教師ですの? 倖月の恥知らずともども、この件はお父様に進言差し上げますわ。ただで済むとは思わないことです」
サラサラした金色の髪をかきあげながら、ショートカットの美女が前に出た。
彼女はセリア・アーチボルド。英国からの留学生であり、英国最大の魔術結社――【ソロモン】の長の愛娘。
そして、竜絃と【ソロモン】の長はライバル同士であると同時に、親友同士でもある。そのつてで彼女はこの明神高校に留学してきたが、周囲と馴染めないでいるようだ。
どうやら彼女は僕の言葉から、身内が人質に取られていることを読み取ったらしい。
この子は別に僕の友達というわけではない。本来僕を助ける義理などこれっぽっちもありはしない。彼女の発言は、卑劣な行為が死ぬほど嫌いだから出たものだろう。この腐った学校の中では僕がダントツに好きな部類の女の子だ。
アーチボルドのお嬢様まで出てきたことにより、巻き込まれてはたまらないと、観客達は蜘蛛の子を散らすようにいなくなる。残ったのは朱花、瑠璃と彼女を支える月彦、陸人とその取り巻き、瑠璃を吹き飛ばした男子生徒、セリアさんと教師だけとなった。
松田教諭が額をハンカチでふきながら、セリアに小声で詰め寄る。
「セ、セリア様。瑠璃様とぶつかったのは仕法家の御子息。これが竜絃様に知れたら、両家の間で戦争になりかねません。彼も瑠璃様に暴行を働く気などなかったと存じます。なにとぞ寛大な措置を!」
件の男子生徒はガタガタとみっともなく震えている。
「寛大な措置とはどういう意味ですの? 真実を捻じ曲げて楠君のせいにしろと?」
セリアの声が冷たくなった。まるで場の空気が十数度も冷え込んだような気がする。雰囲気に呑まれそうになりながらも、松田は必死の説得を試みる。
「元々、彼が朱花様に無礼な口を利いたのが原因です。今回の責を受けるに十分過ぎる理由かと」
セリアは朱花に、溝鼠でも見るような視線を向ける。
「貴方、また楠君を苛めてますの? いい加減、彼に付き纏うのは止めてもらえませんこと? 彼は私の大切な友達ですの」
実際は、僕とセリアはクラスで席が隣同士という程度の繋がりしかない。友達どころか週に数回しか話もしない間柄だ。
僕を助けるために、虚偽の事実を言っている。それだけ彼女が優しい人ということだ。
「わ、私は恭弥を苛めていない。ただ――」
「はい、は~い。授業の時間ですよぉ~。恭弥君には私からしっかり指導しておきますぅ。皆さぁん。教室に戻って席についてくださいねぇ」
松田教諭が声のした方に目を向けて、頬を盛大に引き攣らせる。そしてそれは陸人も同じ。
二人の視線の先には、和服を着こなした黒髪の日本人形のような美女が、扇子を右手に持ち、いかにも作ったという微笑を浮かべて佇んでいた。
彼女は倖月時雨。倖月家の分家の出であり、朱花達本家の方が圧倒的に格は上だが、竜絃も一目置くほどの戦闘能力を持つ。
具体的には、世界の魔術師の総元締めである魔術審議会が年に四回、個々の魔術師の強さを定める世界序列で、第八六七位。
つまり、世界に四〇〇〇万人近くいる魔術師の中で、八六七番目に強いというわけだ。序列千番以内は化け物中の化け物と聞く。時雨先生なら、この学校にいる全ての魔術師を相手にしても、傷一つ負うことなく皆殺しにできるだろう。
そんな人物だ。竜絃の権威などに一々ビクつきはしないし、陸人も時雨先生だけには逆らえない。
そして時雨先生は兄の師匠であることもあり、この学校における僕の唯一の理解者だ。
「時雨先生。しかし、この楠が――」
松田は反論しようと試みるが、悪鬼のごとく歪んだ時雨先生の顔を見て、悲鳴を呑み込んだ。
「うるせぇ! 餓鬼共の喧嘩に大人がしゃしゃり出やがって! 今なら特別に見逃してやるって言ってんだ。大人しく従っとくんだなぁ。さもないと――」
「ひぃぃ~」
松田は一目散に教室の中へ入っていく。
時雨先生はそんな松田をケッと一瞥し、両腕で陸人と朱花を引き寄せて耳打ちする。
「別に私はお前らが恭弥を苛めても文句は言わねぇ。恭弥は魔術師だ。魔術師なら全て自身で何とかせにゃあならん。だが、魔術師とは無関係な沙耶には手は出さない話になっていたはずだ。お前ら契約を反故にする気か? んん?」
陸人の顔はもう真っ青を通り越して土色だ。一方の朱花は悔しそうに美しい顔を歪めていた。
「絶対に沙耶には指一本触れませんよ」
「よかったぁ~。お姉さん、竜絃氏を本気で殺さなきゃならないかと心配したゾ」
ぞっとするような声で陸人に呟く時雨先生。
陸人は悲鳴を呑み込むと、取り巻き達を連れて二年の教室へと逃げるように走り去っていった。
「恭弥、私は――」
「時雨先生。僕、授業がありますので失礼いたします」
「はいな。恭弥君は放課後、私のところまで来てね。はい、は~い。皆も早く自分の教室に戻って席についてぇ~。じゃないと、お姉さんがお仕置きしちゃうぞ」
朱花が話しかけてきたが、こんな奴の顔などこれ以上見たくない。
僕は教室に急いで入ると、窓際最後尾の席につき、セリアにひと言感謝の意を述べてから机に突っ伏した。
同じクラスである瑠璃が、ホームルームが開始されるまで僕の席まで来て何やら言葉を発していたが、イヤホンをつけて大音量で音楽を鳴らしていたので聞こえはしなかった。
今の僕にとって瑠璃は、あの幼馴染の瑠璃ではない。倖月本家の倖月瑠璃だ。即ち憎むべき敵。いつか寝首をかいてやる。そのためには朱花達に従順にしているのが本来最良なのだろうが、そうできるほど僕の憎しみは小さくない。
この憎しみを風化させないためにも、僕は思い出す必要がある。憎しみの元凶を――
◆◆◆
楠家は元々、小規模の魔術師の家系。ただ小さいと言っても倖月家と遠縁の親戚にあたり、地元ではそれなりの名家だ。
母を小さい頃に亡くしたこともあって、忙しい父――利徳に代わって兄の凍夜が、僕と沙耶の面倒を見てくれていた。
優しい兄さんは、僕と沙耶にとって父親兼母親のような存在であり、尊敬すべき人だ。そんな兄に育てられていたこの頃の僕らは、確かに幸せだった。
そこにある日、不純物が交じる。
倖月朱花と瑠璃だ。
父が倖月竜絃と同級生であったため、その縁で引き合わされたのだ。夏休みには瑠璃と朱花が楠家に遊びに来るほどだったから、当時は僕らの仲も良かったと記憶している。
やがて父と竜絃は、兄さんと朱花との婚姻を決めた。
その理由は、兄さんが千年に一人の凄まじい魔力を持つ天才魔術師であり、竜絃がその血を倖月家に入れようとしたためだ。
天下の倖月家の聖女との婚約だ。その事実が知らされた日は、楠家総出でお祭り騒ぎだったのを覚えている。
だがこれが、僕らの転落の序曲だった。
二人は高校卒業と同時に結婚することになっていたが、去年になって倖月家は一方的に婚約を破棄した。普通ならただ話がもつれたものとして事は済むが、相手は倖月家。面子というものがある。奴らは婚約破棄についての全ての責任を、兄さんに押し付けた。
曰く、楠凍夜は危険思想の持ち主だ。
曰く、楠凍夜は子供を魔術の実験に使っている。
曰く、楠凍夜は禁術の研究をしている。
曰く、楠凍夜は……
凍夜という人物を知る者なら信じ得ないような内容をでっち上げ、あまつさえ父の利徳にまで責任を取るよう迫った。
それからすぐ、父は病死した。元々胸を患っており、この件で一気に心労が重なったせいだろう。
そして兄さんは、自身が近くにいては僕と沙耶が不幸になると考えたのか、姿を消してしまう。「沙耶を守れ」という手紙を残して。
僕は兄さんとは違い、才能がない。何より楠家の家督は兄が継ぐことになっていたから、それまで魔術師としての修行をしてこなかった。
「楠家は伝統ある魔術師の家系であり、魔術師としての適性のない者は当主にふさわしくない」と、楠の本家と分家の幹部達は口を揃えて主張した。だが本当のところは、これ以上倖月家に睨まれるわけにはいかない、と考えたのだろう。
楠家の幹部達が次期当主として指名したのは、倖月本家と関わりが強い分家筋の叔父さんだった。僕らは、楠の本家が代々受け継いできた屋敷を、半ば強制的に叔父さんに売却させられてしまう。
確かに、父さんと兄さんの思い出が籠もった家を出ていかなければならないのは悲しかった。けど、同時にどこか安堵してもいた。僕は魔術師になどなりたくはなかったから。ただ沙耶と、何げなく掛け替えのない日々を送れれば、それでよかったから。
だから僕は幹部達の決定に素直に従い、沙耶と二人で魔術師と無関係な人生を送ろうとした。
しかし、ここで再び倖月家からストップがかかる。
僕は竜絃から直々に呼び出され、一方的にあることを誓約させられた。
その内容は、明神高校に入学し、三年間で首席になること。仮になれたら、僕の望みを一つだけ叶えてくれるそうだ。だが成し遂げられなければ、竜絃の指示に一生従わされる。要するに首席になれなければ、僕と沙耶は破滅なわけだ。
馬鹿馬鹿しい。手元には屋敷を売った金があるから、沙耶と慎ましく生活するには事欠かない。この命令を受ける意味などなかった。
即座に断ろうとすると、拒絶すれば沙耶が入学する学校に受け入れを拒否させると言いやがる。
倖月竜絃がやると言ったら、それは必ず真実となる。沙耶に不便な思いだけはさせたくはなかった。受け入れざるを得なかったのだ。
だがその分、条件を付けてもらった。僕はどんな扱いを受けてもいいが、沙耶だけは今まで通り平穏に暮らさせること。
竜絃はその約束を忠実に守った。
沙耶は日本一のお嬢様学校に通い、付属の女子寮に住んでのんびりとした学園生活を送っている。
そして僕に対してもしかりだ。「どんな扱いを受けてもいい」という僕の言葉通り、入学してからここ数か月、様々な嫌がらせを与えられてきた。
当初、竜絃達倖月家の行動には一々疑問を感じていた。僕が明神学園一の使い手になっても向こうに得などない。むしろ百害あって一利なしというやつだ。
きっと明神学園への入学の強制は、凍夜に失望させられた朱花の意趣返しなのだろう。行方不明の兄さんには当たれないから、弟である僕に当たっているに違いない。
くだらない。実にくだらない女だ。兄も最悪の女に引っかかったものだ。
◆◆◆
「クズノキ。お前、もしかしてそれが本気かぁ? 女でもそんな非力な奴はいねぇぞ」
「鈴木、あんま苛め過ぎんなよ。次がつかえてるんだかんな!」
ここは明神高校第一修練所。今は男子と女子に分かれて体術の実技を行っており、模擬試合という名の僕へのリンチの真っ最中だ。
リング状の闘技場には特殊な結界が張ってあり、それには実際のダメージを魔力の消費によって回復する効果がある、と聞いた。つまり攻撃を受けても怪我をすることはなく、魔力を消費した気だるさが残るだけであるが、痛みまで取り去ってくれるわけではない。
こんな条件だ。鈴木というクラスメイトが手加減するはずもなく、僕は罵声と嘲笑を浴びながら好き放題なぶられている。
さらに言えば、担当教師は例の松田とかいういけ好かない教師であり、顔に気持ち悪い笑みを浮かべながら僕の醜態を見ている。
腹部、眉間、頬、鼻、口、右腕、左腕、右足、左足。次々に殴られ、蹴られ、踏みつけられる。
だが構わない。実力が増すまでの当面は、僕はこれを痛みに慣れるための訓練にしている。
そもそもここの学生は皆、幼少期から魔術師としての英才教育を受けてきた、世界でも有数のエリート達。僕のように去年から魔術師となった素人とは年季が違っている。
強くなりたいのなら、虚弱という現状を潔く受け入れ、怒りの肥やしにするべきだ。どの道、僕が首席になれば、こんなくだらない連中ともおさらばできる。
強くなってやるさ。誰よりも!
「な、なんだ、あいつ? あれだけ殴られてんのに、ニヤニヤしてんぞ。気持ち悪ぃ!」
「殴られ過ぎておかしくなったんじゃねぇの?」
若干焦り気味の声が四方八方から聞こえる。
馬鹿馬鹿しい。お前達は魔術師なのだろう? なら人の命を奪う覚悟も奪われる覚悟もできているはずだ。仮にそれが、こんな実習であったとしても。
「どけ鈴木、俺がやる」
「ふ、藤丸……さん」
鈴木が闘技場からイソイソと出ていき、入れ替わりに筋肉の塊のような黒髪の巨漢が歩いてくる。
葛城藤丸。七大領家のうちの一つ、葛城家の次期当主。見かけ通り、肉体強化の白魔術だけなら葛城家一とも噂され、すでに教師達の実力を超えているらしい。
対して僕は白魔術の初歩である強化すらできない。相手の一撃にも耐えられないだろうが、どうせ死にはしない。一度爆砕されるのもよい経験だ。
取り敢えずの僕の目標は、時雨先生と同様、世界序列千番以内に入ること。そうなれば、何者にも僕と沙耶を脅かすことはできなくなるだろうから。
この目標がどれほど突拍子もないことかくらい、自分でも理解している。少なくとも、目の前の脳筋バカにビビッているようでは到底達成は不可能だ。
「お、おい。さすがにマズイんじゃねぇのか?」
「ああ、下手すりゃあ痛みでショック死すんぞ」
「松田の奴、止めないんですかね?」
松田は笑みを消してはいたが、葛城家の邪魔はしないようだ。好都合だ。止めてもらっては困る。
学園最強の一角とはどれほどのものか、一度この身に受けてみたかった。
自分の口角が不自然に吊り上がるのが分かる。
僕の中で一つのルールを設定する。この脳筋野郎にワンパンを入れること。ダメージは与えられなくても、それだけで僕の勝利だ。
藤丸の右ストレートが、豪風を巻き起こしながら僕の頭上スレスレを通過していく。気を抜けば、僕の華奢な体など風圧だけで吹き飛ばされるに違いない。実戦なら、当たれば木端微塵だろう。
次の右回し蹴り、左ジャブ、右ストレート。左アッパー、全て紙一重でかわす。
藤丸の顔から先ほどまでの余裕が消える。どうやら遊びは終わりらしい。
今の僕のスピードでは、本気の藤丸の攻撃を避けるのは不可能だ。なら避けない。
左半身が前になるよう体を傾け、姿勢を低くし、敵の狙いを限定する。
「シッ!」
藤丸の右ストレートが僕の視界から消えると同時に、真っ赤に焼けた灼熱の棒で串刺しにされたかのような痛みが僕の左腕を襲った。
思わず叫び出しそうになるが、歯を食いしばり、右手をきつく握って渾身の力で打突する。
僕の右拳は藤丸の左頬に吸い込まれ、ゴン、という重たい音が闘技場内に響く。
右拳から鈍い感触が伝わる中、僕の意識はプッツリと消えた。
第2話 異界の門
「お~い。恭弥、起きろ~。起きないとお姉さん、目覚めのキスしちゃうぞ!」
嗅覚を刺激する薬品の臭いに顔をしかめながら瞼を開けると、目の前では黒髪の日本人形が瞼を閉じていた。それを押しのけてベッドから上半身を起こす。
「時雨先生……いい年して何してんですか? イテッ!」
すかさず頭に拳骨を食らう。
時雨先生は歳のことを指摘されると、このように激烈に反応するのだ。現実逃避も甚だしい。
「恭弥、藤丸に一撃当てたらしいじゃん。おめでとう!」
「はあ……ありがとうございます」
僕は自分で定めた試練を無事クリアしたようだ。静かな喜びが泉のように湧き出てくる。
この調子で一つずつ試練を設定していけば、いつかは目標に到達し得ると信じたい。
「その顔、考えていることが丸わかりだけどねぇ。それ無理よぉ」
「無理? どういうことです?」
「今日の恭弥の戦闘を見た全教員が同じことを考えたと思うわぁ。恭弥は魔術はずぶの素人。だけど戦闘センスはズバ抜けている。おそらくこの学園内でもトップクラス」
「ちょ、ちょっと待ってください。僕にそれほどの戦闘センスなどあるはずがありませんよ」
僕の戦闘センスが学園トップクラス? んなわけあるか! さっきも、油断した藤丸の左頬にワンパン入れただけ。実に情けない結果だ。
「……君と藤丸とでは天と地ほども力の差がある。当然だ。藤丸は物心がついた頃から対人戦闘の英才教育を受けている。だけどその藤丸に、君は一撃を与えた。仮にあれが実戦で、特殊な魔術的付与をされた武器を装備していたら、死んでいたのは恭弥ではない。顔面という急所を打ち抜かれた藤丸の方だ」
時雨先生の様子はさっきのおちゃらけた姿とは一変していた。おそらく本心なのだろう。
そうすると、「無理」というのは……
「今後、実習教官達が僕を修練に参加させなくなるということですか?」
「そう。奴ら、恭弥を追い落とすことが倖月家からの評価に繋がると固く信じちゃってるからね。理由をつけて見学させられるわよぉ」
入学して数か月、やっと修練方法が掴めてきたんだ。それなのに、修練に参加させない? あり得ない。それじゃあ、時間だけが無駄に過ぎていくだけだ。
時雨先生が断言口調で言っている時点で、これは決定事項なのだろう。また振り出しに戻ってしまった。新たな修練方法を考えねばならない。
しかし、魔術の素人の僕には今日のような実戦方式でもなければ急速に実力を上げる手段など思いつかない。八方塞がりというやつだ。
時雨先生もこの件では部外者。戦い方を教えてはくれないし、助言もしてくれない。
「今日は早退していいわよぉ。禿校長には私の方から連絡しておくからぁ。はい、これ恭弥の荷物」
「ありがとうございます」
ありがたい。今日は今後の戦略を練り直したい。もう修練に参加させてもらえないとすると、そもそも計画の立て直しが必要かもしれない。
時雨先生に一礼して医務室を出ると、僕が今一番嫌悪している奴が目の前にいた。
(こちとら死にかけたんだぞ! まだ何かしようってのか……こいつはどんだけ無慈悲なんだよ!)
朱花と視線を合わせずその横を過ぎ去る。ともかく僕はこいつと同じ空気を吸っていると思うだけでゲロ吐きそうだ。
「ちょっと、体は大丈夫なの?」
ひどく神妙な顔つきで朱花が僕の腕を掴む。
僕の顔は、腹痛でも起こしたようにくしゃくしゃに歪んでいた。無論、激烈な嫌悪感からだ。そんな顔を見た朱花は唖然として体を硬直させたので、すぐに振り払うことができた。
「あ……」
足の動きが自然と速くなる。
情けないが、ここでこの女につかまると今朝のような茶番に付き合わされるはめとなる。
いつもならそれも精神修行の一環として諦めもつくが、今日は未来への道が閉ざされて心底落ち込んでいる。これ以上の心的負担は正直避けたい。
下駄箱に行くと、今度は瑠璃がいた。
僕と違い、倖月の奴らは魔術の才能があるのだ。僕などに構っている暇があるなら、自己の修練に費やせばよいだろうに。
「キョウ君、よかった無事で――」
「瑠璃さん。探しましたよ」
月彦だ。助かった。僕の知る中では、月彦はトップレベルに使える奴だ。何せ、瑠璃と僕の接触をことごとく阻んでくれる。
瑠璃が月彦と話している間に下履きに履き替えて、学校を後にした。
僕の今の住居は、知り合いの不動産屋に紹介してもらった家(というより屋敷)だ。
なんでもお化け屋敷として有名で、なおかつ森の中にあるので買い手がつかず、不動産屋としても困っていたらしい。
父と兄という生粋の魔術師を家族に持つ僕にとって、幽体などさほど珍しいものではない。むしろ鬱陶しいセールスなどの部外者が寄り付かないだけ優良物件といえる。しかも破格の安さで購入できたとあって、まさに至れり尽くせりだ。
しかし、何事にも良い部分があれば悪い部分もあるのが常である。前居住者の家財が、全く撤去されていないのだ。半数は使えるが、もう半数は腐るか壊れるかしていて使用不可。これらの撤去作業が僕の著しい負担となっていた。
だが今日のような精神状態が最悪のときには、単純作業をすると気がまぎれるものだ。そういうわけで現在、屋敷の離れにある倉庫の整理に勤しんでいる。
倉庫の中には食器や金物、不気味な民芸品、古めかしい甲冑に剣、壺をはじめとする骨董品などがあった。お転婆の沙耶に手伝わせれば、さぞかし喜んだことだろう。
暫く倉庫整理に熱中していた僕だったが、一旦休憩しようと考えた。そうして座る場所を確保すべく壁際にあるガラクタを掻き分けていると、壁の一部分が崩れかかっているのが視界に飛び込んできた。
(ミステリー系の小説だったら、ここから白骨死体が出てくるのが定番だよね……ん~、でもよく考えたら白骨など別に珍しくないかな……)
父の専攻は降霊術だった。その降霊術にはアンデッド生成の魔術もあり、一時期は家中がスケルトンとゾンビで溢れかえったこともあった。その珍事と比較すれば白骨死体など動揺するに値しない。せいぜい警察に通報するのが面倒であるくらいだ。
その壁はやけに新しかった。崩れそうなのは、ヤケクソ気味にコンクリートを塗りたくったせいだろう。
バールで叩いて全壊させると、地下への階段が出現した。
地下室? こんな面白いものを調べない手はない。特に今日は学校で碌なことがなかった。小冒険ならストレス発散にもってこいだ。
懐中電灯を片手に地下に下りていくが、基本一本道の通路だった。突き当たりには、重そうな白い石の扉がドンと聳え立っていた。
渾身の力で扉を開けて中に入ると、そこはまさに白一色。白い天井、白い壁、白い床。あたり一面徹底的に真っ白であり、ここまでくると製作者の感性が疑われる。
そんな狂ったように真っ白な部屋の中心には黒い箱が置かれ、最奥には絢爛豪華な装飾がなされた漆黒の扉があった。
(この黒い扉と箱は一体……?)
「好奇心は猫をも殺す」という言葉を無視するのが、魔術師の本分と言ってもいい。僕とてこの半年はどっぷり魔術に浸った魔術師だ。見過ごす選択肢などあろうはずもない。
黒箱をゆっくりと開けると、そこには腕輪、指輪、鍵、そして陽炎のような漆黒のオーラを絶えず発生させているサッカーボールほどのサイズの水晶があった。
腕輪、指輪、鍵を手に取って調べてみると、それぞれ細かい装飾が隅々まで張り巡らされていた。もしこの装飾が魔術文字なら、この屋敷の旧所有者は魔術師で、しかもここは魔術師が術を研鑽するための「特殊工房」ということになる。魔術師の特殊工房があんな低価格で売りに出されたなど、笑い話にすらならない。
魔術の存在が世界に認知されたのは二〇五〇年。すでに三〇年以上の月日が経過しているが、それでも魔術師は自らの魔術を本能的に隠そうとする。
魔術審議会は、魔術師と魔術師が有する工房の登録を呼びかけているのだが、拒否する魔術師も少なからずいる。そうした魔術師が死亡すれば、その工房は誰に知られることもなく消えていく。ここも、そうした工房の一つだと思われる。
あとは黒水晶だが……肌にピリピリくる感じといい、猛烈にヤバイ予感しかしない。何かしらの魔力を秘めていると見て間違いなかった。
本来、この黒水晶については魔術審議会に報告し、その指示を仰ぐべきなんだろう。仮にそれなりに貴重なものならば、金一封くらい出るかもしれない。
だが、僕は別に金には困っていない。僕に今必要なものは、力だ。
何者にも僕と沙耶にちょっかいを出させないだけの力。そう! 倖月家さえも正面から敵に回せる力が!
だから――ゆっくりと、僕は黒水晶に手を伸ばす。意を決し、両手で黒水晶を掴み持ち上げる。
突如、多量の漆黒の闇が黒水晶から高速で湧き出し、白い部屋を黒く染め上げた。
同時に、僕の意識もストンッと闇へと落ちていく。
◆◆◆
ひんやりした石床の感触に身震いしながら体を起こし、周囲を見渡す。
当たり前だが、あの狂ったように真っ白な部屋だ。腕時計で確認すると現在、午後四時ジャスト。二時間近く寝ていたことになる。
あれだけ禍々しい魔力を垂れ流していた黒水晶は、灰色の石へと変貌して床に転がっていた。持ち上げて調べてみるが、何の変哲もないただの石だ。少々、対処を誤ったかもしれない。
だが体の調子はどこも悪くないようだし、あの闇は毒や呪いの類ではなかったのだろう。デメリットがないなら、僕にとってマイナスとはならない。
腕輪と指輪も、試しに装着してみることにする。
今度こそトラップが仕込んであるかもしれないと考えれば、装着することに躊躇いはある。竜絃との誓いを果たす前に僕が死亡した場合、沙耶がどうなるかは想像するに容易いから。
しかし、どの道、今のままでは首席を取るどころか落第だ。今より強くなれる可能性があるなら、冒険をしないわけにはいかないのだ。
恐る恐る、腕輪と指輪を嵌める。だが別段変わったことはない。緊張で息を止めていたせいで肺に溜まっていた空気を一気に吐き出し、額の汗を拭う。
装着しても、利するところもなければ害するところもないようだ。気合を入れた分、拍子抜けしたが、魔術師が他者に頼ろうとするのがそもそも間違いなのだ。何事もなかっただけよしとする。
残るは鍵と漆黒の扉。普通に考えれば、この鍵であの扉が開くのだろう。
早速調べてみようと扉の前に行き、調査を開始しようとすると――
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【異界の扉】
異界と現界の二点を繋ぎ、自由に行き来が可能となる扉。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
突如、頭の中に情報のイメージ映像が浮かび上がった。
(へ? 何これ……?)
この不可思議な現象を確かめるべく、扉を触ったりと色々試したが、何も起きない。
心臓の鼓動が、シーンと静まり返った地下室に五月蠅いくらい鳴り響く。
(落ち着け! 冷静にならなきゃ得られるものも得られない! まずは再現だ。僕はこの扉を調査しようと――)
再び、情報が脳裏に浮かぶ。
(掴めたかもしれない)
扉に視線を向け「調査」と心の中で唱えると、またも【異界の扉】の情報が僕の脳に与えられた。
(ビンゴ! やはり、対象に視線を向けて「調査」と唱えることがこの現象の発動条件だ)
続いて、鍵、腕輪、指輪を「調査」してみる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【異界の鍵】
【異界の扉】を開ける鍵。この鍵なくしていかなる存在も扉を通過することはできない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【万能の腕輪】
《既来転移》《無限収納道具箱》《万能翻訳》の三つの効果がある腕輪。
◎《既来転移》:腕輪に触れている者を一度訪れた場所に転移させる。一日に二度のみ使用可能。
◎《無限収納道具箱》:腕輪に触れたものを無限に収納できる。生ある者は収納不可。収納され
たものは劣化しない。
◎《万能翻訳》:知能を有するあらゆる存在の言葉を理解し、発音することが可能となる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【解析の指輪】
視認したありとあらゆるものを解析できる。発動には「調査」と念じることが必要。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ありとあらゆるもの」ということは、生物も可能なのか? 僕自身を見て「調査」と唱えてみる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ステータス:【楠恭弥】
★Lv:1
★能力値:HP6/6 MP12/12
筋力1 耐久力3 俊敏性2 器用2 魔力3 魔力耐性3
★スキル:《進化Lv1(0/100)》
★魔術:《創造魔術》
★EXP:0/10
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
このステータスという情報の中身は、僕が中学のときまでやっていたオンラインゲームと似ている。おそらく、この指輪を作った魔術師の趣味だと思われる。
僕の能力値の平均は2。ゲーム準拠だとあまりに弱過ぎる。これでは鈴木や藤丸達にボコボコにされるはずだ。とはいえ、自身と他者の能力値を把握できるようになったのは大きい。
それにスキルの《進化》とは、一体何がなんだかわからない。このステータスがゲームと同じなら、この《進化》についても詳しく知ることができるはずだ。「調査」と念ずると、頭に《進化》の情報が送られてくる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《進化》
必要経験値・スキルポイントが五〇分の一に、獲得経験値・スキルポイントが二倍になる。
★Lv1:(0/100)
★ランク:至高
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「スキルポイント」とはスキルが次のレベルに到達するまでに必要な値で、レベルが上がるほどより強力になるらしい。たとえば《進化》なら、スキルポイントを100稼げばLv2に到達する。
先ほど表示されたEXPとスキルポイントは、すでに《進化》の効果が適用された値だと思われる。この《進化》は途轍もなくチートだ。僕は今まで魔術師の修行をしてこなかったから、朱花や藤丸達に追いつくにはこのくらい優遇されないと不可能かもしれない。
今度は「ランク」と魔術の欄の「《創造魔術》」についても調査してみる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【ランク】
魔術・スキルの強度を測る指標。「一般」「固有」「至高」「混沌」「□□」があり、後者ほどより
超常的な能力となる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《創造魔術》
他の存在から摂取した情報から、独自の魔術・スキルを創造し、ストックする。
★ランク:混沌
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《創造魔術》は今のところ意味不明だ。そもそも僕が何でこんなものを持っているのかということからして、情報があまりに少な過ぎる。「他の存在から情報を摂取」とあるが、血液でも舐めろということだろうか。肉を食べろというのは勘弁願いたい。
次はいよいよ、僕が今最も気になっている事項を調べる。即ち、【異界の扉】についてだ。
魔術が公になった現代社会において確認されている異世界は、天族の住む天界、竜族の住む竜界、幻獣族の住む幻獣界、魔族の住む冥界、精霊族の住む精霊界、という五界のみ。
それも、この五界からしか召喚術で相手を呼び出せないことからの推測に過ぎない。
召喚された存在に異世界について尋ねようにも、彼らには人間に無暗に情報を与えてはいけないという厳格なルールがあって、情報を得るのは不可能だった。
ともかく、自由に行き来できる扉があるなど聞いたこともない。もしこれが真実だとすれば、魔術師界に激震が走るだろう。まあ僕には目的があるから、絶対に公表したりしないわけだが――
ワクワクする気分を抑えつつ扉の前に立ち、鍵穴に鍵を入れてゆっくりと時計回りに回していく。
カチャリ!
鍵の開く心地よい音が、部屋に響き渡る。
ノブに手をかけて開ける。
扉の中は闇が広がっており、先は見えない。まるで底なし沼のようだ。
普段の僕ならば少なからず気おくれしているはず。だが修練の道が閉ざされたせいか、今の僕を支配しているのは、異世界という新たな可能性に対する渇望だけだった。
その渇望のままに、勢いよく闇の中に足を踏み入れる。
◆◆◆
真っ暗闇の中を手さぐりで進む。数回、ゴツゴツとした岩のようなものに頭をぶつけ、その度に尻餅をつく。
わずかながらヒカリゴケのような発光植物が生えているらしく、暗さにも徐々に目が慣れてきた。
僕が今立つ場所は、直径四、五メートルくらいの半円形をした、赤茶けた空洞だった。おそらく洞窟か何かだろう。
ここまで来てふと気づいた。ここが真の異世界なら、お決まりの魔物がいてもおかしくはない。何も装備しておらず、魔術も使えない僕が魔物にエンカウントしても戦う術はない。一度戻り、準備を整えてくるべきだ。
踵を返そうとしたそのとき、暗闇に蠢く複数の気配を感じた。不安がもやのように全身に広がっていく。足は自然と扉へ向いていた。
「ギイィィィ!」
奇声を上げながら、背後から何かが迫り来る。僕は一心不乱で足を動かした。
【異界の扉】を抜けて扉を閉めようと振り返ると、一メートル以上もある数匹の巨大蜘蛛が眼前に迫っていた。
僕が扉を閉めるのと巨大蜘蛛が体当たりをしてくるのは、ほぼ同時だった。
(じょ、冗談じゃないって! もう少しで喰われるところだった――)
荒い呼吸を整え、気持ちを落ち着かせる。
一〇分ほど冷たい石床に腰を下ろしていると、思考はだいぶ回復してきた。
解析の結果では、この扉の名は【異界の扉】。そして見たこともないような今の大蜘蛛。即ち、扉の向こうは異世界だ。天界、竜界、幻獣界、冥界、精霊界のいずれかの可能性が高いが、それ以外の知られざる異界という可能性も捨てきれない。
ともかく、これで修練の当てができた。
無論、命を懸ける必要はあるが、明神学園は倖月家の支配する箱庭であり、元々僕などいつ殺されてもおかしくない環境。それが多少過激になったに過ぎない。
ゲームや小説と同じなら、魔物を倒せば経験値が入り、レベルが上がるはず。当面はさっきの大蜘蛛を倒し、レベルを上げることに専念しよう。
装備は、兄さんが使っていた魔術道具や武具が山ほどある。その中でも最強の装備で挑むべきだ。
食料も買い込む必要があるが、無限収納道具箱の機能を有する【万能の腕輪】があるから、買いだめしておいても荷物にはならない。
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