2 / 2
第二話
しおりを挟む「鍋子、私これからどうすればいい?」
『なべこ……安易ですがまあいいでしょう。マスターここは結構平坦なスペースみたいです。とりあえずこの場所を拠点にして周囲を探索しませんか?』
鍋、命名『鍋子』の提案に従い、私は周囲を探索することにした。今いる場所は四角いなかなかに広いスペースで、石はごろごろしているが平坦な部屋だ。壁は岩でできているので洞窟の中にでもいるのだろうか。
あのイケメンは私をいったいどこへ飛ばしたんだろう。
部屋の外へ出ようと一歩足を踏み出した途端。
ぐぅ~と私の腹から情けない叫びがあがった。そういえば、あのときは放課後でちょうどお腹が空く時間帯だったな。お菓子を食べそびれたことを思い出し、空腹感が一気に増す。
「鍋子ー、お腹すいた」
『しょうがありませんねー。部屋に戻って何かないか探してみてください』
部屋は石やら岩やらがごろごろしているが、植物も生えており葡萄みたいな形をしたものが蔓に繋がって沢山ぶら下がっていた。
もぎもぎフルーツ。
「食べられるかなー?」
『とか言いながら、口に入れようとしないで下さいアホマスター。わたしは解析も可能ですのでそれをわたしの中に入れてください』
またアホ呼ばわりされてムッとしながらも葡萄もどきを鍋子の中に放り込み、蓋を閉める。
『解析中。解析中…………チーン、解析終了。物質名『ブドウモドキ』毒性なし』
そのまんまの名前だった。分かりやすくていいね。
「これ食べられるんだね?」
『そうですね、ですが待って――』
「いっただっきまーす―――――かたっ!!」
歯がごりぃっと言った。コンクリート齧ったみたいな強烈な硬さに涙目になる。
『だから待てと言ったでしょう。待てできないとか駄犬ですかマスター』
「うるさいなぁ、お腹ぺこぺこなんだってばー!」
バタバタ暴れれば、鍋子が深く溜息を吐く。
『それをもう一度わたしの中に入れてください。食べられるようにクラフトしますから』
「あ、料理もできるんだ?」
『クラフトです』
あくまでクラフトという機能らしい。そう言い張って、鍋子はクラフトモードになり、数秒後、電子レンジみたいにチーンと音を鳴らした。
『クラフト終了、『ブドウ』を手に入れました』
「…………普通の葡萄でてきた」
果実をつまんで、皮をはぎ、口にいれる。…………うん、葡萄だ。慣れ親しんだ葡萄さんだ。異世界なのになんて驚きのない素朴な味なんだ。
『なんですか、不満でもあるんですか』
「いえ……不満はありません」
ちょっと、残念だっただけで。
鍋の蓋が閉められればいくらでもいれてOKだというのでブドウモドキをいくつか鍋子の中に入れてクラフトした。
葡萄は美味しい。瑞々しくて、すっぱすぎない絶妙な甘さだ。いくらでも食べられるわーと思って齧っていたが、やはり五房目にもなると飽きがきた。
「肉……肉が食べたい」
『でしたら肉のある魔物を捕まえてください。クラフトします』
「それって多分獣系だよね。……入るの?」
『入ると思います?』
鍋子を持ち上げてくるりと一週させて眺める。小動物は入りそうだが、それ以外は無理そうだ。
『その場合は、素材の一部でも入れていただければクラフト可能です』
「そうするとその素材になるものは私が倒さなきゃダメってことだよね?」
『そうなりますね』
「私の装備、鍋子だけなんだけど」
『がんばってください』
投げやりー。
運動神経はそれなりにある方だと思うけど、文化部(漫研)だったし、反射神経には自信あるけど腕力にはそんなに……。こんなことになるなら脳筋部に入ってムキムキを目指すべきだったか。
自分の細い腕を眺めて溜息をついていると、鍋子がぶるぶる震えた。
『と言ってもどうしようもないと思いますので、その辺に転がっている適当な石をわたしの中に入れてください』
「え? これでいいの?」
ころんと脇にあった石を鍋子の中に放り込み石を入れ、蓋を閉めると鍋子はクラフトモードになり、ガタガタ揺れ始めた。
『クラフト中。クラフト中。素材分岐に入ります。武器素材、工作素材どちらに進みますか?』
「え……どっち?」
『今回は武器素材に進みます。……ちーん、『石の剣』を手に入れました』
スモークと共に現れたのは石でできた剣だった。手触りはつるすべで感触は冷たい。斬るというよりは殴る系のような気もする。
『入れる素材によっては素材分岐し、色々な素材に変化させることが可能です。今回は武器素材に分岐させましたが、工作素材たとえば石のツルハシなども作成が可能です』
「おお、石一つでそんなものが! とりあえずこれで武器確保と。攻撃力は?」
『ピピッ、石の剣の攻撃力、五ポイントです』
「あ、あんまり高くない……ね」
『所詮石ですから。もっと価値の高い素材を入れていただければ攻撃力の高い武器の作成ももちろん可能ですよ』
と言うので、鉱石堀と言ったらツルハシだよね。ということで石をもう一度入れて、石のツルハシをクラフトしてもらった。
石の斧、石の槍、石の盾も作れたのでどんどんクラフト。
していると。
『ぴかーん! 鍋子がレベルアップしました。ただ今のレベル二です。ランク二までの素材をクラフトできるようになりました』
おお、鍋子がレベルアップした。
「強くなったの!?」
『強度は上がりません。できることが増えただけですバマスター』
「馬鹿って言ったな!? 今、馬鹿って言ったでしょ!」
『~~♪ ~~♪』
鍋子の性格が分かってきたような気がする。コノアマ。
鍋子の性能が上がったところで、私はようやく部屋から一歩前へ踏み出した。左手に石の盾、右手に石の剣、背中に鍋子を背負っていざ、出陣!
と思ったけどさ。
「剣とか持ってても使えない気が……」
「ピピッ、七北楓のステータスを表示します。
戦闘レベル1
HP:10p
MP:5p
攻撃:5p
防御:3p
俊敏:7p
魔力:0p
剣熟練度:1p
斧熟練度:0p
槍熟練度:0p
弓熟練度:1p
採掘熟練度:0p
採取熟練度:1p
釣り熟練度:1p
クラフト(鍋子)レベル2
剣の熟練度が1pあるので使えることは使えるみたいですよ』
目の前にステータス画面が現れた。鍋子、なんでもありだな。まるでゲームみたいだが鍋子にレベルがある時点でゲームでした。
私にもレベルや色々なステータスがあるらしく、ずらーっと並んでいるがなにがなにやら。とりあえず剣熟練度が1pあるので剣の使用は可能らしい。剣も魔法も使えないと思っていたけど剣はなんとか扱えるようだ。魔力が0pだから魔法はやっぱり使えないか。いつか使えるようになりたいなぁ。
剣熟練度が1pあるのは、あれかな友達と時々チャンバラごっこしてたからかな。弓は中学ん時、弓道部だったからだと思う。
部屋を出て、広い通路に足を踏み入れる。洞窟の中のようだが、周囲の目が効くくらいあたりは薄明るい。岩自体がぼんやりと輝いているのと、時々足元に生えている花みたいなのが光っているから視界が真っ暗闇に閉ざされることはなさそうだ。
一応、光る花が気になって鍋子に解析してもらうと。
『ちーん、解析終了。物質名『ホタル草』毒性なし、仄かに光輝く夜の花』
クラフトしてみると『光る粉』が出来上がり、撒くと光の道ができた。これで小鳥さんに食われることなく道しるべにすることができる。ここはどうやらダンジョンの真っただ中みたいだし、拠点が分からなくなると危険だから道しるべは大事だ。
私は道中、ホタル草を摘んでクラフトし、粉を撒きながら洞窟内を進んで行った。
『ステータス上昇を確認しました。
採取熟練度:2p』
0
お気に入りに追加
2
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
異世界楽々通販サバイバル
shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。
近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。
そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。
そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。
しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。
「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない
しめさば
ファンタジー
急遽異世界へと転生することになった九条颯馬(30)
小さな村に厄介になるも、生活の為に冒険者に。
ギルドに騙され、与えられたのは最低ランクのカッパープレート。
それに挫けることなく日々の雑務をこなしながらも、不慣れな異世界生活を送っていた。
そんな九条を優しく癒してくれるのは、ギルドの担当職員であるミア(10)と、森で助けた狐のカガリ(モフモフ)。
とは言えそんな日常も長くは続かず、ある日を境に九条は人生の転機を迎えることとなる。
ダンジョンで手に入れた魔法書。村を襲う盗賊団に、新たなる出会い。そして見直された九条の評価。
冒険者ギルドの最高ランクであるプラチナを手にし、目標であるスローライフに一歩前進したかのようにも見えたのだが、現実はそう甘くない。
今度はそれを利用しようと擦り寄って来る者達の手により、日常は非日常へと変化していく……。
「俺は田舎でモフモフに囲まれ、ミアと一緒にのんびり暮らしていたいんだ!!」
降りかかる火の粉は魔獣達と死霊術でズバッと解決!
面倒臭がりの生臭坊主は死霊術師として成り上がり、残念ながらスローライフは送れない。
これは、いずれ魔王と呼ばれる男と、勇者の少女の物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
面白かったです! 続きを見てみたいです!