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僕の彼女がガ〇ダムオタクで困っています

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 ヤバい、と思った。

 待ち合わせの時間に30分も遅れている。
 今日は彼女の桜ノ宮京子とカラオケに行く約束をしていたのに、寝坊をしてしまった。


『ごめん、寝坊した』


 といったLINEを送ったものの、いっこうに“既読”の表示が出ない。
 つまり、見ていない。
 “既読”の表示が出ないようにするアプリがあるようだけど、彼女はきっとそんなものに興味はないだろう。そもそも、スマホを使っているところをあまり見たことがない。彼女にとってスマホとはカメラ機能以外特に使い道はないのだから。


「ごめん、待った!?」


 息を切らしながら待ち合わせの場所に着くと、桜ノ宮京子は腕を組み、顎に手を添えながら仁王立ちで立っていた。ずっとこの状態で待っていたのだろうか。


「遅い!!」


 彼女は言った。
 金髪ですらりと背が高く、目はバッチリと大きい。白くてぴっしりとしたシャツに黒いスラックス。やや細面ではあるものの、その印象は一流モデルのようだ。
 すれ違う男たちはみな、顔を赤らめながら彼女を凝視していた。
 それほどまでに、僕の彼女・京子はカッコいい。

 ただ、難点がひとつ。


「貴様、それでも公国軍士官か!!」


 彼女は生粋の『ガ〇ダムオタク』なのである。
 しかも、最近のものではなく、旧来のシリーズ。つまり宇宙世紀もの。
 彼女の影響で僕も多少はガン〇ムについて知識を持ってはいるものの、僕にとっては彼女の言動の元ネタがわからなすぎて困ってしまう。


「ごめん、寝坊してさ。LINE、送ったんだけど…」
「歯ぁ食いしばれ!! そんな大人、修正してやる!!」


 殴られた。
 ガチで殴られた。
 遅れただけで殴るか、普通。
 殴った当人は「これが若さか」とか言っちゃってるし。
 それ、こっちのセリフだよね。


「何も殴ることないじゃん!!」


 頬を抑えながら僕は言った。痛みでジンジンしている。


「殴ってなぜ悪いか。貴様はいい、そうしてわめいていれば気分も晴れるんだからな!!」


 わめいてもいないし、気分も晴れていないんですけど。


「私は、ここで3年も待ったのだ」


 うん、そんなに待ってないよね。せいぜい30分だよね。


「遅れたのは謝るよ。でも、そもそも集合時間が朝の7時20分っていくらなんでも早すぎるよ……」


 言い訳をしようとしたら、また彼女の鉄拳が飛んできた。


「げぼぉ!!」
「貴様はジオン公国が地球連邦政府に宣戦布告した時間を知らんのか!! 恥を知れ、俗物!!」


 ……まずはじめに言っておきたい。別にこれはそういうプレイではない。彼女がSというわけでもないし、ましてや僕がMというわけでもない。まあ、限りなく彼女はSに近いけれども。

 要するに何が言いたいかと言うと、誰もがうらやむほどの超絶美形な彼女に殴られて僕が悦んでいるとは思わないでほしいということだ。
 痛いものは痛い。


「す、すいましぇん……」
「くそぅ、2度もぶってしまうとは。親父にもぶたれたことないのに!!」


 いや、あるよ。
 山ほどぶたれてるよ。
 ていうか、殴ったのあなたなんですけど……。


「とにかく、早くカラオケ店に急ぐぞ。私は一刻も早く“哀・戦士”を歌いたい!!」


 うずうずしながら彼女が言う。
 そんなに歌いたきゃ、一人で行けばいいのに。
 それよりも、ひとつ疑問に思ってることがある。


「あのさ、カラオケ店ってこの時間やってるの?」


 僕の問いかけに、今にも3倍の速さで走り出しそうな桜ノ宮京子は動きを止めた。


「……うん?」
「いや、よく知らないけど、普通カラオケ店って10時か11時とかからじゃないの?」
「……うん?」
「この時間だと、どこもやってないんじゃない?」
「……」


 彼女は懐からシャア専用スマホを取り出すと、超高速で検索しだした。
 すごい、あんな動きでスマホ操作できたんだ。
 僕のLINEはスルーなのにね……。


「……」


 そして、検索を終えた瞬間、彼女は天に向かって叫んだ。


「嘘だと言ってよ、バーニィー!!!!」


 嘘じゃないよ。
 それ、事実だよ。


 よろよろと崩れ落ちた桜ノ宮京子は、つぶやくように言った。


「ふ、これでは道化だよ」


 ほんとにね。  
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