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第八話
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相手の心の中がわかったら、どんなにいいだろう。
今、僕は帰りの電車の中でそれを痛切に感じていた。
僕と春野さんは隣同士に座りながら一言も言葉を発しなかった。
車窓から見える夕日がとてもきれいで、それに魅入っていたというのもある。事実、視線だけを送ると春野さんは空を真っ赤に染めながら沈んでいく太陽を真剣な表情で見つめていた。
けれども、昼間はあんなに楽しそうにしゃべっていたのに、静かにシートに座る今の彼女を見て僕は不安に思った。
もしかして僕とのデートはつまらなかったのかな、と。
今日は僕が長年夢見てきた女の子との初デート記念日。
僕としてはものすごく幸せで楽しかったけれど春野さん的には楽しかったのだろうかと、ものすごく不安に思った。
想像していたよりつまらなかったと思っていたら、どうしよう。
魅力のない男と思われていたらどうしよう。
いろんな思いが交錯し、僕は何も聞けずにいた。
そして気が付けば、かしわ駅についていた。
「今日はありがとう、楽しかった」
駅のホームで、笑顔でそう言う春野さんに心から安堵する。
「はああぁぁ」とため息をつく僕に、彼女は「どうしたんですか?」と聞いてきた。
「よかった。もしかしたらつまらなかったんじゃないかって、心配してたんだ」
「えぇ、なんで!? 全然つまらなくなかったですよ!?」
「だって、帰りの電車で一言も口聞いてくれなかったんだもん。もしかして、嫌われちゃったのかなって」
「そんなことないない! 沈んでいく夕日を眺めてたら、あー、もうこの楽しい時間終わっちゃうんだーってちょっと悲しくなってただけ。ごめんね」
ごめんねと謝る春野さんが、たまらなかった。
ごめんねも何も、完全に僕の勘違いなのに。
「僕のほうこそ、ごめんね。今日は僕も楽しかった」
「こんなにいろんなところを見て回ったの初めてだったから、すごく新鮮だった。本当にありがとう」
「うん。こちらこそ」
春野さんは、他にも何か言いたそうな目をしていたけれど、黙って僕を見つめていた。
僕も、それ以上何も言えずに黙って彼女の顔を見つめる。
見つめながら、もしかしたらと僕は思う。
もしかしたら、彼女も僕のことが好きなんじゃないかと。
でも、それはすごく都合のいい自分の妄想だし、確かめてみる勇気はなかった。
相変わらずのへタレっぷりに泣けてくる。
「……それじゃ」
「うん」
バイバイと手を振る春野さんがくるりと振り返って去っていく。
次第に遠ざかっていく後ろ姿に、僕は悶々とした想いを募らせていった。
いいのか、これで。
このまま別れていいのか。
自問自答を繰り返す僕に、彼女の初めての言葉がよみがえる。
「今、お暇ですか?」
「よかったら、案内してくれませんか?」
あれは、彼女の精一杯のアプローチだったのではないか。
普通だったら、見ず知らずの人にそんな言葉をかける勇気はない。
けれども、彼女は声をかけた。
こんな僕に。
なんの取り柄もない、こんな僕にだ。
「明日、会いませんか?」
昨晩の電話だってそうだ。
彼女は必死に僕に何かを訴えていたのではないか。
このまま何も進展しないで終わったら、僕は男じゃない。
僕は意を決した。
「春野さん!」
去りゆく春野さんに僕は声をかけた。
そっと振りむくきれいな横顔。
その表情にドキドキしながら、僕は言った。
「あの、その……。また、会えるかな?」
春野さんは笑ってこたえる。
「もちろん。いつでも」
「できれば、これからもずっと……会いたいです」
「……ずっとって?」
「要するに、その、えと……。僕と付き合ってください!」
ガバッと頭を下げる。
言った。
言ってしまった。
緊張でどうにかなりそうだった。
駅のホームで告白って、どんだけバカなんだ。
「……」
春野さんは何も答えなかった。
僕は頭を下げたまま返事を待つ。
けれども、何も言ってこないので不思議に思って顔をあげる。
絶句した。
春野さんが、泣いていた。
口元に手を当てて涙を流していた。
「え、あの、え? なんで!?」
慌てる僕に、彼女は首を振った。
「ううん、なんでもない。嬉しくて……」
「嬉しい?」
「こんな私に、告白してくれるなんて……」
「え、あ、いや、そんな……」
「秋山さん」
「は、はい!」
ビシッと背筋を伸ばす僕。
彼女はクスリと笑って言った。
「こちらこそ、お願いします」
ペコリと頭を下げる姿に、僕は世界中の時間が止まったかのように感じられた。
本当に?
本当にいいの?
信じられない気持ちでいっぱいだった。
こんな僕の告白に「YES」と言ってくれたのだ。
臆病で人見知りが激しくて、将来の目標も何もないダメ人間で……うん、これ以上はよそう。
とにかく、彼女は僕の告白にOKしてくれた。
つまり、恋人になってくれた。
「いぃやったああぁぁっ!!」
思わずガッツポーズをあげる僕。
そんな僕に、優しい目を向ける春野さん。
彼女は涙を流しながらも、その口元には笑みを浮かべていた。
今、僕は帰りの電車の中でそれを痛切に感じていた。
僕と春野さんは隣同士に座りながら一言も言葉を発しなかった。
車窓から見える夕日がとてもきれいで、それに魅入っていたというのもある。事実、視線だけを送ると春野さんは空を真っ赤に染めながら沈んでいく太陽を真剣な表情で見つめていた。
けれども、昼間はあんなに楽しそうにしゃべっていたのに、静かにシートに座る今の彼女を見て僕は不安に思った。
もしかして僕とのデートはつまらなかったのかな、と。
今日は僕が長年夢見てきた女の子との初デート記念日。
僕としてはものすごく幸せで楽しかったけれど春野さん的には楽しかったのだろうかと、ものすごく不安に思った。
想像していたよりつまらなかったと思っていたら、どうしよう。
魅力のない男と思われていたらどうしよう。
いろんな思いが交錯し、僕は何も聞けずにいた。
そして気が付けば、かしわ駅についていた。
「今日はありがとう、楽しかった」
駅のホームで、笑顔でそう言う春野さんに心から安堵する。
「はああぁぁ」とため息をつく僕に、彼女は「どうしたんですか?」と聞いてきた。
「よかった。もしかしたらつまらなかったんじゃないかって、心配してたんだ」
「えぇ、なんで!? 全然つまらなくなかったですよ!?」
「だって、帰りの電車で一言も口聞いてくれなかったんだもん。もしかして、嫌われちゃったのかなって」
「そんなことないない! 沈んでいく夕日を眺めてたら、あー、もうこの楽しい時間終わっちゃうんだーってちょっと悲しくなってただけ。ごめんね」
ごめんねと謝る春野さんが、たまらなかった。
ごめんねも何も、完全に僕の勘違いなのに。
「僕のほうこそ、ごめんね。今日は僕も楽しかった」
「こんなにいろんなところを見て回ったの初めてだったから、すごく新鮮だった。本当にありがとう」
「うん。こちらこそ」
春野さんは、他にも何か言いたそうな目をしていたけれど、黙って僕を見つめていた。
僕も、それ以上何も言えずに黙って彼女の顔を見つめる。
見つめながら、もしかしたらと僕は思う。
もしかしたら、彼女も僕のことが好きなんじゃないかと。
でも、それはすごく都合のいい自分の妄想だし、確かめてみる勇気はなかった。
相変わらずのへタレっぷりに泣けてくる。
「……それじゃ」
「うん」
バイバイと手を振る春野さんがくるりと振り返って去っていく。
次第に遠ざかっていく後ろ姿に、僕は悶々とした想いを募らせていった。
いいのか、これで。
このまま別れていいのか。
自問自答を繰り返す僕に、彼女の初めての言葉がよみがえる。
「今、お暇ですか?」
「よかったら、案内してくれませんか?」
あれは、彼女の精一杯のアプローチだったのではないか。
普通だったら、見ず知らずの人にそんな言葉をかける勇気はない。
けれども、彼女は声をかけた。
こんな僕に。
なんの取り柄もない、こんな僕にだ。
「明日、会いませんか?」
昨晩の電話だってそうだ。
彼女は必死に僕に何かを訴えていたのではないか。
このまま何も進展しないで終わったら、僕は男じゃない。
僕は意を決した。
「春野さん!」
去りゆく春野さんに僕は声をかけた。
そっと振りむくきれいな横顔。
その表情にドキドキしながら、僕は言った。
「あの、その……。また、会えるかな?」
春野さんは笑ってこたえる。
「もちろん。いつでも」
「できれば、これからもずっと……会いたいです」
「……ずっとって?」
「要するに、その、えと……。僕と付き合ってください!」
ガバッと頭を下げる。
言った。
言ってしまった。
緊張でどうにかなりそうだった。
駅のホームで告白って、どんだけバカなんだ。
「……」
春野さんは何も答えなかった。
僕は頭を下げたまま返事を待つ。
けれども、何も言ってこないので不思議に思って顔をあげる。
絶句した。
春野さんが、泣いていた。
口元に手を当てて涙を流していた。
「え、あの、え? なんで!?」
慌てる僕に、彼女は首を振った。
「ううん、なんでもない。嬉しくて……」
「嬉しい?」
「こんな私に、告白してくれるなんて……」
「え、あ、いや、そんな……」
「秋山さん」
「は、はい!」
ビシッと背筋を伸ばす僕。
彼女はクスリと笑って言った。
「こちらこそ、お願いします」
ペコリと頭を下げる姿に、僕は世界中の時間が止まったかのように感じられた。
本当に?
本当にいいの?
信じられない気持ちでいっぱいだった。
こんな僕の告白に「YES」と言ってくれたのだ。
臆病で人見知りが激しくて、将来の目標も何もないダメ人間で……うん、これ以上はよそう。
とにかく、彼女は僕の告白にOKしてくれた。
つまり、恋人になってくれた。
「いぃやったああぁぁっ!!」
思わずガッツポーズをあげる僕。
そんな僕に、優しい目を向ける春野さん。
彼女は涙を流しながらも、その口元には笑みを浮かべていた。
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