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【第二章】婚約者編

18. 天才ハッカーの腕

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 ハンスさんの腕は、想像以上だった。おそらく私の故郷の技術だけでなく、グルニア帝国の機械技術だって持ち合わせているのだろう。

 受信機を繋いだパソコンに、かたかたとコードを打ち込んでいく。もちろん私の知らないコードだ。延々と続く英語の文字列に、みんなは釘付けになった。

 レオンは目を輝かせており、マリウス様は大変驚いている。そして、一番騒ぎそうなリリーがぐっと口を閉じ、時折泣きそうな顔をするのだ。そんなリリーを見て、幸せな私が出来ることは少ないかもしれないが、せめて話をゆっくり聞こうと思う。

 ハンスさんがコードを打ち、パソコンは計算をする。文字列が延々と続き……そして、ぱっと宮廷内の地図が出た。一体どこからこんな地図が出るのだろう。

 そしてとうとう、ハンスさんは口を開いたのだ。

「グルニア帝国の軍用機械をハッキングしました。
 グルニア帝国は、この機械で受信機を操っているようです」

 私はかろうじて理解出来たが、私以外の人はさっぱりだろう。

「ハンス……言っている意味が分からないのだが……」

 レオンが困った顔で告げる。

「殿下には、あとでゆっくり説明いたします。
 ハッキングがグルニア側にバレると、面倒なことになりますので」

 そう言いながらも、ハンスさんは次々とコードを入力していく。すると、宮廷内の地図に、赤く光る丸がいくつも現れた。
 レオンとマリウス様が息を呑む。

「この赤い丸が、受信機の場所です。
 こちらから一括で停止命令も出せますが、グルニア側にバレる可能性が高いです。バレるとグルニア帝国はそれを理由に侵攻してくるでしょう。
 グルニア側にバレないようにするためには、一つずつ手動で抜くのがいいかと思います」

 赤い丸は数十個もあった。気が遠くなる数だ。だが、その丸のほとんどは同じ場所……そう、第一魔導士団と第一騎士団関連の施設に集中しているのが分かる。

「まさか……本当に、第一魔導士団と第一騎士団だけに付いているとは。
 もしかして、兄が原因なのだろうか」

 レオンは悩ましげに呟き、

「そうかもしれませんね」

マリウス様が答える。

「レオン様が農地改革や天気問題を解消されてから、ヘルベルト様はさらに荒れ狂っていますから」

 だからと言って、敵国と手を組んではいけないだろう。どうか、第一魔導士団と第一騎士団に受信機が付いているのは偶然であって欲しいと、願わずにはいられなかった。


 ハンスさんは、旅行鞄から二つのタブレットを取り出した。そして、その電源を入れて私たちに配る。配られたタブレットには、パソコンと同じ宮廷の地図が映し出されている。そして、たくさんの赤い丸が動いているのだった。

「二手に別れて受信機を抜くということか」

 レオンが口走った。

「ならば、私はローザと……」

 そう言いかけたレオンに、私は告げていた。

「レオン様、私をリリーと行かせてください」

 レオンは露骨に顔を歪める。

「なぜだ? ローザは私の魔力と繋がっているだろう。私たちは効率よく戦うことが出来る」

 私だってレオンと行きたい。でも、今はリリーが心配だ。私は友達として、少しでもリリーを元気付けたい。

「レオン様……無礼を承知で申しております。
 どうか私のわがままを許してください」

 私は深々と頭を下げていた。こんな私を、レオンは複雑な顔で見ている。きっと、いろんなことを考えているのだろう。私がレオンを敬っているのが気に食わないのかもしれないし、私を心配しているのかもしれない。だけど、私はきっと負けない。レオンやリリーのおかげで、今やトップクラスの魔導士になったと自負している。

「もし、私が危険を感じたら、レオン様を呼びます。
 私の心は、常に貴方と一緒です」


 どうか分かって……!!


 マリウス様がふっと鼻で笑い、

「ふられましたね」

余計なことを言う。そんなマリウス様をぶっ飛ばしたい気持ちでいっぱいになった。

「ローザ……私は色々と不安になってきた。だが、君が望むのならそうしよう。
 ……いいか、決して無理はしないで欲しい」

「承知しました」

 レオンを悲しませてはいけないことは分かっている。リリーの問題が解決したら、きっとレオンにも伝えるから。だから今は、私のわがままを許して欲しい。


「それでは、よろしくお願いします」

 ハンスさんがいつもの事務的な声で告げる。

「魔法が使えない無力な私は、ここで新たな敵の動向を探ります」

「心強い、ハンス」

 レオンはそう告げ、マリウス様と部屋を出て行った。さあ、私たちも頑張ろう。そして、リリーが元気になってくれるのを祈るばかりだ。

 



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