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結末

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「モーヴ、モーヴ、私のこと絶対に忘れないでね」
庭の片隅で、私はモーヴの首にかじりつくようにして抱きしめていた。

パーティの後、エルヴェ様とミリーさんは速やかに連れだされた。そのあと彼らがどうなったのかは知らない。次期国王にたてつき、隣国の次期侯爵夫人(私だ)に暴力を振るおうとしたのだから、それなりの制裁は下っているだろう。・・・それでも、彼らはきっと貴族のままだ。それが彼らにとって一番つらい事だろうから。貴族の下位のものとして、這いつくばるようにして生きて行くことが、彼らにとって一番の薬となるだろう。その薬によって彼らの性格が変わるかどうかは私には分からないが。

あれから月日も経って、ベルトランとの婚約も一年になる。いつまでも婚約者としてはいられない。彼の妻として私は隣国に渡ることになる。カトリナ様たちや、両親との別れも惜しんだ後に、私はどうしてもモーヴとの別れを受け入れられずにいた。
「モーヴ、・・・モーヴ」
「なんでそんな端っこにいるの?」
呆れたようなベルトランの声がする。モーヴの首筋に顔をうずめたまま返す。
「別れを惜しんでいるの」
「なんで別れ?」
「・・・婚家にペットを連れていけないわ」
・・・なぜかその瞬間、ベルトランのため息が聞こえた。
「なんか理屈を立てて絶対に連れていく。って言うのかなと思ってたのに。連れていけばいいじゃん。僕は反対なんてしないよ。僕もモーヴと一緒に行きたい。家族も嫌なんて言わないよ。母は犬好きなんだ」
父は猫が好きなんだけど、僕は父に似て。なんて聞いていないのに話し出すベルトランの顔を見上げる。私の視線に気づいたベルトランはにっこりと微笑む。
「シルヴェーヌが嫌な思いをしながら結婚する必要なんてないんだよ。モーヴにも一緒に来てもらおうよ。それで僕の飼ってる子猫たちと仲良くなってもらおう。やんちゃな子たちばっかりなんだけど、モーヴも、シルヴェーヌもきっと気に入ってくれる」
ベルトランの差し出された手を取る。温かな手。さっきまでモーヴに触れていたから手は温まっているのに、なんで温かく感じるのかしら。
「私は犬派です。・・・猫もかわいいと思うけど」
そんなかわいげのない私の言葉にもベルトランは楽しげに笑う。

「やっぱりシルヴェーヌは面白いよ!」
いつでもにこやかに笑い、人に好かれるベルトラン。笑顔なんてまともに作れなくて、前の婚約者には毛嫌いされた私。私たちは全然違うけれど、それでも、今、私は何となく、幸せになれるような気がしてしまうのだ。
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