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友人

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「婚約破棄された瞬間にもう新しい婚約者ができていて笑ってしまったわよ」
呆れたように笑うカトリナ様。紺の長い髪に睫毛の長い青い瞳が美しい人だ。
「婚約おめでとう、シルヴェーヌ嬢。ヴァルター侯爵令息、彼女のことをよろしく。俺たちの大切な友人なんだ」
私とベルトランに笑いかけたのはカトリナ王女の婚約者であるとニコラ公爵令息。水色がかった白の髪に垂れ目がちのどこか可愛らしさを感じさせる男性である。
ベルトランも私の腰に手を回し、失礼にならないぐらいに笑いかける。
「もちろんです。カトリナ王女、ニコラ公爵令息。シルヴェーヌは僕が幸せにします」
…何故か威嚇のようなものを感じる。ベルトランは何を考えているのだろう。
「カトリナ様、こちらがベルトラン・ヴァルター侯爵令息です。私の婚約者となります。私は彼の国に嫁入りとなりますので、今後彼と関わることもそう無いでしょうが、挨拶だけさせていただきます」
カトリナ様にベルトランを紹介する。ベルトランを見たカトリナ様は私の方に視線を戻しため息をつき、ほんの少しだけ私の方に歩み寄る。
「公爵夫人になったあなたとこの国を守るのを楽しみにしていたのに。隣国に行ってしまうなんて。悲しいわ」
態とらしいため息を吐くカトリナ様に苦笑いが漏れる。
「…あなたを散々こき使うことが私の今後の楽しみだったのに…。取り上げてしまうなんてひどいわ」
私たちを責めるように見る視線の中に楽しげな光を見て、私も思わず微笑んでしまう。表情が動きづらい私を笑わせるのなんてほとんどカトリナ様とモーヴぐらいだったのに。
「…私の感情をひどく動かす人に出会ってしまったのです。カトリナ様」
「…しょうがないから文通で許してあげるわ。隣国に行っても手紙をたくさんちょうだいね、シルヴェーヌ」
私に微笑みかけてからニコラ公爵令息の方を見るカトリナ様。ニコラ公爵令息もベルトランに何事かを言っていたようだった。ベルトランがどこか複雑な表情をしている。
「…お幸せに、シルヴェーヌ」
「…あなたの今後の幸いを祈っています、カトリナ様」
結婚式はどちらの国で挙げるのか、相手の好きなところはどこかなんて、婚約者達に聞こえないような小声で、短い時間に密やかに会話を楽しむ。
どこかゆったりとした優しい雰囲気が突然の怒声によって遮られた。
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