婚約破棄されたら、隣国の侯爵に求婚されました。 『理屈屋と感覚派』

しぎ

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求婚

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「女の子だよー、しかも婚約者だったんでしょ?何する気ー?」
「誰だお前は!放せ!お前には関係ないだろう!」
目を開けると見えたのは歯を剥き出して怒鳴るエルヴェ様とその腕を掴み動けなくしている見知らぬ青年だった。
赤茶色の髪と暖かな海のような青い瞳。垂れた瞳と大きな体躯が合わさってどこか大型犬のようだった。青年は私が見ていることに気づくとふにゃりと微笑んだ。
「僕が捕まえてるから大丈夫だよ。落ち着いて?」
いつのまにか息を詰めていたことに気づいて静かに呼吸を整える。その間にエルヴェ様は王宮の兵に捕えられていた。こっそり逃げようとしていたミリーさんも声をかけられている。
「やめろ!触るな!俺が何したというんだ!」
「やめてやめて、私関係ないの。エルヴェが勝手に言い出しただけなんだってば!」
パーティ会場から連れ出される2人を見ているとふと隣に気配を感じた。
見上げると青い瞳の男がにこにこと笑っている。暴れる男を片手一本で押さえていたとは思えないような、どこか無邪気な顔だった。私より頭ひとつ分以上大きいのに、威圧感は感じなかった。
「…ありがとうございました。おかげで怪我をせずに済みました」
「いえいえ?君凄かったね。面白かったよ。あんなに相手の地雷踏みまくって怖くないの?」
「…怖い、とは?私は自分の意見を言っただけです。それを煽りだと感じたのは相手の感覚でしょう」
まぁ無表情と平坦な声が相手の神経を逆撫でる自覚は多少あるけれど。
私の返事に男の笑顔がさらに深くなる。
「…うーん、だめだなこれ。好きになっちゃった」
「…はい?」
男は何かぼそりと呟くと私の足元にす、と跪いた。
「…な、なにをして」
「シルヴェーヌ・ウィールライト嬢。僕の名前はベルトラン・ヴァルター。隣国の次期侯爵です。僕はあなたに一目惚れをしてしまいました。どうかあなたに求婚する権利をください」
私の手をとり唇を寄せる。触れなかったそれの微かな熱に驚いて肩が跳ねた。
「…何を」
考えているのか、と問いかけるつもりだった言葉は不意に弾けた周囲の騒めきによって掻き消された。
周りを見回すと何故か私と男を取り囲むように輪のように人だかりができている。先ほどまではもっと遠巻きにされていたはずだ。どうして。顔を引き攣らせた私に輪の外側にいる友人が呆れ顔をして見せた。
傲慢な婚約者に婚約破棄された令嬢がその場で新しい男に求婚される。確かにとんだゴシップだ。
友人はゆっくりと口を動かしてみせる。
『こ、と、わ、れ』
男に顔を向ける。柔らかく微笑む男が微かに首を傾げてみせる。私も断りたい。けれど。
王家主催のパーティで迷惑をかけた隣国の貴族。『国際問題』の4文字が頭にチラつく。それが求婚一つで丸く収められるかもしれないのなら。しかも今断ると絶対恥をかかせてしまうし。
「…よろしく、お願いします。ベルトラン様」
取られた手を動かして握り返す。
ベルトランが嬉しげに微笑む。友人が頭を抱えているのが視界の隅に見えていた。
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