上 下
7 / 19

ベルンハルト・スリーズ(1)

しおりを挟む
ベルンハルト・スリーズは侯爵家の次男である。スリーズ侯爵家は代々王立騎士団の団長を務めていた。長男が体が弱く、体力もなかったため、ベルンハルトは騎士団長を継ぐつもりでいた。
騎士団長になることを夢見てひたすらに鍛錬に励む息子。勉学も社交も行わない姿に両親は頭を痛めていた。
それが変わったのはベルンハルトが10歳になったころ。ベルンハルトが一人の少女に一目ぼれをした。
少女の名前はエメライン・ブラウン。ブラウン伯爵家の一人娘である。王立図書館の館長を代々努めている家で、無理やり連れていかれた社交の場でベルンハルトはエメラインに見とれた。
茶色の瞳も髪もこの国ではありふれた色である。ベルンハルトを引き付けたのは生き生きとした瞳だった。
本が大好きなのだと、学ぶことをやめられないのだと楽しそうに語る彼女にうわの空で相槌を打ちながらベルンハルトは彼女と婚約することを決めていた。
両親は了承しなかった。エメラインには婚約者候補がいたのだ。辺境伯の子息でエメラインとは仲睦まじい様子らしい。
鍛錬に没頭していた息子が他のことに興味を示したことは喜ばしく婚約させてあげたいが、他に相手のいる令嬢と婚約させることは難しいだろう。
ベルンハルトは猛り狂った。絶対に手に入れたいのだと、あの少女が欲しいのだと。
辺境の地に殴り込みに行きかねない息子の姿に両親は婚約に横槍を入れることを決めてしまった。
ブラウン伯爵家はもちろん断った。エメラインと辺境伯子息は将来のことまで考えているのだと。ベルンハルトには何の感情も持っていないのだと。
家の圧力を使われてしまえばどうしようもない所をブラウン伯爵は頑張った。
折れたのはエメラインだった。
「婚約を了承いたしましょう。だからうちには手を出さないでください」
眠らずに考えたのだろう。うっすらと目の下に隈のある顔のエメラインは痛々しかった。
エメラインは条件を出した。婚約者との付き合いを強制しないこと。毎年婚約の契約書にエメラインとベルンハルトがサインをすること。
婚約契約書はエメラインが書いた。始まりの一枚にベルンハルトは浮かれながらサインをした。

そしてベルンハルトはエメラインに飽きてしまった。
話のレベルが全く合わなかったのである。鍛錬ばかりで勉強をしないベルンハルトと学ぶことに楽しみを見出しているエメラインでは話の内容が全くかみ合わなかった。
話をしても面白くない。そもそもエメラインから関わろうとしてこない。そんな相手にベルンハルトはいつしか飽きてしまった。
しかし婚約解消は許されない。むりやり婚約しておいてさらにこちらから解消というのは家の名前に傷がつく。そして理由がなければ立場の低いブラウン伯爵家からは婚約解消は難しい。
せっかく手に入れたエメラインをベルンハルトは放置した。

学園に入学して、エメラインはベルンハルトにとって嫌いな相手に変化した。学力の問題で、優秀な生徒のみが所属する生徒会にベルンハルトは入れなかった。婚約者であるエメラインは
当たり前のような顔をして所属しているというのに。食堂でアラン達とベルンハルトは婚約者たちの愚痴を言い合った。同じテーブルにはローザがいた。
ローザはかわいらしい少女だった。ピンク色の髪にピンク色の瞳をした天真爛漫な少女。入学式の日アランにわざとぶつかったように見えたローザをベルンハルトは良く思っていなかったが、
アランが気に入り、一緒に話すにつれ、気を許すようになっていた。
「ベルンハルト様は強くてとってもかっこいいです!」
エメラインが言わなかった称賛がうれしかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄した王子と男爵令嬢のその後……は幸せ?……な訳ない!

たろ
恋愛
「エリザベス、君との婚約を破棄する」 「どうしてそんな事を言うのですか?わたしが何をしたと言うのでしょう」 「君は僕の愛するイライザに対して嫌がらせをしただろう、そんな意地の悪い君のことは愛せないし結婚など出来ない」 「……愛せない……わかりました。殿下……の言葉を……受け入れます」 なんで君がそんな悲しそうな顔をするんだ? この話は婚約破棄をして、父親である陛下に嘘で固めて公爵令嬢のエリザベスを貶めたと怒られて 「そんなにその男爵令嬢が好きなら王族をやめて男爵に婿に行け」と言われ、廃嫡される王子のその後のお話です。 頭脳明晰、眉目秀麗、みんなが振り向くかっこいい殿下……なのにエリザベスの前では残念な男。 ★軽い感じのお話です そして、殿下がひたすら残念です 広ーい気持ちで読んでいただけたらと思います

王太子から婚約破棄……さぁ始まりました! 制限時間は1時間 皆様……今までの恨みを晴らす時です!

Ryo-k
恋愛
王太子が婚約破棄したので、1時間限定でボコボコにできるわ♪ ……今までの鬱憤、晴らして差し上げましょう!!

ブチ切れ公爵令嬢

Ryo-k
恋愛
突然の婚約破棄宣言に、公爵令嬢アレクサンドラ・ベルナールは、画面の限界に達した。 「うっさいな!! 少し黙れ! アホ王子!」 ※完結まで執筆済み

婚約破棄を突き付けられた方の事情 わかってます?

酒田愛子(元・坂田藍子)
恋愛
学園の卒業パーティーで婚約破棄を高らかに発表する公爵子息。 された側の事情わかってますか?

婚約破棄されたのでグルメ旅に出ます。後悔したって知りませんと言いましたよ、王子様。

みらいつりびと
恋愛
「汚らわしい魔女め! 即刻王宮から出て行け! おまえとの婚約は破棄する!」  月光と魔族の返り血を浴びているわたしに、ルカ王子が罵声を浴びせかけます。  王国の第二王子から婚約を破棄された伯爵令嬢の復讐の物語。

婚約破棄ですか? では、この家から出て行ってください

八代奏多
恋愛
 伯爵令嬢で次期伯爵になることが決まっているイルシア・グレイヴは、自らが主催したパーティーで婚約破棄を告げられてしまった。  元、婚約者の子爵令息アドルフハークスはイルシアの行動を責め、しまいには家から出て行けと言うが……。  出ていくのは、貴方の方ですわよ? ※カクヨム様でも公開しております。

婚約破棄先手切らせていただきます!

荷居人(にいと)
恋愛
「お前とはこん………」 「私貴方とは婚約破棄させていただきます!」 女が男の都合で一方的に婚約破棄される時代は終わりです! 自惚れも大概になさい! 荷居人による婚約破棄シリーズ第五弾。 楽しんでいただければと思います! 第四弾までは(番外編除く)すでに完結済み。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

処理中です...