疲れ果てた令嬢は護衛に死を請うた

しぎ

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4年後。

「…遅い」
馬車乗り場の前で、フレドリックが不機嫌そうに眉を顰める。
私は口元が緩むのを感じる。
「ごめんなさい。先生に分からないところを習っていたの。帰りましょうか」
馬車に乗り込んだところで、フレドリックが言う。
「…あそこのパン屋に寄って帰る」
「そうしましょうか」
むすりと目つきを悪くしながら、どのパンを食べようか考えて口元を緩めるフレドリック。かわいい。
「ギルバート様の側近を倒したって聞いたわ。頑張ったわね」
私が誉めると、フレドリックは少しだけ眉を顰める。
「…別に。目的があるからな」
「目的?」
「爵位。少なくとも子爵が欲しい」
「え、でもあなたこの前騎士爵を貰ったじゃない。この若さで異例のことだってギルバート様驚いていたわよ?」
「…それじゃ足りないんだ」
フレドリックは窓の方を向いた。どんな顔をしているのかはこちらからじゃ分からない。

彼はかなり大きくなった。会ったばかりの時は私より小さかった背丈はぐんぐん伸びて私とは頭ひとつ分以上違う。茶髪はサラサラ、緑の瞳はギラギラで、学園の友達はフレドリックが私を迎えにくるのをみるたびに、キャーキャー黄色い悲鳴をあげるほどに格好良くなった。馬車の窓に頬杖をついた彼の右手の薬指に緑のリングが光る。

4年前。私の護衛になったフレドリックはたくさんの危機から私のことを救ってくれた。私もフレドリックのお陰で生きる希望が湧いてきて、ギルバート様の家に後見人の変更をお願いしたから、伯父もそうそう私に手を出せなくなった。それでも、唯一の親族である事に変わりは無いから、数ヶ月に一度、命の危機は起こりかける。けどその度にフレドリックが救ってくれる。ギルバート様たちの助けも借りて証拠集めも出来てきたから、そろそろ伯父を捕まえることもできるかもしれない。

彼らのおかげで私は今日も生きている。

アメジストのネックレスを無意識にいじる。
「お金で解決できるならそうするわよ。私お金持ちだし」
「…腹立つな。金の問題じゃないんだ」
「じゃあ、何なの?」
「…一代貴族と、伯爵家は婚姻できないって聞いた」
「あー、そうね。騎士爵と伯爵家以上は貴族籍を抜けない限り婚姻できないらしいわ…え?あなた伯爵家のご令嬢と結婚したいから頑張ってるの?」
「……知らね」
さらにぷいとフレドリックはそっぽを向く。
それならそうと言ってくれれば良いのに。私を迎えにくる時に見かけた子なのだろうか。私の家も伯爵家だから、伝手なら沢山ある。どの子だろうか。私の友達のあの子?先輩のあの人?
大事な護衛の恋だ。必ずや、フレドリックと彼の意中の令嬢を結婚させてみせよう。
「フレドリック、私頑張るからね!」
「何をだよ…」
ため息を吐くフレドリックを横目に私はふんふんと闘志に燃えていた。


子爵位を手に入れたフレドリックが私に求婚する数ヶ月前の事。
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