5 / 5
⑤
しおりを挟む
4年後。
「…遅い」
馬車乗り場の前で、フレドリックが不機嫌そうに眉を顰める。
私は口元が緩むのを感じる。
「ごめんなさい。先生に分からないところを習っていたの。帰りましょうか」
馬車に乗り込んだところで、フレドリックが言う。
「…あそこのパン屋に寄って帰る」
「そうしましょうか」
むすりと目つきを悪くしながら、どのパンを食べようか考えて口元を緩めるフレドリック。かわいい。
「ギルバート様の側近を倒したって聞いたわ。頑張ったわね」
私が誉めると、フレドリックは少しだけ眉を顰める。
「…別に。目的があるからな」
「目的?」
「爵位。少なくとも子爵が欲しい」
「え、でもあなたこの前騎士爵を貰ったじゃない。この若さで異例のことだってギルバート様驚いていたわよ?」
「…それじゃ足りないんだ」
フレドリックは窓の方を向いた。どんな顔をしているのかはこちらからじゃ分からない。
彼はかなり大きくなった。会ったばかりの時は私より小さかった背丈はぐんぐん伸びて私とは頭ひとつ分以上違う。茶髪はサラサラ、緑の瞳はギラギラで、学園の友達はフレドリックが私を迎えにくるのをみるたびに、キャーキャー黄色い悲鳴をあげるほどに格好良くなった。馬車の窓に頬杖をついた彼の右手の薬指に緑のリングが光る。
4年前。私の護衛になったフレドリックはたくさんの危機から私のことを救ってくれた。私もフレドリックのお陰で生きる希望が湧いてきて、ギルバート様の家に後見人の変更をお願いしたから、伯父もそうそう私に手を出せなくなった。それでも、唯一の親族である事に変わりは無いから、数ヶ月に一度、命の危機は起こりかける。けどその度にフレドリックが救ってくれる。ギルバート様たちの助けも借りて証拠集めも出来てきたから、そろそろ伯父を捕まえることもできるかもしれない。
彼らのおかげで私は今日も生きている。
アメジストのネックレスを無意識にいじる。
「お金で解決できるならそうするわよ。私お金持ちだし」
「…腹立つな。金の問題じゃないんだ」
「じゃあ、何なの?」
「…一代貴族と、伯爵家は婚姻できないって聞いた」
「あー、そうね。騎士爵と伯爵家以上は貴族籍を抜けない限り婚姻できないらしいわ…え?あなた伯爵家のご令嬢と結婚したいから頑張ってるの?」
「……知らね」
さらにぷいとフレドリックはそっぽを向く。
それならそうと言ってくれれば良いのに。私を迎えにくる時に見かけた子なのだろうか。私の家も伯爵家だから、伝手なら沢山ある。どの子だろうか。私の友達のあの子?先輩のあの人?
大事な護衛の恋だ。必ずや、フレドリックと彼の意中の令嬢を結婚させてみせよう。
「フレドリック、私頑張るからね!」
「何をだよ…」
ため息を吐くフレドリックを横目に私はふんふんと闘志に燃えていた。
子爵位を手に入れたフレドリックが私に求婚する数ヶ月前の事。
「…遅い」
馬車乗り場の前で、フレドリックが不機嫌そうに眉を顰める。
私は口元が緩むのを感じる。
「ごめんなさい。先生に分からないところを習っていたの。帰りましょうか」
馬車に乗り込んだところで、フレドリックが言う。
「…あそこのパン屋に寄って帰る」
「そうしましょうか」
むすりと目つきを悪くしながら、どのパンを食べようか考えて口元を緩めるフレドリック。かわいい。
「ギルバート様の側近を倒したって聞いたわ。頑張ったわね」
私が誉めると、フレドリックは少しだけ眉を顰める。
「…別に。目的があるからな」
「目的?」
「爵位。少なくとも子爵が欲しい」
「え、でもあなたこの前騎士爵を貰ったじゃない。この若さで異例のことだってギルバート様驚いていたわよ?」
「…それじゃ足りないんだ」
フレドリックは窓の方を向いた。どんな顔をしているのかはこちらからじゃ分からない。
彼はかなり大きくなった。会ったばかりの時は私より小さかった背丈はぐんぐん伸びて私とは頭ひとつ分以上違う。茶髪はサラサラ、緑の瞳はギラギラで、学園の友達はフレドリックが私を迎えにくるのをみるたびに、キャーキャー黄色い悲鳴をあげるほどに格好良くなった。馬車の窓に頬杖をついた彼の右手の薬指に緑のリングが光る。
4年前。私の護衛になったフレドリックはたくさんの危機から私のことを救ってくれた。私もフレドリックのお陰で生きる希望が湧いてきて、ギルバート様の家に後見人の変更をお願いしたから、伯父もそうそう私に手を出せなくなった。それでも、唯一の親族である事に変わりは無いから、数ヶ月に一度、命の危機は起こりかける。けどその度にフレドリックが救ってくれる。ギルバート様たちの助けも借りて証拠集めも出来てきたから、そろそろ伯父を捕まえることもできるかもしれない。
彼らのおかげで私は今日も生きている。
アメジストのネックレスを無意識にいじる。
「お金で解決できるならそうするわよ。私お金持ちだし」
「…腹立つな。金の問題じゃないんだ」
「じゃあ、何なの?」
「…一代貴族と、伯爵家は婚姻できないって聞いた」
「あー、そうね。騎士爵と伯爵家以上は貴族籍を抜けない限り婚姻できないらしいわ…え?あなた伯爵家のご令嬢と結婚したいから頑張ってるの?」
「……知らね」
さらにぷいとフレドリックはそっぽを向く。
それならそうと言ってくれれば良いのに。私を迎えにくる時に見かけた子なのだろうか。私の家も伯爵家だから、伝手なら沢山ある。どの子だろうか。私の友達のあの子?先輩のあの人?
大事な護衛の恋だ。必ずや、フレドリックと彼の意中の令嬢を結婚させてみせよう。
「フレドリック、私頑張るからね!」
「何をだよ…」
ため息を吐くフレドリックを横目に私はふんふんと闘志に燃えていた。
子爵位を手に入れたフレドリックが私に求婚する数ヶ月前の事。
68
お気に入りに追加
45
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説


夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜
梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーレットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。
そんなシャーレットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。
実はシャーレットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーレットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーレットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。
悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。
しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーレットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーレットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーレットは図々しく居座る計画を立てる。
そんなある日、シャーレットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。

【完結】やってしまいましたわね、あの方たち
玲羅
恋愛
グランディエネ・フラントールはかつてないほど怒っていた。理由は目の前で繰り広げられている、この国の第3王女による従兄への婚約破棄。
蒼氷の魔女と噂されるグランディエネの足元からピキピキと音を立てて豪奢な王宮の夜会会場が凍りついていく。
王家の夜会で繰り広げられた、婚約破棄の傍観者のカップルの会話です。主人公が婚約破棄に関わることはありません。

愛するお嬢様を傷付けられた少年、本人が部屋に閉じこもって泣き暮らしている間に復讐の準備を完璧に整える
下菊みこと
恋愛
捨てられた少年の恋のお話。
少年は両親から捨てられた。なんとか生きてきたがスラム街からも追い出された。もうダメかと思っていたが、救いの手が差し伸べられた。
小説家になろう様でも投稿しています。
悪役令嬢エリザベス・フォン・グレイストーン
Y.Itoda
恋愛
悪役令嬢エリザベス・フォン・グレイストーンは、婚約者に裏切られた末、婚約破棄と共に家族からも見放される。
過去の栄光を失い、社会からの期待も失ってしまう。
でも、その状況が逆に新たな人生のスタートに⋯
かつての贅沢な生活から一変した、エリザベス。
地方の小さな村で一から再出発を決意する。
最後に、エリザベスが新しい生活で得たものとは?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる