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番外編〜アオイの恋〜

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 今日は、王妃殿下に謁見する日。

 私は菫色のドレスを纏い、アオイは聖女の正装に身を包んでいた。

 王妃様にお会いするのは、結婚式以来。

 アシュリー様との婚約が決まってからは、娘のように可愛がってくださった、優しいお方。

 私とアシュリー様の結婚を後押ししてくれ、ご尽力くださったと聞いた。
 
 黒く長い髪の美しい王妃様は、アオイと同じく召喚された聖女様。

 当時皇太子であった現国王陛下とご結婚をされた、レオノア様とアシュリー様のお母様である。

 聖女の力は次第に失われていくもので、王妃様も二年前に聖女業を退かれた。

 そこから魔物の動きが活発になり、国を脅かす事態に、私は騎士団と一緒に討伐に出るようになった。

 そして半年前、アオイが聖女として召喚されたというわけで。

「その王妃様? も私と同じ日本から来たんだよね?」

 私はアオイと話しながら王妃宮に向かっていた。

「アオイと同じ髪の色だから、そのにほん?って所から来られたと思うわよ」
「えー、会うの楽しみだなー」

 アオイは何だか嬉しそう。

 自分と同じ国に生まれた人と会えるのだから、当たり前なのかも。聖女には聖女同士にしかわからないこともあるかもしれないし。

 それに、王妃様はすごく気さくで優しいお方。私も大好きなのだ。なんたって、アシュリー様のお母様だからね!!

 聖女業を退かれてからは、王妃宮でゆっくりと過ごされているとか。

「こちらです」

 護衛に付き添われ、王宮内を移動して来た私たちは、彼に声をかけられて、王妃宮に辿り着いたことを知る。

「えっ! すご! お城の中なのに何でこんな立派な建物があんの??」

 王妃宮を前に、アオイが興奮した様子で喋りだした。私も王妃宮に来るのは初めてだ。

 私たちは王妃様付きのメイドに案内され、中庭を通る。

 あれ?宮内にはいらっしゃらないのかしら?

「ステラちゃーーーん!」

 そんなことを考えていると、遠くから声がした。

「王妃殿下?!」

 声の主は王妃様。

 それよりもびっくりしたのは、王妃様はエプロン姿で泥だらけになっていたからだ。

「もー、ステラちゃん、私のことは何て呼ぶんだっけ?」
「マリー様……」

 慌てて駆け寄ると、私は早速王妃様に怒られる。

「そこはお母様じゃないんだ……」

 あのアオイが、マリー様の迫力に気圧されていると、アオイに気付いたマリー様がガシッ、とアオイの手を取った。

「アオイちゃーん! 私、あなたとお話ししたかったのー!」
「は、はあ……ちょっとステラ、結婚式の時と雰囲気違うんですけど?!」

 マリー様に手を握られたアオイは、私にヒソヒソと言った。

「マリー様はあのとき、王妃モードだったからねえ……」

 そう、マリー様は本当は可愛らしいお方なのだ。公の場ではキリッとした王妃様を演じておられるのだから、凄い。

 そんな努力の人、マリー様は、これまた努力!根性!が取り柄の私をとても可愛がってくれている大好きな人。

「そもそも、そのマリー様って何なのよ? どこからどう見ても私と同じ日本人でしょ?!」
「ふふふ、それはねー」

 ヒソヒソと話していた内容はマリー様にも届いていたようで。

 マリー様は、恥じらいながらも、可愛らしい少女のように答えた。

「私の本当の名前は真理子って言うんだけど、アレンがマリーって呼び始めたのが定着したのね」
「アレン……?」
「現、国王陛下ですね……」

 マリー様の惚気に、アオイが引いている。ああ、遠い目をしている。

「どこもかしこもバカップルね!」
「ええと、それは私とアシュリー様もでしょうか」

 アオイがこちらに視線を送るので、私も含まれているのかと尋ねてみれば、そのようだった。

「まあまあ、アオイちゃん、私の作ったトマト、食べる?」

 プリプリするアオイに、そう言ってマリー様はトマトを差し出した。

「と、トマト~?」
「そう、美味しそうでしょ?」



「おまたせ~」

 あれから。私たちは、お茶の準備がされた中庭のガゼボに通され、マリー様を待っていた。

 先程まで泥だらけだった姿はすっかり王妃様の装いで、国王陛下の瞳と同じ、淡いグリーンのドレスを纏われている。

 マリー様が席に着くと、一緒に来たメイドが先程のトマトをお皿に乗せて差し出してくれた。

 赤く瑞々しいトマトは、綺麗にくし形に切られている。

「食べて、食べて~」

 装いを変えても、中身はやっぱりマリー様なことに、私とアオイはお互いに見合うと、笑った。

 マリー様のおかげで、お互い緊張が解けていたようだった。

「え! 美味しい! こんなの食べたことない!」
「でしょ、でしょ~? お、てことはアオイちゃんは都会っ子なのかなー?」

 私たちはマリー様お手製のトマトを頬張った。

 そしてアオイとマリー様は懐かしい故郷の話に目を細めていた。
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