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39. 真実
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「ああ、アデリーナ、綺麗だよ」
「あの……国王陛下?」
あれから私は神殿から王宮へと連れて行かれた。
王宮勤めのメイドたちにお風呂へ入れられ、めいいっぱい着飾られ、今に至る。
「君はヘンリーの婚約者だ。これからは王宮に住むといい」
「!? あの、陛下……私、ラヴァルの浄化もちゃんとしますから、オルレアンに戻らせてください」
「どうして? ああ、愚息に国外追放されたことをまだ怒っているのかい? 君にはもうそんな思いをさせないから安心して欲しい」
「え……あの」
陛下は私の言葉を聞こうとはせずに、にこにこと話を進めていく。
「ああ、オルレアンで無理やり結婚させられていたんだったな。でも、離婚届も出してきたのだろう? 君が離婚履歴があろうと私は気にしないよ」
「あの…………」
「明日すぐに結婚式をしよう」
「明日!?」
陛下の急な申し出に、さすがに黙ってはいられない。
「陛下、申しわけございません。私は、ヘンリー殿下と結婚する気はないのです。でも、ラヴァルの浄化はこれからも――」
「なぜ?」
私の言葉の途中で陛下が遮った。穏やかな笑顔のはずなのに、目が笑っていない。様子がおかしい。
「陛下?」
「君には愚息のせいで苦労をかけた。これからは好きに贅沢もしても良いんだよ? 皆がそれを羨み、望むのになぜ?」
「陛下……私は贅沢を望みません。それに、財源も無限ではないのですから……」
「オルレアンが属国になるのだから、そんなこと気にしなくてよい」
歪んだ陛下の笑顔にぞっとした。
「へい……か?」
「オルレアンは魔物の活発化で疲弊している。そこを攻め込めばラヴァルが勝利するのは間違いないだろう」
「陛下……? まさか……?」
さきほどハンナが言っていたのは、出まかせだと思っていた。
そんな私の気持ちを裏切るように、陛下はニタリと笑って言った。
「ああ、そうだ。闇魔法でオルレアンに魔物を差し向け、弱体化を待っていたら、愚息が君を隣国にやってしまったと聞いて焦ったよ」
「何てこと――どうして……!」
「すべてはラヴァルのためだ、アデリーナ。我が国に周辺国は従い、最強の国になるんだよ。忌々しいオルレアンの顔色を伺うのはもう終わりだ」
夢でも見ているのだろうか。陛下は私の第二の父と思ってきた人だった。
「……他国を侵略することより、助け合い、協力するのが大切なのでは……?」
昔、聖女を他国へ派遣することに陛下も賛成してくださっていた。
「まだそんなことを言っているのか。厳しい状況に置けば目の前の贅沢に飛びつくようになると思っていたのだが」
私はこの国で大聖女として無償で働いてきた。暮らしも質素で、それが未来の王妃としてあるべき姿なのだと陛下が教えてくれていたのだと。
「まあ、良い。君がいなくなればオルレアンもすぐにまた瘴気まみれになるだろう」
「そんなことはさせません!!」
「アデリーナ? 君もマリアンのように私に歯向かうのか?」
思わず声を上げた私に、陛下が言った。マリアンは、私の母の名前だった。
「どうしてそこでお母様の名前が――」
オルレアンに魔物を差し向けていた者と、両親を殺した人物は一緒――オーウェンが言っていたことが頭をよぎる。
「ま……さか……」
後ずさる私との距離を許さないとばかりに、陛下は私に詰め寄る。
「マリアンは、バカなことをした。あんな辺境のエルノー侯爵家ではなく、私に嫁げば良かったものを……。父上はラヴァルの浄化を続けられるならと、マリアンの婚姻を許可したのだ。私は愛するマリアンを手に入れられず、父上を恨んだ」
後ずさり続けた私はついに壁に突き当たる。
「マリアンに娘が生まれたと聞いたときは歓喜したよ。先に生まれていた息子の嫁にできるとね」
私はついに陛下に追い詰められる。
「君を婚約者にしたまでは良かった。私が闇魔法に手を出していることにエルノー侯爵が勘付いてしまってね」
淡々と語られる真実に、私はいつの間にか涙を流していた。陛下はそんな私など見ていない。私に母の面影を重ねているようだった。
「あろうことかマリアンは、オルレアンに聖女の力を使っていた。そこで、私の元に来ることを条件に不問にすると言った。しかし逆にエルノー侯爵は、私が闇魔法に手を出していることを問題にすると言ってきた」
「やめて……」
その先は聞きたくない。
「だから事故に見せかけて、二人を殺した」
「やめて――――」
私はその場にうずくまった。
自分が信じていた相手に両親を殺された事実に、頭がついていかない。
「マリアンは惜しいことをしたが、忘れ形見の君がいる」
「やめて……ください」
泣いて請う私を陛下は無視して、私の視線まで腰を落とした。
「体外的には愚息の妃だが、なに、私もたっぷり愛してやる」
「!?」
「この髪も顔立ちも、マリアンそっくりになってきた」
陛下は私の頬に手を伸ばすと、滑らすように触れた。
「オルレアンもマリアンも、やっと手に入れられる――」
一国の王が自分の私欲に走り、恐ろしいことをしている。
私はその事実にぞっとした。
「あの……国王陛下?」
あれから私は神殿から王宮へと連れて行かれた。
王宮勤めのメイドたちにお風呂へ入れられ、めいいっぱい着飾られ、今に至る。
「君はヘンリーの婚約者だ。これからは王宮に住むといい」
「!? あの、陛下……私、ラヴァルの浄化もちゃんとしますから、オルレアンに戻らせてください」
「どうして? ああ、愚息に国外追放されたことをまだ怒っているのかい? 君にはもうそんな思いをさせないから安心して欲しい」
「え……あの」
陛下は私の言葉を聞こうとはせずに、にこにこと話を進めていく。
「ああ、オルレアンで無理やり結婚させられていたんだったな。でも、離婚届も出してきたのだろう? 君が離婚履歴があろうと私は気にしないよ」
「あの…………」
「明日すぐに結婚式をしよう」
「明日!?」
陛下の急な申し出に、さすがに黙ってはいられない。
「陛下、申しわけございません。私は、ヘンリー殿下と結婚する気はないのです。でも、ラヴァルの浄化はこれからも――」
「なぜ?」
私の言葉の途中で陛下が遮った。穏やかな笑顔のはずなのに、目が笑っていない。様子がおかしい。
「陛下?」
「君には愚息のせいで苦労をかけた。これからは好きに贅沢もしても良いんだよ? 皆がそれを羨み、望むのになぜ?」
「陛下……私は贅沢を望みません。それに、財源も無限ではないのですから……」
「オルレアンが属国になるのだから、そんなこと気にしなくてよい」
歪んだ陛下の笑顔にぞっとした。
「へい……か?」
「オルレアンは魔物の活発化で疲弊している。そこを攻め込めばラヴァルが勝利するのは間違いないだろう」
「陛下……? まさか……?」
さきほどハンナが言っていたのは、出まかせだと思っていた。
そんな私の気持ちを裏切るように、陛下はニタリと笑って言った。
「ああ、そうだ。闇魔法でオルレアンに魔物を差し向け、弱体化を待っていたら、愚息が君を隣国にやってしまったと聞いて焦ったよ」
「何てこと――どうして……!」
「すべてはラヴァルのためだ、アデリーナ。我が国に周辺国は従い、最強の国になるんだよ。忌々しいオルレアンの顔色を伺うのはもう終わりだ」
夢でも見ているのだろうか。陛下は私の第二の父と思ってきた人だった。
「……他国を侵略することより、助け合い、協力するのが大切なのでは……?」
昔、聖女を他国へ派遣することに陛下も賛成してくださっていた。
「まだそんなことを言っているのか。厳しい状況に置けば目の前の贅沢に飛びつくようになると思っていたのだが」
私はこの国で大聖女として無償で働いてきた。暮らしも質素で、それが未来の王妃としてあるべき姿なのだと陛下が教えてくれていたのだと。
「まあ、良い。君がいなくなればオルレアンもすぐにまた瘴気まみれになるだろう」
「そんなことはさせません!!」
「アデリーナ? 君もマリアンのように私に歯向かうのか?」
思わず声を上げた私に、陛下が言った。マリアンは、私の母の名前だった。
「どうしてそこでお母様の名前が――」
オルレアンに魔物を差し向けていた者と、両親を殺した人物は一緒――オーウェンが言っていたことが頭をよぎる。
「ま……さか……」
後ずさる私との距離を許さないとばかりに、陛下は私に詰め寄る。
「マリアンは、バカなことをした。あんな辺境のエルノー侯爵家ではなく、私に嫁げば良かったものを……。父上はラヴァルの浄化を続けられるならと、マリアンの婚姻を許可したのだ。私は愛するマリアンを手に入れられず、父上を恨んだ」
後ずさり続けた私はついに壁に突き当たる。
「マリアンに娘が生まれたと聞いたときは歓喜したよ。先に生まれていた息子の嫁にできるとね」
私はついに陛下に追い詰められる。
「君を婚約者にしたまでは良かった。私が闇魔法に手を出していることにエルノー侯爵が勘付いてしまってね」
淡々と語られる真実に、私はいつの間にか涙を流していた。陛下はそんな私など見ていない。私に母の面影を重ねているようだった。
「あろうことかマリアンは、オルレアンに聖女の力を使っていた。そこで、私の元に来ることを条件に不問にすると言った。しかし逆にエルノー侯爵は、私が闇魔法に手を出していることを問題にすると言ってきた」
「やめて……」
その先は聞きたくない。
「だから事故に見せかけて、二人を殺した」
「やめて――――」
私はその場にうずくまった。
自分が信じていた相手に両親を殺された事実に、頭がついていかない。
「マリアンは惜しいことをしたが、忘れ形見の君がいる」
「やめて……ください」
泣いて請う私を陛下は無視して、私の視線まで腰を落とした。
「体外的には愚息の妃だが、なに、私もたっぷり愛してやる」
「!?」
「この髪も顔立ちも、マリアンそっくりになってきた」
陛下は私の頬に手を伸ばすと、滑らすように触れた。
「オルレアンもマリアンも、やっと手に入れられる――」
一国の王が自分の私欲に走り、恐ろしいことをしている。
私はその事実にぞっとした。
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