39 / 42
38. ハンナの目的
しおりを挟む
ラヴァル一行は強行な日程で、あっという間に自国の国境線へと辿り着いた。
私は、ラヴァルに瘴気が充満していることに驚いた。
もちろん、浄化を続けているので、この一行が魔物に襲われることはない。
私が何年もかけて国を浄化し続けていた物が、無になっている。
(どうやっているのかはわからないけど、瘴気を持ち込めるなら納得だわ)
隣国への干渉。国際問題、下手したら戦争になる。
(なんとかして陛下にお伝えしなくちゃ)
フルニエ伯爵家を断罪できれば、全てが解決する。
私は荷馬車の中で数日、必死に耐えた。
囚人ということで、水しか与えられず、王都に着く頃にはふらふらだった。
神殿に軟禁され、私はバカ王子に言われるまま浄化を行い、機会を待った。
☆
「ふう……」
ラヴァルに戻ってきて五日。神殿での久しぶりの寝泊まりに身体がバキバキだった。
運ばれるご飯も日に一度だけ。大聖女時代と異なるのは、私が囚人とされているからだろうか。
毛先の黒はどんどん私の髪を浸食し、まとめても隠せないくらいになっていた。
いっこうに陛下にお会いできる機会がやってこない。私のことは耳に入っていないのだろうか?
「あら、瘴気を吸っていたのは本当だったのね。気持ちわる~い」
「ハンナ!?」
ハンナは神殿に一人だけでやって来たようだ。バカ王子の姿は無い。
「おかげでラヴァルにいた魔物が消滅したようよ? この国は我が家の物になるから、一応お礼を言っておこうと思ってね」
「やっぱり……フルニエ伯爵家が裏で動いていたのね」
ふふふ、と笑うハンナを私は睨みつけた。
「ここまで色々と大変だったのよ? 陛下お気に入りのあなたを追い出すのも、唯一王子が本気になったメイドを排除するのも」
「えっ……」
「あら、意外だった? あの能無し、浮気してばかりだったものね。でもあいつは言ったのよ。酔っていたとはいえ、初めて心を許したって」
驚きで固まる私に、ハンナがペラペラと説明をする。
「でも、王子の子供じゃないならどうでもいいわ。あんたの従者も節操ないわね」
「オーウェンをバカにしないで!」
くすりと笑うハンナに叫ぶと、彼女は狼狽えた。
「な、なによ。私にそんな口きいて良いの? 囚人としての生活をもっと厳しくしてもいいのよ?」
「そんなの、陛下が黙っていないわ」
「ああ、陛下に期待していたの? 無理よ、陛下はご病気が重くて動けないもの。あなたを取り戻したと話はしたけど、どう過ごしているかまでは確かめようがないもの」
ハンナはふふふ、とほくそ笑んだ。
「陛下が死ねば、あの無能王子を操ってフルニエ伯爵家がラヴァルを思いのままにするのよ」
「それで国が戦争になってもいいの!?」
「は?」
悦に入るハンナに抗議すれば、彼女はぽかんとした。
「あなたが……フルニエ伯爵家が魔物をオルレアンに差し向けていたんでしょう?」
ハンナを睨めば、彼女はぽかんとした顔を緩めて、笑い出した。
「ふふ……ははははは! そんなこと、するわけないじゃない! 私たちだってラヴァルを敵に回したくないもの」
「え……でもラヴァルに瘴気を持ち込んだでしょう?」
笑うハンナに私は食い下がるが、彼女は私に視線を向けると、呆れたように言った。
「あんたも浄化できるだけで、無能なのね。まあ、私が一生その力を活かしてあげる」
「なっ――――」
ハンナが私に顔を近付けて言い放った。
「いい? 闇魔法に手を出してオルレアンに魔物を差し向けていたのは、国王陛下よ」
「えっ――――」
驚く私に構わず、ハンナは続ける。
「だからその反動で瘴気を食らって寝込んでいるのよ。大方、あの無能王子がその瘴気を含んだ物でも持たされていたんでしょう」
「じゃあ、バ……ヘンリー殿下も共犯……」
「そんなわけないじゃない! あの無能はお父上に言われた通りにしただけよ」
ハンナはカラカラと笑いながら言った。
これが真実かはわからない。でも、やけに詳しいし、話が通る。
「だから陛下は瘴気に蝕まれて先は長くないわ。フルニエ伯爵家の天下なのよ」
「ほう、私の周りを嗅ぎまわっていたのはフルニエ伯爵家だったか」
笑うハンナの後ろからひやりとした声が聞こえた。
「あ……」
「こ、国王陛下!?」
私が声を上げる前にハンナが叫んだ。
「ヘンリーを取り込み、執務への口出しもしていたとか。王宮はすでにフルニエ伯爵家が掌握しているようだな。王家簒奪が目的だったか」
「いえ……あの……」
突然の陛下登場に、ハンナは顔を青くして震えていた。
「捕らえろ!」
陛下の命令で、神殿に騎士たちが入って来た。
「陛下! 殿下との結婚は認めてくださったはずでは……!」
「側室としてだ。アデリーナを排除し、王家簒奪が目的ならその話は無しだ」
「陛下、お話を!!」
ハンナは騎士たちに連れられて、神殿を出て行ったが、最後まで叫んでいた。
私は気が抜けて、その場に座り込んでしまった。
(陛下にご説明する前に、ご自身で真実に辿り着かれた……?)
陛下は私に向き直ると、穏やかに笑った。
「アデリーナ、遅くなってすまない。戻って来てくれてありがとう」
私は、ラヴァルに瘴気が充満していることに驚いた。
もちろん、浄化を続けているので、この一行が魔物に襲われることはない。
私が何年もかけて国を浄化し続けていた物が、無になっている。
(どうやっているのかはわからないけど、瘴気を持ち込めるなら納得だわ)
隣国への干渉。国際問題、下手したら戦争になる。
(なんとかして陛下にお伝えしなくちゃ)
フルニエ伯爵家を断罪できれば、全てが解決する。
私は荷馬車の中で数日、必死に耐えた。
囚人ということで、水しか与えられず、王都に着く頃にはふらふらだった。
神殿に軟禁され、私はバカ王子に言われるまま浄化を行い、機会を待った。
☆
「ふう……」
ラヴァルに戻ってきて五日。神殿での久しぶりの寝泊まりに身体がバキバキだった。
運ばれるご飯も日に一度だけ。大聖女時代と異なるのは、私が囚人とされているからだろうか。
毛先の黒はどんどん私の髪を浸食し、まとめても隠せないくらいになっていた。
いっこうに陛下にお会いできる機会がやってこない。私のことは耳に入っていないのだろうか?
「あら、瘴気を吸っていたのは本当だったのね。気持ちわる~い」
「ハンナ!?」
ハンナは神殿に一人だけでやって来たようだ。バカ王子の姿は無い。
「おかげでラヴァルにいた魔物が消滅したようよ? この国は我が家の物になるから、一応お礼を言っておこうと思ってね」
「やっぱり……フルニエ伯爵家が裏で動いていたのね」
ふふふ、と笑うハンナを私は睨みつけた。
「ここまで色々と大変だったのよ? 陛下お気に入りのあなたを追い出すのも、唯一王子が本気になったメイドを排除するのも」
「えっ……」
「あら、意外だった? あの能無し、浮気してばかりだったものね。でもあいつは言ったのよ。酔っていたとはいえ、初めて心を許したって」
驚きで固まる私に、ハンナがペラペラと説明をする。
「でも、王子の子供じゃないならどうでもいいわ。あんたの従者も節操ないわね」
「オーウェンをバカにしないで!」
くすりと笑うハンナに叫ぶと、彼女は狼狽えた。
「な、なによ。私にそんな口きいて良いの? 囚人としての生活をもっと厳しくしてもいいのよ?」
「そんなの、陛下が黙っていないわ」
「ああ、陛下に期待していたの? 無理よ、陛下はご病気が重くて動けないもの。あなたを取り戻したと話はしたけど、どう過ごしているかまでは確かめようがないもの」
ハンナはふふふ、とほくそ笑んだ。
「陛下が死ねば、あの無能王子を操ってフルニエ伯爵家がラヴァルを思いのままにするのよ」
「それで国が戦争になってもいいの!?」
「は?」
悦に入るハンナに抗議すれば、彼女はぽかんとした。
「あなたが……フルニエ伯爵家が魔物をオルレアンに差し向けていたんでしょう?」
ハンナを睨めば、彼女はぽかんとした顔を緩めて、笑い出した。
「ふふ……ははははは! そんなこと、するわけないじゃない! 私たちだってラヴァルを敵に回したくないもの」
「え……でもラヴァルに瘴気を持ち込んだでしょう?」
笑うハンナに私は食い下がるが、彼女は私に視線を向けると、呆れたように言った。
「あんたも浄化できるだけで、無能なのね。まあ、私が一生その力を活かしてあげる」
「なっ――――」
ハンナが私に顔を近付けて言い放った。
「いい? 闇魔法に手を出してオルレアンに魔物を差し向けていたのは、国王陛下よ」
「えっ――――」
驚く私に構わず、ハンナは続ける。
「だからその反動で瘴気を食らって寝込んでいるのよ。大方、あの無能王子がその瘴気を含んだ物でも持たされていたんでしょう」
「じゃあ、バ……ヘンリー殿下も共犯……」
「そんなわけないじゃない! あの無能はお父上に言われた通りにしただけよ」
ハンナはカラカラと笑いながら言った。
これが真実かはわからない。でも、やけに詳しいし、話が通る。
「だから陛下は瘴気に蝕まれて先は長くないわ。フルニエ伯爵家の天下なのよ」
「ほう、私の周りを嗅ぎまわっていたのはフルニエ伯爵家だったか」
笑うハンナの後ろからひやりとした声が聞こえた。
「あ……」
「こ、国王陛下!?」
私が声を上げる前にハンナが叫んだ。
「ヘンリーを取り込み、執務への口出しもしていたとか。王宮はすでにフルニエ伯爵家が掌握しているようだな。王家簒奪が目的だったか」
「いえ……あの……」
突然の陛下登場に、ハンナは顔を青くして震えていた。
「捕らえろ!」
陛下の命令で、神殿に騎士たちが入って来た。
「陛下! 殿下との結婚は認めてくださったはずでは……!」
「側室としてだ。アデリーナを排除し、王家簒奪が目的ならその話は無しだ」
「陛下、お話を!!」
ハンナは騎士たちに連れられて、神殿を出て行ったが、最後まで叫んでいた。
私は気が抜けて、その場に座り込んでしまった。
(陛下にご説明する前に、ご自身で真実に辿り着かれた……?)
陛下は私に向き直ると、穏やかに笑った。
「アデリーナ、遅くなってすまない。戻って来てくれてありがとう」
8
お気に入りに追加
354
あなたにおすすめの小説
「お前はもう不要だ」と婚約破棄された聖女は隣国の騎士団長に拾われ、溺愛されます
平山和人
恋愛
聖女のソフィアは民を癒すべく日々頑張っていたが、新たな聖女が現れたことで不要となり、王子から婚約破棄された挙句、国から追放されることになった。
途方に暮れるソフィアは魔物に襲われるが、隣国の騎士団長であるエドワードに助けられる。
その際、エドワードの怪我を治癒したことにより、ソフィアは騎士団の治癒係として働くことになった。
次第にエドワードに惹かれていくが、ただの治癒係と騎士団長では釣り合わないと諦めていたが、エドワードから告白され、二人は結婚することになった。
婚約破棄をしてくれた王太子殿下、ありがとうございました
hikari
恋愛
オイフィア王国の王太子グラニオン4世に婚約破棄された公爵令嬢アーデルヘイトは王国の聖女の任務も解かれる。
家に戻るも、父であり、オルウェン公爵家当主のカリオンに勘当され家から追い出される。行き場の無い中、豪商に助けられ、聖女として平民の生活を送る。
ざまぁ要素あり。
【溺愛のはずが誘拐?】王子様に婚約破棄された令嬢は引きこもりましたが・・・お城の使用人達に可愛がられて楽しく暮らしています!
五月ふう
恋愛
ザルトル国に来てから一ヶ月後のある日。最愛の婚約者サイラス様のお母様が突然家にやってきた。
「シエリさん。あなたとサイラスの婚約は認められないわ・・・!すぐに荷物をまとめてここから出ていって頂戴!」
「え・・・と・・・。」
私の名前はシエリ・ウォルターン。17歳。デンバー国伯爵家の一人娘だ。一ヶ月前からサイラス様と共に暮らし始め幸せに暮していたのだが・・・。
「わかったかしら?!ほら、早く荷物をまとめて出ていって頂戴!」
義母様に詰め寄られて、思わずうなずきそうになってしまう。
「な・・・なぜですか・・・?」
両手をぎゅっと握り締めて、義母様に尋ねた。
「リングイット家は側近として代々ザルトル王家を支えてきたのよ。貴方のようなスキャンダラスな子をお嫁さんにするわけにはいかないの!!婚約破棄は決定事項です!」
彼女はそう言って、私を家から追い出してしまった。ちょうどサイラス様は行方不明の王子を探して、家を留守にしている。
どうしよう・・・
家を失った私は、サイラス様を追いかけて隣町に向かったのだがーーー。
この作品は【王子様に婚約破棄された令嬢は引きこもりましたが・・・お城の使用人達に可愛がられて楽しく暮らしています!】のスピンオフ作品です。
この作品だけでもお楽しみいただけますが、気になる方は是非上記の作品を手にとってみてください。
【完結】無能な聖女はいらないと婚約破棄され、追放されたので自由に生きようと思います
黒幸
恋愛
辺境伯令嬢レイチェルは学園の卒業パーティーでイラリオ王子から、婚約破棄を告げられ、国外追放を言い渡されてしまう。
レイチェルは一言も言い返さないまま、パーティー会場から姿を消した。
邪魔者がいなくなったと我が世の春を謳歌するイラリオと新たな婚約者ヒメナ。
しかし、レイチェルが国からいなくなり、不可解な事態が起き始めるのだった。
章を分けるとかえって、ややこしいとの御指摘を受け、章分けを基に戻しました。
どうやら、作者がメダパニ状態だったようです。
表紙イラストはイラストAC様から、お借りしています。
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる