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9. 聖女の力
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「いや……しかし、魔物の瘴気による物は治せないとアパタイトも言っていた……」
エクトルさんはすでにそんな話をアパタイトとしていたらしい。
「お願いします……! やってみるだけでも……!」
躊躇するエクトルさんに私は懇願した。
「お願い~」
なぜかアパタイトも私の横でお願いしていた。
「何でそんなに必死になるんだ? 貴女には関係のないことだろう」
(あ……)
エクトルさんの距離を取るような物言い。ミアにそっくりだ。
他人を寄せ付けず、自分一人で痛みを背負って立とうとする人。
私はそんな人を見ると、胸の奥がきゅうとなって、どうしても放っておけないのだ。
「はい、関係ありません。でも、私はあなたを助けたい。自分の我儘です」
真っ直ぐに見つめたエクトルさんの瞳は、困惑で揺れていた。
そんな彼の瞳は変わらず綺麗で、思わず見入ってしまう。
「あ!!」
「どうしたんだ?!」
唐突に思い至った私に、エクトルさんが驚いた。
「素性のしれない私のこと信用できなくて当然ですよね!」
「いや……それはアパタイトが懐いている時点で疑っては……」
そうだ! と声をあげる私にエクトルさんが否定するも、私の耳には届いていない。
ここの人は普通に接してくれるから忘れていたけど、私の気味の悪い髪。こんな得体のしれない女なんて信用出来なくて当然だ。
「副団長のユリスさんにも監視してもらってください! 私が変なことをすれば切ってもらってかまいませんので!」
「いや……私は……」
困惑するエクトルさんを置いて私はさくさくと話を進めていく。
「うわ~、リーナ、張り切ってるね~」
「アパタイトも協力してくれるよね?!」
「もちろん~」
アパタイトに力をもらわないと成立しないので、彼の返事に安心する。
(アパタイトだって、大好きなエクトルさんを何とかしてあげたかったはず!)
私は胸の前でガッツポーズをする。
「あれ、何か盛り上がってる?」
「ユリスさん!」
タイミングよくユリスさんが部屋に入って来て、私はびゅん、と彼の元へ駆け寄る。そして急いで説明をすると、彼は驚いていたけど、快く承諾してくれた。
「エクトルさん! 何かある前にユリスさんが切ってくれますので! もちろん私はそんなことしませんが!」
「リーナ、そんなことしない~」
隣で私の真似をするアパタイトが可愛い。
「じゃあ、ここは狭いから外に出ようか。私は剣を構えてないといけないらしいから」
くすくすと笑いながらユリスさんが言うので、私は「真剣に!」と怒って部屋を先に出た。アパタイトも私について来た。
「団長、助けてもらっておきながら、あの子のこと警戒しているんですか?」
「いや……私は……」
「いい加減、女性を一括りにして見るのやめた方が良いですよ~」
「なっ……私は……!」
後ろでエクトルさんとユリスさんが何やら言い合う声が聞こえたけど、私は彼の足を治すことで頭がいっぱいだった。
☆
「お嬢……今度は何です?」
オーウェンが白い目で私を見ている。
外に出た私はアパタイトと並び、エクトルさんと対峙している。その横にはユリスさんがにこにこと剣を構えている。
(私を信じてくれるのは嬉しいけど、エクトルさんのためにも真面目にやって欲しいわ)
オーウェンの師匠でもあるからきっと私のことも信じてくれているのだろう。
そんなことを思いながら、私はオーウェンに事の次第を説明した。
「お嬢、目立つの嫌がってませんでした……?」
「うっ……」
未だに白い目のオーウェンに苦笑いする。
「だ、大丈夫。全部アパタイトの力のおかげにするから」
「そうですか。……まあ、お嬢は助けられる人が目の前にいたら無視できないっすよね」
やれやれ、とオーウェンが息を吐きながら笑った。
「エクトルを治してくれるなら、リーナのことも僕、守るからね!」
「こいつなんですって?」
「ふふ、私のこともお礼に守ってくれるって」
きりりと話すアパタイトの言葉を私がオーウェンに訳すと、彼は笑顔を向けた。
「俺もお嬢を守りますよ。ずっと大聖女として国にその身を捧げてきたんです。これからは自由に生きて欲しいです」
「オーウェン……」
それはこちらの台詞なのに……と言おうとしたが、涙が出そうで口を噤んだ。
「じゃあお嬢、騎士団の仕事を得るためにも、その力ちゃちゃっと見せつけてきちゃってください!」
「言い方……」
オーウェンの軽いノリに、思わず笑ってしまう。
気付けば駐屯地の騎士たちが何事かと外に集まって来てしまっていた。
「じゃあ、アパタイト、行くわよ!」
「うん!」
見守るオーウェンの笑顔を背中に感じながら、私はアパタイトと一緒に用意した椅子に座るエクトルさんへと近づいた。
「あいつが、『オーウェン』?」
「? はい」
「本気で愛しているんだな」
「あい?!」
向き合ったエクトルさんから恥ずかしい台詞が出て来て、思わず私は飛び上がる。
「はっ……はい……そうでなきゃ、駆け落ちしないです、よね」
すんでの所で私は設定を思い出し、顔を赤くしながらも答えた。
「お互いを信頼しあった空気を纏っていた。うらやましいな……」
エクトルさんがまた寂しそうに微笑んだ。
(女性関係で何かあったのかな?)
美しい顔立ちの彼なら選びたい放題だろうに。
そんなことを考えていると、ヘンリー殿下の顔が浮かんだ。
自身の美貌を使いまくり、数々の女性に手を出したバカ王子。
(エクトルさんはあのバカ王子と違うんだから)
目の前の誠実そうな彼を見て、私は首をふるふると振った。
「リーナ殿?」
私の様子に心配そうに覗き込んできたエクトルさんに、はっとして笑顔を作る。
「私とオーウェンのことはいいですから、早く治療に取り掛かりましょう!」
両手で拳を作ってみせた私に、エクトルさんはまた寂しげな表情を見せた。
エクトルさんはすでにそんな話をアパタイトとしていたらしい。
「お願いします……! やってみるだけでも……!」
躊躇するエクトルさんに私は懇願した。
「お願い~」
なぜかアパタイトも私の横でお願いしていた。
「何でそんなに必死になるんだ? 貴女には関係のないことだろう」
(あ……)
エクトルさんの距離を取るような物言い。ミアにそっくりだ。
他人を寄せ付けず、自分一人で痛みを背負って立とうとする人。
私はそんな人を見ると、胸の奥がきゅうとなって、どうしても放っておけないのだ。
「はい、関係ありません。でも、私はあなたを助けたい。自分の我儘です」
真っ直ぐに見つめたエクトルさんの瞳は、困惑で揺れていた。
そんな彼の瞳は変わらず綺麗で、思わず見入ってしまう。
「あ!!」
「どうしたんだ?!」
唐突に思い至った私に、エクトルさんが驚いた。
「素性のしれない私のこと信用できなくて当然ですよね!」
「いや……それはアパタイトが懐いている時点で疑っては……」
そうだ! と声をあげる私にエクトルさんが否定するも、私の耳には届いていない。
ここの人は普通に接してくれるから忘れていたけど、私の気味の悪い髪。こんな得体のしれない女なんて信用出来なくて当然だ。
「副団長のユリスさんにも監視してもらってください! 私が変なことをすれば切ってもらってかまいませんので!」
「いや……私は……」
困惑するエクトルさんを置いて私はさくさくと話を進めていく。
「うわ~、リーナ、張り切ってるね~」
「アパタイトも協力してくれるよね?!」
「もちろん~」
アパタイトに力をもらわないと成立しないので、彼の返事に安心する。
(アパタイトだって、大好きなエクトルさんを何とかしてあげたかったはず!)
私は胸の前でガッツポーズをする。
「あれ、何か盛り上がってる?」
「ユリスさん!」
タイミングよくユリスさんが部屋に入って来て、私はびゅん、と彼の元へ駆け寄る。そして急いで説明をすると、彼は驚いていたけど、快く承諾してくれた。
「エクトルさん! 何かある前にユリスさんが切ってくれますので! もちろん私はそんなことしませんが!」
「リーナ、そんなことしない~」
隣で私の真似をするアパタイトが可愛い。
「じゃあ、ここは狭いから外に出ようか。私は剣を構えてないといけないらしいから」
くすくすと笑いながらユリスさんが言うので、私は「真剣に!」と怒って部屋を先に出た。アパタイトも私について来た。
「団長、助けてもらっておきながら、あの子のこと警戒しているんですか?」
「いや……私は……」
「いい加減、女性を一括りにして見るのやめた方が良いですよ~」
「なっ……私は……!」
後ろでエクトルさんとユリスさんが何やら言い合う声が聞こえたけど、私は彼の足を治すことで頭がいっぱいだった。
☆
「お嬢……今度は何です?」
オーウェンが白い目で私を見ている。
外に出た私はアパタイトと並び、エクトルさんと対峙している。その横にはユリスさんがにこにこと剣を構えている。
(私を信じてくれるのは嬉しいけど、エクトルさんのためにも真面目にやって欲しいわ)
オーウェンの師匠でもあるからきっと私のことも信じてくれているのだろう。
そんなことを思いながら、私はオーウェンに事の次第を説明した。
「お嬢、目立つの嫌がってませんでした……?」
「うっ……」
未だに白い目のオーウェンに苦笑いする。
「だ、大丈夫。全部アパタイトの力のおかげにするから」
「そうですか。……まあ、お嬢は助けられる人が目の前にいたら無視できないっすよね」
やれやれ、とオーウェンが息を吐きながら笑った。
「エクトルを治してくれるなら、リーナのことも僕、守るからね!」
「こいつなんですって?」
「ふふ、私のこともお礼に守ってくれるって」
きりりと話すアパタイトの言葉を私がオーウェンに訳すと、彼は笑顔を向けた。
「俺もお嬢を守りますよ。ずっと大聖女として国にその身を捧げてきたんです。これからは自由に生きて欲しいです」
「オーウェン……」
それはこちらの台詞なのに……と言おうとしたが、涙が出そうで口を噤んだ。
「じゃあお嬢、騎士団の仕事を得るためにも、その力ちゃちゃっと見せつけてきちゃってください!」
「言い方……」
オーウェンの軽いノリに、思わず笑ってしまう。
気付けば駐屯地の騎士たちが何事かと外に集まって来てしまっていた。
「じゃあ、アパタイト、行くわよ!」
「うん!」
見守るオーウェンの笑顔を背中に感じながら、私はアパタイトと一緒に用意した椅子に座るエクトルさんへと近づいた。
「あいつが、『オーウェン』?」
「? はい」
「本気で愛しているんだな」
「あい?!」
向き合ったエクトルさんから恥ずかしい台詞が出て来て、思わず私は飛び上がる。
「はっ……はい……そうでなきゃ、駆け落ちしないです、よね」
すんでの所で私は設定を思い出し、顔を赤くしながらも答えた。
「お互いを信頼しあった空気を纏っていた。うらやましいな……」
エクトルさんがまた寂しそうに微笑んだ。
(女性関係で何かあったのかな?)
美しい顔立ちの彼なら選びたい放題だろうに。
そんなことを考えていると、ヘンリー殿下の顔が浮かんだ。
自身の美貌を使いまくり、数々の女性に手を出したバカ王子。
(エクトルさんはあのバカ王子と違うんだから)
目の前の誠実そうな彼を見て、私は首をふるふると振った。
「リーナ殿?」
私の様子に心配そうに覗き込んできたエクトルさんに、はっとして笑顔を作る。
「私とオーウェンのことはいいですから、早く治療に取り掛かりましょう!」
両手で拳を作ってみせた私に、エクトルさんはまた寂しげな表情を見せた。
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