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7. 二人の妻
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「いや、驚いた……。中で休んでるあの子の父親は連れて来た男だって聞いていたから……。オーウェン、もちろんお前のことだよな?」
ユリスさんの言葉に思わず「えっ」と声が出そうになるのを我慢してオーウェンを見る。
「そういうことにしといた方が都合が良いでしょう……」
ひそひそと身体を寄せ、オーウェンが言う。
確かに。
しかし、これではオーウェンは…………。
「ま、まあ、ラヴァルでは愛人も珍しくないそうだからな……。オルレアンではそうはいかないが……」
ユリスさんが気遣うように私をちらりと見た。
(ま、まずい! オーウェンの株が下がってしまうわ!)
私は慌てて付け足す。
「私は押しかけ愛人として出しゃばる気はありませんので! 優しいオーウェンは私をあの家から連れ出して来てくれただけなんです! 私は一緒に暮らせればそれで良いんです!」
「そ、そっか。リーナちゃんがそれで良いなら……。他人が口出すことじゃないよな」
ユリスさんはそれ以上突っ込んでこず、私はホッとする。
「セーフ……」
「セーフ……じゃありませんよ、お嬢! 何すかあの設定! ガバガバじゃないですか!」
隣のオーウェンがひそひそと私に抗議した。
確かに、事前の打ち合わせがなかったせいで、オーウェンが愛人持ちになってしまった。
「てか、お嬢だってばれないもんですね。俺、師匠ならお嬢の正体ばらしても大丈夫だと思いますけど?」
国境沿いで騎士たちと交流があった頃、私の髪はブロンドだった。今は瘴気を吸い、見る影もない。ユリスさんが気付かないのも当然だと思う。
「だめよ! アデリーナは国を追放された悪女なのよ? 関わったらユリスさんに迷惑かけるもの」
そう。本当の私は国外追放の犯罪者なのだ。
(そのうち、のたれ死んだと思ってもらえないかな……)
「でも騎士団で働くのに、あの設定維持するの無理あるっすよ……」
呆れた表情でオーウェンが私を見た。
リーナとして暮らしていくはずだったのに、変な展開になってしまったことは謝りたい。でも。
「オーウェンこそ、ミアの旦那さんなんて言っちゃって。本物を呼び寄せるまで面倒見る気?」
「俺は……っ、お嬢に付き合う気で……」
私の反撃にオーウェンが言い淀む。何だかんだオーウェンが良い奴なのは長い付き合いで知っている。
「オーウェン、ごめんね?」
そう言って彼を見上げれば、オーウェンは溜息を吐いて微笑んだ。
「しょうがないですね、お嬢は。あなたの無茶に付き合うのには慣れてます」
オーウェンの返事に私は満面の笑顔になった。
「で? うちに亡命してきたってことは、移民申請するんだよな? その先はどうするんだ?」
アパタイトがユリスさんにじゃれている間、話を終わらせた私たちは彼に向き直る。
「移民でも騎士団に入れますか? 師匠」
「そりゃ……うちは実力があれば……。でも下っ端からじゃ女二人、子供一人、養うのキツイぞ?」
ユリスさんは本気で心配してくれているようで、親身になってくれた。さすがオーウェンのお師匠様。
「あ、私も働くので!」
「リーナちゃんが?!」
ユリスさんがぎょっとした顔をする。
「アパタイトが騎士団に口利きしてくれるらしいので」
ははは、と私は頬をかきながら彼に言った。
「任せて~」とアパタイトが鼻を鳴らしている。
「アパタイト様が……? まあ、彼の言葉がわかるだけでも貴重な人材だ。でも、君は本当にそれでいいの?」
「へっ?」
眉尻を下げて私を可哀相な子のように見つめるユリスさん。
「……お嬢、設定」
オーウェンがぼそっと耳元でつぶやいたので、私ははっとして急いで返事をする。
「私は……、オーウェンの幸せを……生活を支えられればそれで良いので!!」
思わず力説した私をユリスさんが増々憐みの目で見た。
「リーナちゃん、健気だなあ。おいオーウェン、この国では一緒になれないけど、彼女のことも大切にしろよ!」
元々、孤児だったオーウェンに剣術を仕込んでくれた人だ。情に厚いんだろう。彼はうるうると私たちを見た。
オーウェンは顔を引く付かせながらも笑顔を張り付けて彼に返事をした。
(師匠にまで嘘つかせてごめん、オーウェン!)
心の中で彼に謝っていると、駐屯所から騎士が出て来た。
「団長が目を覚ましました!」
「エクトル、起きた~!」
騎士の報告にアパタイトが尻尾をブンブン振って喜んだ。
「リーナ、会いに行こう! エクトルに早く!」
「ちょ、ちょ、アパタイト……」
アパタイトの鼻に背中を押され、私たちは駐屯所へと向かった。
「てか、アパタイトって中に入れるわけ?」
「僕も入れる作りになってるからだいじょーぶ!」
「へ~」
わいわいと話しながら行く私たちの後ろでオーウェンとユリスさんが話していた。
「なあ、あの子……アデリーナちゃんに雰囲気似てるな。そんな所が好きになったのか?」
「さすが師匠、めざといですね」
「でもお前が二人の女を同時になあ……」
「はは、信じられない国ですよね。一途なオルレアンに比べたら」
「? なあ、アデリーナちゃんはどうしてるんだ?」
「さあ……俺もわかりません」
二人がそんな会話をしているとは知らずに、私はアパタイトに押されるがまま、エクトルさんのいる部屋に向かっていた。
ユリスさんの言葉に思わず「えっ」と声が出そうになるのを我慢してオーウェンを見る。
「そういうことにしといた方が都合が良いでしょう……」
ひそひそと身体を寄せ、オーウェンが言う。
確かに。
しかし、これではオーウェンは…………。
「ま、まあ、ラヴァルでは愛人も珍しくないそうだからな……。オルレアンではそうはいかないが……」
ユリスさんが気遣うように私をちらりと見た。
(ま、まずい! オーウェンの株が下がってしまうわ!)
私は慌てて付け足す。
「私は押しかけ愛人として出しゃばる気はありませんので! 優しいオーウェンは私をあの家から連れ出して来てくれただけなんです! 私は一緒に暮らせればそれで良いんです!」
「そ、そっか。リーナちゃんがそれで良いなら……。他人が口出すことじゃないよな」
ユリスさんはそれ以上突っ込んでこず、私はホッとする。
「セーフ……」
「セーフ……じゃありませんよ、お嬢! 何すかあの設定! ガバガバじゃないですか!」
隣のオーウェンがひそひそと私に抗議した。
確かに、事前の打ち合わせがなかったせいで、オーウェンが愛人持ちになってしまった。
「てか、お嬢だってばれないもんですね。俺、師匠ならお嬢の正体ばらしても大丈夫だと思いますけど?」
国境沿いで騎士たちと交流があった頃、私の髪はブロンドだった。今は瘴気を吸い、見る影もない。ユリスさんが気付かないのも当然だと思う。
「だめよ! アデリーナは国を追放された悪女なのよ? 関わったらユリスさんに迷惑かけるもの」
そう。本当の私は国外追放の犯罪者なのだ。
(そのうち、のたれ死んだと思ってもらえないかな……)
「でも騎士団で働くのに、あの設定維持するの無理あるっすよ……」
呆れた表情でオーウェンが私を見た。
リーナとして暮らしていくはずだったのに、変な展開になってしまったことは謝りたい。でも。
「オーウェンこそ、ミアの旦那さんなんて言っちゃって。本物を呼び寄せるまで面倒見る気?」
「俺は……っ、お嬢に付き合う気で……」
私の反撃にオーウェンが言い淀む。何だかんだオーウェンが良い奴なのは長い付き合いで知っている。
「オーウェン、ごめんね?」
そう言って彼を見上げれば、オーウェンは溜息を吐いて微笑んだ。
「しょうがないですね、お嬢は。あなたの無茶に付き合うのには慣れてます」
オーウェンの返事に私は満面の笑顔になった。
「で? うちに亡命してきたってことは、移民申請するんだよな? その先はどうするんだ?」
アパタイトがユリスさんにじゃれている間、話を終わらせた私たちは彼に向き直る。
「移民でも騎士団に入れますか? 師匠」
「そりゃ……うちは実力があれば……。でも下っ端からじゃ女二人、子供一人、養うのキツイぞ?」
ユリスさんは本気で心配してくれているようで、親身になってくれた。さすがオーウェンのお師匠様。
「あ、私も働くので!」
「リーナちゃんが?!」
ユリスさんがぎょっとした顔をする。
「アパタイトが騎士団に口利きしてくれるらしいので」
ははは、と私は頬をかきながら彼に言った。
「任せて~」とアパタイトが鼻を鳴らしている。
「アパタイト様が……? まあ、彼の言葉がわかるだけでも貴重な人材だ。でも、君は本当にそれでいいの?」
「へっ?」
眉尻を下げて私を可哀相な子のように見つめるユリスさん。
「……お嬢、設定」
オーウェンがぼそっと耳元でつぶやいたので、私ははっとして急いで返事をする。
「私は……、オーウェンの幸せを……生活を支えられればそれで良いので!!」
思わず力説した私をユリスさんが増々憐みの目で見た。
「リーナちゃん、健気だなあ。おいオーウェン、この国では一緒になれないけど、彼女のことも大切にしろよ!」
元々、孤児だったオーウェンに剣術を仕込んでくれた人だ。情に厚いんだろう。彼はうるうると私たちを見た。
オーウェンは顔を引く付かせながらも笑顔を張り付けて彼に返事をした。
(師匠にまで嘘つかせてごめん、オーウェン!)
心の中で彼に謝っていると、駐屯所から騎士が出て来た。
「団長が目を覚ましました!」
「エクトル、起きた~!」
騎士の報告にアパタイトが尻尾をブンブン振って喜んだ。
「リーナ、会いに行こう! エクトルに早く!」
「ちょ、ちょ、アパタイト……」
アパタイトの鼻に背中を押され、私たちは駐屯所へと向かった。
「てか、アパタイトって中に入れるわけ?」
「僕も入れる作りになってるからだいじょーぶ!」
「へ~」
わいわいと話しながら行く私たちの後ろでオーウェンとユリスさんが話していた。
「なあ、あの子……アデリーナちゃんに雰囲気似てるな。そんな所が好きになったのか?」
「さすが師匠、めざといですね」
「でもお前が二人の女を同時になあ……」
「はは、信じられない国ですよね。一途なオルレアンに比べたら」
「? なあ、アデリーナちゃんはどうしてるんだ?」
「さあ……俺もわかりません」
二人がそんな会話をしているとは知らずに、私はアパタイトに押されるがまま、エクトルさんのいる部屋に向かっていた。
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