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14.愛人!?

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「フレディ様……昼食をお持ちしました……」

 おずおずと局長室の扉を開けたのはお仕着せ姿のアリアだった。

『今日はリアの姿で来ること!』

 フレディにそう言われたので、アリアは仕事の命令だと、メイド姿のままで訪れた。

「え? 局長、誰ですかこの可愛い子……」

 スティングがパチクリとアリアを見る。

「俺の愛しい人だ」
「フレディ様の屋敷のメイドです!!」

 フレディとアリアの言葉が同時に発せられ、二人は顔を見合わせる。

「え? え? どういうことです?」

 二人の言葉にスティングが混乱する。

「フ、フレディ様?」

 アリアが困惑した表情を見せると、フレディはアリアの手を引いて、中央にあった応接セットのソファーへと行く。

「この子は、俺の大事な人だから」

 ストン、とフレディの膝の上に座らせられるアリア。

「?!?!」

 急な密着と言葉に、アリアは頭がついていけず顔が赤くなる。

(これからも触れるし甘やかすって言われたけど……今は私はリアで……)

 混乱するアリアを見てフレディはくすりと笑う。

「可愛い」
「ふえ?!?!」

 フレディの甘い言葉にアリアは心臓が爆発しそうになる。

「……局長……ダメですよ……」

 そんな二人を見ていたスティングの声でアリアはハッとする。

(スティングさんがいたんでした!! どうしましょう?!)

 リアのまま甘やかされるアリアは慌ててフレディを見たが、彼は涼しい顔をしていた。

「愛人なんて、不潔です!! 見損ないましたよ、局長!!」
「は?」
「いくら悪女に骨抜きにされたと悪い噂が流れているとはいえ、潔癖な局長にやっと真実の相手が現れたんだと、俺、嬉しかったのに!!」
「おい、スティング……」
「局長のバカ!」

 フレディが説明しようとするも、スティングは言いたい事だけ言うと、局長室を飛び出して行ってしまった。

「ど、どうしましょう……」

 フレディの膝の上に固定されて身動き取れないアリアは、スティングが出て行った方向を見ながら、困ったように言った。

「どうもこうも……」

 呆れたように同じ方向を見ていたフレディだったが、すぐにアリアに向き直る。

「俺が触れられるのはアリアだけなんだから」

 熱を込めた瞳でアリアの頬に手を置くフレディ。

「く、薬は一人限定なんですね!!」

 ぴゃっ、となりながらも目を明後日の方向に向けてアリアが言う。

「まだ薬のせいだと思っていたのか……」

 眉間にシワを寄せて、フレディがアリアを見つめる。

「あ、あのフレディ様……?」

 近すぎる顔に、アリアの心臓が保たない。

「じゃあ、薬の出来を確認してね? アリア」
「へっ……」

 フレディは意地悪な表情を見せたかと思うと、目を細め、アリアに顔を寄せて、口付けた。

「ふあっ!」

 急な口付けにアリアの心臓が飛び出そうになる。

(く、くくく薬の効果の確認のため!!)

 自分に必死にそう言い聞かせるも、甘く長い時間にアリアはまたもや何も考えられなくなる。

 やっと開放された頃には、トロンとした表情でぼーっとするアリアがいた。

「やばい……。職場でこれは……」
「へっ……」

 アリアの表情を見て、片手で顔を覆ったフレディが呟く言葉をアリアはぼーっと聞いていると、すぐに口を塞がれてしまった。

「むっ、ふううう……」

 息が苦しい。

(フ、フレディ様、薬の効果の持続を確認して?!)

 再び落とされた唇に、アリアは酔いそうになりながら必死に仕事のことを考えた。

 仕事なのに心地よいフレディの熱に、どんどん溶かされていく。

(わ、私……こんなのでフレディ様のお役に立てているんでしょうか?)

 フレディにとっての自分の存在意義を改めて考える。

「アリア……」

 そんなアリアの考えを見透かしたようにフレディが覗き込む。

「今は、俺のことだけ考えて」
「フレディ様……」

 再びフレディの熱がアリアの唇を塞いだ。

(そんなこと……許されるんでしょうか?)

 仕事なのに、と思うのに、気付けばアリアの頭の中はフレディのことでいっぱいだった。



「まさか局長が女にだらしなかったなんて……。これも悪女と結婚したせいかもしれない……」

 部屋を飛び出したスティングは局長室の入口、ドアの隙間から、二人のキスシーンをギリリ、と拳を握りしめ見ていた。

「まさか、この前の庭の相手はあのメイド?! フードを被っていたし……どういうことだ? 本命があのメイドで、悪女とは無理やり結婚させられたとか?」

 ブツブツと呟き、再び二人を見る。

 随分と長くキスをしている。しかもフレディが主導しているようだ。

「やっぱり……。局長はあのメイドが好きなんだ。でも公爵だから二人は結ばれない……」

 スティングは一人で自問自答して、勝手に納得した。

「そうか、あの悪女は決められてしまった結婚で、それを隠れ蓑にしてあのメイドと会っておられるんだな」
「おい、スティング」

 二人を盗み見ながら呟くスティングの背後から同僚が書類を持って現れた。

「局長はいらっしゃるか? 魔法薬の認可について――」

 同僚の言葉を遮るように、スティングは人差し指を目の前に差し出した。

「どうした?」
「局長は今、取り込み中だ」

 怪訝な顔でスティングを見る同僚。

「いや、急いでいるんだが……」
「待て!」

 スティングをかわし、扉に手をかけた同僚にスティングは小声で制止する。

「――は?!」

 扉の手を止め、同僚が絶句する。

「取り込み中だと言ったろう」

 同僚をドアから引き離し、スティングは部屋から離れる。

「あれ、どういうことだよ?! 局長は悪女と結婚して、職場でもいちゃついてたと噂が立ったのはつい先日のことだぞ?!」
「まあまあ、落ち着けよ」

 自分も動揺していたくせに、スティングは勝ち誇ったように物知り顔で同僚を見る。

「あの可憐な子、誰だ?! きょ、局長が女に触ってるなんて!!」
「愛人だ」

 にやり、としたり顔で言うスティング。

「あ、愛人? あの潔癖で女嫌いの局長が?」
「何を隠そう、あの相手が本当の――――おい?!」

 スティングが全部言う前に同僚はフラフラと廊下を歩き出していた。

「後でまた来るわ」

 スティングに手を振り、同僚は背中を向けて去って行った。「そうか、局長も男なんだな」と呟いていたが、スティングはまあ、いいか、と思った。

 まさかこのことが騒ぎになるとは思わずに。
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