烏と春の誓い

文字の大きさ
上 下
42 / 43
最終章:因果は巡る

決着

しおりを挟む

 一方の山野組屋敷では、源三を連れ出そうとしている所である。


 源三の口元にはガムテープ、体はロープで縛られ「ううっう~~~っ」と唸り声を出しながら芦屋組の組員たちに連れられて行くのを傍目に見ながら、阿良々木は電話を掛ける。

 お決まりの呼び出し音が何コールかした後にプツリとその音が消え、代わりに聞こえてきた声の主は、事の終わりを報告する相手である。

「あ、もしもし?例の件、無事に解決したんで、その報告~」

 
 瞬間、


「っ!―――うっ……っさいなあああもう!梵君のことならちゃんと保護したってば!電話口でいきなり怒り出すなよ」


「はいはい、わかってますって。ちゃんとそっち送るから、拷問でも殺すんでもバラすんでも好きにして」


「あ、そう言えば氷見からある写真が送られてきたんだけど欲しい?……あ?いらないの?へえー梵君の写真なのにいらねえの。わかったー!」


 梵『の』と言ったとたんにすぐに送れと言われたが、態々名古屋にきて面倒な案件クリアしたんだ。

 少しは労わってくれてもいいものだがそんなのが微塵も感じられない対応に悪戯心が爆発した阿良々木は相手が話してる途中でブツッと通話を切るためのボタンを押下した。

 これで少しは懲りろと思いながらあくどい顔をしている阿良々木に待っていたのは、連打されるライン通知と、東京へと戻ったあとに覚えていろと言う一文だった。

 そんなことが待ち受けているとはつゆ知らず、阿良々木は先ほど氷見から送られてきた写真を表示する。

「ふふ、あの子がこんな表情するの、いつ振りだろうね~」

 そこに写っていたのは、もう暫く梵を大事に思う人たちが見ていなかった、朗らかな笑みを浮かべた梵だった。


 ※


 港区倉庫での一件が終わったあと、日常は何も変わることなく戻ってきた。この世で誰がどうなろうと、結局赤の他人である限り人々の関心を呼ぶことはない。

 山野組の件は流石にテレビでニュースとして取り上げられていたが、楠尾に関しては新聞の隅っこに取り上げられもしなかった。

 再び楠尾を刑務所にぶち込むことが出来、円義の生きる目的は消失した。

 だが死ぬことは出来ない。生きて進むことが、春の遺言だから。

 これからも情報屋として変わらぬ日々を怠惰に過ごすしかないのだろう、そう考えると人生は本当につまらないものだと感じてしまう。

 この後の予定を考えながら、線路の下をくぐる為の地下道をゆらりと歩いている。


 カチャリ


 音と共に背中に何かをグッと押し付けられた。

 足を止め、前を向いたまま話し始めた。

「仮にも警察官が、善良なる一般市民に対して銃を向けるのはどうかと思うけど」

「善良?お前が?」

 円義は何も答えない。

「……山野組の組長を麻薬密売で捕まえようとしてたらどっかの誰かさんに横取りされて消えていた。これはお前の仕業か?誓」

 名前を呼ばれ始めて振り向く。そこにいるのは銃を構えた秋路だった。

「気にくわなかったからあのデブを潰すのに一枚噛んだだけ」

 ケラケラと笑いながら言う円義に、秋路は苦虫を噛み潰したような表情になる。

「その顔は信じてないって顔だねえ。まあ仕方ないけど。元々手を組んでいたわけでもないし前の組長はそれなりにましだったけど、あいつはただクズなだけだしね」

「楠尾の件は……」

「あれも俺。……生かしておいてるだけ優しいと思わない?」

「……っ、そうだな。俺だったら殺していた」

「そうでしょう?ところで俺に何か用?」

「話に来た」

「……何で?何も話すことなんてないでしょ?だって、春の件は別に俺のせいじゃないもの」

「……」

「……あれはさあ、仕方のないことだったんだよ!運命ってやつ?」

 まるで春の死を悼んですらいないように話す口調に、秋路の持つ銃のトリガーにかけている指に力が込められる。

「俺を殺しなよ!さあ!あの時俺がもっと早く春の所へついていたら、死ななかったかもしれないのにねえ!」
  

 その言葉を最後に、バァンッと銃声が辺りに響く。



 しかしそれもガタンゴトンと電車の通る音に遮られ、誰も聞くものはいなかった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いた詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

冬の水葬

束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。 凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。 高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。 美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた―― けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。 ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

蛙の神様

五十鈴りく
ライト文芸
藤倉翔(かける)は高校2年生。小さな頃、自分の住む棚田村の向かいにある疋田村の女の子朱希(あき)と仲よくなる。けれど、お互いの村は村ぐるみで仲が悪く、初恋はあっさりと引き裂かれる形で終わった。その初恋を引きずったまま、翔は毎日を過ごしていたけれど……。 「蛙の足が三本ってなんだと思う?」 「三本足の蛙は神様だ」 少し不思議な雨の季節のお話。

鮮血への一撃

ユキトヒカリ
ライト文芸
ある、ひとりの青年に潜む狂気と顛末を、多角的に考察してゆく物語。

処理中です...