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道中
10話
しおりを挟む日が傾き始める前に町に着いた為、門の前に人は並んでいなかった。
「良かった、人並んでないですね。」
「なんで良かったんだ?」
「なんでって、ぼくみたいな子供が大人2人も縄で縛って連れて歩いてるのを見られたらどんな噂がたつか分かりませんよ。」
「まあ、それもそうか。」
ハルは、門の前に立っている門番に声を掛けた。
「こんにちは。」
「はい、こんにちは。」
「あの、町に入りたいんですけど、この人達どうしたら良いですか?」
「ん?……、え!?」
声を掛けられた門番は、ハルの目を見て挨拶してくれた。ハルしか見てなかったのか、『この人達』と言われて周りを見て、驚いてしまった。
「お、お前ら、『ヨハン』と『マルコ』だよな!?」
「そうだ。」
「そうそう。」
「門番さん、この人達知ってるんですか?」
ハルは疑わしげに門番を見た。
「あぁ、知ってるとも!こいつらは指名手配犯で、ここの門番室にも手配書があるからな。毎日見てるぞ。」
「そうなんですか。」
「ぼく、どうしてこいつらを連れてるの?」
「説明しますけど、人に見られたくないのでどこかお部屋に案内してください。」
「あぁ、そうだな、こっちだ。」
ハルは、門番室の中に入れてもらい、応接室みたいな所に連れてこられた。
「ここでちょっと待っててくれ。こいつら牢に入れてくるから。」
「はい。牢って、ここでこのまま捕まえるんですか?」
「いや、一旦ここに置いて、その後騎士団に連れてってもらうよ。」
「そうですか。なら、縄は、外さないでおきますね。」
「どうしてだ?」
「この縄、ぼくの魔力が流してあるので解けないようになってるんです。ナイフで斬ることも出来ないですよ。」
「そうか。なら、逃げられる心配は無いな。」
「はい。」
「じゃあ、ちょっと待っててくれ。」
「はい。」
門番は、若い門番を1人ハルに付けてから犯罪者2人の縄を持って牢に行った。
「………。」
ハルは、待ってる間、若い門番は話し掛けてくれないうえに、疑わしげに睨み付けてくるから放置してアキを撫でて待っていた。
〔ねぇ、アキちゃん、〕
〔んー?〕
〔あの人すごい睨んでくるー。〕
〔そうねー。まあ、私でも、疑ってかかったかもなー。〕
〔えぇ?〕
〔だって考えてもみなよ。30代ぐらいの指名手配されてる犯罪者を捕まえたーって言ってきたのが、見た目7~8歳ぐらいの子供だったら疑いもするでしょ?〕
〔そう言われるとそうだね。〕
〔でしょ?〕
〔うん。まあ、あの人もさっきの人も《悪意察知》使っても悪い人じゃなかったから大丈夫でしょ。〕
〔そうだね。〕
「すまん、待たせたな。」
「いえ。」
10分程で最初に対応してくれた門番が戻って来た。
「では、話しを聞こう。俺の名前は、ハドソン。あの若いのは、ケイトだ。
名前と年齢を教えてくれ。」
「はい、名前はハル。歳は13歳です。」
「え!?」
「ん?」
「いや、気にするな。
おい、うるさいぞ。」
「す、すみません…。」
「鑑定をしてみても良いか?」
「もちろんです。」
「じゃあ、この板に手を置いてくれ。」
「はい。」
ハルの歳を聞いたケイトが声を出したが、ハドソンは眉を上げただけで耐えた。
ハドソンが戻って来た時に一緒に持ってきてた板を取り出して、その上に手を乗せた。
この板は、鑑定出来る魔道具。これがあれば誰でも鑑定が出来る。
悪用される可能性があるため、門番と騎士団と各ギルドにしか置かれていない。鑑定結果は、外部に持ち出しはもちろん出来ない。
鑑定結果
名前:ハル
年齢:13
性別:男
犯罪履歴:無し
「うん、大丈夫だな。」
鑑定板は、名前、年齢、性別、犯罪履歴しか出ない。
「ホントですか?」
「あぁ。」
「見せて下さい。」
「それは、部下であるお前でもダメだ。」
「……。」
「鑑定板を使用出来るのは、幹部だけで、その幹部も、見た結果を他の人に話すのは違反行為だ。」
「え、そうなんですか…?」
「あぁ。」
「あ、あの…?」
「あぁ、悪い。」
「いえ、」
「では、あいつらと出会った所から話してくれ。」
「はい。旅をしていたぼく達は、この町に来る為に、野宿をしてました。」
「ぼく達?」
「はい。この白い猫ちゃんがぼくの家族で、アキちゃんと言います。」
「そうか。その子と2人で旅してたのか?」
「はい。」
「旅の理由は?」
「親に出稼ぎに行ってこいと言われて森に連れて行かれました。その森で魔獣を倒して町で売って金を集めろと言われました。」
「っ、それで、森に行ったのか?」
「はい。」
「どこの森だ?」
「うーん、ぼくの足でここから2日ぐらい掛かる所の森です。」
「っ、それって、」
「あの…、?」
「あいつの事は気にするな。」
「えっ、と、はい、分かりました。」
「森では魔獣を狩れたか?」
「はい。」
「…、そうか。」
「それで、野宿していて、寝てる時に襲ってきたんです。」
「あぁ」
「気配がしたので、結界石で結界を張っては居たんですけど、起きたんです。」
「それは、正しい判断だな。」
「それで、この刀で返り討ちに出来るようにしながら寝たフリをしてました。
そしたら、寝てるからと無防備に手を伸ばしてきたので、刀で切り付けました。」
「なるほど。頭使ったな。」
「ありがとうございます。」
「よし、分かった。ホントにお前1人で対処したみたいだから、懸賞金は全てお前に渡そう。」
「え、あ、ありがとうございます。」
「ギルドカードはあるか?」
「いえ。この町に着いてから冒険者登録をしようと思っていたので…。」
「そうか。なら、俺が今からギルドまで連れてってやる。」
「え、ホントですか?」
「あぁ。それで、ギルドで懸賞金の精算までしちまおう。」
「はい。お願いします。」
「おう。
ちなみに、この町に入るのに、身分証が必要なんだがあるか?」
「いえ。」
「なら、銀貨1枚預かって良いか?」
「預かるんですか?貰うんじゃなくて?」
「あぁ。ギルドカードが身分証になるからそれを見せてくれれば返せるんだ。」
「そうなんですね。知らなかったです。はい、お願いします。」
ハルは、リュックから巾着を出して、銀貨1枚をハドソンに渡した。
「きちんと預かった。この札を渡しとく。」
「これは?」
「身分証の代わりに銀貨を預かってるって分かる札だ。ギルドに行って、ギルドカードを作ったら銀貨を返すからそれまで持ってな。」
「はい。」
「じゃあ、行くか。」
「お願いします。」
「せ、先輩、ちょっと待ってくださいよ!」
「なんだ?」
「帰っちゃうんですか!?」
「あぁ。今日は、昼勤だからもう帰りの時間だ。きちんと時間いっぱいまで働いたんだから帰って良いだろ。」
「それは、そうですけど…。」
「安心しろ。あの犯罪者どもは、逃げられないから。」
「ホントですか?」
「あぁ。こいつが、魔力が入ってるから縄が切れないって言ってたから、試しにやってみたんだ。マジで切れなかった。だから安心だ。それに騎士団に連絡しといたから時期に来るだろう。」
「分かりました。」
「とりあえず、こいつが捕まえたとは言うな。」
「なんでですか?」
「信じないと思うからな。」
「まあ、そうですね。」
「悪いが、あと頼む。」
「分かりました。お疲れ様でした。」
「あぁ。」
「では、行くぞ。」
「はい。」
ハルは席を立って、ハドソンについて行った。
外に出たら、日が沈みはじめてた。
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