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2章.授業を荒らして停学処分を受けた私は……

1.取り敢えず、見舞いに行きます。

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「………やっと、解放された。」

 自作テキストをテルマと教室前まで運ぶと待ち構えていたクラスメイト達に囲まれた。後の説明は省くが、テキストを解いてもらっている間に抜け出して来た。

 少し早いが、薬慈院のバイトを済ませに行くか。

「……(フィッ)」
「…………(スタスタ)」
「(ヒソヒソヒソヒソ)」

 停学が決まってから噂が広まるのはとても早かった。遠巻きに噂されているのが聞こえるし、すれ違う奴らは総シカト。これは、いないものとして扱われてるっぽいな。面倒事に関わらない様にする事は賢明な判断だ。

 そんな事を考えながら掲示板の前を通りがかった時、停学の通知の他にももう一つ通知がある事に気付いた。

〈本日を以て、アレク・アルバートを薬慈院及び関連機関から無期限除名とする。〉

 どうやら、わたしはクビにされた様だ。だが、これで無理な仕事のノルマを課せられる事も、その手柄で先輩方がイキる事も無くなる。

 私に押し付けてた仕事を自分でこなさなければならない先輩方の慌てふためく様を見られないのは残念だが、もうここに思い残す事は……

《退学通知を確認したら、ここへ来い。》

「…………」

 ないと、言えてたんだろうな。あの時までは。

 退学通知は受け取っていない。だが、薬慈院をクビになった以上、マサールさんと毎日会う事はなくなる。さらに言えば、病床に伏せているあの人が次に会う時まで生きている保証はどこにもない。

「…………」

 ちょっと面倒な事になるかもだが、行ってみるか。

 それにしても……今朝確認した時は、あんな通知無かった筈なんだけど……貼り忘れてたとか?それにしては対応が早い様な……?


***


「お前、あの貼り紙を見なかったのか?お前は除名されたんだよ。」
「よって、無関係のお前に回す仕事はない。
「とっとと立ち去れ、ボンクラが。」

 薬慈院に入ろうとした所、案の定、先輩達に通せんぼをされた。顔を見るのはバイトの初日ぶりだな。

「もちろん見ました。しかし、引き継ぎも無しに私がこなしていた仕事を皆さんがこなせるとは到底思えません。」
「………何を言っているかわからんな?」
「俺たちが、下級生のお前に自分の仕事を押し付けたとでも?」
「とんだ言いがかりだ。証拠もなしによくそんな事が言えるな。」
「……そういう建前なのはわかります。そういう程で構いませんので、仕事内容の説明を……」
「「「黙れ!!」」」
「!っ」
「わからないのか?お前は、もう必要ないんだよ。」
「………」

 どの口で言うんだか。どれだけ言っても自分の非力を認めないつもりだな?だが、想定通りだ。

「では、せめて担当していた患者に挨拶ぐらいさせてください。挨拶したら大人しく帰ります。」

 本命はこっちだ。譲歩的要請法ドア・イン・ザ・フェイスと言って、難しいお願いをした後、容易なお願いをする事で要求を聞いて貰いやすくなる。これなら……

「ダメだ。それは認められん。」
「は!?」

 予想外だった。面会謝絶だなんてとんでもない。

「何故ですか!それぐらいなら良いじゃないですか!!」
「ダメだ。無関係のものを接触させる訳にはいかない。」
「確かに、アルバイトとしては無関係になりました。しかし!数週間も関わって来たんです!今では好きな紅茶の種類から、白髪の本数まで知ってます!それでも、無関係だと言うのですか!!」
「うるさい!さっさと立ち去れ!!」
「嫌です!納得のいく説明をしてくれないと……」
「いいから失せろ!さもないと……」
「(ギロッ)さもないと?」
「ひっ!?」
「なんです?答えてくだ…さ……」

 ………危ない。こんな事で殺意を向けるなんて我ながら大人げない。何を熱くなっているんだ私は。

「と…とにかく失せろ!!先輩の言う事が聞けないのか!!」
「…………」

 埒が明かないな。

「………フゥ……(クルッ)」

 これ以上問答しても無駄の様だ。

「(スタスタスタスタ)」

 この場は引く事にしよう。

「そうだ!そのまま帰れ帰れっ!!」
「2度と来んじゃねぇぞ!!」
「とっとと失せろ!ボンクラが!!」
「………(スタスタスタスタ)」

 そうして私は、後ろから飛んでくる罵詈雑言を聞き流しながら、その場を去った。


***


 なんであそこまで頑ななんだ?いくら自分のサボりがバレる危険があるからって、マサールさんには全部バレているから手遅れだ。ならせめて、やり方を聞いてた方が身の為じゃないのか?それとも、高慢なだけか?

「…………」

 あれらの仕事から解放されて清々しているのは事実だ。けど、こればかりは……こればかりは…………

「……はいそうですかで引き下がれないな。」

 ここは中庭。人通りはほとんどない。

 そして、ちょうどマサールさんの部屋の窓に向かって太めの枝が伸びているのだ。

「(ガシッ)よっ…と。(スルスルスルスル)」

 木をよじのぼって病室に向かう。

「ー!ーー!!」

 ん?何か話してるみたいだな。マサールさんが……怒鳴ってる?
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