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その6
しおりを挟む小さい頃、東から西に進む太陽を見て『地球の周りを太陽がクルクル回ってる』と思っていた。でもそれは間違いで、太陽の周りを地球の方が回っていた。
それを知った時オレは、七央が太陽でオレは地球だな、って思ったんだ。
だってオレは何時だって、七央が居なきゃ何にも出来なくて何にも選べなくて。わからない事も困った時も、全部七央に頼ってきた。
地球が太陽の恩恵を受けているように、オレは七央に頼って生きている。
実際そうだったし、それは未来永劫変わらないんだって信じてたんだ。
ーーー『理央は大人になったんだよ』
駄々っ子みたいなオレに七央はそう言って黙って静かに帰ってしまった。
それをどう引き留めたらいいのかわからなくて、何も言えず見送ってからもオレの頭の中は真っ白で目の前は真っ暗になった。
オレの太陽は沈んだまま、もう二度と顔を出してはくれないのかな?
そしたらオレはどうなっちゃうの? このまま真っ暗い夜の中で、右も左も分からないまま生きていくの?
「わかんない……。わかんないよ…七央」
大人って何?
こんなに怖いもの?
まるで真っ暗闇に放り出されて迷子になったみたいだ。
ちょっと前に秋さんと会った後は、置いてきぼりなままじゃダメだと大人になるって決めたけど、その決心が今グラグラと揺れていた。
一人で居るのが怖い。でも家族に七央とこんな事になったなんて知られるのも嫌だ。
オレの家族…、全員七央信者だぞ。神様仏様七央様なんだぞ。きっと責められるに決まってる。それに今は話せることもない。言い訳すら思い浮かばない。
こっそり家を抜け出し、行く宛もないまま駅に向かった。そのまま電車を乗り継いで、気付けば流星くんの通う大学の最寄り駅まで来ていた。
プロテクターを着けるまで会えないって言われたから、会うのは無理かもしれないな。でも、顔くらい見られるかも。遠くからちょっとだけ見たら気が済むかもしれないし。
そう思って他所の大学の敷地まで入り込んだ。
知らない学校の知らない敷地。知らない人の間をコソコソ歩く。オレの通う大学の生徒よりワンランク上の人達。気のせいじゃないよな。なんか美男美女揃いだぞ……。場違い感がハンパない。
そう言えば流星くんの通う大学って、アルファ性が多いって聞いたな。頭のいい偏差値の高い学校だもんね。……うん。何か皆さんやたらと大きい。そしてオレ、……心無しか目立ってないか? チビだから? それはちょっと傷付くぞ。それに何だろう……。ゾワゾワする匂いがたくさんする。あと、気持ち悪いような嫌な視線。おかしいな。何時ぞやのパーティ会場にだってアルファ性はたくさん居た。むしろ今よりもっと居た。でもあの時はこんなに不安な気持ちにはならなかった。
ああ…、そっか。
オレ、今までずっと七央に守られて来たんだ。
オメガのオレを七央はちゃんと守ってくれていたんだ。……何だよ七央。可愛いだけじゃなくて物凄く格好いいじゃないか。さすがオレの神様だ。やっぱり神様仏様七央様だ。
でもこれからはその神様には頼れない。加護を失ったオレは、さしずめ迷える子羊ってとこか。……うん。今、まさに迷子みたいだけど。
よく考えたら流星くんが今大学に居るのかすら知らなかった。闇雲に探したって見付かるとは限らないのに、どうしてこんな事しちゃったんだろう。うぅ…。もう帰ろっかな。あ……、帰り道もわかんない。出口は何処だっけ?
キョロキョロと見渡す視界には、似たような建物とハイクラスっぽい見知らぬ人達しか見当たらない。
う~…ん。困ったぞ。
「どうしたの? 迷子かな?」
「うひゃ………っっ!!」
突然背後から知らない人に声を掛けられた。
振り向くと流星くんよりは少し背の低い、赤っぽい髪のお兄さんがオレを見下ろしている。
こ…、これはアルファさんだ!!
「や!や、ややや! っ、ああああああののっ、…っ!!」
うわっうわっ!どうしよう!言葉が出ない!困った!
「? えぇ…っと。大丈夫?」
「あああ、あぁ…っ、はははいぃ!しゅしゅ…っ、っ!しゅ…っしゅみましぇ…っ」
恥ずかしいっ!どうしてこう、吃るかな! しっかりしろよ、オレ!!
「……きみ、幾つ? 中学生……とか?」
「ちっ!!ち、ち、ちちちがっ!!」
「誰か探してるの? お兄さん? それともお姉さんかな?」
「いいいぃやっ! だだ、だか、だかりゃ、」
あー、もおっ!スゴい誤解を招いてるっ!!
「………、あれ? きみ、もしかしてオメガ…」
「ひぃ……っ!!」
赤髪のお兄さんが顔を近付けてクンと鼻を鳴らした。
やだやだっ!気持ち悪い!!そんなに側に寄んないでよーーっ!!
「理央っ!!?」
ヒイィィィ…ってなってたオレをラベンダーの香りが包んだ。
「りゅ…っ」
「何してんだ、バカッ!!」
「ひ…ぅ!」
「ダメじゃないかっ、こんな所に来たら!何かあったらどうするんだよ!」
おっかない顔した流星くんが怒鳴りながらオレをぎゅうっとしてくれた。
「あ、何その子。リュウの知り合い?」
「そー。だから触んないでくれる。てか寄るな。見るな。あっち行け」
赤髪のお兄さんはどうやら流星くんのお友達だったみたいだ。スゴいあしらい方してる。……い、いいの?
「ひでぇな、おい。………てかリュウ、お前まさかショタコ……」
「違うっ!けど!こ、この子は俺のっ!俺の大事な子!だからダメっ!」
「何も言ってないだろ……。てか…、ふぅ~…ん。……なるほどねぇ」
「もー!あっち行け、って!」
赤髪のお友達は『はいはい。またねぇ~』とニヨニヨしながら手を振って去って行く。オレは流星くんにぎゅっとされたままそれを見送った。……あ。中学生じゃないよって言えてない!どうしよう。
「で……? 理央。連絡も無しにこんな所まで来たのは何で? 何かあったのか?」
まだちょっと怒ってるぞー、って顔した流星くんにそう問われて「う……」となった。
何でと聞かれても答えがない。強いて言うなら『何となく』だ。………いや、違うか。
「流星くんに、会いたくて…」
「ほへっ!? え? な、なんて……」
「流星くんに会いたかったのっ!」
何『ほへ?』って。そんなに驚かなくてもいいじゃん。だ、大事な子って言ってたじゃん!!
「ダメなの? オレが流星くんに会いに来ちゃいけなかった?」
「い、いけなくないっ!嬉しいっ!俺だって理央に会いたかった!」
それを聞いてホッとした。
七央とあんな事になって、これで流星くんにまで『来ちゃダメ』って言われてたら、オレきっと泣き喚いてた。それくらい今のオレのライフはゼロに等しい。
「よかった……」
「う…っ、うん、うん!」
ぎゅっとしてくれる流星くんを、オレもお返しにぎゅうぎゅうした。眼鏡が低い鼻にめり込むのも気にしない。
ラベンダーのいい香り。流星くんの匂い。ああ…、落ち着く。スゴく安心する。大好きなオレのアルファさん。
「流星くん。……大好き」
「うぇ!? そ、そっか、うん! お…、俺も、俺も理央が大好きだよ」
うん。知ってる。だってさっきから聞こえてる流星くんの心臓の音、びっくりするくらい速くて大きいもん。
オレのとお揃いだもん。
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