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第一章
本当の理由
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「やれやれ、冗談で言うたつもりが本当に買ってきおるとはのぅ」
ロンメルは困ったような呆れたような複雑な表情で頭を掻いた。
店に閉じこもりがちな店員に休みを与えて、市に送り出したら奴隷を買って帰ってきたのだから、この反応はむしろ当然である。
「す、すいません……あの、これには訳が……」
「そうじゃろうな。お前さんが軽々しく興味本位で奴隷を買うような事などせんじゃろう。理由を聞かせてもらえんかのぅ」
焦りながら謝るサトにロンメルは優しく声をかけた。
奴隷を買ってきた事自体、ロンメルは特に問題視してはいなかった。
ロンメルの店でも以前奴隷が働いていたこともある。
ただ、この世界の常識について希薄なサトが奴隷を買ったという事にロンメルは何かしら事情があるのではないかと考えていたのである。
「以前、ある御令嬢からの依頼で呪いの品の解呪をした事がありましたよね? それで……」
「なるほどのぅ。この奴隷にも呪いがかけられているから、それを解いてやりたいという訳か。要は同情したわけじゃな」
「うっ……まぁ、その……」
サトはロンメルに言いにくい事を先に言われて、言葉を続ける事ができなかった。
「じゃがな、サトや。不遇な奴隷など幾らでもおるぞぃ。この奴隷に呪いがかけられておる事は不憫な事じゃが、だからと言って手当たり次第に奴隷を買っておればキリがない。奴隷の主人は奴隷の生活を保障する責務があるんじゃ。その対価として奴隷は労働力を提供するんじゃからのぅ」
「それは分かっています。別に手当たり次第というわけではないんです。ただ、この子は……」
段々か細くなるサトの声をロンメルは静かに聞いていたが、サトの声が消えると、ゆっくり口を開いた。
「魔族じゃな」
「えっ? ま、まぁ、そうです……」
サトはまたロンメルに言いにくい事を先に言われて口籠もった。
「安心するといい。魔族自体は単に別種族というだけで、特に忌避感はない。このハメルンにも幾人かは住んでおるしのぅ」
「そ、そうなんですか。良かったぁ」
安堵するサトにロンメルは少しキツい口調で言葉を続けた。
「しかし、同情だけでその奴隷を買ったわけではあるまい。その辺りも聞かせてもらいたいもんじゃな」
「えっ? その辺りって……」
「お前さんならその奴隷の事が儂より遥かにわかるはずじゃ。おそらく他にも奴隷が幾人もいたのに、何故この奴隷を選んだのか聞きたいのじゃよ」
ロンメルの眼は優しい口調に反して鋭く強く、そして安易な答えは決して認めないという強い意志を感じさせるものだった。
「この子が……呪いをかけられていたからです」
「それはさっきも聞いたが?」
「ちょっと意味が違うんです。なんて言うか、呪いがかけられていたからって訳でもないんです。ただ、誰かの所為で人生を狂わされたって事に俺は……」
「……そういう事か」
サトは迷い人であり、此処ではない別の世界から異世界人である。
今まで当たり前にあったものを、誰かの所為で全て奪われる辛さ。
それが誰よりもわかるのはサトだ。
そして、誰かに呪いをかけられ、人生を狂わされたであろうこの奴隷。
それを自身の姿を重ね合わせたのだ。
だからサトはこの奴隷を買った。
かつての自分を救いたかったから。
ロンメルは困ったような呆れたような複雑な表情で頭を掻いた。
店に閉じこもりがちな店員に休みを与えて、市に送り出したら奴隷を買って帰ってきたのだから、この反応はむしろ当然である。
「す、すいません……あの、これには訳が……」
「そうじゃろうな。お前さんが軽々しく興味本位で奴隷を買うような事などせんじゃろう。理由を聞かせてもらえんかのぅ」
焦りながら謝るサトにロンメルは優しく声をかけた。
奴隷を買ってきた事自体、ロンメルは特に問題視してはいなかった。
ロンメルの店でも以前奴隷が働いていたこともある。
ただ、この世界の常識について希薄なサトが奴隷を買ったという事にロンメルは何かしら事情があるのではないかと考えていたのである。
「以前、ある御令嬢からの依頼で呪いの品の解呪をした事がありましたよね? それで……」
「なるほどのぅ。この奴隷にも呪いがかけられているから、それを解いてやりたいという訳か。要は同情したわけじゃな」
「うっ……まぁ、その……」
サトはロンメルに言いにくい事を先に言われて、言葉を続ける事ができなかった。
「じゃがな、サトや。不遇な奴隷など幾らでもおるぞぃ。この奴隷に呪いがかけられておる事は不憫な事じゃが、だからと言って手当たり次第に奴隷を買っておればキリがない。奴隷の主人は奴隷の生活を保障する責務があるんじゃ。その対価として奴隷は労働力を提供するんじゃからのぅ」
「それは分かっています。別に手当たり次第というわけではないんです。ただ、この子は……」
段々か細くなるサトの声をロンメルは静かに聞いていたが、サトの声が消えると、ゆっくり口を開いた。
「魔族じゃな」
「えっ? ま、まぁ、そうです……」
サトはまたロンメルに言いにくい事を先に言われて口籠もった。
「安心するといい。魔族自体は単に別種族というだけで、特に忌避感はない。このハメルンにも幾人かは住んでおるしのぅ」
「そ、そうなんですか。良かったぁ」
安堵するサトにロンメルは少しキツい口調で言葉を続けた。
「しかし、同情だけでその奴隷を買ったわけではあるまい。その辺りも聞かせてもらいたいもんじゃな」
「えっ? その辺りって……」
「お前さんならその奴隷の事が儂より遥かにわかるはずじゃ。おそらく他にも奴隷が幾人もいたのに、何故この奴隷を選んだのか聞きたいのじゃよ」
ロンメルの眼は優しい口調に反して鋭く強く、そして安易な答えは決して認めないという強い意志を感じさせるものだった。
「この子が……呪いをかけられていたからです」
「それはさっきも聞いたが?」
「ちょっと意味が違うんです。なんて言うか、呪いがかけられていたからって訳でもないんです。ただ、誰かの所為で人生を狂わされたって事に俺は……」
「……そういう事か」
サトは迷い人であり、此処ではない別の世界から異世界人である。
今まで当たり前にあったものを、誰かの所為で全て奪われる辛さ。
それが誰よりもわかるのはサトだ。
そして、誰かに呪いをかけられ、人生を狂わされたであろうこの奴隷。
それを自身の姿を重ね合わせたのだ。
だからサトはこの奴隷を買った。
かつての自分を救いたかったから。
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